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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  人の心は水のようなものだ。
 常に流動的でいないと淀んだり濁ったりしてしまう。

 人と過ごし、語らい…色んな出来事を通じて心を動かしていく事で
 そのバランスを健全な方へと保つことが出来る。
 逆に憎しみや嫉妬、悪意などを心に溜めて吐き出さないでいれば
 あっという間に汚れて、悪臭すら放つようになる。

 それでも、いつも心を保つことは難しい。
 清濁併せ持つというように、人の心は常に綺麗なものも汚いものも
 同時に存在するのだから。

 強い感情を抱いても間違えずに…正しいことを取れる人間は
 本当に一握り。
 果たしてどれくらいの人間が、愛や憎悪を抱いた時にその想いに
 振り回されずに…自分が取るべき行動や節度を守れるのだろうか―

 その日の空模様も随分と不安定なものであった。
 クリスマスを目前に控えていると言うのに、都内の空は連日…曇りか
雨のどちらかしか讃えていなかった。
 この時期にしては珍しい事であった。
 そして本多が早朝から倒れて…医務室で一日を過ごした翌日。
 彼は片桐に心中を吐露して労わって貰えた事で、心に余裕を取り戻し
翌朝には普通に出勤して…今は昼休みを迎えていた。

(そろそろ…来るかな)
 
 本多は、今…屋上で一人、克哉を待っていた。
 一応家を出てくる前にも確認をしたが…本日にはあの、パンダのような
大隈は目元に浮かんでいなかった。
 どこか落ち着かない様子で自分の同僚を待っていくと…ようやく屋上の
扉が開いていって、其処から克哉の姿が現れていった。

「御免、本多…遅れて! とりあえずおにぎりだけは腹に入れておこうと
思って出かけたら遅くなっちゃった…」

「いや、良いよ。俺は朝から…お前に話したいと思って予め昼食を
用意してあったけど…お前は、出社してから俺にこうやって声を掛けられた
んだからそうスムーズに行く訳ないし。わざわざ来てくれてありがとうな」

「ん、そう言ってくれると助かるけれど…それで、話って何? 本多が
こうやって改めて話したい事って…やっぱり、御堂さん絡みの事かな…?」

 二週間程前の、終業後にこうやって本多にここに呼び出された事があった。
 その時も、御堂の事を問いかけられたから…克哉の方は大体の見当が
ついているみたいだった。
 
「…あぁ、どうしても…お前に確認しておきたい事があったからな…」

 そう、呟いた本多の表情はどこか切なかった。
 …同時に、何かを決意しているような…そんな硬さも感じられた。

(…本多、少しだけ…雰囲気が変わった?)

 その理由は、克哉にはまだ判らない。
 けれど…何となくだが、二週間前にここで会った時とは少しだけ…
本多の纏う空気が異なっているように感じられたのだ。

「…聞きたい事って、何…?」

「…お前が、御堂の事をどう想っているか…はっきりと聞かせて欲しい」

「どうして、そんな事を…聞きたがるんだよ」

 少しずつ、克哉の表情が強張っていくのが判った。
 恐らくこの問いに答えれば、二日前にこちらの後を追いかけていたように
執拗に問い詰め返されるような気がしたから。
 …難しい顔をして、克哉は口を噤んでいく。
 
「…ンな顔、すんなよ。俺はただ…お前の気持ちだけでも正直な事を
聞かせて欲しいだけなんだよ…。俺は、お前に惚れているって…あの日に
判っちまったから…」

「えっ…!」

 予想外の事を言われて、克哉がハっと顔を上げていく。
 困惑した表情だった。
 だが、それに反して…本多は困ったような笑みを浮かべていく。

「…どうして、お前と御堂の事がこんなに気になるのか…自分でも
判んなかったけどよ。大学時代から、お前の事が気になってしょうがなかった
理由は…どんな形であれ、俺はお前に好意と関心を抱いているんだって事を…
お前と御堂を見失った後に、気づいちまった…。
 だから、答えて欲しいんだよ。お前がどんな想いを御堂に抱いているのか…
お前の口から、ちゃんと聞いておかねえと…諦めが、つけられそうにないから…」

「そ、んなのって…本多が、オレの事を好きって…嘘、だろ…」

 克哉が信じられないという風に肩を震わせて呟いていく。
 彼にとって本多は、自分の大事な友人であり同僚だ。
 それ以上でも、それ以下でもない。
 特に克哉にとっては…たった二日前に御堂と結ばれたばかりで…
其処には他の男が入る余地などまったくない。
 だから言われても困惑するしかなかった。
 だが、克哉のその反応は…本多にとってすでに予測済みのものだった。

「…俺は嘘で、こんな事は言わないって。それは…長い付き合いなんだから
判っているだろ…」

「……うん」

 そのまま、二人の間に沈黙が落ちていく。
 克哉は、迷っているようだった。
 けれど本多は…惚れている相手に、こんな顔をさせたくなかった。
 だから彼の方から、言葉を伝えていく。

「…正直、俺もどうして良いか…判んねえよ。同性の相手に、まさか
こんな気持ちを抱いていたなんて…予想外だったから。
 けれど気づいてしまった以上、どんな形でもケリはつけないと…いつか
膨れ上がってとんでもない事になるような気がするから。
 身勝手だって判っているけど…だから、お前の口からはっきりと聞いて
この気持ちに終止符を打ちたいんだ…頼む、克哉…!」

 真剣な様子で、本多が訴えていく。
 それを聞いて…克哉はやっと覚悟を決めていった。
 真摯にこちらに向き合っている相手に…いい加減な誤魔化しや
嘘をついたら、却って余計な傷を作るような気がしたから―

「…判った。正直に言う。オレは…御堂さんを、特別な意味で好きだよ。
最初はオレ自身もまさか…と思う部分はあった。…初めの頃は酷い
扱いも受けたし…憎んでいた時期もあったけれど、それ以外の部分に
触れて…気づいたら、好きになっていた。だから…御免。
…本多、お前の気持ちは…受け入れられない。本当に…御免…」

 本気で、申し訳なさそうに謝りながら口元を手で覆い…克哉は
あの日の本多の問いと、今の告白に対しての答えを返していく。
 それは、予想通りの答えだった。
 皮肉にも…同時に、二日前に見せられた映像が…真実であった事を
裏付ける回答でもあった。

 御堂に対して、怒りが湧いた。
 あんな酷いことをしていたことに対しての憤りと…自分の想い人の
気持ちをそれでいて捉えていた事に。
 けれど…それを必死に抑え込んで、理性を総動員させていく。
 克哉は、今にも泣きそうな様子だったから。
 やせ我慢と判っていても、本多は…笑って見せた。
 それが苦笑に近い形になっていても―

「サンキュ、な。ちゃんと答えてくれて…俺は、それが聞きたかった…」

 そうして少しだけ間合いを詰めて、克哉の方に歩み寄っていく。
 そして…唐突に抱き締めていった。

「…だから、もう…泣くなよ。俺は大丈夫だから…」

「…け、ど…オレ、本多を傷つけただろう…?」

「バ~カ、気にすんなよ…。俺がお前に勝手に惚れていただけだ…。
お前がそんなに罪悪感を感じる事はないんだよ。だから…泣くな…」

「…泣いて、ないよ…」

 けれど、それでも本多は克哉を離さなかった。
 その時、唇を奪いたい衝動に駆られたけれど…それを抑え込んでいく。
 必死になって、片桐が言った言葉を思い出していく。

―好きな人にとって一番良い行動を取ってあげたら良いんじゃないで
しょうか…

 諦めるのは、正直…辛かった。
 奪い取りたいという欲望がないではなかった。
 けれどそれはきっと、克哉は望んでいない事なのだ。
 今の反応を見れば良く判ったから…

「わりぃ…少しだけ、こうさせていてくれ…。これで、踏ん切りつけるから…」

「…う、ん…」

 もしこれで、それ以上の行為を本多が望んでいる気配を見せたら
克哉は拒んだだろう。
 けれど…本多の抱擁は、欲望の色は感じられなかった。
 だから克哉は許していった。

(…何か、辛いよな…これだけ好きな相手を諦めるのって…)

 けれど、腕の中の克哉は…今にも泣きそうな気配があった。
 泣かせたくなかった。
 だから…強がりを承知で告げていく。

「…泣くなよ。俺は大丈夫だ…」

 それは本多なりの思いやりで、気遣いであった。
 克哉はその言葉を聞いた瞬間…俯いて…小さく御免、とこちらに
告げていった。
 そんな自分の友人に対して、本多は…そのまま、頭をポンポンと叩いて
そっと労わりの気持ちを伝えていく。

 ―それは、昨日…片桐が本多にしてみせたように、相手を思いやり
気遣う仕草そのものであった―


 
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プロフィール
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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