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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ―男は興信所に頼んだ調査結果を全て読み終わると、本気で
憤りながらその書類を壁に叩きつけていった。
 五十代後半のその男の頭髪にはかなり白いものが混じり始めている。
 若い頃はそれなりにモテただろうというのが偲ばれる顔立ちをしていて…
目元や口元には年齢に見合ったシワがくっきりと刻み込まれていた。
 以前はノリが効いてパリっとしていたワイシャツやズボンも…今では
アイロン掛けなんてしなくなったものだから、かなりヨレヨレした印象に
なっていた。
 

「くそっ…! 冗談じゃねえぞ!」

 築30年は軽く越える、全体的にどこか薄汚く古臭いカプセルホテルの一室。
 それが60の定年を間近に控えていた男の、現在の自分の城だった。
 その書類の中には、一人の美丈夫と言える年齢の男の写真が添えられていた。
 男は、その写真を憎々しげに睨みつけていくと…大きく舌打ちをしていった。

「…俺と同じように責任を取らされた癖に、自分は別の会社にさっさと就職先を
見つけただと…! しかもそこでも部長待遇でなんて…ふざけんじゃねえよ!
同じように責任を取らされた俺なんかはどうすれば良いんだよっ!」

 ほんの二ヶ月前なら、男は衣服や身だしなみの類には相当に気を使い…
清潔感を出すように務めていた。
 だが、一ヵ月半くらい前に…いきなり御堂が責任を取らされて、新商品であるプロト
ファイバーの担当を外されて辞職。
 それに伴って、生産工業の責任者を任されていた自分も強引に…増産を求められて
いた時期にそれに対応が出来なかった事。
 生産量が受注量に追いつかない対応の悪さや、その混乱に起こった幾つかのミスの
責任を負わされる形で、彼の他に営業や広報を担当していた者も首切りされていた。
 大隈専務は、社運を掛けて打ち出した新商品が起動に乗らなかったことを知ると
キクチ・マーケーティングに無理矢理過失を押し付けたと同じ理由で、何人かの
人間を強引に解雇することで対面を保ったのだ。

 そして定年を後数年に控えていた男は…不運にも白羽の矢を当てられて
後もう少し我慢すれば得られた多額の退職金の大半をフイにされる形で仕事すらも
失ってしまったのだ。
 密かに描いていた退職後のプランも全て白紙にされ。
 この歳で再就職先を探す羽目になり。
 妻とも気まずい感じになって、この一ヶ月程はこのカプセルホテルが彼の住居に
等しくなってしまっていた。
 それでも男は、なけなしのお金を払って…探偵を雇い、御堂のその後…どうしているかを
知る為に調べて貰っていたのだった。

 許せない! 許せない…! 許せない…!

 かつての彼は、御堂はいけ好かない上司ではあったが…その手腕は
認めていた。
 元工場長と御堂の付き合いは、10年程にもなる。
 人間的に合う合わないの問題は確かにあったが、それでも…表面的にはさほど
問題もなく彼らは連携して、一緒の仕事を何度も担当していたのだ。
 だが…人は、当たり前のように得られると信じ込んでいたものを唐突に奪われたら
本気で怒るものだ。
 実際に裏で糸を引いて、責任逃れを行ったのは大隈の方である。
 だが、長い付き合いがある…御堂には「仕事に関する事」だけは信頼を
置いていた事からこそ、恨みは深くなってしまっていた。

 人は窮地に立たれた時、自分のせいだと己を責めて反省して次回の失敗に生かすか
自分を守る為に他人に全てをおっ被せるか、この2パターンに陥るの場合が殆どだ。
 男は生真面目で朴訥な人柄だった。
 人に裏切られたり、そういう事に無縁な人生を送っていた。

 ―ここまでの挫折を味わった事がなかったからこそ、男の心は荒れに荒れ狂っていた。

 MGNという大手の会社の生産工場を任されていた男は、無断欠勤も遅刻もしない。
 誠実な仕事をする人間だった。
 なのに、あまりに理不尽な理由で…『御堂』とそれなりに親交があったというだけで
大隈に目をつけられて、解雇されてしまうというのは…あまりにショックで。
 定年後に妻と移住して、ゆったり暮らすプランも立てられていたのに…それを
直前で奪われた悔しさは、男の心根を大きく歪めてしまっていた。

「…あんただけが、あっさりと新しい職を得て…何もなかった事にして今までと同じ
エリートコースを歩み続けるだなんて…ふざけるんじゃねえよ…」

 唇から、押し殺した声が漏れていく。
 その瞳は、憎悪によって強く輝いていた。
 御堂が恨めしかった。
 本気で憎くて堪らなくなっていた。
 最初の頃は、そんな負の感情に負けたくなくて押さえ込んでいたが…男の胸の中に
宿るのは若くて有能な御堂に対しての強烈な嫉妬だった。

―俺には、就職先など…ロクな条件の場所しかないのに!

 嫉妬は時に、強烈なエネルギーになるが…人を間違った方向に進ませる
諸刃の剣のような一面もある。
 一ヶ月経たない内にMGNに負けずとも劣らない会社に就職してそこでも
高待遇を得ているのが許せなかった。妬ましくて死にそうなくらいだった。

「…あんたの巻き添えになる形で、こっちはあんな目に遭ったっていうのに…
あんただけが幸せになるなんて許せるかよっ!」

 グシャ、と書類を握りつぶしながら禍々しく男は笑っていく。
 この報告書のおかげで、やっと今の御堂の会社の所在地を知る事が出来た。
 それは男にとって、千載一遇のチャンスを生み出す貴重な情報内容であった。
 
―これで、目に物を見せてやれる…!

 男は、危うく笑っていく。
 人は真面目すぎると、視野が狭いと…すぐに極端な方向へと突き進むものだ。
 まさに…この男性はその典型であった。
 嫉妬という強烈な感情に突き動かされて、恐ろしい計画を練り上げていく。
 人は…孤立すると、感情を極端な方へと揺れ動かしていく。
 間違った考えを抱いても、それにブレーキを掛けることすら出来なくなる。
 
「…もし、務め始めの会社で入社そうそう…事故か何かで休んだりしたら、
困らせるだろうな…! はは、良い気味だっ!」

 自分の中の身勝手な妄想に身を焦がしながら、男は安いカップ酒を煽って
あっという間に飲み干していく。
 男の中で、凶悪なシナリオはチャクチャクと展開されていた。
 今まではそれが、御堂の所在が判らないという理由でブレーキが辛うじて利いて
いたが…今は知ってしまった以上、歯止めが聞かなかった。
 嫉妬が心を歪にし、間違った方向へと踏み外させていく。

 ―窓の向こうには本日も鈍色の空が広がり続けている。

 陰鬱で、重苦しい空を見つめていきながら…男は、凶悪な考えを
頭の中で考えて楽しんでいく。
 ゆっくりと…御堂も、克哉も、本多も誰もあずかり知らない処で…事態は
悪い方へと突き進み始めていったのだった―

  
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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