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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ―その日は午後からゆっくりと雨脚が近づいて来ていた。

 御堂孝典は昼休みが終わってからも精力的に働き続けていたが
窓の外から聞こえてくる水音がダンダンと大きくなっているのに気づいて
少しの間だけ手を止めて、外を眺めていく。

「…雨、か…」

 最近、雨ばかりが続いている。
 12月としては相当に珍しい事だ。
 今の彼は、雨を見る度に一ヶ月前のあの日の事を思い出してしまう。

(感傷だな…)

 あの日のマンションの下で立ち尽くして待っていた克哉。
 声を掛けられなかった自分。
 二日前に想いを確かめられた筈なのに…あの日、御堂の胸に刺さった
後悔という苦い棘は…未だにチクチクと胸を痛めていた。

 過去は変えられない。
 どうやっても変更出来ないものならばその後悔を未来に生かす
他はない。
 誰よりも現実的な思考回路の持ち主である御堂は…それを信条に
して生きて来た筈だ。
 後ろを振り返って生きて何の意味があると…今までの自分なら一蹴
してきた行為を、佐伯克哉に関する事だけは知らずに繰り返してしまっている。

(克哉…君はどうして、私などを好きという…?)

 それだけがどうしても判らなかった。
 あの決別の日以前。
 自分達の関係の終わりの頃辺りから…御堂は何となく、克哉の方からの
好意らしきものを感じ取り始めていた。
 最初はまさか、と思った。
 自分が彼にしてきたことを思えば、到底ありえない話だと思ったし…彼の立場を
こちらに置き換えてみれば、絶対にそんな事は在り得ない事だったからだ。
 けれど、その想いに呼応するように…こちらの心もゆっくりと変質していって
会わない日々を積み重ねていく事で、御堂もまた…自らの気持ちに気づかざるを
得なかった。

―もう二度と会わない方が良い

 自分が弄り続けて来た男が、こちらを好きになる事なんてないと思う反面。

―もう一度君に会いたい

 そう強く願う自分も確かにいた。
 その事に気づいて、ふと自分の手に視線を落とす。

(たった二日前の事なのに…あの夜の事が幻か、夢のように感じられるな…)

 あの時間は御堂にとっても幸せだった。
 夢なら覚めないと欲しいと強く願った一時だった。
 だが、その時間が遠くなれば遠くなるだけ…確かに克哉と両想いになって
結ばれたのだという実感が遠くなっていき、儚いものに感じられた。
 それを確認したくて、今日も誘いを掛けてしまったのだが…克哉の方は
あの夜をどう思っているのだろうか。
 みっともないが…つい、そんな弱気な事を考えてしまう。

「…本当に君は、どこまでも私を乱していくな…」

 フッと目を細めながら微笑する、その表情はどこか柔らかかった。
 恐らく御堂自身も、自分がそんな顔をしているなんて気づいて
いないだろう。
 御堂は、そのまま窓の外の曇天の空と…雨を見遣る。

―御堂さん

 そう呼びかけながら、立ち尽くす克哉の幻が一瞬だけ見えたような
気がした。
 再会して、想いを確かめ合っても…御堂の中の克哉は、消えない
残像のように…雨の中で一人、立ち尽くす。

―そして、泣き続けていた

 あの日、マンションの窓から見下ろす形で克哉を見ていた筈だから…
彼の涙など見ていない筈なのに、離れてからも…雨が降る度に御堂は
その幻を見ていた。
 切ない顔で、今にも涙を零しそうな脆い顔を浮かべながら…ただ
名前を呟きながらこちらを見つめてくる残影。
 
(泣くな…)

 その顔を見て放っておけない気持ちになって、つい手を伸ばしたくなる。
 雨の日の度に繰り返される場面とやりとり。
 
「嗚呼、そうか…。君に逢いたいと願った一番の理由は…この幻に
出てくる君の涙を止めたいと…らしくない事を考えてしまったからかも
知れないな…」

 自嘲的に笑いながら、灰色の空の中に克哉の面影を描いていく。
 瞬間、甘いものが胸の中に広がっていく。
 いつから…自分の中にこんな気持ちが生じたのか御堂自身にも
判らない。
 けれど、いつしか彼を想うようになっていた。
 強く求めるようになっていた。
 
―今もただ、一刻も早く君に逢いたい

 その事だけを願いながら…御堂は書類に視線を戻していく。
 昨日一日、積極的に仕事をこなしたおかげで…本日は定時で帰る事
ぐらいは出来そうだった。
 すでに克哉と約束を取り付けてある。
 この会社の最寄り駅か、自分の会社のどちらかに立ち寄って…そのまま
合流しよう、とそこまでは話を取り付けてある。

「…恐らく、君ともう一度会ったら私は抑えられないな…」

 もっと、君が欲しい。
 強く克哉を感じ取りたい。
 この泣き顔を浮かべた克哉の残影が消えて。
 胸の中に広がる苦い後悔が…自然に溶ける事を願って。
 強く強く、自分は今夜も君を求めるだろう…。

 その時間が早く来る事を願いながら…御堂は後顧の憂いを絶つべく
自らの役割を果たす方に意識を向け始めていく。

―窓の外では雨が打ちつけるように降り注いでい
 全てを隠すかのように不穏の雲は天を覆う
 御堂自身、これから自分を待つ運命に未だ気づかない
 今はただ、雨音だけが強く室内に響き渡るのみであった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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