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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 気づけば、一日がうつらうつらしている内に終わっていた。
 窓を見れば、外は逢魔ヶ時を迎えている。
 夕暮れと夜の境…太陽と月が同時に空の上に存在する短い時間
昔の人間はこの時間帯に魔…人ならざる者と遭遇する、と考えられて
いた時間帯。
 克哉は…鮮やかな橙と白い雲と…そしてゆっくりと降りていく薄い藍色の
闇の帳を…室内から眺めて、学生時代にどっかの小説か漫画に書いて
あった一文を思い出していた。

「…綺麗だな。普段、この時間帯は会社の中にいて…こんな風に
夕暮れをじっくり見る事なんて滅多にないし…」

 一日中寝ていたせいか、背中がひきつるように痛いし…何となく
身体にも力が入っていない気がした。
 ぼんやりと外の景色を眺めている内に…また熱が出てきたのか
頭が朦朧としてくる。

 普段は気ままで良いと思う一人暮らしが、ちょっと切なくなるのが
こういう体調を崩した時だ。
 家族と同居していると時に煩わしい時もあるが、看病して貰えるし
身の回りの事もやってもらえる。
 ―こんな時だけ都合良いというのは承知だが、誰かにおかゆの一つ
でも作って欲しいな…と思う。

「たまごの入ったお粥…食べたいなぁ…」

 しかし悲しいかな、一人暮らしでは…食べたかったら、自分で作らないと
いけない。

「喉も渇いたしな…薬も飲まないといけないけど、何か食べてからじゃないと
胃がやられるし…」

 朝に片桐に直接電話してから、2回くらいトイレに立ち上がってその度に水分を
摂った以外に本日は何も口にしていない。
 丸一日以上、胃に何も入れていない事になる。
 寝ていればそれも紛らわせられたが、空腹もそろそろ限界だ。

「…こんな時、もう一人誰かが…いたらな…」

 そう呟きながら、克哉は荒い吐息を零していく。
 脳裏に色んな人の面影が浮かんで、消えていった。
 ―弱っている時、自分は果たして誰に傍にしてもらいたいのだろうか。
 自分の家族、かつて別れた彼女―今身近にいる八課の仲間である片桐さんか
本多か、それとも…御堂さんか、太一か…もしくは…。

「…ったく、普段は…突然前触れもなく顔出して、オレを困らせるだけなのに…
どうしてこういう時に手助けの一つもしてくれないんだか…」

 ふと、もう一人の自分の顔が浮かんでは…消えて、ついぼやきの一つも
漏らしてしまう。
 どうして…思い浮かんだのか、自分でも判らない。
 あんな身勝手で、意地悪で…こっちを困惑させるような真似しかしない奴
だというのに。

「…それでも、いて…くれたら、な…何か今日は、参っているな…オレ…」

 ベッドの上で…両手で顔を覆いながら、つい…弱音を零してしまう。
 多分久しぶりに風邪なんて引いて…弱気になっているだけだ。
 自分でもそう思うんだが…何となく、誰かの温もりが無償に恋しくて
仕方なかった。
 
 最後に人と温もりを分かち合った相手がよりにもよって…眼鏡を掛けた
もう一人の自分という訳の判らない事になっているから、そんな妙な事を
考えているだけだ。
 そう考えて、克哉は…また、緩やかに意識を落としていく。

 ―どれくらい、時間が経ったのだろうか。
 何か良い匂いが…部屋の中を漂っている。
 これは…自分が望んでいた、お粥の匂いだろうか。
 台所の方から、明かりと…人の気配を感じる。

(誰だ…? 誰か来て…オレに何か作ってくれているのかな…?)

 身体を起こして、台所の方を見ようとするが…空腹の為に…それくらいの
力すら入らない。
 それでもモゾモゾとベッドの中で動いている内に、ドスドスとちょっと
荒っぽい足音がこちらに近づいてきた。

「…やっと起きたか…<オレ>」

 低く掠れた、何度か聞き覚えがある声。
 
「えっ…?」

 顔をゆっくりと上げると…額に何故か青筋を立てて不機嫌そうにしている
もう一人の自分と目が合った。

「どうして、お前が…ここに…?」

 さっき…確かにこの男の事を考えていたけれど、こうして本当に現れると
戸惑いしか感じない。
 これならまだ…本多が台所に立って、「風邪引いているのなら栄養バンバン
つけないとな!」とか言いながらあのダイナミックなカレーを作っている場面に
遭遇した方が驚かなかっただろう。

「うるさい。少し大人しく黙っていろ…」

「わわっ!」

 そうして、問答無用に何か冷たいものを貼り付けられた。
 ―それが冷えピタである事に気づいた時…克哉はもしかして、この男は
自分を看病しに来てくれたのか…? などとつい甘い事を考えてしまっていた―。



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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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