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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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『第二十八話 待ってて克哉さん!』 『須原 秋紀』


―僕はいつまで、こうやって待ち続けているのだろう…。

 須原秋紀は今夜も、儚い望みだという事を自覚していても…いつもの公園に
足を向けていた。
 夜の公園は寂しく、週末の夜には…一層閑散として人気がなかった。
 飲み屋とか、バーとかそういう店に皆、足が向かい…こういう静寂を湛える
場所からは遠のいてしまうからかも知れなかった。
 克哉がこの場所で刺された、と報道されてからおよそ40日が経過している。
 それでも少年は、此処に来ることを止める事が出来なかった。

(…あのクラブや、公園に幾ら通ったって…克哉さんに会える可能性なんて低いって
判っているのに…)

 それでも、彼がどんな会社で働いて…どこで生活しているか、携帯もメルアドも何も連絡
手段を持たない秋紀にとっては…待つ以外の方途はない。
 どれだけ…この40日間、あの一夜を明かした日の内に…彼の連絡先を聞かずに別れて
しまった事を悔やんだのか、すでに自分でも覚えていないくらいだった。

(せめて…会えなくても、元気でいる事だけでも確認出来たら良いのに…!)

 ニュースというのは一種の暴力だ。
 これだけこちらの胸を掻き毟るような大事件を一方的に報じておいて…その人がどうなった
のか、その後を放送してくれる事など滅多にないのだから。

 もう克哉はこの世にいないのかも知れない…。
 そんな不安に胸を焦がされた事は一度や二度では最早済まない。
 会いたくて、せめて無事だけでも確認したくて…どれだけ切なくて苦しい夜を過ごした事だろう。
 遊んでも、今の秋紀は心が晴れる事がない。

 だから…専ら、最近は…この公園の事件現場の付近で…ベンチに座って一人で過ごしている
事が多くなっていた。
 それが半ば、無駄な行動であることなど承知の上であったが…。

「克哉さん…会いたい、よぉ…」

 瞳にうっすらと泪を浮かべながら、憂い気な表情を浮かべて秋紀は呟いていく。
 こんなにも強く、誰かを想ったことなどなかった。
 たった一夜…共にしただけで、これだけ深く精神にその存在を刻み込まれてしまう事など…
彼に軽い気持ちで声を掛けた時には、まったく予想もしていなかった。
 それが初恋だったと気づいたのは…いつだったのだろうか。
 少年は…初めて覚える強い感情を持て余し、どうやってそれを宥めていけば良いのかすらも
判らずに…今宵も、ざわめく様な夜を過ごしていく。

「克哉、さん…元気、なのかな…。せめてそれだけでも…判れば、良いのに…」

 一目で、良い。
 あの人の姿が見れれば…それで構わない。
 そんな殊勝な事を考えた瞬間―

「えっ…?」

 遠くから、人影がゆっくりと近づいてくる。
 街灯に照らし出されてうっすらとしか見えなかった。
 夜目のせいで…最初ははっきりと据える事が出来なかった。
 だが…暫くして、ゆっくりとこちらの方に近づいて来るその人物が…自分が待ち望んでいる
人とそっくりな気がして…秋紀の胸は、大きく高鳴り始めていく。

「嘘…で、しょ…?」

 これが現実の事なのだろうか、と一瞬疑った。
 だがその人物は、まさに満身創痍といった体で…荒い呼吸を繰り返しながらヨロヨロと
頼りない足取りで歩み寄ってくる。
 何者かに襲われたのだろうか…上質そうな生地であしらわれたスーツは所々に汚れて
いる上に、破れてしまっていた。
 自分がたった一度だけ会った事がある克哉は…自信満々そうで、身なりもしっかりしてて
まさにエリートというか、出来る男といった雰囲気を纏っていた。
 だから一瞬、余りの惨めそうな姿だったので…秋紀は瞠目するしかなかったのだ。

「克哉、さんっ…!」

 それでも、愛しい男性のボロボロの姿を見て…躊躇う事なく、秋紀は駆け出して…
今にも倒れそうな彼を支えようとしていく。
 彼の目はどこか虚空を彷徨い…最初は焦点が合っていなかった。
 夢を見ているのか、意識が朦朧としているのか…秋紀には事情が判らないが、それでも
引き戻したくて必死になって抱きついて、呼びかけ続けていく。

「克哉さんっ! 克哉さんっ! 僕です…! 覚えていないかも知れないけど秋紀ですっ! 
一体…それはどうしたっていうんですかっ!」

 必死に声を掛けるが、それでも苦渋の表情を浮かべて…克哉は胸を押さえるだけだ。
 強い発作か何かを抑えているような、そんな雰囲気だった。

 はあ…はあ、はぁ…は、ぁ…!

 呼吸は断続的で、時々途切れ途切れな状態だった。
 ちょっと見ただけで尋常ではない気配を感じて…少年は猛烈な不安を覚えていく。
 訴えかけても、彼の目は…呆けていて力がない状態のままだった。 
 それに耐え切れずに少年は叫ぶように彼の名を呼び続けて…静寂の公園は一転して
不穏な空気へと変わり始めていく。

「克哉さんっ! 克哉さんっ! お願いですから…正気に戻ってっ! もう大丈夫
だから…! 僕が傍にいるからっ! 克哉さんっ!」

 必死に縋り付くようにその身体を支えていきながら、秋紀は訴える。
 すると…グラリ、と彼の身体が倒れ込み始めて、彼に比べれば小柄な体系である
少年には支えきれなくなり…二人で、その場に転倒していく。
 克哉は…うずくまるような体制になり、相変わらず苦しそうな感じだった。
 もう自分一人では対応出来る状態じゃない…!
 そう思い知らされた少年は、誰か助けを呼びに行こうと決意した。

(このまま…ただ僕がここにいたって、克哉さんを助けられない…! 誰か、誰かを
呼びにいかなきゃ…っ!)

 冷静な状態なら、ここで携帯電話を使って…救急車を呼べば良いとすぐに気づいた
だろうが…ようやく再会出来た、会いたくてあいたくて堪らなかった人物がこんな状態で
あった為に、秋紀はこの時…正常な思考回路ではなくなっていた。
 反射的に彼は駆け出し、まずは公園の入り口の方へと向かい始めていく。

「克哉さん、待ってて…! 今すぐ、助けを呼びに行ってきますから…!」

 そうして、少年は駆け出していく。
 大好きな人を一刻も病院に運んでやりたいという想いだけで一杯になって…
状況判断も何もせずに、衝動的に走り出してしまっていた。
 
(誰か、誰か…誰かっ!)
 
 懸命な表情を浮かべながら、公園の外に一歩出て…大通りの方へと向かおうと
走り出した瞬間に―

「―っ!」

 まるで怪物の目玉のような、大きな車のライトが…宵闇の中に浮かび上がり…
強烈に秋紀の視界に飛び込んでくるっ!

「うわぁぁぁ!」

 耐え切れずに、少年は悲鳴を上げた。
 同時に、クラクションの音と…大きなブレーキ音が鳴り響いた。
 そして程なく…。

 現場に、何かがぶつかるような衝撃音が…響き渡ったのだった―

 
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香坂
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女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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