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※この話は以前に掲載して、一年ぐらい更新が止まり
続けていた『残雪』を一から構成し直して開始したものです。
以前の話が時間軸が曖昧で判りづらい部分がありましたので
少々加筆をして、再掲載をしています。
前回が太一の回想、という形で進めていたのに対して
新しい話はMr.Rがある人物に、夢という形で佐伯克哉と
太一のそれぞれの視点と思惑を垣間見せていくという形に
修正させて頂きました。
太克悲恋、そして眼鏡×太一要素も含まれている話です。
それでも構わないという方のみお読みになって下さい。
―おやおや、今の光景が…太一さんに大きな影響を与えていたことを
貴方は自覚していなかったんですか。そうですよ…その一件が
発端となって、太一さんは五十嵐組の跡継ぎになる事に猛烈な
拒否反応を示すようになったんですよ…
一時、最初の夢が途切れてうっすらと瞳を開いていくと…
目の前には黒衣の男の愉快そうな笑みが浮かんでいた。
今の夢は、彼にとっては不快でしかない事…苦いものである事など
こちらの表情を見れば明白なことだった。
それなのにそれを見事にスルーして、愉しそうに言葉を掛けてくる
相手に本気の苛立ちを覚え始めていった。
だが、文句を言いたくても…頭の中に酷く濃い霧が掛かった
ようになっていて、満足に物も言えない有様だった。
(ち、くしょう…言葉が、出ない…)
彼が必死になって言葉を吐こうとしても、声は伴ってくれずパクパクと
金魚のように唇を上下させるだけしか出来なかった。
―さて、次はどこからお見せしましょうかね…。はて、どうしましょうか…?
佐伯克哉さんと太一さんの物語は、とても黒い憎悪と…キラキラと輝く
白い雪のような感情で彩られている。
どちらも妙味があって私には楽しめますが…太一さんにとって辛い
出来事もありますから、貴方にとってはどうでしょうかね…?
けれど黒い部分も見なくては、決して太一さんを理解することなど
不可能ですしね…。ああ、それならば…最初に汚い部分を
お見せすることに致しましょうかね…。
どうせ見るなら、綺麗なものから汚いものを見るよりも…
最初に辛いものを見て、その後に…美しくてキラキラしたものを
見た方が真理的にも楽でしょう。
そういう訳で、まずは…ドロドロした部分から貴方にお見せすると
致しましょう。…そんなに心配しなくて平気ですよ。
今の立ち直った太一さんを貴方は知っているのでしょう…?
それなら、耐えられますよ…。では再び夢を紡ぎましょう…
『佐伯克哉さんと五十嵐太一さんのお二人の…愛憎劇の一幕を…』
そうして、高らかに男は宣言していきながら…彼の意識は再び
闇へと落ちていったのだった。
まるで、深海へとゆっくりと堕ちていくかのように…。
そして彼は…ある日の太一の記憶へと、同調していったのだった―
*
『あっ…あっ…はあ、うっ…!』
あまり広くないアパートの一室に、青年の声が苦しげに響いていった。
望まれない行為に、体中が拒んでいるのが判った。
その癖、こちらの意思と裏腹に…相手が与える反応に勝手に反応している
己の肉体が恨めしく思った。
お互いに全裸になることもなく、衣服を纏ったままの乾いた行為。
愛しているや、好きと言った睦言を囁きあう訳でもなく…ただ太一を痛めつける
だけに過ぎないのに、どうして自分が応じてしまっているのか…彼自身にも
判らなかった。
(早く…終われよ…。いつまで、ヤってやがるんだ…!)
ギシギシとベッドの軋み音が耳に届いて不快だった。
胸がムカムカするような憤りを覚えながら、身体だけはそれでも
快感を覚えてしまっているのが悔しかった。
キスをする訳でもない。ただ身体を繋げているだけだ。
まるで排泄行為のようなセックスをどうして自分達は繰り返しているのか…
未だに、太一にも判らなかった。
「くっ…!」
短く、相手が呻くのが聞こえる。
己の身体の中で相手の熱が爆ぜていくのが判った。
虚しいだけの行為がやっと終わって、太一は身体を弛緩させていきながら
自分のベッドの上にうつぶせに倒れこんでいった。
(どうして…俺、こんな男と一緒に暮らしているんだろう…)
太一は、心の底から疑問に思う。
今の行為で途中何回か達したが、猛烈な飢えは満たされる訳ではない。
まるで…水を求めているのに、海水を与えられて飲んでいるような気分だった。
海水でも、一時は喉の渇きを満たせる。
けれど、それは一時しのぎに過ぎず…海水では決して本当の意味での
乾きを癒す事は叶わない。
目の前の男とのセックスは、本当にそんな感じだった。
「克哉、さん…」
太一の唇から力なくそう零れていく。
背後の男は、答えなかった。己の名前を呟かれていると判っていても…
目の前の青年が呼んでいるのは『もう一人の自分の方』であると
嫌という程、判っていたから…。
「………………」
そして眼鏡を掛けて赤いネクタイにダークスーツを纏った年上の男は
無言のまま後処理を済ませて、身支度を整えていた。
太一はそれをつまらなそうな瞳で軽く見やると…相手から背を向けるように
シーツの上でゴロンと転がっていった。
決して広いとは言えない安普請の自分のアパートの部屋。
太一が知っている気が弱くて守ってあげないといけないという庇護欲を
掻き立てられる克哉が消えてしまってから…どれくらいの時間が
過ぎたのだろうか…?
(そろそろ、もう一年以上になるのか…。何かこの一年間、俺…何を
やって生きてきたのか…何かはっきりと思い出せない…)
あの人が消えて、世界は灰色に染まった。
もしかしたら絶望によって真っ黒になってしまっているのかも知れない。
自分にとっては日の当たる場所の象徴だった人だった。
克哉がいたから、どれだけ生活に張りが出ていたのか…毎日が楽しくて
仕方なかったのか、失ってしまったからこそ…思い知らされた。
「克哉、さん…」
もう一度、消えてしまった存在に向かって呼びかける。
けれど…同じ顔をした男は、反応することすらもうしなくなった。
太一の『克哉さん』が自分を決して指していないのだという事を彼も
熟知しているのだろう。
まるで空気のように…太一の存在などどうでも良いと言いたげに
どんな反応すら示さない。
さっきまで身体を繋げていたことすら嘘のようだった。
どこまでも冷え切っていて、冷たい関係。
それがこの男と一年以上同居していて、出来上がったものだった。
(…こいつと一緒に暮らしたって、克哉さんは…俺の会いたくて仕方ない
克哉さんが戻ってくる訳じゃないって思い知っているのに…。一体何を
やっているんだろう…)
身体が、鉛のように重かった。
考える事の全てが、取り巻く環境や状況の全てが何もかもが
どうでも良かった。
現在の太一は学校を休学している。
克哉を失ってから、無気力になり…何となく生きているだけになった。
あくまで休学だから、復学しようと思えば今年度の間ならば可能だ。
季節は本格的に冬を迎えて…これからの身の振り方を考えなければ
ならない事は判っていた。
けれど、たった一つの愛おしい光を失ってからは…太一にとっては
ただ生きていることが、呼吸して其処に存在することすらも辛いことに
変わりつつあった。
「…克哉、さん…会いたいよ…もう一度、だけでも良いから…」
泣きそうな声でそう呟いた瞬間…眼鏡を掛けた佐伯克哉は一瞬だけ
こちらを仰ぎ見ていた。
だが背を背けている太一はその事実に決して気づくことはなかった。
涙が溢れた瞬間、先程の虚しいセックスの疲れが猛烈に広がって…
瞼がくっつきそうになった。
―いいや、今は寝よう…。バイトもないし、起きていたって…何をしなきゃ
いけないってものがある訳でもないからな…
そうして、太一は眠っていく。
今は冬を迎えているから外気が身を切るように寒いけれど…こうして
布団に包まっていると心地良さに思わず笑みを浮かべたくなる。
寒いからこそ、暖かい布団が与えてくれる束の間の癒しがありがたくて…。
そうして、太一はただ一人の人物の事を想いながら眠りに落ちていった。
―今は失ってしまった、儚く綺麗に笑う…佐伯克哉の面影を…
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。