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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  そのホテルの裏口から入ると、フロントで人と対面しなくても部屋が
取れるシステムを採用されていた。
 どうやら6種類のタイプの部屋が用意されているらしく…それらの部屋は
色によって区別されているようだった。

 白い部屋は模様はスタンダードだが、コスプレ衣装が50種類用意
されている。
 青い部屋はウォーターベッドと、部屋全体の内装が海と空を思わせる
色合いに設定されていて、透明なユニットバスが設置されている。
 赤い部屋は、全体的に朱色の色調に纏められていて…ハードプレイを
楽しむ為の大人の玩具やSM道具が予め完備してある。
 緑の部屋は、淡い黄緑のシーツや内装、そして壁には森林の絵が
描かれているようで…森のアロマが漂っている。
 黒い部屋は、黒の色調で部屋全体が纏められていて…室内の
明かりを消すと、星空のように天井と壁が光る仕掛けがあった。
 最後の桃色の部屋は、部屋の壁も寝具もピンクで纏められていて
ミラーボールが設置されている上に、大きなベッドが回転する作りに
なっているようだった。

 六つの部屋それぞれに特色があり、パネルには各部屋が何室
残っているか数字が点滅していた。
 御堂はそれで赤い部屋のパネルのボタンを押していくと…取り出し口に
ホテルのキーがガコン、と音を立てながら落下してきた。
 それを乱暴に手にしていくと…壁に貼ってあった案内図を軽く眺めて
エレベーターに乗り込み、部屋がある階まで移動していく。
 その間、ただ…克哉は御堂の成すがままだった。

 バタンッ!

 キーで扉を開いていくと同時にやや乱暴に閉めていって、克哉の身体を
其処に放り込んでいく。

「うわっ…!」

 入り口の付近から突き飛ばされて、勢いで克哉は上等なカーペットが敷かれた
床の上へと尻餅を突いていく。
 その間に御堂は後ろ手で部屋の鍵を閉めていくと…克哉の逃走経路を静かに
奪っていった。

「御堂、さん…」

 その剣幕に思わず克哉は圧されていく。
 今、自分の目の前にいる男は本気で怒っているようだった。
 深い紫紺の双眸には深い憤怒の感情が宿って、鋭く輝いている。

「…君は一体、何なんだ…?」

 御堂の声には、失望の感情が色濃く滲んでいた。
 その癖、戸惑っているいるような…混乱しているような、そんな危うい
部分も同時に存在している。
 
「…君が私との事を、他人事のように語るというのなら…はっきりと
思い出させてやろう…」

 そのまま、御堂がゆっくりと克哉の方へと歩み寄ってくる。
 克哉はただそれを…身を硬くして、身構えていった。
 逃げようか、と一瞬考えた。
 御堂と自分の体格は同程度。
 彼が本気になって取っ組み合い、抵抗をすれば…逃げられなくはない。
 だが…敢えて、克哉はこの場から逃走することを諦めた。

(…この人は、恐らく…『オレ』まで逃げたら…凄く傷つくだろうな…)

 追いかけて、追いかけて。
 もう一人の自分と逢いたくて、会話をしたい一心で追いかけて来たというのに
寸での処ですり抜けてしまって…今の御堂は深く傷ついていた。
 だから、克哉は御堂の気の済むようにして構わないと考えた。
 きっともう一人の自分のように、こちらが演技して振る舞ってもこの人はきっと
本物でないのなら察してしまうだろうと感じたから。
 なら…自分が出来る事はきっと、この人の怒りをこの身に受ける事
ぐらいだろう…。

「…貴方の好きになさって下さい…」

 しかし、あの佐伯克哉からそんな殊勝な言葉が漏れた事で…御堂孝典は
目を大きく見開いていった。
 信じられないものを見た、と言いたげに驚愕の感情を瞳に讃えていく。

「…君は、本当にあの佐伯…か? この部屋を見て…何も感じないのか?」

 その時、ようやく…克哉は御堂の様子に気づいていった。
 男の肩は大きく震えて、顔が青ざめている。
 それで克哉はやっと気づいていった。
 この部屋に数多く常備されている…大人の玩具の類は、眼鏡にこの人が
監禁されている期間…殆ど実際に試されたものばかりだった。
 こんな部屋をわざわざ選ぶ事は、御堂にとってもリスクの高い事だっただろう。
 だが…それでも、この部屋に連れていけば…『俺』の方なら、絶対に
何らかの反応があると思ったのだろう。
 その事実を何となく察して…克哉は、切なくなった。

(貴方はそれぐらい…もう一人の『俺』を求めているのに…どう、して…)

―ここにいるのが、オレなのだろう。

「…すみません。オレは、貴方の期待には応えられません…。この部屋を
見ても、何も…」

 アイツのように、御堂を責めて追い詰めて…快楽と苦痛交じりの感覚を
執拗に与え続けるような振る舞いは克哉には絶対に出来なかった。
 
「…私には、君が…判らない。どうして、さっきからそんな別人のような
言動と振る舞いを繰り返しているんだ…。何故…」

―それは、オレとあいつは別の心を持っている存在だから…

 余程、その事実を今…目の前にいるこの人に告げてしまおうかと思った。
 口を噤むか、告げるかどっちにするか暫し悩んでいく。
 言うべきじゃない。最初はそう判断した。
 しかし…言わない限りこの人の混乱は更に深まっていくような気がした。
 信じてもらえないのは最初から承知の上だった。
 だが…意を決して、ポツリと告げていった。
 
「…オレが、二重人格だと言ったら…貴方は、信じますか…?」

「…何、だと…?」

「…今、目の前にいるオレと…貴方を監禁して、全てを奪って…愛していると
最後に告げて去っていった『俺』とは別人格だという話を貴方にしたら…
その事実を、貴方は認めて下さいますか…?」

「君は、一体…何を、言っているんだ…?」

 御堂は予想通り、信じられないという表情を浮かべていく。
 当然の反応だった。
 こんな話をいきなりされたからと言って、すぐに信じてくれる人間など
そうはいないだろう。

「…事実です。オレは、貴方を愛して去って行ってしまった佐伯克哉では
ありません。別の心を持った…弱くて、情けない人間でしかない。
この部屋を見ても…玩具を使って貴方を追い詰めようと考える事は
出来ないんです。貴方の期待に…オレでは応えられないんです。
本当に…御免なさい…」

 うっすらと涙を浮かべながら、切々と語っていく。
 それ以外に、何も出来る事など出来なかった。
 どうすれば…もう一人の自分は表に出て来てくれるのか、今の彼には
判らない。
 だからこの人の望みに応えてやれない事が本当に苦しくて、悲しくて
仕方なかった。

「何で、そんな事を言う…。本当に、そんな言い訳で…私とまともに
対峙するのを…避ける気なのか…?」

「………」

 今の御堂の言葉を聞く限り、半信半疑な様子だった。
 この反応こそ、むしろ自然だろう。
 御堂は危うい表情を浮かべながら…克哉を見下ろしている。
 克哉はただ…真摯な表情で、この人の顔を見つめ返していった。

「…信じる、信じないは貴方の自由です。…それを認める事が出来ないなら、
収まらないというのなら…オレを、貴方の好きになさって下さい。
…オレにはきっと、貴方にそれぐらいしか…出来る事はないと思いますから…」

 僅かに瞳を潤ませながら、克哉は告げていく。
 それ以外に…自分が出来る事など思いつかない。
 恐らく深く傷つき失望して…途方に暮れている御堂。
 彼の心は、恐らく自分では満たす事も癒す事も出来ないのなら…せめて
この身を差し出して慰み者になるぐらいしか、克哉には思いつかなかった。

「…それが、君の答えなのか…? 佐伯克哉…」

 予測どおり、御堂の口調には強い怒気が滲んでいた。
 一瞬怯みそうになったが…克哉は意を決して、コクンと小さく頷きながら
答えていった。

「…はい」

「…判った。それなら…君を私の好きにさせて貰おう…」

 本気の憤りを込めながら、御堂は呟いていく。
 そのまま一気に間合いを詰められると同時に…強引に腕を掴まれて
ベッドの上へと引きずり込まれていく。
 克哉はそれを、硬い表情を浮かべながら受け入れていった。

「…君に嫌でも思い出させてやる。かつて…どんな事を私にし続けて
来たのかをな…っ!」

 そのまま、シーツの上に克哉の身体を縫い止めて覆い被さっていく。

「…貴方の、気の済むように…どうぞ…」

 馬鹿な行動だと自覚がある。
 しかし、これくらいしか今の自分には出来ない。
 いっそ、自分の事など壊してくれれば良いと思った。
 この心が壊れてしまえば、その向こうからもう一人の自分が現れて
くれるというのなら…喜んで破壊される方を今の克哉は選ぶだろう。
 それは愚かなまでの自己犠牲精神。
 しかしそんな想いすらも、今の御堂にとっては…癪の種にしか
ならなかった。

「…その言葉に、後悔するなよ…!」

 どう、怒りを孕んだ声で告げながら…御堂は、克哉の首筋に顔を埋めて
痛みを与えるぐらいに強く吸い上げていった―

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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