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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は以前に高速シャングリラ様が発行した
「克克アンソロジー1」に寄贈した作品です。
一定期間をすでに経ているのでサイトで再掲載を
させて頂きました。
 この点をご了承の上でお読み下さいませ。 

 慰撫(いぶ) 


もう一人の自分があれだけ自信たっぷりに言い切っていただけあって…
用意された夕食は大変に美味であった。
 炊き立てのホカホカと湯気を立てているご飯、ワカメと大根の味噌汁。
湯豆腐をメインにして…ほうれん草の胡麻和えに、鰹の刺身。そして豚肉と
タマネギの炒め物と…オーソドックスな和食ながら栄養バランスが
考えられた品々だった。
 
「…すっごく、美味しかった。ご馳走様…」
 
 殆ど会話もなく向き合って食事を取っていたが…満足げにそう呟きながら
克哉は箸を置いていった。
 
「…気に入ったようだな」
 
「うん、とても…。正直、お前がこんなにご飯作るの上手いだなんて…
想像もしていなかったよ」
 
「…お前、俺を誰だと思っている? これくらいなら…朝飯前の事だ。ま…
少しは気分が浮上したみたいだな。さっきよりも顔が穏やかになっている…」
 
「ん、そうだね。やはりお腹がいっぱいになったからかな…? 本当に
ご馳走様、『俺』…後片付けはせめてオレがやるな…」
 
「そうだな、片付けくらいはお前の方でやって貰おうか…」
 
 事実、空腹な状態だと人間はネガティブな方向に傾きやすいものである。
満腹感に浸るだけでも随分と緩和されるものであった。
 一旦食卓から立ち上がっていくと…克哉は食器の類を片付け始める。
 もう一人の自分も床から立っていくと…棚の方を探り始めていった。
バタン、と冷蔵庫を何度か開閉したような音と…カラン、と何か硬いもの
同士がぶつかりあう澄んだ金属音みたいなのが微かに耳に聞こえていった。
一瞬…何をしているんだろうと不思議に思ったが、それ以上は
追求しないようにした。
 
 カチャカチャカチャ…。
 
 食器同士が擦れ合う音と、水音だけが室内に響き渡っていく。
 他愛無い一時。こんな風に互いに背中を向けながら…台所に立って
何かをやるなんて…本当に奇妙な感じだ。
 
(これじゃ…まるで、新婚みたい…って、何を考えているんだ…オレはっ…!)
 
 自分の考えについ真っ赤になってしまって、うっかりと皿をすべり
落としそうになってしまう。
 
「わわっ…わわわわっ…!
 
慌てて受け止めて寸での処で落下は回避出来たが、相手には思いっきり
不審そうな眼差しで見つめられていく。
 
「…お前、一体何をやっているんだ…?」
 
「いや、皿を落としそうになって…」
 
「…お前は本当にドン臭いな。それしきの作業で何で手元を狂わせるんだ…?」
 
(つい、変な事を考えてしまったからだよ…)
 
 と心の中で呟いたが、賢明にも彼はその言葉を飲み込むことにした。
 本日はたまたま親切な態度を取っているが…基本的にもう一人の自分は
意地悪で、人の揚げ足を取るのが大好きそうな男なのである。
 迂闊な事を口にしたら絶対にそれをネタにからかってくるに違いない。
 そんな確信があったからこそ…克哉は余計な事を言わないことにした。
 
「…お前がいるから、妙に緊張してしまったからだよ…。何か、一人暮らしが
長かったから…こんな風に誰かと後片付けをするなんて、ずっと無かったし…」
 
 代わりに別の理由を打ち立てながら、洗ったばかりの食器を…流水に晒して、
泡を丁寧に落とし始めていく。
 妙に…もう一人の自分を意識してしまっている自分がいた。
 
 ドキン、ドキン…ドキン、ドキン…。
 
 心臓の音が微かに、早くなり始める。そんな自分が信じられなくて…
キュッと唇を噛み締めていくと…。
 
「えっ…?」
 
 フイに、背中全体が暖かく包み込まれていく。最初は何が起こったのか
把握が出来なかった。だが…自分の胸元に相手の腕を回されて、ギュっと
強めに抱き締められていくと…ガラに無く身体が強張っていく想いがした。
 
「えっ…な、何…? 『俺』…?」
 
 声が上ずって、つい狼狽してしまう。何が起こったのかまったく把握出来ないで
いると…突然、首筋に鋭い痛みが走っていった。
 
「痛っ…一体、何を…?」
 
 相手にどうやら、首筋に吸い付かれたらしい。その現実を把握していくと…
克哉はぎょっとなって背後の相手の方へと向き直っていった。
 
「別に…? 少し気まぐれを起こしただけだが…?」
 
 だが男は平然と言い返しながら、こちらの首筋をペロリと舐め上げていった。
 
「っ…!」
 
 克哉は咄嗟に声を抑えていく。だが…身体が大きく震えてしまうのだけは
どうしても止められなかった。一瞬だけ男の指が怪しくこちらの胸元を探って、
突起を服越しに刺激していくと…ピクン、と克哉の肩は大きく震えていった。
 
(もしかして…また、今夜も…?)
 
 以前にもう一人の自分と邂逅した時は、彼に良いように犯されまくった。
 もしかしたら今夜も同じ結果になるかも知れない…そんな考えが過ぎって、
身体を硬くしていくと…ふいに抱擁は解かれて、克哉は解放されていった。
 
「…えっ…?」
 
 またもや信じられない想いで、つい驚きの声を漏らしてしまう。振り返ると…
男はこちらに背を向けたまま、寝室の方へと向かい始めていった。
 
「終わったら来い…お前に一杯、振る舞ってやるよ…」
 
 傲然とそう言い放ちながら、彼はあっさりと…部屋の奥に消えていく。
 あっさりと腕の中から解放された事に克哉は呆然となりながら…ボっと火が
点きそうな勢いで顔を真っ赤に染めていった。
 
「…まったく、あいつ…何だって言うんだよ…! こちらをからかって…
遊んでいるのか…?」
 
 悔しそうに呟きながら、克哉は一先ず洗い物を終えようと手を動かし続けていた。
 その間…彼は、耳まで深い朱に染め続けていた―
  
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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