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―丸一日高熱に侵され続けた眼鏡が意識を取り戻したのは朝方の事だった。
目覚めて真っ先に覚えた違和感は、場所の違いだった。
確か意識を失う直前は自分はリビングのソファの上にいた筈だ。
ベッドまで移動した記憶はない。
(何故、俺はここにいるんだ…?)
疑問に思いながらゆっくりと周囲を見渡していくとベッドサイドに誰かの姿があった。
最初は窓から眩いばかりの朝日が差し込んできているせいで視界が効かなかったが、
徐々にはっきりしてくると…今度は息を呑むしかなかった。
「…何故、『オレ』がここにいるんだ…?」
彼が呆然となりながら呟いていくと、間もなく克哉の方も身じろぎ始めていった。
真っ白く室内が光輝く中、相手の長い睫毛が揺れて…その瞼が開かれていった。
「…ん、おはよう『俺』。もう熱の方は大丈夫かな…?」
「…どうしてお前がここにいる? しかもどうやって入って来たんだ。俺は鍵は
毎晩キチンと掛けているし、お前に合鍵など渡した記憶はないのに…」
「ゴメン、忘れ物をしたからどうしても気になって屋上からベランダの方に降りる形で入った。
…オレの用はとっくに済んでいるけどね。ねぇ、『俺』…身体の具合いはどうかな?」
「何だと…? そんな馬鹿な真似をしたのか! 失敗して落下したらどうするつもりだったんだ…」
眼鏡が珍しく血相を変えながら怒鳴っていくのと対照的に、克哉の方の表情は
どこか穏やかだった。
見方によってはすでに達観している…と取れなくもない顔だった。
「その危険を犯してでも、やらないといけない事があったからね。…もう、それだけ身体を
起こして話せるのならば…大丈夫そうだね。じゃあ、オレはこれで…」
「待てっ…! どこに行くつもりだっ…話は全然終わってないだろうが!」
正直、今朝の件でもまた…眼鏡の方では疑問が幾つも渦巻いている状態だった。
木曜日の夜にもう一人の自分が姿を現してから今日で四日目。
その四日間の『オレ』の行動と言動は、眼鏡にとっては不可解なものばかりだった。
だが、彼の瞳は…酷く静かに澄んでいた。
その瞳で見つめられていくと、落ち着かなくなっていく。
(お前は一体、何を考えている…?)
眼鏡には、判らない。
いや…薄々とは感じ取っているのに、それから目を逸らそうとしているという方が
正しかった。
だが、気づく訳にはいかなかった。
恐らくそれをこちらが察しているとはっきりさせたら、もう一人の自分は恐らく…
自分の前からスウっといなくなってしまうような気がしたから。
「…これ以上、オレがここにいる訳にはいかないから。一度はお前に追い出された身、
だしな。それに…御堂さんがここに来たら何て言い訳する訳? 同じ人間が同時に二人
存在しているだなんて…怪現象、信じて貰える訳がないよ。
だから…オレは消えるよ。ちょっとお前から金銭的に世話になるのは心苦しいけれど…
後、三日もすればオレは肉体を持っては存在出来なくなる。それまでの期間…どこかの
安いホテルに滞在出来る分のお金だけは、用意して貰って良いかな…?」
「後、三日だと…?」
「うん、そう…オレは最初から期限付きでこうして一時的に存在しているだけ。現れた日から
数えて…一週間、水曜の夜いっぱいにはオレはお前の中へと還る。
…けれど、御堂さんとの修復はもっと早くやっておいた方が良いだろうから…オレは姿を
消すよ。熱が引いた状態ならば、お前にオレが手を貸せる事など何もないから…な」
そう告げた克哉の表情は悲しげで、見ているこちらの胸がツキンと…疼いた。
多分…ここで見送れば、二度とこいつは期日まで自分の前に姿を見せないだろう。
そんな予感がヒシヒシとしていった。
御堂と修復する事を考えるならば、確かに克哉の言った通りにした方が良い。
だが…ここで手を離したら、何かが手遅れになるような気がした。
何かまだ…コイツから聞き出しておかないといけない事があるような気がした。
だから、眼鏡は…口を開いていった。
「…馬鹿が。俺はまだ…正直、一人で全部身の回りの事をこなせる程、回復してはいない。
飯を作ったり掃除したりを…こんなダルい身体でこなすのは御免だ。
だから…もう一日ぐらいはここにいろ。その代わり、もうお前には触れないがな…」
かなりツッケンドンな、突き放したような口調だった。
だが…相手からの「ここにいろ」という発言が、克哉には嬉しかった。
ささいな事でも良い。何か出来る事があるならば…嫌われたり、疎ましく思われたりして
遠ざけられるよりもずっと良いと思うから…。
「うん…判った。飯ぐらいはちゃんとオレが用意させてもらうよ。だから…ゆっくりと
休んでくれて良いよ」
「…チッ、何をそんなに嬉しそうにしているんだ…お前は。もう良い…俺はもう少し
寝させてもらう。昼頃には起きるから…それまでには、お粥か何かを作って
おいてくれ。じゃあな…」
そうして…ボスン、という音を立てながらもう一度眼鏡はベッドシーツの上へと倒れ
込んでいった。
こちらから背を向けて、その顔を見えないようにしていたが…何となくその顔は
複雑なものをしているんだろうな…と克哉は感じ取ってしまった。
(…何となく、『俺』も察しているんだろうな…。こっちの気持ちは…)
態度で、克哉の方も…眼鏡がこちらの想いに気づきつつある事は感じ取っていた。
だが…敢えて、二人共それを口に出さなかったし…問い質す事はしなかった。
一言、はっきりと告げてしまえば…眼鏡には拒絶するしかない。
克哉も、そうなれば傍にはいられなくなってしまう。
(…気のせいかも知れないけれど、今夜は…凄く嫌な予感がする…。凄く胸騒ぎが
して…落ち着かない…)
もしかしたら、もう一人の自分もそれを感じ取っているから…自分を引き止めたのかも
知れない。
ザワザワ、と不安が胸の中に広がっていく。
漠然とした何か、それを上手く口には出来ないが…何かが起こると、そんな確信めいた
予感を感じていた。
薄氷のような危ういバランスを保ったまま、二人は共に…夜まで他愛無く過ごしていく。
そして、夜の22時に。
彼らが感じていた予感が的中した事を告げる、一通の電話の音が鳴り響いていった―
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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