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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 御堂孝典は、途方に暮れていた。
 本日がバレンタイン前の、最後の週末だという事は判っていたつもりだった。
 だから…自分が目的としている店に、女性客がいるのは致し方ない。
 それくらいの覚悟はして…今、ここに訪れた筈なのに…店全体に立ち込める
オーラの濃密さに、こちらは怯むしかなかった。

(な、何なんだ…この気迫は…!)

 御堂がネットで検索した店は、大手デパートの中のテナントの一つだった。
 この近隣の地名と、ラッピングという二つのキーワードを打ち込んだ中で見つけ出した
店だった。
 店内には可愛らしいぬいぐるみや小物、バッグ。文房具の類から美容に関係する日用品
まで幅広く置かれている。
 その中でバレンタイン特集! と大きなポップを設置されている一角に…チョコを作る為に
使えそうな小道具や、ラッピング用品が大量に並んでいた。
 どうやらセールを打ち出して集客を計っているらしく…ラッピングコーナーには
かなりの女性客がたむろして、凄い熱気を放っている。
 その気迫に…思わず御堂はたじろいでしまっていた。

(こ、この中に私は飛び込んでいかなければならないのか…!)

 ホックに吊り下げられている商品はどれも可愛らしいデザインの物や、シンプルながら
趣味が良く纏められているもの。ややシックな物から…豪奢な物まで種類は多種多様に
及んでいる。
 その前で、本命用のラッピングを吟味している女性客の顔は真剣だった。
 …33歳の、美丈夫な男が飛び込むのが思わず躊躇われるくらいに―

「…くっ…時間を無駄にするのは、正直…気が進まないが…。私は一体、どうすれば
良いんだ…」

 そもそも、店全体の雰囲気からして…とても男性客が容易に飛び込める感じ
ではない。
 特に御堂ほどの美形の男が中に入れば、嫌でも目立つ事請け合いだ。
 背筋に冷や汗を流しながら、その場で逡巡していく。
 すでにチョコ作成に必要な道具の類はネットで手配してある。
 ラッピング用品にまで拘ったのは…御堂が完璧主義者だからだ。
 本命に渡す為のチョコを全力で作成するというのなら、ちゃんと包装の類にも
気を配った方が良いだろう。
 そう判断して…ここに足を向けた訳だが、まさに女の園という雰囲気を漂わせた店内に
早くもその気持ちが怯んでしまいそうになっていた。
 
 だが御堂が立ち尽くしている間に…女性客はどんどん、セールが開かれている
コーナーへと訪れて、人波が引く気配はない。
 むしろウカウカしていたら…売り切れの商品が出てしまいそうだ。
 次々に商品を手に取って、レジへと運んでいく女性の姿を何人も見送っている内に
御堂の腹もようやく決まっていく。

(あいつに喜んでもらう為には、これも必要な過程だ…腹を括るしかない!)

 飛び込むのは死ぬ程、恥ずかしかった。
 だが…ここまで来て、敵前逃亡に近い真似をするのは余計に悔しかった。
 御堂は覚悟を決めていくと…女性客が密集しているその場所へと飛び込んでいく。
 すると一斉に…指すような視線が、彼に注がれていった。

『ねえ…何で、男の人がここにいるのかしら…』

『随分と格好良い人だけど…おかしい、よね…』

『この人もバレンタインに…何か贈るのかしら。もしかして…ホモ、かしら…きゃ~!』

『格好良い人なのに…残念かも~』

 ぐおぉぉぉぉぉぉ!!

 内心で叫びそうになりそうなのを必死に抑えて、顔を真っ赤にしながら
若い女性客の憶測の声に耐えていった。
 こちらが商品を眺めている間も、ヒソヒソ話は延々と続いていく。
 もう頭から火が吹いて、そのままいっそ卒倒したいくらいの気分だった。
 それでもどうにか気力を振り絞って、商品を眺めて…どれが克哉に贈るのに
相応しいが吟味していった。

(この商品は…綺麗だが、男の私が使うには…可愛らしすぎるな。で…これは
クローバーをあしらったシンプルな物か。デザインは悪くないが…どうやって
ラッピングすれば良いのか文字説明だけで…図が描いてないから、正直…
判りづらい…)

 痛い位の好奇の視線に晒されながら、御堂は印象深いと思った商品を
次々と手に取っていく。
 最初に眼に飛び込んだのは…ピンクの不織布を使用した、花のオーナメントを
あしらった商品だ。
 折り目や皺が出来にくい袋の口をクルクル~と纏めて、花のオーナメントの
飾りがついたヒモで軽く縛っていけば簡単で綺麗なラッピングが出来るという物だ。

 二つ目に気になった商品は…緑のクローバーのイラストが点在した透明な
フィルムと、8つに折りたたまれたクラフト紙。それと…緑と白の二色のヒモが
ついているセットだった。
 デザイン的には後者の方がシンプルで御堂好みだが、どうやって作れば
良いのか判りづらいので見送っていく。
 幾つかの商品を手に取ってみたが…並んでいる商品の大部分が可愛らしい
雰囲気の品ばかりだったので、溜息を突くしかなかった。

(どれもこれも…私が使うにも、佐伯に贈るにも…可愛らしすぎて躊躇って
しまうような物ばかりだな…)

 次に気になったのは…透明なペーパーに青文字の英文がプリントされたのと
茶色の線が印刷された大きめのクラフト紙。それと紺のヒモと…緑の葉っぱを
象った紙があしらわれている物だ。
 裏面を見てみると…しっかりとラッピングの仕方を図解で描いてある。
 …やった事がないので不安があるが、図が描いてあるのなら大丈夫だろう。
 御堂はそう判断して、それに決めてレジの方へと走っていった。
 その間、ずっと…痛いぐらいの眼差しが彼の背中に注がれていた。

(…一刻も早く、ここから立ち去ろう…!)

 今、御堂は自分が場違いな存在になってしまっている事をヒシヒシと実感
させられていた。
 女性客の視線がともかく痛くて、胸に刺し込んでくるようだ。
 
「これを下さい」

 それでも意地でも、その焦燥を顔に出す事なく…いつもと変わらない態度で
店員に会計を頼んでいく。
 …レジの店員にさえも、怪訝そうな顔をされたのが正直…少し切なかった。

「はい、税込みで420円です」

「千円からでお願いする」

 素早く財布を取り出して、千円札を相手に手渡していく。

「はい…それでは580円のおつりです。ご確認お願いします…」

 と、言って女性店員は自分の掌の上におつりを広げていって…こちらに確認を
取っていく。
 御堂がざっと見て、頷いていくと…店員は商品を店名が印刷されているオレンジの
袋に入れて、こちらに手渡していった。

「はい…では、ありがとうございました」

 店員が頭を下げて、商品が入った袋を手渡すと同時に…御堂は素早くその場から
立ち去っていった。
 
(…ううっ! ここまでこの時期にラッピング商品を購入するのが…辛いとは
予想していなかった…! あの男の為に…こんな羞恥を味わう羽目になるとは…)

 心の中で、あの男に恋をして…チョコを作ろう! となど決意してしまった事を
少し後悔しかけたら…次の瞬間、驚いた顔をした克哉の姿が浮かぶと同時に…
フン、と溜息を突いていった。

「…恋愛とは、本気で厄介なものだな…」

 その現実に、苦いものすら感じながら…御堂は、数分後にはデパートから出て
自分のマンションへと真っ直ぐ向かい始めていった―
 



 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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