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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―今の自分は亡霊に過ぎないのだろうか。
 空には肉眼で捉える事が出来ない、数多の星々が犇いている。
 もう一人の自分と、御堂が鮮烈に輝く星ならば…
 眼鏡を掛けた彼の影に隠れて、その意識を沈ませた自分は
果たして…どんな星に例えられるのだろうか…?

 彼の会社が入っているビルの屋上。
 そこで二年数ヶ月ぶりに、もう一人の自分と対峙した時…
克哉は思った。
 相変わらず、もう一人の自分の纏っている気配は鋭くて…
相手の瞳を見つめるだけでも酷く緊張していた。

「…本当に久しぶりだね、『俺』。こうやってお互いに向き合って
話すのって…もう、どれくらいぶりなんだろうね…?」

 暫くの睨み合いの後、どこか寂しげな表情になりながら…克哉は
もう一人の自分に向かって声を掛けていった。
 
「さあな…二年は過ぎている事は確か、だな…」

 御堂と一度訣別し、再会したのが一年後。
 それから更に新しい会社を設立して仕事上のパートナー同士となってから
一年近くが過ぎていたので、まだ自分が主導権を握る以前に…もう一人の
自分を抱いたのは二年以上は前の話になる。

(あの頃の俺は…誰を抱くにしても、快楽の為にしか抱かなかったからな…)

 今でこそ、御堂への想いを自覚して…眼鏡は殊勝な感情を抱くようになったが
丁度、秋紀やもう一人の自分を抱いて愉しんでいた頃は自分の事しか見えて
いない時期だった。
 …愛する人が出来たからこそ、当時の自分のバカさ加減を苦々しく思っている
部分があるのだ。何故、今更になって…と如実に彼が顔に出すと―

「そっか…二年も経っていたんだ。あれから…どれくらいの時間が経過
したのか…オレは正直、把握出来ない状態だったから…」

 かつての佐伯克哉と呼ばれていた気弱な男は、そういって弱々しく笑ってみせた。
 そういう一挙一動が、今は無性に腹が立つ。

『もう一人のご自分と、久しぶりの対面を果たした気分はどうでしょうか…?』

 ふいに、黒衣の男が口を挟んでくる。

「…先程、お前が言っていた持参品というのは…もしかして、コイツの事か…?」

『その通りで御座います。…貴方様には現在、心から愛されている御方が
いる事はこちらも知っておりますが…彼ならば、浮気にはならないでしょう?
これは紛れもなく貴方の半身であり、今は私の力で具現化されているだけで…
貴方自身でもある存在なのですから―』

「ふざけるな! 俺は御堂以外をもう抱く気などない! しかもあんな真似をしでかした
直後に…『オレ』を抱くなんて事をやる気はまったくない! 引き取ってさっさと帰れっ!」

 眼鏡は本気で憤りながら、Mr.Rに掴み掛かっていく。
 だが…妖しい男は、悠然と微笑むだけで…まったく動じた様子を見せなかった。

「…おやおや、そんな事を言って宜しいのですか? 今…こうして、貴方の前に…もう
一人の御自分がいるのは、彼が心からそう願った結果だからですよ…?」

「なんだと…?」

 そう呟き、もう一人の自分をキッっと睨みつけていく。
 だが…彼は、今度は眼鏡の方の顔を強い眼差しで見つめ返す事なく…どこか、弱々しく
笑みを浮かべているだけだった。

「…お前、一体…何を企んで俺の前に現れたんだ…?」

「…何も、企んでなんていないよ。オレがそうしたいと望んだから、こうなっただけだよ…」

 猜疑心が篭った視線を向けながら、眼鏡が問いかけていくと…どこか悲しそうな顔を
浮かべながら答えていく。
 だが、そんな回答では眼鏡も納得出来ない。
 視線で…訴えかけて、こちらの真意を暴こうとしているみたいだった。 
 
 ―お前は一体、何を考えているのだと―

(…当然、だよな。…オレだって以前…こいつが目の前に現れた時はびっくりして、驚愕して
冷静でなんかいられなかった訳だし…)

 かつて、自分が表に出て生きていた頃の記憶を思い返しながら、やはりどこか力がなく
溜息を突いていった。

「もう一度、問う。何故だ…それを答えない限りは、俺はお前を傍になど置く気はない。
さっさとその男に引き取って貰って帰る事だな…」

 眼鏡は、苛立っているようだった。
 さっき自分自身が犯してしまった過ちについて。
 そして…その事態はMr.Rが一枚噛んでいる事を察して、警戒心が高まっている。
 中途半端な答えでは、彼は決して…自分を傍に置いてくれないだろう。
 ここでそれを言って良いか…迷った。だが…克哉は、口にする事にした。

「…お前を、放っておけなかったから。この一年…どれだけ御堂さんを想って、
大事にしているかをオレはお前の内側から、ずっと感じ取っていたし…見守っていた。
このまま放っておいたら…お前と、御堂さんは壊れるしかないと思ったから、だから
望んだんだ…。お前が嫌だ、というのなら…別に抱かなくたって良い。
 八つ当たりの対象にでも、家事をやらせるハウスキーパー代わりにでも何でも
良い…お前の傍にいて、何かやれる事があるならしてやりたい…。
 そう願っているだけ、だよ…!」

「な、んだと…?」

 余程、克哉の答えが意外だったのか…眼鏡は驚きを隠せなかったようだった。

「…オレは、お前と御堂さんの関係を守りたい。それ以外の意思なんてない…。
だから…置いて、くれ。何もしないで…ただ、傍観者でいて…黙ってそれを見過ごす
だけなんてのは…嫌、だよ…」

「…お前は、バカか…? そんな真似をして、お前が何の得をするって言うんだ…?」

「自分の心は、楽に出来るよ。それ以外でも、それ以下でもない。…で…どうする?
それでも…オレの言葉なんて、信用出来ないって突っぱねられてしまうのかな…」

 そう答えた克哉の顔は、どこか寂しそうなもので…ふいに、それを見た眼鏡の眉は
思いっきり顰められていった。
 そう答えている間、克哉の視線はただの一瞬も…こちらから逸らされる事はない。
 ただ…どこまでも、澄んだ眼差しを自分に向けてくるのみだ。
 それを見て…非常に落ち着かない気分になった。
 信じられないという不信の想いもあった。だが…それを表には出さずに、眼鏡は
不機嫌そうに言い捨てていった。

「…好きに、しろ…。ただし、俺の代わりに家事全般を担当して貰うぞ。正直…会社を
興してからは外食続きで…手料理などする暇があったら、身体を休めるか…又は
会社の仕事を少しでも片付ける方を優先していたからな。
 お前程度の腕前でも、飯を用意しておいてくれるなら…傍に置いてやる。
 そういう形で良いか…?」

 そういいながら克哉の手を乱暴に掴んで踵を返していった。

「わっ…! 何…いきなり…?」

「そろそろ、戻るぞ。幾らまだ秋口でも…夜は正直冷える。こんな処にずっと
立ち尽くしていたりしたら…風邪を引いてもおかしくはない。だから…そろそろ
部屋に戻るぞ…」

『話は付かれたみたいですね…。私が力添えをして差し上げた甲斐がありました…。
どうか、もう一人の自分との共同生活を愉しまれて下さいね…。
 それは滅多に経験出来る事ではない、貴重な事でしょうから…』

「黙れ。お前が妙な力を使うから…こんなややこしい事態になったんだろうが。
とりあえず…ハウスキーパー代わりに一旦、こいつは引き取ってやる。だが…
これ以上、変な真似はするなよ…」

『えぇ、承知の上ですよ…。それでは…私もそろそろ退散しますね。お元気で…
佐伯様。貴方の未来に、どうか幸があらん事を―』

 そう言いながら、男は艶やかに微笑みながらその場に立ち尽くし…二人をそっと
見送っていく。
 Mr.Rに背を向けていきながら…眼鏡は険しい顔をしながら、もう一人の
自分の手を握って足を進めていった。

「…あぁ、俺は不幸になどなるつもりはないからな…。行くぞ、『オレ』…」

「う、うん…」

  カツカツ、と靴音を乱暴に響かせながら階段を下って―眼鏡は再び、自分の
自室へと戻っていく。
 秋風の冷たく、黙って立っていれば凍ってしまいそうな寒い夜。
 そうして二人は再会した。

 身の奥に深い獣の衝動が未だに息づいている事を突きつけられた日。
 その獣の檻の中に、まるで生贄に捧げられる為に羊が…その中に飛び込んで来た。
 それがどのような結果を招き、歯車が回っていくのか…。
 この時点では、誰の想像も及ぶ処ではなかった―
  
                                   

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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