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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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―その日の夕方は、しとしとと雨が降り続けていた。
  多くの人間の思惑が交差して、予想もつかない筋書きが生まれつつあった。
  その主役となるのは、悪役となるのは果たしてドラマに出ている誰なのか…
  誰もこの時点で予想がついていなかった

 本多憲二は、営業先から真っ直ぐに…現在、御堂が勤務している会社の
駐車場に辿り着いていた。
 MGN程ではないが、此処もかなりの大手企業らしい。
 駐車場は二階建て方式とは言え、50~60台ぐらいは置けそうなくらいの
敷地は確保されていた。
 まだ就業時間を迎えた直後であるせいか、駐車場の殆どのスペースに
車が止まったままだった。
 雨が降っているのと相まって、この周辺の見渡しは随分と悪くなっていた。

 克哉にメールと、携帯アドレスが書かれたハガキが届いた日、御堂は
片桐と本多の二名にも儀礼的な挨拶文を書いたものを送り付けていた。
 そのおかげで本多は、今の彼がどこで働いているのか知る事が
出来たのだが…。

(まず、あいつの事だから俺の事は歓迎しないだろうなぁ…)

 最初は玄関で待ち伏せしようと思ったが、其処だと他の人間の目にも
付きやすいし…変に目立ったり、恥を掻かせたりしたらあの陰険な性格の
御堂の事だ。
 こちらの事など完全にスルーして帰ってしまうに違いない。
 それで本多なりに考えた結果、駐車場の方で待つ事にしたんだが…。

「…あ~あ、随分と良い車を乗り回しているなぁ…」

 MGNで仕事をしていた時代、本多は御堂が乗っていたドイツ製のセダンを何回も
見ていたので…すぐにそれは見つかった。
 スタンダードでシンプルなラインを描いているその車を眺めながら、大きめの
黒い傘を差して本多は一人、御堂を待っていった。
 時刻は17時10分。就業時間を終えて少し過ぎた頃…と言った処か。
 当然、御堂が残業等をしていればもしかしたら何時間も待つ羽目になるかも
知れない。
 その懸念はあったが…本多はどうしても、御堂に直接聞きたい事があった。
 
(御堂が本当に…克哉を大切にしてくれる奴だと、そう確信出来たなら…
きっと諦める事が出来るだろうからな…)

 自覚したばかりの恋心は、本多の中で未だに暴れまわっている。
 本当は今日の昼間、屋上で話していた時も何度も抱き締めたくなったり
キスしたい衝動を抑え込んでいたのだ。
 こんなのは本多の性に合わない。自分でもその自覚がある。
 けれど片桐に諭された事をしっかりと噛み締めたら…どうしても、感情のままに
御堂と別れて俺の処に来い! と言ってはいけない気がしたのだ。
 克哉は本気で御堂に惚れている。
 少し冷静になって観察した時に悔しいがその事実を思い知らされたのだ。

―本多はどうしても聞きたかった。御堂が克哉を愛しているかどうかを…

 それさえ聞ければ、充分だった。
 それだけの為にアポなしの状態でここまで乗り込んできたのだ。
 雨足が次第に増して、周囲の水音が更に大きくなっていく。
 満足に視界が効かなくなって目を凝らさないと詳細が判らなくなる…それくらいの
状況になって、ようやく駐車場に人影がやってきた。
 最初はそれが誰だか、本多には判らなかった。
 だが、その人物は少しずつ近づいて来て…輪郭を捉える事が出来るようになると
本多は待ち人である事を確信していく。
相手も同じだったのだろう…。
 駐車場で自分の車の前に待っていた人物が本多である事を知ると…怪訝そうに
眉を潜めて言葉を漏らしていった。

「…どうして、君がこんな処にいる…?」

「…お久しぶりですね。御堂さん…ちょっとそちらに聞きたい事があったもんで…」

 一応、いない処では『御堂』と呼び捨てにしていたが…MGNに彼が所属していた頃は
本多の上司に当たる人物であった事は間違いない。
 敬語で応対していくと…ますます、御堂の表情は不可解だと訴えているような表情に
変わっていった。

「…わざわざこんな処に足を向けてまで、君が私に聞きたい事が…? 別に構わないが…
この後に予定が入っているのでな…。出来れば手短に頼みたい…」

「えぇ、そんなに込み入った話じゃないですから。俺が貴方に聞きたい事はただ
一つです。御堂さんは克哉の事を…どう思っているんですか?」

 いきなりストレートに、本多は本題に入っていった。
 それを聞いて御堂の顔が警戒心に満ちた険しいものへと変わっていく。
 今の質問の意味する処は何か、と恐らく考えているに違いない。
 本多と違い、御堂は必ず人の言動の裏…隠された意図を読み取ろうとしてしまう
習慣がある。

 良い言い方ならば用心深く慎重。
 悪い言い方をすれば相手の言葉の裏を読もうと身構えて、常に疑って掛かって
いるという事でもある。
 本多は裏の意図などまったく込めなかった。直球に本心を尋ねて来たのだ。
 だが、御堂にとっては…同性の相手である克哉を想っている、恋人同士に
なっているという事実は周囲に知られたら厄介な事になる事実でもあるのだ。

「…それはどういう意図で君は聞いているんだ…? そこら辺が判りかねるが…」

「言葉の通りです。御堂さんが克哉に対して抱いている気持ちを、正直に話して
頂けたら…と思って聞いているだけです」

 本多としてはかなり下出に出たつもりだった。
 だが、御堂としても…いきなり現れて久しぶりに顔出した本多に対して、いきなり
其処まで正直に話せるものではなかった。
 安易に本心を話したり、噂話を吹聴することは…時に自分の身を危うくするくらいの
隙を生み出す恐れがある事を御堂はすでに経験として知っている。
 それが御堂と本多の大きな価値観の隔たりでもあった。
 これまで、御堂と本多は反発はすれど友好的に話したことなど一回も無い。
 そんな相手に、いきなり胸襟を晒す事など御堂には無理だ。
 だから冷たい言葉しか、其処からは返って来なかった。

「…何故それを、君に話さなくてはいけないんだ?」

 その声の響きは、ゾっとするぐらいに冷たかった。
 本多はそれを聞いて、頭に血が昇っていくのを感じた。

(…ちくしょう、人がこんなに下出に出ているっていうのに…! 克哉はどうして
こんなインケン野郎に惚れたんだよ…!)

 本多は、この時点で平静とは程遠い精神状態をしていた。
 だから自分の説明が足りなかったからこの事態になった事に気づかない。
 ただ、こちらの問いに関して素直に返してくれなかったことに腹を立てて…御堂が
克哉の方の世間体も気にして安易に心中を話さないとまでは察せる状態ではなかった。

「…克哉が、あんたの事を好きだからです。…だから、あんたも同じ気持ちを
抱いているのか…どうしても、聞きたかっただけです…!」

 それでも悔しさを堪えて、必死に平静を取り繕う。

「…君は、どこまで知っている?」

「…さあ、どこまででしょうね?」

 だが、この時点で…御堂はこちらの事を探り始めているのを何となく察していく。
 本多もまた、トボけて見せたがそれは御堂の不興を買ったらしい。
 急速に冷めた眼差しを浮かべながら御堂は本多の脇をすり抜けて…自分の愛車の
方へと向かおうとしていた。

「…って! ちょっと待てよ! こちらの質問にまったく答えないで逃げるつもりかよ!」

「…逃げるも何も、待ち伏せも私に対しての押し問答も、私の都合も考えずに…君が
勝手にやっていた事だ。何故、答える必要がある?」

 必死になって肩に掴み掛かる本多に対し、御堂の対応はどこまでも冷ややかだ。
 その瞬間、本多の持っていた傘はその場に放り投げられて地面に落下していく。
 
「…ほんっきで、ムカつく男だな…! 確かにその通りなんだが…どうしてそう、
人の神経を逆なでにするような言い回ししかあんたは出来ねぇんだよ!」

 克哉の大切な人間なのだから、手荒い態度はするまい…とここに来る時に
密かに誓っていた。
 だが、人の感情というものは伝染する。
 相手に対して好意を抱けば好意が、嫌悪や敵意を持てば相手からも大抵は
同じ感情が返ってくるものだ。
 それは本多と御堂に対しても例外ではなかった。
 幾ら好意的に接しようと、以前から犬猿の仲に近かった二人がいきなり改善出来る
訳がない。
 売り言葉に買い言葉というように、御堂の態度から…本多の態度や口調も次第に
荒れたものになっていく。

―その瞬間の事だった

「うわっ!」

「な、何だっ!」

 いきなり、車のライトが二人に向かって照射されていった。
 あまりの眩さに両者の視界はホワイトアウトし、どんな状況になっていたのかを…
短い瞬間、判断が出来なくなる。
 雨が降り注ぐ中、狭い駐車場内で…一台の車が勢い良く彼らに目掛けて突進を
始めていく。

―そして、その車は御堂の方に確実に狙いをつけてスピードを上げていく。

 御堂は突然の事に動けない。
 本多もまた、動き出すまで暫くの時間を費やした。
 彼らの位置からは、搭乗者の顔は見えない。
 一定のリズムで動くワイパーと、大雨のせいで一瞬の間に判別することは
不可能に近かったからだ。

 キキキキキッ!!


 ドンッ!!


 大きなブレーキ音の後に、大きな激突音が続いていった。
 そして次の瞬間、一人の人影が大地を舞っていった。

 ガシャアアアアアアン!!

―ガラスが盛大に割れる音と車の前面部が潰れてひしゃげる音が
その場に響き渡っていったのだった―
 
 

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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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