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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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―自分の意識が出なくなったその時から、世界はガラス越しにしか
感じられないものになった。
 もう一人の自分を通して見る事だけは出来るのに、決して介入する事が
出来ない光景。
 眼鏡の方が、自分を必要としていないから…一切、自分は表に出る事が
叶わず、其処に心だけはあるのに…どんな叫びも届く事はない。
 どれだけもどかしい夜を過ごしただろう。
 だから、愚かにも…Mr.Rの提案に飛びついてしまった。
 『今にも破裂せんばかりのあの方を救いませんか?』と…。
 こんな結果になるなどと、考えもせずに―

 自己嫌悪に駆られながらも、必死になって克哉は走り続ける。
 追いかける御堂の足の速度にも容赦がなかった。

「克哉、待てっ!」

 彼の方もかなり真剣だった。
 だが、克哉も捕まる訳にいかなかった。
 どうしても…自分の方と長く話せば、御堂は違和感を覚えるだろう。
 とても同一人物とは信じられないくらいに、自分達は言葉遣いや立ち振る舞い…
ほんの僅かな仕草や声のトーンまで異なっているのだから。

(本当に御免なさい…! 御堂さん! 今、貴方に捕まる訳にいかないんです…!)

 御堂は、佐伯克哉が同時に二人存在しているという異常事態などまったく知らない。
 克哉も話すつもりはなかった。
 同時に…例のフレグランスをどうにかしなければ、と言う使命感にも似た気持ちが
満たしていたからだ。
 あんな物は、もういらない。
 だからこの手で探し出して、処分をしなければ…御堂が訪ねられる環境が整えられない。
 遮二無二、夢中で足を動かし続けて逃げ続けていくと…目の前に点等して、バーが
ゆっくりと折り始めている線路が立ち塞がった。
 危険なのを承知の上で、克哉は其処に向かって一直線に走り抜けていく。

「なっ…!」

 背後で御堂が信じられないという想いで声を挙げていく。
 だが克哉は迷わなかった。
 そのまま全力で反対側の車線に躍り出ると同時に、目の前に『空車』と表示された
タクシーが通りかかった。

「すみませんっ! 止まって下さい!」

 手を挙げながら大声で呼びかかっていくと…すぐに自分の前に一台の黄色いタクシーが
停車していく。
 その中に素早く乗り込んでいくと…克哉は行き先を告げていった。

「アクワイヤ・アソシエーション前にお願いします」

「了解しました」

 流石、近所を走っているだけあって運良く…運転手の方も眼鏡が興した会社名を
知っててくれたようだった。
 チラリと踏み切りの方を見ると、勢い良く電車が走り抜けていく処だ。

「すぐに向かって下さい」

「はい、では向かいますよ」

 運転手が返事すると同時に車が動き始めていく。
 恐らくこの先の道で方向転換して、来た道を戻って行く事だろう。
 線路の付近で、御堂が必死の形相で克哉の姿を追いかけている姿が目に留まっていった。

(本当にすみません…御堂さんっ!)

 心の底で、彼に詫びていきながら…克哉はそのまま、タクシーで今…逃げたばかりの
道を真っ直ぐに戻っていったのだった。

                                  *

 タクシーが停車すると同時に、大急ぎで眼鏡の住居があるビルの中へと入っていくと
エレベーターに乗り込んで真っ直ぐに向かっていった。
 だが…インターフォンを何度鳴らしても、反応がないままだった。
 ドアノブに手を掛けると、鍵がしっかりと掛かっていて…まったく開く気配はない。

「もしかして…出掛けたのか…?」

 何度も、何度も飽きる事なく呼び鈴を鳴らし続けていたが…反応はないままだった。
 居留守を使われている可能性もあったが…克哉はどうしても諦め切れなかった。

(むしろ…あいつがいない方が好都合かも知れない。オレの目的は…例のフレグランスを
探し出して、処分をする事なのだから…)

 そう考え直していった。
 だが、都内でも一等地に建設されて…セキュリティ関係も万全(克哉の場合は、眼鏡と
顔は一緒だったのでフリーパスだったが)のビルには、通路側から入れそうなサイズの
窓の類は一切ない。 
 小さな窓は通気口に使うのがやっとだった。

 非常口の類も、室内にいる人間ならば使えるが…外部からの人間が入って来れないような
造りになっているだろうし…アイツが、こちらの通路側にこっそりと鍵を置いておいてくれるような
マヌケな真似は幾ら何でもしないだろう。
 …そうなると、侵入経路は屋上からしかない。
 最上階に位置するこの部屋ならば、屋上から一階分だけ降りればどうにか入れるだろうが…。

(本当に…そんな真似が出来る、のか…?)

 今までの人生の中で、そんな命知らずな真似をした事がない為…想像するだけで
眩暈がしそうだった。
 だが、それ以外に方法がないのならば…やるしか、ないのだ。
 そう決意した克哉は屋上に続く階段をゆっくりと昇り始めていく。
 幸いにも、マンションの屋上に続く扉は開かれたままだった。

 広々と取られた空間は、しっかりと四方を柵で覆われて…簡単には飛び降りたり、身を
乗り出して落下したりしない造りになっている。
 頭の中で、必死になって眼鏡の部屋の構造を思い出して…見当をつけていった。
 ふと、下を覗き見てしまっただけで…背筋がゾっとしていく。
 ここから落ちたら、一溜まりもないだろう。
 そんな怖い想像が頭の中を過ぎっていったが…今はどうにか、呑み込んでいった。

(…ここで怯む訳にはいかないんだ。もうこれ以上、アイツと御堂さんが不和になる
要因など部屋の中に残しておく訳にはいかない…! そもそも、オレが安易にあんな
提案になど乗らなければ…こんな事態は、招かなかったんだから…)

 だから、せめてこの手で正さなければ…何の為にこうして、ここにいるのかが
判らなくなってしまう。
 そう考え、恐怖を押さえ込んで…彼は覚悟を決めていく。

「…行こう」

 そう短く呟いて、彼は屋上の柵を越えて…ゆっくりと、身を躍らせて下のフロアへと
下り始めていった―

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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