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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―御堂はともかく、克哉の背中を追い続けていた。
 
 目を灼くぐらいに鮮やかなネオンの輝く歓楽街。
 緩やかに移動を繰り返す人波を静かに掻き分けながら、
決して見失うものかと強く決意していきながら…御堂は足を
進めていく。

 見知らぬ誰かの肩を抱きながら、歩き続けていく彼の姿を見ている
だけで…何故か胸がチクチクと痛んでいった。
 どうしてこんなに、それだけの事で軋むような思いをしなければ
ならないのか。
 その答えは薄々と気づいている。だが認めたくなかった。

―私の事を好きだと言った癖に…!

 それなのに、他の人間を連れてこんな処をあの男が歩いている。
 その事実が、酷く悔しかった。
 だがそんな御堂の葛藤に気づく事なく…二人は街の奥へと進んでいった。
 ホテルの前で両者が足を止めると同時に…御堂は、ついに声を
掛けてしまっていた。

「佐伯っ!」

 それは、御堂自身も驚くぐらいの大声だった。
 モロに怒りの感情が込められた呼びかけだった。
 まさか…こんな声を、自分が上げてしまうなんて―

―その瞬間、二人の耳から歓楽街の喧騒が消えていく

 空気が硬直するような気がした。
 相手の肩が少しだけ震えて…暫く、身動きを取らなかった。
 御堂はそれを固唾を飲みながら見守っていく。
 そして…時間が凍るような思いを双方味わっていきながら…
ようやく、佐伯克哉はこちらを振り返った。
 彼は驚愕に目を見開いていた。
 それを見て、逆に御堂の方が驚いてしまった。
 
「…何で、あんたが…こんな処に…?」

「…君を探しに来たからに決まっているだろう! そうでなければ…どうして
私がこのようないかがわしい場所に足を向けるっていうんだっ!」

 最初から、気づけば喧嘩腰になってしまっていた。
 だが溢れてくる怒りの感情が普段は冷静な御堂を突き動かして
しまっていた。
 今までの人生、ここまでの怒りと失望の感情を覚えた経験など御堂には
なかった。

「…君という男は! 去り際にあんな捨て台詞を…私の事を好きだとか
言葉を残して、勝手にいなくなった癖に…! それなのに他の人間を
抱くような、そんな真似を君という男はする奴だったんだな…!
そんな男を、一年近くも忘れられずにいた私も、大層滑稽な道化だった
んだろうな…!」

 こんなみっともない事、言いたくなかった。
 なのに勝手に、言葉が口を突いて出てきてしまう。
 知らない間に、涙が勝手に滲み出てしまっていた。
 知りたくなかった、自分の本心なんて。
 どうしてこの一年、この男の事をどうして忘れられなかったのか。
 思い出す度に身体が疼いてしまっていたのか。
 藤田から情報を聞いて、いても立ってもいられずにこんな街まで足を
向けてしまっていたのか。
 全て、答えは薄々と気づいていた。
 だが…見たくなかった、自覚したくなかった。

―この男を、自分は好きになってしまっていたからだった―

「…何で、そんな事を…あんたが、言う…んだ…?」

 御堂が涙すら浮かべながら捲くし立てた言葉の羅列を聞いて、克哉は
信じられないものを見るような眼差しを浮かべていった。
 その唇も指先も小刻みに震えて、定まる気配がない。

「あんたが、俺を忘れられなかった…それは、憎い…から、だろう…?」

「あぁ、お前が心底憎い! 今…この場で首を絞めて殺してやりたいぐらいになっ!」

 怒り狂う御堂の剣幕に押されて、克哉の今夜の一夜の相手になる筈だった
茶髪のウルフカットのいかにも遊び慣れた風な雰囲気を纏った青年は…
ボソリ、と呟いていった。

「…何かあんた、面倒そうなことになっているみたいだから…俺は退散
させてもらうよ。あんたイイ男だし、どんな風に俺を苛めて抱いてくれるか
興味はあったけど…面倒な事は嫌いな性分なんでね。
 それじゃ、勝手に遣ってて貰える?」

「あぁ、すまないな。君がいない方がこの男と話がしやすいので…素直に
感謝しておこう。ありがとう」

「どう致しまして。んじゃ痴話ゲンカはどうぞご自由に~。ではね…」

 と言って、修羅場の気配を察して…巻き込まれては堪らないとばかりに
軽そうな青年はあっさりとその場を去っていった。
 そして街中の通路の中心に残されたのは二人だけとなった。
 だが、大声で口論をしている両者は周囲の人間の目を嫌でも引いてしまい
悪目立ちしている状態になっていた。

「…佐伯。ここで会話を続けていると…必要以上に周りの人間の注目を
集めてしまう。場所を変えないか…?」

 感情を思いの丈ぶつけた事と、あの青年が立ち去った事で少しだけ
御堂の方も冷静さを取り戻しつつあった。
 それでやっと…周りの人間の目が突き刺さるように向けられている現状に
気づいて静かな声で提案していった。
 だが…克哉は何も答えない。

―酷く不安定な眼差しを向けながら、こちらを見つめてくるのみだった…

 その様子に気づいて、御堂は訝しげな表情になっていく。

「佐伯…どうしたんだ?」

 この男に監禁されていたせいで、何ヶ月もこの男と一緒の屋根の下で
暮らしていたことがあった。
 その間にただの一度も見せた事がない表情を今の克哉は浮かべている。
 蒼い双眸は落ち着くなく揺れ続けて、まったく定まる様子がない。
 まるで迷子の子供が泣きそうになっているような…そんな切ないような
心細そうにしている様子に、御堂はただ…愕然となるしかなかった。

「俺は…俺は…!」

 いきなり、克哉が己の胸元を苦しげに押さえ込みながら呻いていった。
 
「佐伯っ?」

 とんでもないものを目撃したような気分になりながら、御堂が声を
張り上げて呼びかけていく。
 だが、彼にはその声が届いていないようだった。

「俺は…また、あんたを…泣かせて、苦しませて…しまったんだな…」

「…君、は…っ!」

 信じられないものを見るような眼差しで、御堂は克哉を見た。
 彼は…泣いていた。
 一筋の涙を、頬に伝らせて…光らせて、切ない表情を浮かべながら…
御堂を、見つめていた。

「また…俺は、大切な人間を…追い詰めて、しまったんだな…」

「君は、一体…何を、言っているんだ…?」

 克哉の様子がおかしい、と嫌でも気づかずにはいられなかった。
 だが…彼は今にも消えそうな、儚い表情を浮かべていく。
 それは…幻のように、目の前の男が掻き消えてしまいそうな予感が
して思わず御堂は間合いを詰めて、克哉の方に歩み寄っていこうと
すると…。

「来るなっ! 俺はもう二度とあんたを傷つけたくない! だから俺に
近寄らないでくれ! そして…もう、追わないでくれっ!」

 今度は克哉が激昂する番だった。
 それはまるで子供が癇癪を起こしているかのような光景だった。

「どうして、君は…そんな事を言う!待てっ!」

 御堂が近づこうとした瞬間、弾かれるように相手の肩が揺れて…
いきなり走り出してしまった。

「逃げるな! まだ…話は終わっていない! 君に話したい事も…
伝えたい事も一杯あるんだっ…!」

 御堂は必死だった。
 追いかけて、追いかけて…やっとこうして言葉を交わすことが
出来たのだ。
 まだ、本当に御堂が言いたいと思っている言葉を伝えられていない。
 その状態で、決して逃せる訳がなかった。

「行かないでくれっ! 佐伯っ!」

 どこか悲痛な声を上げながら、ともかく懸命に御堂は逃げる克哉の
背中を追いかけていった。
 相手が全力で走って逃げたので、こちらも容赦しなかった。
 持てる力の全てを振り絞る形で、遮二無二走り続けた。
 そして…どれぐらい、歓楽街を舞台にした二人の鬼ごっこは続いた
事だろうか。
 ついに奥まった薄暗い路地に辿り着いて、克哉を追い詰める形になった。
 ようやくこの男を追い詰めた。
 そう確信した瞬間。

「来ないで下さい…」

 今までとは打って変わって、静かな…別人のような声で、そう
短く告げられていった。
 
「…その君の要望を聞くつもりは、ない…!」

 相手の言葉を一刀両断して、御堂は間合いを詰めていった。

「…オレに、もう関わらないで下さい…お願いします。御堂さん…」

「君の言うことを聞く気はない! いい加減に観念しろっ!」

 そして乱暴に御堂は相手の肩口を掴んで、強引にこちらの方を
向かせていった。
 ようやく対峙する形になって、険しい顔をしながら叫んでいく。

「…御堂、さん…」

 そしてようやく…克哉の顔を間近で見てぎょっとなっていく。
 いつの間に外したのか、彼の顔には眼鏡がなかった。
 そのせいで…さっきまでと別人のような印象になってしまっている。
 瞳に力がなくなって、表情もキリリとした凛とした印象から…気弱で
温和なものへと変わってしまっている。
 彼を追いかけていた僅かな時間で、別人のような変貌を遂げてしまって
いる事実に…御堂は、呆然となってしまった。

「…何故、今更…私を、さん付けでなんか…君は、呼ぶんだ…?」

 今の佐伯克哉は、どこかおかしかった。
 それに猛烈な違和感を覚えながら御堂は訴えていく。

「君は私の事を『御堂』と呼び捨てで呼んでいた筈だっ! この後に及んで
どうしていきなり…!」

 そして、相手の襟元を掴んでいきながらその瞳を覗き込んでいく。
 静かで冷静な目だった。
 
「…もう一度、お願いします。もう…『俺』に関わらないでやって下さい…」

 懇願するように、彼は御堂に語りかけていく。
 そう…今、目の前にいるのは…例の銀縁眼鏡を公園で受け取る以前に
存在していた佐伯克哉。
 気弱で自信がなく、いつもオドオドしていた無能なサラリーマンだった
方の彼の人格。

「私には…君が、判らない…どうして、今になって…そんな、事を…」

 克哉の言葉に、御堂は傷ついていく。
 今にも泣きそうな顔を浮かべている彼に向かって、佐伯克哉は
そっとその頬を撫ぜ擦りながら告げていく。

―それが貴方の為でもありますから

 そう、静かに優しく告げていく。
 御堂はただ…あまりの事態に、呆けるしか出来なくなっていたのだった―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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