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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ある初秋の夜。
  仕事で大きな失敗をして、同僚の本多に励まされながらも帰路を別にし
公園のベンチに座りながら、白く輝く満月を克哉は眺めていた。

 こんなに綺麗な月の夜は、何故か一瞬だけ過ぎる夢がある。

『……くら、い…ちゃん、と……呼…・だ、ら…どう、だ…?』

 端正な男の顔が歪み、泣きそうな顔になっている。
 しかしその面影はいつもはっきりせず、どんな顔立ちをしているのか
詳細は良く判らない。
 ただその男は自分にとっては身近な存在であった事だけは何となく
感じていた。

『…う、して…こんな、事に…なった、んだ……い、さ、ん…』

 ボロボロになった衣類を身に纏いながら自分が力なく呟いていく。
 この夢の中の自分はいつも大粒の涙を流している。

『…そ…れ、が…俺たちの…運命…だった、からだ…』

 荒い息を零しながら、男は己の胸を押さえていく。
 指の隙間から、生命の証である血潮が溢れ続けている。
 この男はもう、絶命寸前であり…手を掛けたのは紛れも無く自分だ。
 その罪の意識に耐え切れず、切なげに自分は呼ぶ。

『エン、ディミオン…』

 夢はいつも、そこで終わる。
 その記憶が一瞬のさざ波のように押し寄せては、瞬く間に掻き消えていく。

「…また、この夢か。…子供の頃から繰り返し見るけど、一体これは
何だっていうんだ…」

 そう呟きながら、佐伯克哉は…手に持っていたビールの缶を持ち直して
一気に全部煽っていった。
 仕事に失敗した事も、八課の仲間達に迷惑掛けてしまった事も全てを忘れ去って
しまえれば良いのにと切実に思う。

 けれど蒸留酒とか、強い酒を日ごろから飲み慣れている克哉にとっては
一本のビール程度ではそこまで酔えない。
 先程の飲み会でも、それなりの量を飲んでいるにも関わらず、だ。
 その現実に深い溜息を突いて、空を仰ぐ。
 月はいつものように、傲慢なほどに煌々と輝き続けていた。

 頭の中を過ぎるのは、自分の上司の片桐部長の先程の悲しそうな顔や
無理に明るく振舞おうとする本多の態度だ。
 それを思う度に自己嫌悪に陥り、酒を更にまずくさせていく。
 マイナス思考に陥っていた克哉の耳に、澄んだ靴音が飛び込んでくる。

「ビールは美味しくありませんか…?」

 月光を背に黒尽くめの男がいつの間にか傍らに立っていた。

「先程から、全然進んでいないようですね。…心の内に抱えている悩みが大きすぎて
せっかくのアルコールの味も楽しめないようですね…」

「どうして、そんな事を…?」

「見れば判りますよ。何をお悩みなんですか? 恋愛…それとも、仕事でしょうか?
・・・まあ、どちらも有り得ませんよね。貴方ほど能力も魅力も有る方がそんな
ささいな事で深く悩まれる事など…」

「…失礼ですが、貴方にどれだけ…オレの事が判っているというんですか?」

「…えぇ、貴方のことは私は良くご存知ですよ。今となっては長い付き合い―
ですからね」

 その言葉を聞いて、瞠目していく。 
 自分とこの男は紛れもなく初対面の筈なのだ。
 それなのに黒衣の男は自信たっぷりにそう言い切っていく。
 信じられない、という眼差しで相手を見つめれば…男は愉しげに
微笑んでいく。どこか禍々しいくらいに綺麗な…笑みだった。

「どうしました? …私に興味がありますか?」

「えっ…いや、その…」

「私は…貴方に興味がとてもありますよ。そうして悩んでいらっしゃるのなら…
出来るだけの事をしてあげたいと思うほどにね…」

 あまりにもきっぱりと言い切られて、克哉はどう返答して良いのか
答えに詰まっていく。
 見知らぬ男の筈だ。
 どこかで会った事がもしかしたらあるのだろうか…? 

 そう考えて、マジマジと顔を見つめていくが…やはり名前などはまったく
思い当たらない。
 しかし…不思議な事に、こうして話していると確かに初対面ではなく
以前にも会った事があるような錯覚を覚えた。
 それは一体、どこの事だったのか…?
 そう考えていた時、いきなり轟音が周辺に響き渡った。

 メキメキメキ…バキッ!!!


 木が荒々しく薙ぎ倒されていく音が、耳に届いた。
 そちらの方を咄嗟に見遣ると、克哉はぎょっとなる。

「ひいっ!!」

 少し離れた位置で…闇の中に、何か黒い触手だか、植物の蔓のような
ものが蠢いている。
 それが周辺の木々やベンチなどに伸びて、縦横無尽に捉えて…
振り回したり、締め付けたりの動作を繰り返していた。
 その黒い影の巨大さと不気味さに…克哉は恐怖で凍り付いていく。
 
「おや…貴方ともあろう方が、あの程度の小物が恐ろしいんですか…?」

 しかし目の前の黒衣の男はまったく動じる気配がない。
 それが余計に信じられない上に、恐ろしかった。

「あ、当たり前ですよ…! あんなの遭遇したら…!」

「貴方には、あの程度のものをあっさり蹴散らす事が出来るくらいの
力が備わっていらっしゃるのに…ですか?」

「…! 冗談は止めて下さい! オレに…あんな、あんなに恐ろしいものを
撃退する能力なんてある訳がないじゃないですか!」

 25年間、一応平凡に生きて…今ではしがないサラリーマンでしかない自分に
あんな物を倒す能力などある筈がない。
 そう確信して言い返すが、黒衣の男はまったく意に介してないようだ。

「…信じてらっしゃらないようですね。それなら…これを一度、掛けてみたら
どうですか…?」

 そうして、男は掌にキラリと反射して輝く銀縁眼鏡を乗せて…こちらに
差し出していく。

「…これ、は…?」

 何故、こんな時に眼鏡など差し出されるのだろうか?
 訝しい顔をして男を睨み返すが、相手はまったくこちらのきつい眼差しなど
気にしていないようだった。

「…これは貴方の本来持っている能力の全てを引き出す事が出来る…そう
ラッキーアイテムのようなものだと思って下さい。これを掛ければ…貴方の力なら
あの程度の小物なら物ともしないでしょう。試されてみては如何ですか…?」

「そ、んな…訳…」

 いきなり、そんな事を立て板に水の勢いで並べられても、思考がついてくる
訳がない。
 信じられない、という顔を浮かべている時…誰かの悲鳴が闇の中に響き渡る。

―うわぁぁぁぁぁ!!!!

 それは若い男の声のようだった。
 切羽詰った声を聞いて、何かとんでもない事が起こっている現実を認識していく。

(…迷っている暇はない。どこの誰だか知らないけれど…もし、オレに本当に
力があって、あの不気味なものを撃退する力があるというのなら…ここで試しも
しなかったら、オレは人を…黙って見捨てた事になるんだ…!)

 誰かの悲鳴を聞いた時、克哉の覚悟は決まった。
 手を震わせながら…黒衣の男に手を伸ばし、銀縁眼鏡を受け取っていく。
 迷いながら、それを己の顔に掛けたその時―。

「……っ!」

 月から眩く輝く白い影が、克哉の方に向かって飛び込んで来た。
 その瞬間克哉の身体は、眩いばかりの光に包み込まれたのだった―
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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