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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  一面はどこまでも白い雪で覆われていた。
  淡く透明な朝日の光が、雪原の上に降り注いで…白銀にキラキラと煌いて、
乱反射を繰り返していく。
 空には薄い白と青と橙の三色が綺麗なグラデーションを作り出している。
 白に覆われた山峰は鋭く切り立って、遠方で幾重にも重なっていた。
 
「…綺麗、だな…」

 白い息を吐きながら、克哉は…その見事な光景に目を奪われていた。
 昨晩から降り続いていた雪は、今は止んで…酷く晴れ渡った空模様を
見せていた。
 ここが、どこなのか…彼には判らない。
 目覚めたら、この山にいて…かなり立派なロッジの部屋のベッドの上に
横たわっていた…という感じであった。

「…本当、ここはどこなのかな…これだけ綺麗な朝日を見れる場所なら…
地名くらいは覚えておきたいのに…」

 そう呟きながら、ふと地面の上に残る…自分の足跡を眺めていく。
 あれだけ雪が降り続けているのに、積雪量はそこまでではなく…自分の足跡が
5センチくらいの深さで純白の雪の上に一直線に刻み込まれている。
 白いコートに、立派な飾り模様が編みこまれている白いセーター。それとライトグレイの
厚手のズボンに、雪国用の靴下と長靴。
 それが今の自分の格好だ。

「…って、今のオレが聞いても無駄かもな。…何にも思い出せないし、引っかかる物も
あんまりないし。昨日の晩までいた人は…すっごい訳判らない事をベラベラ話している
だけだったしな…」

 深い溜息を突きながら、空を仰いでいく。
 克哉は目覚めたら、まっさらな状態になっていた。
 ようするに…自分がどこに住んでいたかも、何をやっていたのかも…知り合いや家族の
事も一切合財、綺麗に忘れてしまっていた。
 長い金髪の謎めいた男は…『十日も立てば思い出せますよ』とか慰めを口にして
くれたけれど本当に十日で思い出せるのかが…怪しかった。

 微風が吹く度に、口元から白い息がゆっくりと流れていく。
 肌を突き刺すぐらいに寒いが…そのおかげで空気は酷く澄んでいて
目の前の見事な風景がクリアに見えた。
 ふいに…ザク、ザク…と雪を踏みしめる音が聞こえてきた。
 克哉は振り返らずに、暫くその音に耳を傾けていく。
 見ずとも…その相手は誰だか、判りきっていたからだ。
 こちらが振り返る気配すら見せないと…背後の相手は、やや不機嫌そうに
こちらに声を掛けてきた。

「おい、お前…あんまり長時間…そんな処で突っ立っていたら…風邪を引く。
そろそろ…戻ったらどうだ?」

「ん…判ってるよ。兄さん…けど、こんなに綺麗な光景…滅多に見れないし
せめて日が昇り切るまで…見てたいんだけど…駄目かな…?」

「…お前の好きにしろ。ただこれくらいは巻いておけ。お前に風邪を引かれると
世話を焼かないといけないのは…俺だからな…」
 
 そうして、背後に立っていた人物は…克哉の首元にやや乱暴な手つきで
白いマフラーを巻いていった。
 ふわりとした手触りの編み物が首に巻かれると…それだけで随分と暖かく感じられて
つい顔が綻んでいった。

「ふふ…すっごい暖かい。優しいね…兄さん…」

「…気持ちの悪い事を言うな。それで…気が済んだのか」

「ううん…もう少し…」

 首を振りながら、ふと相手の方に振り返ると…その相手は、自分と同じ顔を不機嫌そうに
歪めて、軽く眼鏡を押し上げる仕草をしていた。
 態度からして、「早くしろ…」と表に出まくっていたが…何となく、意地悪したい気持ちに
なって…再び、徐々に白さを帯びていく朝の空を眺め続けていた。
 傍らに立つ相手の、白い息が…風に靡いて、立ち消えていく。

「…いい加減にしたらどうだ…? 俺は物凄い寒いんだが…」

 五分もしたら、相手の方も焦れてしまったらしい。
 それを聞いて…ついに克哉は観念した。
 名残惜しいが、これ以上は諦めた方が良さそうだった。

「ん、判った。これで十分だよ…行こう、兄さん…あっ…」

 こちらが笑顔を浮かべて振り返っていくと…ふいに空に灰色の雲が広がって、再び
ハラリハラリ、と白い雪の結晶が降り注ぎ始めていた。

「…見ろ。お前があんまりモタモタするから、また雪が降り出したぞ…」

「ん、ごめんなさい。それじゃあ…早く戻ろう…?」

 克哉が屈託のない笑顔を目の前の相手に向けていくと…眼鏡は平静な表情を
浮かべて踵を返していく。

「…行くぞ」

 そうして、二人はロッジの方に戻っていく。
 白い雪には二人分の往復の足跡が刻み込まれていく。
 この白い雪も、大気の冷たさも…酷くリアルだった。
 
(…夢の中にしては、本当に良く出来ているな…。あの男の力というのも
意外に侮れんな…)

 自分の肩口を軽く掴みながら、後をついてくる…もう一人の自分に、眼鏡は
非常に複雑な気持ちを抱いていた。
 こいつは今は何もかもを一時的にだが、忘れている。
 これが夢の中だという事も気づかず、Mr.Rがついた「この人は貴方のお兄さんですよ」と
いう嘘もまったく疑いもせずに信じ込んでいる。
 その事実が言いようのない苛立ちを眼鏡に与えていたが…とりあえず、顔には出さずに
建物の方へと足を進めていった。

「後…九日、か…」

「…それ、何の話…?」

「いや…何でもない。行くぞ…」

「あっ…」

 放っておくと、克哉の方は足をマゴマゴさせて遅れがちになるので…面倒なので
手をぎゅっと掴んで牽引する形で、眼鏡は雪道を進んでいった。

 そう…この仮初の世界は後…九日。
 全部で十日間で終わりを告げる、と…あの謎多き黒衣の男が告げた。
 その間、自分達はこの世界で…二人だけで過ごす事になる。
 正直、面倒だから断りたくて仕方なかったが…断る訳にはいかない理由も
存在したので…結局、この茶番じみた事に付き合う羽目になったのだ。

 10分も坂道をゆっくりと下りながら歩けば自分達が寝泊りしているかなり立派な
木造のロッジが姿を見せていく。
 軽井沢とか、別荘地とかにある…金が掛かっていそうな造りの物だ。

「ついたぞ…」

「ん、ここまでありがとう…兄さん」

 そうして、今まで…決して見た事がない無邪気な笑顔を…もう一人の自分が
浮かべていく。
 それに舌打ちをしながら…眼鏡は、こんな事態に陥った事の発端を…静かに
頭の中で再生し始めたのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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