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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  大急ぎで洗い物を終えてタオルで食器の類を拭って片付け終えると仕上げに
自分の腕の周辺を拭い、早足で玄関の方へと駆けて向かっていった。
 その間、インターフォンは鳴り続ける。
 延々と繰り返し、呼び鈴の音を聞かされ続けて…半ばキレ気味に勢い良く
御堂は扉を開け放った!

「あぁもう! そんなに沢山鳴らさずとも聞こえている!」

「ぐあっ!」

「あぁ! スマン! 佐伯…! 大丈夫かっ!」

 御堂が扉を開け放ったのと同時に、マンションの扉が思いっきり克哉に
クリーンヒットする形となった。
 バシンッ! と衝突音が聞こえると同時に克哉の身体は軽く跳ね飛ばされる
形になってしまっていた。

「…大丈夫だ。骨が折れたりとかはしてない。せいぜいぶつかった場所に
軽い青あざや打ち身が出来ている程度だ…」

 それでも、恋している人間にみっともない姿を見せるのは癪なのだろう。
 克哉は精一杯何でもない振りをして…微笑んで見せる。

「何っ! それならほら…中に早く入れっ! 早く冷やすなり何らかの処置を
しないとっ…!」

 御堂が克哉の腕を掴んで、自分の部屋の中へと連れ込んでいく。
 半ば引きずり込むような形で玄関の中に招いて、扉を閉めると同時に…克哉は
切なげな顔をして、御堂に抱きついていった。

「…処置なんて、どうでも良い…。それより…やっとあんたに逢えた…」

「なっ…こらっ! 佐伯…! そんなに強く抱きしめられたら…痛い、だろ…っ!」

 ふいに強い力で克哉に抱きしめられて、一気に御堂の顔は耳まで
真っ赤に染まっていく。
 バタバタとその腕の中で暴れて抵抗を試みていくが、克哉の方も相手を手放す
気などまったくないのだろう。
 どれだけ御堂がもがこうが…克哉の腕の力が緩む気配は一切なかった。

「…すまない。けど…本気であんたが何も言ってくれないで…今日、こちらの誘いを
断ったのがショックでな…。柄にもなく、慌ててしまった…」

「…君が、そんな事くらいで…動揺すると、いうのか…?」

 自分の知っている佐伯克哉という男は、いつも自信満々で傲慢なくらいで…
こちらを翻弄するような発言ばかりを繰り返していた。
 だが…今、自分を抱きしめている相手の顔をふと見遣ると…酷く切なくて
儚い表情を浮かべていた。
 この男がこんな顔を浮かべているのを見るのは…御堂にとって初めての
経験なので…一瞬、どうして良いのか判らなくなった。

「あぁ…自分でもガラではない、って自覚あるけどな。…まだ、あんたとは
再会してばかりだし…過去に自分がやった事が…アレ、だしな。到底…自信なんか
持てる筈がないだろ…」

「…再会したばかりの日に、あんなキスをして…早速私をホテルに誘って抱いて、
一ヶ月で会社を辞めろとか言った男の台詞とは思えないな…それ、は…」

「…強気に出れるのは、あんたが俺を好きだと確信している時ぐらいだ。
…今日は、絶対断られる筈がないと思っていた。あんたも…俺と一緒に過ごしたいと
思っていると…そう信じて疑わなかったから。
 だから…あんたが、理由を詳しく言ってくれないで…俺と過ごすよりも優先したい
事があると言って逃げた時は…本気で動揺、してしまった…」

 それは、御堂が初めて見る…克哉の弱気な表情。
 こんなに切なげな瞳を浮かべながら…御堂に本心を吐露するような行為を
彼がするなんて…信じられなかった。

「…君ほどの男でも、動揺するなんて…事があるんだな…」

「…どうでも良い奴の為に、ここまで心を乱したりはしないさ。…あんただから、
一手一足が気になってしょうがなくなる…。
 まだ一緒にいられるようになって…俺のパートナーになってから、たった二週間しか
経過していないんだ。…自信なんて、あんたの事に関しては…まだ、持てないさ…」

 そうして、顔が寄せられてくる。
 玄関で強く抱きしめられながら…そっと相手の唇が、こちらのそれを塞いで来た。
 柔らかいその感触に…ふっと体の力が抜ける感じがして…その場にへたり込んで
いってしまった。

「…私も、それに関しては…お互い、様だな…。君に関する事には…こっちも、
正直…まだ、自信なんて…持てない、から…」

 克哉の弱い一面を見たからだろうか。
 御堂もまた…普段なら決して意地を張って見せない本心を少しだけ覗かせる。
 さっきまでは…彼にチョコレートを作っている事実を知られるなど、当日を迎えるまでは
恥ずかしくて明かす気などまったくなかった。
 だが…自分がこっそりと隠れて、手作りチョコを作ろうと考えたせいで…克哉に
これだけ不安を与えてしまったのなら…正直に打ち明けた方が良いだろう。
 そう考えて…顔を真っ赤にしながら、静かに打ち明けていった。

「…佐伯、すまない。今日…私がお前の誘いを断ったのは…お前に、チョコレートを
作りたくて…。その時間が欲しかっただけ、なんだ…」

「…チョコレート…だと?」

「…お前が、今週の初めに…私に言ったんだろ? 来週を楽しみにしているって…。
だから…私は、期待されているのならって…そう、思って…」

 プイ、とつい克哉から顔を背けながら…言葉を続けていく。

「…まさか、あんた…手作りチョコを…?」

「あぁ! そうだ…お前が期待しているっていうから…仕方なく、作ってやる事にしたんだ。
少しでも、喜んで欲しかったから…!」

 もう…こんな発言しているだけでも火を噴きそうになるくらいに恥ずかしかった。
 いっそ憤死出来たらどれだけ楽だろう、と思った。
 あまりの予想外の発言に、克哉の方は呆然として…次の瞬間、笑い出していく。
 事実を知った瞬間…自分の先程までの慌てっぷりが滑稽で仕方なかった。
 同時に凄く嬉しくて嬉しくて…仕方なかった。
 御堂が、自分の誘いを断った本当の理由もまた…自分に関しての事だったと知って
やっと安心したのだろう。
 克哉の顔に…いつもの自信満々の表情が、ゆっくりと戻りつつあった。

「…いや、まさか。あんたが俺に手作りのチョコレートを贈ってくれるまでは…
予想出来なかった。あんたなら、最高級の…俺が気に入りそうなチョコレートをきっと
選んでくれるだろう。そういう意図でこちらは言ったつもりだったから…本当にこの
事態は想定してなかったんだ…」

「何だとっ! 人が一体…どれだけ恥ずかしい思いをして…道具一式や、ラッピング
用品まで購入したと…思っているんだっ!」

「…悪かった、御堂。…けど、こんなに嬉しい誤算があるとは…思ってもみなかった。
だが、な…一言、伝えておく…」

「…何だ、言ってみろ…」

 ふいに克哉が真剣な顔をしながら…こちらを見つめてきたので、つい身構える形に
なってしまった。

「…あんたが俺の為に、全力でチョコレートを作ろうとしてくれていた。それは本当に…
嬉しい。だけど…今は、一分一秒でも長く…俺はあんたと一緒に「恋人」として過ごしたい
時期なんだ。だから…俺の為にチョコレートを作ってくれるよりも、出来合いの物を贈られ
ても良いから…。御堂、俺はあんたが傍にいて欲しかった。それが…こちらの本心、だ…」

「っ…!」

 そう言われながら、しっかりと抱きすくめられて…御堂は言葉を失うしかなかった。
 同時に、その瞬間…どれだけ自分が空回りをしていたのか思い知らされた感じがした。

(…まさか、こんなに…シンプルな答えだったとはな…)

 チョコレートを作る、と昨日決意してから…御堂は克哉に関しての事は…酷く難解な
数式を前にしているような気分になっていた。
 自分からこんなに誰かを求めた事も、好きになった事はなかったから。
 再会してからも、克哉の本心はどこにあるのか…まったく判らなかった。
 だから…それは難しくて、解き方の判らない方程式を前にしているようだった。
 
 自分がどうすれば良いのか、どうやれば喜んでくれるのかがまったく読めない
相手を前に…力みすぎたり、慌てたり。
 ささいな事で動揺したり…そんな事ばかりを再会してからは繰り返していた。
 だが…今の言葉で、ようやく解かった。 
 少なくとも克哉は…ただ純粋にこちらに傍にいて欲しいと、強く願ってくれているのだと
言うことを―。

 その解答が導き出された時、やっと…自分を翻弄し続けた男の一見不可解とも見れる
行動や言動の数々が…繋がりあっていた事に気づいた。
 克哉の行動は、全て…御堂と少しでも長く一緒にいたい為のものであった。
 …それはあまりに、シンプルで単純すぎる答えで、逆になかなか気づけなかった。

(…あぁ、やっと…君という男が、少し…解れた、気がする…)

 自分が少し滑稽に思えて、苦笑しながらも…御堂は必死に目の前の男に
縋り付いていく。
 こんなにも、自分を率直に求めてくれている克哉が…愛しくて、仕方なかった。
 だからいつしか…御堂の方からも、強く抱きしめていく。
 玄関の冷たいコンクリートの部分にお互い座り込んでいる形なので…足先は酷く
冷えてしまったが…。
 抱き合っている部分は酷く熱くて、暖かくて…それを実感出来て…御堂は満たされた
気持ちになっていく。

「御堂…」

 真摯な眼差しを向けられながら、呼びかけられる。

「佐伯…」

 相手の名を優しい声音で、お互いに呼びかけながら―
 二人の唇は、静かに…再び重なり合っていた―

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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