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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―バカ…

 御堂と対峙しながら、眼鏡を外した…かつての佐伯克哉は静かに
涙を零しながら心の中で呟いていた。
 たった今、御堂が必死に追いかけられている間に…眼鏡を掛けて
から表に出続けていたもう一人の自分の意識は深い眠りに付いて
しまっていた。

―幾ら残酷な子供の自分を表に出したくないからって…お前が
犠牲にならなくても良かったのに…。オレに、そう命じれば…
それで、良かった筈なのに…。

 御堂の顔を見てしまった為に、残酷な子供の心がこの人に対して
牙を剥こうとしてしまった。
 それを阻む為に…眼鏡の意識は、全力を持ってその意識を抑え込み
結果…残された弱い克哉の心が、こうして身体を使用することになって
しまっていた。
 身体を使っている心が眠りに就いてしまった場合、人は防衛本能で
他の意識を引きずり出して…肉体を保護しようという本能がある。
 今の克哉の意識は、そういった事情で表に出て…こうして御堂と
顔を合わす事になってしまっていた。

(御堂さん…信じられないって、何がなんだか判らないって…そんな
呆然とした顔しているな…)

 深夜の歓楽街、追いかけてきた御堂の頬を優しく撫ぜながら…
克哉はそんな事を考えていく。
 御堂の唇はワナワナと震えて、何か言いたげだった。
 けれど…あまりの出来事に、頭の切り替えが上手く出来ずに沈黙を
今の処保っている。
 一言で言えば、まさにそんな状態になっていた。

「君は…さっきから、言っている? それにやっている事も支離滅裂
じゃないか! 君と話したいと思ったから、逢いたいと何故か思ってしまった
からこそ…こんな場所まで君を追いかけてきたんだ! それなのに…
関わるなとは大した言い草だなっ!」

「…すみ、ません…!」

「謝るなっ! そんな言葉を君から聞きたい訳じゃない!」

 御堂は段々、怒りを押し殺せなくなっているみたいだった。
 いきなり克哉の黒いスーツの襟元を引き掴んで、射殺しそうなくらい
憤りが篭った眼差しで見据えてくる。

「どう、して…! 去り際に、私の事を好きだとか…そんな事を言った、癖に…
私から、逃げ続けるんだっ…! そんな事を言うから、私は君の事を…
忘れる事が、どうしても出来なかったのに…! それに、何で…駅で私を
遠くから見守るような、そんな事をして…いたんだ。
 あれで、私は…君に、逢いたくて…一度で、良いから…話したくて仕方、
なくなって…しまったのに…何で…」
 
 監禁されている間、どれだけ痛めつけられようとも御堂は決して
屈しない精神力の持ち主だった。
 だが…今、彼は瞳から一筋の涙を零しながら…切々と克哉に
訴えかけていた。
 こちらの首を締め付けて痛いぐらいだった力がふと緩んで…
御堂は顔を俯かせていく。
 それを見て…克哉は、もらい泣きをしそうになった。

(御堂さん…御免、なさい…。オレじゃなくて、貴方は…『俺』と話したくて
ここまで来て、追いかけて来たっていうのに…)

 なのに、やっとそれに手が届いた瞬間に…もう一人の自分の意識は
あの残虐な一面を持つ少年の心を封じる為に、一緒に意識の深遠へと
落ちてしまったのだから皮肉以外の何物でもなかった。
 人を愛して…御堂を二度と傷つけたくないと、強く願ってしまったから
起きてしまった悲劇に、克哉はただ…涙するしかない。

 ポタリ…。

 知らず、克哉の頬に涙が伝い…裏路地の地面に、一粒、二粒と…小さな涙の
染みを作っていく。
 それに気づいて御堂はハっと顔を上げて…目の前の男の顔を凝視
していった。

「…何故、君が…泣いているんだ…?」

「すみません…。貴方が、本当に…『俺』を想ってくれている事が判るから…
どうしても、涙が…」

「…君はどうして、さっきから…他人事のように、話し続けているんだ…?
まるで、他の人間のことを言っているような口ぶりじゃないか…」

「………」

 この言葉に、どう答えれば良いのか克哉には判らなかった。
 結果、沈黙を保つ以外になくなってしまう。
 本当のことを話したって、こんな荒唐無稽な話をすぐに信じて貰える
訳がないと思った。
 自分達が二重人格である事、いや…もう一つ、今は意識が乖離して
しまっているから…三つ、心がある事があるのか。
 それらの心が、この一つの肉体の中でせめぎ合い…主導権を
争ったり、眠ったり引っ込んだりしているなど…他の人間に話したって
頭がおかしい奴と思われるのがオチだ。
 だから克哉は…口を噤むしかなかった。

―そのまま、永い永い沈黙が落ちていく。

 両者とも空気が凍るような重い沈黙を保っていたが…先にそれに
耐えられなくなったのは御堂の方だった。

「…だんまり、か。君は一体…どこまで私を振り回せば気が
済むんだっ!」

「っ…!」

 御堂は感情のままに、克哉を引き寄せていった。
 そして首に襟の痕が付くぐらいに強く激しく引っ掴んで…噛み付くように
勢い良く顔を近づけてきた。
 痛みと柔らかい感触を同時に、克哉は感じていった。

「ふっ…!」

「はっ…!」

 衝動に突き動かされるように、御堂は克哉の唇を強引に奪い…その
身体を強く強く抱き締め続けていく。
 その激しさに眩暈すら覚えて、克哉は呼吸困難に陥りそうになった。
 この腕の強さと、息すら満足に出来なくなるような熱烈な口付けこそ…
御堂の想いの強烈さの何よりの証だった。
 それにただ…克哉は翻弄されながら、腰が抜けてしまうまでの間…
唇を貪られ続けていった。

「はぁ…んっ…」

 ようやく解放された時には、刺激が強すぎたせいで…満足に立って
いられなくなっていた。
 御堂の身体に凭れ掛かるようにして、背中にすがり付いていく。
 克哉のその様子を見て、御堂は更に肩を震わせていった。

「…どうしてっ! 私の成すがままでいるっ! 私の知っている君なら…
絶対に応えて、逆に私を翻弄するだろうに…!」

「…っ! ごめんなさいっ…!」

「だから! 謝るなと言った! さっきから君はおかしすぎるっ! 私の
知っている君とあまりに言動と反応がかけ離れ過ぎている! あの傲慢で
自信家で、私を犯し尽くした君はどこにいった! 其処に…君がいるのに、
私は、君に全然…逢えていないような気分になるっ! 何で…私を、見る目
まで…違っているんだっ!」

 御堂は、泣いていた。
 いつも冷然としていて…取り澄ました顔を崩さなかった、完璧な
エリートを体現していた男が、感情的になって捲くし立て続けている。
 その様子を見て、克哉は…胸が引き絞られる想いだった。

―今の自分はまさに、障壁だ。御堂が逢いたくて逢いたくて堪らない
もう一人の自分と対面する為に、大きく立ちふさがっている邪魔者。

 御堂の涙を見る度に…その想いが強まっていく。
 何故、あいつが眠りに就いてしまったのだろう。
 この人が求めるのは、もう一人の自分なのに…ここにいるのが
どうしてオレなのだろうか。
 心の底から、彼は悲しくなってしまっていた。

―ごめんさない

 謝りながら、御堂の前に克哉は立ち尽くしていく。
 暫く…二人は、無言のまま抱き合っていった。
 しかし…次第に、御堂の方から肌を突き刺すような怒りの感情が
伝わってくる。
 それに気づいて、ハっと克哉が顔を上げていくと…・

「っ…! 御堂さん! 何を…!」

 其処に在った御堂の獰猛な視線に、克哉は射抜かれながら…
強引に腕を引かれていく。
 そして裏路地から強引に連れ出され、歓楽街の表通りへと無理矢理
戻されていった。

―来い。

 心底、憤りを込めた声で御堂が告げていく。
 その顔はゾっとするぐらい冷たく、凍りつくようだった。
 そして男はそのまま…克哉を一軒のホテルへと連れ込んでいったのだった―



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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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