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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ―この恋は自覚した時にはすでに終焉を迎えていた。

  監禁して、陵辱し尽したのも。
  全てを奪って、自分の腕の中に堕ちてくるように仕向けたのも。
  ただあの人に憧れて、焦がれて…魅了されたからだとようやく思い知った時。
  御堂孝典は見る影もない程、弱々しく哀れな存在になりかけていた。

 ―あんたを解放するよ

  そう、手放す決意をしたのは…生まれて初めて誰かを愛してしまったから
  おかしなものだ。愛したと自覚した途端、離れるのを決意するなんて。
  だけどそれが最良だと思った。
  今後一切、彼の人生に自分が介入しない事。
  恐らく御堂の人生内において、もっとも屈辱的な日々に関わっている自分が
  二度と目の前に現れない事が、一番だと思った。

  それなのに自分の心の中に、今もあんたを求めて嘶く(いななく)部分がある。
  未練がましいと、自分でもつくづく呆れる。
  けれど、俺はまだ…正直言ってあんたが欲しくて堪らない。
  誰も並ぶものなんていらないと思っていたけれど、あんたに双肩を並べて
  欲しいとか、そんな事を考えていて

 ―そんな事を思う度、俺にそんな資格がない事を思い知る…
  
  なあ、御堂。あんたは今でも元気でやっているのか?
  俺がいなくなって…元のあんたに戻れたのならそれで良い。
  傲慢で、冷徹で…力強くて誰よりも綺麗だった御堂。
  その輝きに、俺は誰よりも魅せられてしまったのだから―

  だけど、どこかであんたの姿を見てしまったら俺はきっと冷静でなんか 
  いられなくなるだろう。
  二度とあんたの前に現れない、妨げになるような真似はしないと誓っているのに…

―この獣のような衝動は、傍に寄れば必ずあんたを切り裂くだろう

 それは羊に恋した、狼の気持ちのよう
 愛しく思う限り、それは魅惑的な香気を放ち…狼の食欲を刺激し続ける
 けれど思われた子羊は、傍に寄れば喰われてしまう
 嗚呼、俺は狼みたいなものだな

―愛しく思えば思うだけ、この鋭い牙は近くに寄ればあんたを食い尽くすだろうから

 …俺は決して、あんたの傍には近寄れない。
 この愛を、思いを自覚してしまった…今となっては―

                              *

 佐伯克哉が、その朝…いつもの最寄り駅と違う駅の構内にいたのは単なる
偶然の筈であった。
 出先での会談が思いの他白熱して、長引いてしまい…合理的な判断として
少しでも早く宿を確保して休んだ方が良いと思い…仕事を持ち込みながらも
契約先の会社の近くのビジネスホテルを取った。

―現在の彼の住居からなら、朝のこの時間にこの駅にいる事は在り得ない。

 自宅からも、MGN本社に行くにしても…その往路の範囲から外れた駅。
 其処で彼は予想外のものに遭遇してしまった。

 都内の駅は…朝7時を迎えれば、どの駅でも多くの人間が行き交い人波が
生まれていく。
 その狭間で…彼は見つけてしまったのだ。
 心の中でずっと逢いたいと望んでいた人物を。
 しかしその足取りを追う事すら…自分には資格がないと思っていた。
 自分が解放してから、どうなったのか。
 元通りのあの人に戻れたのか気になって、気になって仕方なかった人を…

「御堂…」

 御堂は、克哉の存在に未だ気づいていない。
 自分の記憶にある通り、怜悧な印象の表情を讃えながら早足でどこかの
路線に向かっていく。
 それを追いたいと思ったが…驚きのあまり、足がその場に縫い付けられたように
なって満足に動かない。
 まるで鉛になったよう。金縛りにあってしまったかのようだった。

 カツカツカツカツ…。

 駅構内に無数のサラリーマンの革靴の音が木霊していく。
 その中に埋もれるように、誰よりもエリートであった男は歩いてどこかに
向かっていく。

「…あいつは車で出勤しているんじゃなかったか…?」

 早朝のこんな時間に、自家用車で出勤している人間が…駅の中にいるのは
不自然だった。
 だが、自分が御堂の存在を見間違える筈などなかった。
 どれだけ人の波に紛れていても…恋焦がれて止まなかった存在を取り違えるような
真似を自分がしでかす筈がない。
 あまりの衝撃に…克哉は、自分の身体が震えるのを感じていた。

「…御堂」

 だが、雑踏と騒音に塗れた駅構内ではそんなか細い呟きは誰の耳にも
届く事はなかった。
 事実、御堂は克哉に気づく事はなかった。
 其処に自分がいる事など決して視界に入っていないかのように…顔色一つ変えずに
御堂は早足で通り過ぎていこうとしていく。
 遠くに存在していた御堂の姿が、自分のすぐ脇を通り過ぎようとしている。
 思わず振り返る。だが、それでもその背中は遠ざかる一方だった。

「…御堂部長っ!」

 少しだけ、大きな声を出してつい呼びかけてしまった。
 だが…目的地があるのだろうか。
 御堂は真っ直ぐ前だけを見据えて、克哉に気づく事なく…離れていく。
 その姿がそして見えなくなった頃…気づけば、克哉は口元を覆ってその場に
立ち尽くしていた。

(まさか…こんな処であんたに、会ってしまうなんて…っ!)

 心臓がバクバクバク…と荒く脈動を繰り返している。
 知らない間に呼吸すら大きく乱れてしまっていた。
 もう、どれだけ目を凝らしても…御堂の姿を見つけることは出来なかった。
 広がるのはただ…多くの人間が生み出す、とりとめのないざわめきのみ。

「…そうか。あんたは…どこかで元気にやっているんだな…」

 自嘲めいた笑みを浮かべながら呟いていく。
 あの日から…そろそろ十ヶ月が過ぎようとしていた。
 季節はすでに秋の終りを迎えて…冬を間近に控えている頃。
 偶然にも、克哉は…この世でただ一人、心から愛してしまったと自覚した
存在に再会してしまった。

―二度とあいつの前に現れる資格なんてない

 そう思う反面で。

―せめて遠くからでも、あいつの姿を見て元気でやっているかだけでも知りたい

 そんな欲望が渦巻いてしまっていた。
 携帯電話を眺めて、時間帯を確認していく。
 そして…心に、その時刻を刻みつけていった。

(ほんの僅かでもこの時間帯に、この駅に来れば御堂を見る事が出来る可能性が
あるというのなら…)

 それは克哉の本来の通勤事情では、かなりの負担となる行為。
 だが…それでも、構わなかった。
 二度と顔向けが出来ないのならば…せめて、遠くから見るだけでも…

 そんな欲が、克哉の中に生まれていく。
 偶然とは言えその顔を見なければ生まれなかった想い。
 本当はダメだと判っているのに…一度、その顔を見たら留まってくれなかった。

「御堂…」

 また、知らずに唇がその人の名を呟いていく。
 あまりにも切迫した余裕のない、表情。
 そんな切ない顔を自分が浮かべている事すら気づかずに…
 佐伯克哉は、ただ…愛しい人の事だけを考えていく

―その想いが、もう一人の自分の心すらも大きく揺るがしてしまったことに
未だに気づかずに…

 そして運命の輪は回る。
 狼はすでに牙を得てしまっている。
 欲望が膨れ上がった時に、その牙が愛しい人を傷つけないで済む為には
 自分が狼である事を捻じ曲げることだけだろう―

 知らない間に整えられた悲劇の舞台。
 その果てに…彼らはどんな結論を導き出すのだろうか―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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