鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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翌日、眼鏡のマンションからそう離れていないビジネスホテルに一泊すると
そのまま真っ直ぐにアクワイヤ・アソシエーションが入居しているビルの前へと
克哉は足を向けていた。
一晩明けて、こちらの方は少しは冷静さが戻って来ている。
だが、あの興奮状態で冷水を被って…無理矢理理性を取り戻していた眼鏡の方が
どんな事になっているのか。
それを想像すると、身体が竦む想いがした。
(アイツ…怒っているかな。オレの顔なんて、もう見たくないって考えているのかも…)
都内でも一等地に建てられているこのビルは、目の前に立っているだけでも
圧巻ものであった。
その手前で逡巡しながら、暫く其処から身動き取れなくなっていた。
自分は、アイツの傍にいたい。
けれど眼鏡は自分を拒むかも知れない。
その迷いが、克哉の行動の妨げになっていた。
(…けど、このまま迷い続けていても仕方が無い。オレがこうして…身体を持って
行動出来る期間は一週間しかないんだ。今日ですでに三日目。
残された時間はそんなに多くないんだ…ジッと立ち止まっていても何にもならない…)
そう覚悟を決めて、一歩を踏み出そうとしたその時…!
「佐伯…」
聞き覚えのある声の主に、呼びかけられた。
(この声は…?)
ぎょっとしながら振り返ると、其処には御堂の姿があった。
いつもと同じように糊がパリっと効いていそうなスーツに身を包み、一筋の乱れもなく
髪型もセットされている。
堂々とした体格と風格。それを目の当たりにして…ゴクンと克哉は息を呑んでいった。
「…おはよう、だな。しかしこんな処で何をやっているんだ? 自分のマンションの前に
ぼんやりと一人で立っているなど…。確かに今日は休日だが、君はそんなに…
暇、なのか?」
「あ…そ、その…え~と…」
何で御堂がここにいるのだ? と心底不思議に思いながらも…克哉はしどろもどろに
なるしかなかった。
確かに、眼鏡の方はこのマンションに会社と住居を構えている。
そんな彼が、自宅前で意味もなく立ち止まっていたら奇異以外の何物でもないだろう。
言いよどむ彼の態度に、不審に思ったのだろう。
眉を大きく顰めながら、溜息を突いていった。
「…ん? 何か今朝の君は雰囲気が違う気がするな。その髪型と…トレードマークの
眼鏡はどうしたんだ?」
「あ、あの…ちょっと気分を変えてみたくなったので。あまり気にしないで下さい…御堂さん」
「何…?」
克哉が、呼びかけの言葉を口にすると同時に…御堂の表情が一層険しいものへと
変わっていく。
その顔を見て、心底…しまった、と舌打ちしたくなった。
(…そうだ! あいつはいつも御堂さんの事を『御堂』か、二人きりの時は『孝典』と呼び捨てで
呼んでいるんだった…)
特に二人は恋人同士だ。
今更、相手を「さんづけ」にするなど、他人行事過ぎて不自然だ。
「…本当におかしすぎるな。本当に君は佐伯…か? 私が良く知っている彼ならば…絶対に
こちらを『さんづけ』でなど呼ばない筈だ。アレは年下の癖に大変に傲慢で強気で、不遜な
男だからな。再会してから私を御堂さん、となどと呼ぶのは…意地悪する時か、からかう
時しかないと相場が決まっている…! 新手のからかいのネタか…?」
(うっわ…! 本当にアイツって何をやっているんだよ…!)
ここ二年ほどは、眼鏡の方を内側から見守り続けていたが…克哉の方は彼の全てを
知っている訳ではない。
意識は浮かんだり、沈んだりの繰り返しで…彼の行動や言動を知っている時もあれば
まったく知らない事もある。
…特に御堂と恋人同士として、二人きりで過ごしている時のやりとりは何となく胸が苦しい
上に、覗き見をしているような気分になるので殆ど知らないが…そんな振る舞いをしていた
などと知らなかった為に、心底ツッコミたかった。
「克哉…答えないのか?」
そうしている間に、片方の腕をガシっと掴まえられた。
真っ直ぐに向けられる真剣な眼差し。
克哉が硬直している間に…耳元に唇を寄せられて―
『それとも、君がそんなオドオドした態度になっているのは…一昨日の夜の事に
関して、強い引け目を持っているからか…?』
そう、囁かれた瞬間…ハっとなった。
昨日の晩に、中途半端にもう一人の自分を煽ってそのままにしておいた事を。
(そうだ…あの香りは、まだ…アイツの部屋の中に設置したままだ…!)
本当は一昨日の夜、自分が現れた夜に…彼の部屋に直接向かう算段の筈だった。
恐らく御堂がその数時間前に訪ねて、待ったりなどしなければ…その日、襲われるのは
自分の筈だったのだ。
それ以前に二ヶ月、御堂と肌を重ねていない眼鏡の欲求不満度は恐ろしい事に
なっていて、ほんの僅かな刺激だけで溢れ出してしまいかねないくらいだった。
その解放の為に、元々自分が現れる算段だった。だが…何の運命の悪戯か、
ほんの僅かだけ歯車が狂って、あのような結果が招かれてしまったのだ。
あの香りはMr.Rの特製のもので、人の欲望を解き放ちやすくする効能があるという。
そのフレグランスを設置したまま…御堂が彼の部屋になど向かえば…同じ事が
起こるのは明白、だった。
「そうだ、と言ったら…どうするんです、か…?」
険しい顔になりながら、克哉は答えていく。
このまま…彼を眼鏡の部屋に行かせる訳には、いかなかった。
せめてもう一人の自分がどういう状況になっているか、把握してからでないと…
余計に二人に亀裂を作る結果になってしまう。
そう結論が出た時、克哉は決意した。
「だから、今は…貴方の顔を見たくないんです…! だから…!」
そう切ない声音を出して、その手を振り払っていく。
そして…勢い良く駆け出していった。
「克哉っ…! 待てっ…!」
御堂が、ぎょっと目を見開きながら慌てて克哉を追いかけ始める。
だが彼は一切、足の速度を緩めない。
全力を持って走り始めていった。
―これで良い。こうすれば…恐らく、この人を今だけでもオレの方に引き付けられる筈だ。
それは彼の一世一代の演技であり、賭けだ。
とりあえずあのフレグランスをどうにかする前に、御堂をあの部屋に上げさせる訳には
いかないから。
そうして、彼は全力を持って逃げ続ける。
これ以上、彼らにヒビを作らない為に―
―これ以上、もう一人の自分に同じ過ちを犯させない為に、克哉は全力疾走していった。
そのまま真っ直ぐにアクワイヤ・アソシエーションが入居しているビルの前へと
克哉は足を向けていた。
一晩明けて、こちらの方は少しは冷静さが戻って来ている。
だが、あの興奮状態で冷水を被って…無理矢理理性を取り戻していた眼鏡の方が
どんな事になっているのか。
それを想像すると、身体が竦む想いがした。
(アイツ…怒っているかな。オレの顔なんて、もう見たくないって考えているのかも…)
都内でも一等地に建てられているこのビルは、目の前に立っているだけでも
圧巻ものであった。
その手前で逡巡しながら、暫く其処から身動き取れなくなっていた。
自分は、アイツの傍にいたい。
けれど眼鏡は自分を拒むかも知れない。
その迷いが、克哉の行動の妨げになっていた。
(…けど、このまま迷い続けていても仕方が無い。オレがこうして…身体を持って
行動出来る期間は一週間しかないんだ。今日ですでに三日目。
残された時間はそんなに多くないんだ…ジッと立ち止まっていても何にもならない…)
そう覚悟を決めて、一歩を踏み出そうとしたその時…!
「佐伯…」
聞き覚えのある声の主に、呼びかけられた。
(この声は…?)
ぎょっとしながら振り返ると、其処には御堂の姿があった。
いつもと同じように糊がパリっと効いていそうなスーツに身を包み、一筋の乱れもなく
髪型もセットされている。
堂々とした体格と風格。それを目の当たりにして…ゴクンと克哉は息を呑んでいった。
「…おはよう、だな。しかしこんな処で何をやっているんだ? 自分のマンションの前に
ぼんやりと一人で立っているなど…。確かに今日は休日だが、君はそんなに…
暇、なのか?」
「あ…そ、その…え~と…」
何で御堂がここにいるのだ? と心底不思議に思いながらも…克哉はしどろもどろに
なるしかなかった。
確かに、眼鏡の方はこのマンションに会社と住居を構えている。
そんな彼が、自宅前で意味もなく立ち止まっていたら奇異以外の何物でもないだろう。
言いよどむ彼の態度に、不審に思ったのだろう。
眉を大きく顰めながら、溜息を突いていった。
「…ん? 何か今朝の君は雰囲気が違う気がするな。その髪型と…トレードマークの
眼鏡はどうしたんだ?」
「あ、あの…ちょっと気分を変えてみたくなったので。あまり気にしないで下さい…御堂さん」
「何…?」
克哉が、呼びかけの言葉を口にすると同時に…御堂の表情が一層険しいものへと
変わっていく。
その顔を見て、心底…しまった、と舌打ちしたくなった。
(…そうだ! あいつはいつも御堂さんの事を『御堂』か、二人きりの時は『孝典』と呼び捨てで
呼んでいるんだった…)
特に二人は恋人同士だ。
今更、相手を「さんづけ」にするなど、他人行事過ぎて不自然だ。
「…本当におかしすぎるな。本当に君は佐伯…か? 私が良く知っている彼ならば…絶対に
こちらを『さんづけ』でなど呼ばない筈だ。アレは年下の癖に大変に傲慢で強気で、不遜な
男だからな。再会してから私を御堂さん、となどと呼ぶのは…意地悪する時か、からかう
時しかないと相場が決まっている…! 新手のからかいのネタか…?」
(うっわ…! 本当にアイツって何をやっているんだよ…!)
ここ二年ほどは、眼鏡の方を内側から見守り続けていたが…克哉の方は彼の全てを
知っている訳ではない。
意識は浮かんだり、沈んだりの繰り返しで…彼の行動や言動を知っている時もあれば
まったく知らない事もある。
…特に御堂と恋人同士として、二人きりで過ごしている時のやりとりは何となく胸が苦しい
上に、覗き見をしているような気分になるので殆ど知らないが…そんな振る舞いをしていた
などと知らなかった為に、心底ツッコミたかった。
「克哉…答えないのか?」
そうしている間に、片方の腕をガシっと掴まえられた。
真っ直ぐに向けられる真剣な眼差し。
克哉が硬直している間に…耳元に唇を寄せられて―
『それとも、君がそんなオドオドした態度になっているのは…一昨日の夜の事に
関して、強い引け目を持っているからか…?』
そう、囁かれた瞬間…ハっとなった。
昨日の晩に、中途半端にもう一人の自分を煽ってそのままにしておいた事を。
(そうだ…あの香りは、まだ…アイツの部屋の中に設置したままだ…!)
本当は一昨日の夜、自分が現れた夜に…彼の部屋に直接向かう算段の筈だった。
恐らく御堂がその数時間前に訪ねて、待ったりなどしなければ…その日、襲われるのは
自分の筈だったのだ。
それ以前に二ヶ月、御堂と肌を重ねていない眼鏡の欲求不満度は恐ろしい事に
なっていて、ほんの僅かな刺激だけで溢れ出してしまいかねないくらいだった。
その解放の為に、元々自分が現れる算段だった。だが…何の運命の悪戯か、
ほんの僅かだけ歯車が狂って、あのような結果が招かれてしまったのだ。
あの香りはMr.Rの特製のもので、人の欲望を解き放ちやすくする効能があるという。
そのフレグランスを設置したまま…御堂が彼の部屋になど向かえば…同じ事が
起こるのは明白、だった。
「そうだ、と言ったら…どうするんです、か…?」
険しい顔になりながら、克哉は答えていく。
このまま…彼を眼鏡の部屋に行かせる訳には、いかなかった。
せめてもう一人の自分がどういう状況になっているか、把握してからでないと…
余計に二人に亀裂を作る結果になってしまう。
そう結論が出た時、克哉は決意した。
「だから、今は…貴方の顔を見たくないんです…! だから…!」
そう切ない声音を出して、その手を振り払っていく。
そして…勢い良く駆け出していった。
「克哉っ…! 待てっ…!」
御堂が、ぎょっと目を見開きながら慌てて克哉を追いかけ始める。
だが彼は一切、足の速度を緩めない。
全力を持って走り始めていった。
―これで良い。こうすれば…恐らく、この人を今だけでもオレの方に引き付けられる筈だ。
それは彼の一世一代の演技であり、賭けだ。
とりあえずあのフレグランスをどうにかする前に、御堂をあの部屋に上げさせる訳には
いかないから。
そうして、彼は全力を持って逃げ続ける。
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
鬼畜眼鏡にハマり込みました。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
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