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「お疲れ様でした…初めての勝利、おめでとうございます…」
勝利の余韻に浸っていた二人に、黒衣の人物が歌うような軽やかな口調で
声を掛けていく。
「貴方は…はい、その…ありがとうございます…」
『これくらいは勝って当然だがな。たかが模擬戦で…二人掛かりで勝てなかったら
これから先どうやって戦略を立てていけば良いのか迷う処だったからな…』
「うわっ!」
いきなり、夜の闇の中にセレニティ・眼鏡の立体映像が浮かび上がって…太一は
本気で驚いているようだった。
怜悧な眼差しをした眼鏡の大の男が…白いヒラヒラしたドレスを身に纏い、腕を
組んでふんぞり返っている姿などそうそうお眼に掛かれるものではないだろう。
「…って、何であんた…克哉さんにそんなそっくりなんだよ! そのドレスはあんた
よりも絶対克哉さんの方に似合う筈なのに!」
「…君、それ論点絶対違う気がする。…そういえば、まだ君の名前…聞いてなかった
気がする。…オレの方はすでに知られているけどね…?」
「…あ、言われてみればそうだよね。…何か今更って感じだけど…俺は五十嵐太一って
言います。今の趣味はソフトダーツ、好きな物はラーメン! って感じで!」
「…何か自己紹介っぽくなって来たね。えっと…俺は佐伯克哉って言うんだ。
趣味は…音楽を聴きながら散歩する事、かな…?」
『…お前らの名前だの趣味だなんて、俺にはどうでも良いがな…』
二人の間に和やかな空気が流れつつあったのを、あっさりとセレニティ・眼鏡はたった
一言でばっさりと断ち切っていた。
『それよりも模擬戦程度で、あれだけ苦戦している自分達の能力の低さをもう少し
反省したらどうだ…。特に、お前…。殆ど戦う間もなく…捕まりやがって。こいつが
たまたま戦う能力がある仲間だったから良かったようなものの…本番になったら
その様でどうするつもりなんだ…?」
「…それは、確かにそっちの言う通りなんだけど…。けど、さっきから模擬戦とか
本番だって言っているのは一体…?」
「あぁ…先程の植物は、私が所有しているペットの一つですから。これから貴方達が
戦う事となる冥界の住人達とは異なるものですよ」
『『えぇぇぇぇっ!』』
長い金髪おさげの人物が、笑顔であっさりと言ってのけると太一と克哉はほぼ同時に
ハモって驚いていた。
「ペ、ペットって…! あんなのをあんたは飼っているの? すっげぇ、それって
胡散臭すぎじゃんか!」
太一が男に食って掛かって、襟元に掴みかかっていても…相手は動揺する様子
一つ見せずに平然と言ってのける。
「いえいえ、安全なものですよ…。あの子はせいぜい、人を捕獲して好きなように
弄繰り回して強烈な快楽を与える程度ですから。これから戦う…人の生命力(エナジー)を
吸い取り回るような輩に比べれば、随分と可愛いものだと思いますけどね…」
「…いや、絶対…あんなのを可愛いもの、とかほざくあんた…根本的に間違っているから」
「…はい、オレも…太一と同意見…です」
克哉が挙手しながら、自己主張していく。
『…いつまでも脇道に逸れているんじゃない。いつになったら…俺は本題に入れるんだ』
「あぁ…麗しきセレニティ・眼鏡様。いつまでもお待たせして申し訳ありません。どうぞ…
貴方の話の方に入って下さいませ…」
(セレニティ・眼鏡っていうんだ…俺と同じ顔のあいつって…)
克哉が心の中でこっそりと呟くのを尻目に、ようやく本題へと移っていく。
『…あぁ、そうさせて貰おう。今…この近辺ではダーク・キングダムって名乗る非常に
怪しい奴らが活動して…住民の生命力を奪っている。
今はまだ生かさず殺さずの小規模な活動だが…このまま放置して、奴らが力を
蓄えていけば…必ず厄介な事になる。
お前らの当面の使命は…奴らが派手な動きをした時に片っ端から叩き潰して
殲滅していく事だ。一応…俺がサポートしてやるから…宜しく頼んだぞ」
ものすっごいやる気がなさそうに、セレニティ・眼鏡が言い放っていく。
「…あの、オレたちに拒否権は…」
『ないぞ? 俺がそんなのは許さん』
あっさりと、言い放たれた。克哉はそれを聞いて…項垂れるしかなかった。
「…これからもこの格好をして、オレ…戦っていくのか。どうか…全国ネットとかで
間違っても放映されませんように…」
「だ、大丈夫だって克哉さん! 俺も一緒だからさっ!」
「…う、うん…! そうだよね…! オレは一人じゃないんだもんね!」
もし一人で25歳の大の男がこんなヒラヒラした格好で戦う羽目になっていたらと
思うと、眩暈すらしてくる。
「そうそう! 男…五十嵐太一! 微力ながら克哉さんと一緒に戦って助けて
あげるからさ。だから落ち込まないで?」
太一の本音としては、こんなセレニティ・眼鏡の指令の通りに戦うなんて癪だし
この街の平和などはっきり言ってどうでも良い。
けれど…こんなに可愛らしい反応ばかりしている、克哉の傍にいられるなら…
悪くはないかな、と思っていた。
以前から、店の前を通りかかるこの人がどうしても気に掛かっていたのは事実だ。
こんな馬鹿げたことでも…一緒にいられる口実になるのなら、この話に乗っても
構わないかな…と。それが正直な太一の感想だった。
『…話は、済んだか? それなら…お前に方に、今度は足手まといにならないように
これを渡しておく。これはお前にしか使えないものだが…くれぐれも敵に奪われない
ようにな…』
そうして克哉は、一本のキラキラしたペンのような形状の物を手渡されていく。
子供番組向けの変身物のヒロインが愛用しそうな感じの代物だ。
「…これは、一体…?」
「それを持って『ムーン・ヒーリング・エスカレーション! と叫ぶと生命力を奪われた
一般人や、戦いで傷ついた奴を回復させたり出来る。お前ははっきり言って戦闘能力は
『最弱』だが、回復能力は他の奴には出来ない役回りだ。
それを意識して…今度から、戦いに臨め。…アキ」
ふいに、一言…セレニティが名前を呼んでいくと…闇の中に白い優美な形のネコが
浮かび上がってくる。額には三日月形のアザがある、愛らしい猫だった。
しかし、猫がいきなり…人語をしゃべって答えたものだから二人は驚くしかなかったが…
黒衣の人物は平然と眺めていた。
「なぁに? セレニティ様」
「…とりあえず今後はお前もこいつらをサポートしてやれ。お前が傍にいた方が
俺の言葉が正確にこいつらに伝わりやすくなるからな…」
「はぁい。えっと…克哉さんだっけ? 僕…アキって言います。宜しくお願いしま~す」
「はぁ…うん。宜しく…」
いきなり変身する羽目になるわ、謎の植物に襲われるわ…自分と同じ顔した奴に
偉そうに指図されるわ、終いには猫がしゃべって挨拶してくるわ…。
今までごく平凡な日常を送っていた克哉にとってはすでに許容量を超える事態が
起こりまくっていたが…あんまり非日常に突入すると、あまり驚く事もなくなるらしいと…
知りたくもなかった事実を思い知らされる気がした。
「うっわ! この白い猫…すっごい可愛いっ! ねえねえ…俺の処にはこの子、
来ないの?」
「…五十嵐様への指令に関しては、私め…このMr・Rがお傍で見守って手助け
させて頂きます。そのような形で宜しいですか?」
「うへっ! 何それ…! 絶対却下させてくれる? 俺だってあんなみたいな胡散臭い
奴よりも…可愛い猫の方が絶対良いのに!」
『…お前ら、いつまでくだらない事をベラベラと続けるつもりだ…?』
雑談に逸れていた空気を、不機嫌そうなセレニティの声が戻していく。
そこら辺に統治者としての威厳や能力が思いっきり発揮されていた。
『…ともかく、お前には…この街の平和を守ってもらう。このまま放置しておけば…
それなりに大変な事になるからな…面倒だが、協力して貰おう…。お前とて、自分の
上司や同僚の命が奪われたら…嫌な思いになるだろう…?」
上司や、同僚…という言葉を聞いて、真っ先に浮かぶのは片桐部長や、本多。
そして今…自分が所属している八課の仲間達だ。
…その言葉を聞いた時、及び腰だった克哉ははっとなっていく。
こんな格好をして戦うのなんて冗談ではないが…それが、自分の大切な人たちを
守る事に繋がっていくのなら…良いかな、と。ふと克哉は思い始めていった。
「…当然だよ。みんなが…そんな得体の知れない奴らの餌食になるなんて…
冗談じゃないからね…」
「なら、協力しろ。…心配するな。俺が必ず勝たせてやる。…お前達はただ、
怯まずに敵と対峙すれば良い…」
そう言われて、初めて…この不遜なもう一人の自分の言葉を嬉しく感じていた。
「うん…宜しく。…まあ、死ぬほど恥ずかしいけどね…」
『…話は纏まったな。それじゃ俺はそろそろ休む…じゃあな』
いきなり話を切っていくと…急にセレニティの姿と、Mr.Rの姿が闇の中に
消えていった。
其処に残されたのは太一と克哉、そしてアキと呼ばれていた…白い猫だけと
なった。
嵐のように速い展開に、頭がはっきりいってついていっていないが…どうにか
へたりこまずに、太一の方へと向き直っていく。
「…はは、何か…とんでもない事に…巻き込まれちゃったね。お互い…」
「…ん~まあ、確かに、ね。けど…滅多にない経験で良いんじゃないすか?」
太一があっさりと言い切る姿を見て、正直克哉は感心した。
自分にはこのポジティブ思考は絶対に持てないからだ。
「…そ、うだね。…けど、本当に…一緒に戦ってくれるの? 多分…危険な事に
なると思うよ。それでも…?」
「な~に、水臭い事言ってるんだよ克哉さん! 俺がここで断ったら…克哉さんが
一人で危険な目に遭うんでしょ? それくらいだったら一緒に戦って…貴方を
助けたり、守れた方が俺にとってはずっと良いし。気にしなくて良いってば!」
「えっ…あ、うん。そういってもらえると…恥ずかしいけど、嬉しいよ。…ありがとう
太一…君」
「うっわっ! 一緒に戦った仲なのにすっごい他人行事っすね。俺の事は太一って
呼び捨てにして構わないよ。克哉さんにならさ…」
人懐こく笑いながら、あっさりと言い切られて克哉は最初あっけに取られたが
すぐに柔らかく笑っていく。
最初はこんな事態に巻き込まれてどうしようかと思った。
けれど…自分は一人じゃないし、こうして…運良く、快く手伝ってくれる仲間にも
こうして恵まれた。
そう思えば…悲観的になる事もない。克哉はそう考え直す事にした。
「うん、判った…太一…これからも、どうも宜しくね…」
そうして、克哉は彼の方に手を差し伸べながら、心からの笑顔を浮かべていく。
それを見て、太一は照れくさそうに握り締めて…挨拶していく。
「うん! これからも宜しく! 克哉さん!」
太一の明るい笑顔が、今の克哉にとって本当に救いだった。
こんな事態に巻き込まれても、傍に支えてくれる人がいる。
そう思えば、少しは心強かった。
天に真っ白い月が浮かぶ中…二人は強く手を握り合って握手していく。
これから生まれる信頼関係を、確かめるように。
共に戦っていく仲間だと、心に刻んでいくように。
そうして…二人は再び出会い、関わりが生まれた。
この月が降り注ぐ…蒼い大地の上で―
そうしてこの夜、この街の中で平和を守る二人の戦士が
静かに生まれたのだったー
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。