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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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『第三十一話 気づきたくなかった…』 「眼鏡克哉」

 彼は夜の病院の、病室のベッドの上で…目覚めた。
 すでに夜はかなり深くなり…もう30分もすれば夜明けを迎える頃。
 …誰かが自分の手をしっかりと握った状態で、ベッドの傍らでうとうととしている
ようだった。
 目覚めたばかりなのと…辺りが暗かったので最初はそれが「誰」なのか判らなかったが
声を掛けられてすぐに把握していく。

「克哉さん…良かった、目覚めて…っ!」

「…どうして、お前が…ここに…?」

 公園で倒れた筈の自分が、何故病院のベッドの上にいるのかも謎だったのに、
どうして…この少年が自分の手をそっと握って傍にいたのかが…余計に疑問だった。

「貴方が…心配だったからに決まっているでしょう…! あの御堂って人に今日は
帰れと言われたけれど…原因不明の昏睡状態だって、そう聞かされて…心配で
仕方なかった、から…」

 だから秋紀は、御堂と離れた後に…こっそりと病院内に潜んでおいて…それから
克哉が収容された病室に、病院関係者に見つからないように忍び込んだのだ。
 そうして、秋紀は…大粒の泪を臆面もなく零しながら安堵の表情を浮かべていく。
 こちらを握る手に一層力を込められていく。
 克哉は…その姿に困惑するしかなかった。
 自分にとって…この少年は気まぐれに抱いた一夜の相手以上の存在では
なかったからだ。

(そういえば…意識を失う直前…誰かと顔を合わせていたような記憶がおぼろげに
あるが…あれが、コイツ…だったのか…?)

 先程まで苦しみながら夢と現の狭間を彷徨っていた克哉は…お世辞にも状況を
理解しているとは程遠い状態だった。
 だが…こちらの状態はお構いなしに、金髪の少年は…ポロポロと涙を流して
克哉が目覚めた事を心から喜んでいた。

「どうして…俺の、傍に…ずっと、いたんだ…?」

「貴方が、好きだから…。克哉さんが…一ヵ月半前に刺されたってニュースを
知った時から…貴方が生きているのか、死んじゃったのか…不安でしょうがなくて。
せっかく会えたのに…刺された場所と同じ処でようやく会えたと思ったら…あんなに
ボロボロで傷だらけで、これで…心配するなって方が…無理、だよ…」

 秋紀の言葉はすでに支離滅裂に近い状態だった。
 だが…それでも、整理されていない話の内容と口調から…どれだけ深く…
この少年が自分を案じてくれていたか、伝わってくる。
 その気持ちが…自分の心の中に波紋のように広がり…ジワリ、と暖かい何かが
広がっていく。
 
「貴方が…起きてくれて、本当に…良かった…!」

 ぎゅっと強く、強く…少年は手を握り締めていきながら…咽び泣いていく。
 それは…こちらを想う強い気持ちに他ならなかった。
 その…少年の感情に触れた時に、克哉は今まで気づきたくなかった…己の本心に
嫌でも気づかされてしまっていた。

(あぁ…そうか、俺は…)

 一ヶ月間、昏睡状態に陥って…太一にキスされた時に目覚めた時。
 自分は…彼に「嘘だぁ―!」などと叫ばれたくなかったのだ。
 刺される直前まで、自分にとっては…太一は殆ど大した意味など持たなかった癖に。
 もう一人の自分があんなに繰り返し…彼との思い出を夢になど見るから…
あいつ側の記憶と感情が勝手に流れ出て…あの時には、もう…自分は彼に同じように
恋をしてしまっていたのだ。
 だから…あの太一が慟哭した瞬間、いつもと変わらない態度を貫いていたつもりだった。
 だが…あの瞬間から、彼は傷ついていたのだ。
 
 自分の部屋に居座っていた彼をにべもなく本多に押し付けたのも。
 それから二週間…まったく自分から接点を持たないようにしていたのも。
 …優柔不断で弱い方の自分だけを求められて、自分自身が拒否されるような態度を
太一に取られたくなかったからという…情けない理由を、この瞬間に…彼は思い知らされた。
 自分と、太一との間には…もう一人の自分のように暖かく優しい思い出など何一つだって
ないのに。
 顔を合わせた時に…ロクな対応をお互いしなかった癖に、それで…恋をしているなど
そんな事実、気づきたくなかった。知りたくなど…なかったのに…!

「克哉さん…どうしたの? 泣いて…いるの…?」

 秋紀に指摘されて、はっとなった。
 どうして…自分は、泣いているのだろうか。
 …こんな、事…情けない上に滑稽な事…この上ないというのに。
 涙は滂沱のように溢れて…止まってくれなかった。
 顔を背けて、少年にその顔を見られないようにしたが…すぐにフワリ、と暖かい感触に
包み込まれていく。
 
 知りたくない感情に気づかされて…心が軋み、悲鳴を上げている時にこの温もりは
反則に近かった。
 その時に思い知った。どれだけ自分の心が…冷えて、痛み続けていたのかを。

「…泣いてなんか、いない…」

「ん…判った。けど…僕が…傍にいるから…」

 否定した克哉の意図を察したのかそれ以上追求せずに…秋紀は必死の想いを込めて
彼の身体をぎゅっと抱きしめ続けていく。
 それに安堵している自分に、克哉は酷く苛立っていた。
 こうしていると…知りたくない気持ちに、更に気づかされそうで怖くて。
 胸の中に湧き上がる憤りの出口を見出したくて…。

 克哉は今度は自分から、少年の身体を強い力で引き寄せて…ゆっくりと顔を
寄せていったのだった―
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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