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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―あれから克哉は、ソワソワした様子で…昼休みを迎えていた。

(本多、大丈夫かな…?)

 朝に顔を見た時は、あのコスプレ衣装と…パンダみたいに縁取られた
クマの両方の要因でつい笑ってしまったけれど、あんな風にヨレヨレに
なっている本多というのを克哉は見た事、なかった。
 …まあ、昨日の銭形衣装と良い何とも予想外の事ばかりやらかして
くれている訳だが。

 キーンコーンカーンコーン

 昼休みを告げるチャイムが鳴り響いていくと…克哉は入力作業を中断して
パソコンを終了していった。
 窓の外では、本日もまた…灰色の雲が広がっていた。

(最近、雨が続いているな…)

 昨日も、雨だったように記憶している。
 今夜もまた、もうすぐ降るのだろうか?
 そういえば天気予報では、今日と明日は大雨が降る予定だから傘は
必ずお持ちくださいとか言っていたのを思い出す。

(こんな日は…どうしても、あの日を思い出すな…)

 昨晩、御堂と結ばれた。
 その喜びは今でもはっきりと克哉の脳裏に刻み込まれている。
 だが、それ以上に…御堂の家の前に立ってひたすら待ち続けていた
雨の日の記憶が、克哉の中では鮮明に刻み込まれていた。

―ずっと想っていた人と再会して、肌を重ねたっていうのに…何でこんなに
不安なんだろう。

 今朝までは、浮かれていた。
 けれど…その興奮が落ち着いた今となっては、あまりに儚い夢のようだった
気がしてくる。
 あまりに幸せだったからこそ、その反動のように漠然とした不安がジワジワ…と
溢れ出て来ていた。

「御堂、さん…」

 いつの間にか、本多の事は頭の中から弾き出されて、想うのはただ…あの人の
事だけになっていた。
 そういえば、昨日は食事を一緒にしたけれど…近況報告みたいなものは
殆どしなかったように思う。
 当たり障りなく、料理とワインの話ばかりしていたような…。

「…そういえば、あの人がどんな会社に移籍したのかもまだ聞いて
なかったよな…」

 一晩、一緒に過ごした筈なのに自分達が交わした言葉の数はひどく
少ないもののように思えた。
 会えなくてどこで何をしているのか判らなかった時の事を思えば、
抱き合えただけでも僥倖なのだ。
 それなのに克哉の心は欲深く、もっとあの人の事を知りたいと…会話を
したいと訴え始めている。

(欲張りだな…オレは…)

―認めろよ

 ふいに、幻聴が聞こえた気がした。

(えっ…?)

 考え事をしている内に気づかない内に…窓際の方に一人、歩み寄って
しまっていたようだった。
 窓の外がすでに薄暗くなっているせいか、窓ガラスは鏡のようにくっきりと
克哉の顔を映していた。

―その顔が一瞬だけ、眼鏡を掛けた自分の顔に見えた気がした。

「っ…!」

 つい、瞠目していくと…今度は、はっきりと聞こえた。

―…聞こえなかったのか? ならもう一度言ってやろう。お前は実際は…相当に
欲深くて我侭なんだよ。誰の気持ちを踏みにじる事になっても我を張るような…
そんな罪深い奴なのに、何を自分だけは綺麗な人間なつもりでいるんだ…?

 嘲るように、眼鏡は嗤(わら)う。
 一瞬にして、肝が冷えるような気がした。
 もう一人の自分の眼差しはどこか冷たくて、ゾっとした。
 何でこんなに硝子玉のような無機質な色を讃えているのだろうか?
 声はまだ、続いていく。
 …その言葉の端々に、悪意のようなものが感じられるのは気のせいだろうか?

―お前は、相変わらず自分に対して正直ではないな。
 遠慮していたら、永遠に御堂を失うぞ? 欲望に正直になれ…。
 じゃなければ、お前は…御堂を悪意から守れない。今のように
フラフラと揺れて自分の足場も覚束ない状態ではな…。

「…お前、何を言っているんだよ…?」

 何でもう一人の自分が突然現れて、こんな事を言い出したのか理解が
出来なかった。
 だが、眼鏡の顔は…相変わらず、強気で傲慢そうなものであった。
 浮かれている克哉の心を引き締めるように…不穏な事を告げていき。

―警戒しろ。雨が、全てを覆い隠すかも知れない。『何か』をするには…
視界が効かない日の方が好都合だからな…。

「だから、何言っているんだよっ!」

 オフィスの中には、皆…食堂や外に食事を求めて出払っているので
克哉一人しか存在しない。

―忠告だ。御堂に抱かれて浮かれているようなお前に対してな…。

「今のが、忠告…だって…?」

―意味は、自分で考えろ。俺はもうそろそろ行く…じゃあな

「待てよっ! せめて今…言った事の意味ぐらい教えていけよっ!」

 そういって、窓硝子に映ったもう一人の自分に訴えかけていくが…間もなく
あっという間にその姿は掻き消えていった。
 残った克哉は、青ざめた表情を浮かべながらポツリ、と呟いていく。

「…何であいつは、あんなに不吉な事を…?」

 呆然としながら呟いていくと…ふいに着信を受けて、克哉の携帯電話が
鳴り響いていく。
 その名前表示に、ドキリとなった。

―其処には御堂孝典と出ていたからだ。

 だから、反射的にその電話を取っていく。

「もしもしっ!」

『…あぁ、繋がったようで良かった。…今、大丈夫だろうか?』

 声の主は、間違いなく御堂だった。
 その落ち着いた声音を聞く事が出来て…克哉は安堵の息を
零し始める。
 同時にジィン、と暖かいお茶を飲んだ時のような心が解れるような
思いを感じていった。

「あっ…はい、大丈夫です。今はウチは昼休みですから…」

『そうか。だが、君が昼食を食べ損ねてしまわないように…用件は手短に
伝えるとしよう。…明日の週末、君は時間を取れるだろうか?』

「はい、大丈夫です」

 迷う事なく、克哉は即答していった。
 今の彼は…一分でも一秒でも長く御堂と一緒に過ごしたかった。
 だから、迷う事はなかった。
 急遽、残業を頼まれることがあっても今の彼ならば…きっぱりと跳ね付けるぐらい
今の克哉にとっては御堂と過ごす事を最優先としていた。

『そうか…私の方は、恐らく仕事が立て込んでいるので…それが一段落つくのは
明日の18時から、19時くらいまで掛かるだろう。手間を掛けさせてすまないが
君の方から…私の会社の方に赴いて貰えるか? その方が早く…君と合流
出来ると思ったからな。構わないか…?』

「えぇ、大丈夫です。…御堂さんの今の会社はどこにあるんですか?」

『詳細はメールにて送信する。キクチからはそんなにアクセスは大変では
ない筈だ。では…明日、君と会えるのを楽しみにしている…』

 では、より後の言葉が思いがけず優しい声音だったので、つい胸が
小さく跳ねていってしまう。

「…はい、オレも凄い楽しみにしています…。御堂さんもお仕事、頑張って
下さい…」

 克哉が臆面もなくそう告げると、電話の向こうで御堂が小さく咳払いをしている声が
聞こえて来た。恐らく照れ隠しだろう。
 それに気づくと、少し微笑ましい気持ちになってクスクスと笑っていく。

『では、また明日…』

 そう、最後の言葉を残して通話が切れていった。
 途端に…さっきまで感じていた多幸感ではなく…漠然とした不安が広がっていく。

―今日の午後から明日に掛けて、都内では大雨になるでしょう

 そんな予報を朝に聞いた。

―警戒しろ。雨が、全てを覆い隠すかも知れない。『何か』をするには…
視界が効かない日の方が好都合だからな…。

 そんな事を、もう一人の自分がたった今、告げていった。
 そのせいで…克哉は怖かった。
 虫の知らせ、という奴だろうか。
 嫌な予感が…ジワジワ、と広がり始めて彼を侵食していく。

「気のせい、だよな…」

 そう呟いて、チラリ…と窓ガラスを覗いていくと其処には何も映っては
いなかった。
 けれど、何故か…もう一人の自分が、舌打ちをしているようなそんな
気がしてしまった―

 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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