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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ―其れは果たして、一体どのような奇妙な現象なのか

 御堂の背後と、目の前に同一人物が立っている。
 同じ服装に、同じ造作の顔。
 しかし目の前に立っている男の瞳だけは…自分の知っている
佐伯克哉と大きく異なっていた。
 どこまでも冷たいアイスブルーの瞳。
 御堂にとって愛しいと感じる頼りない方の克哉の青が、海を連想させるなら
目の前の男の瞳は大気圏のどんな生き物も生息できない空の、他者を
絶対に寄せ付けない蒼だ。

(これは誰だ…? 本当にこの男は克哉…なのか…?)

「どうして君がここにいるんだ…? ですか…連れないですね。愛しい御堂さんの為に
頑張って先回りをしただけの話ですよ…」

 からかうような口調で、男が声を紡ぐ。
 声音すらも…まったく別人のようになってしまっている事を怪訝に思いながら
御堂は即答する。
 ザーザーと雨が激しく降り注ぐ中、それでもお互いの声だけははっきりと
聞き取る事が出来たのは…それだけ相手の言葉に意識を集中させていた
からだろうか…。

「嘘だな。君は私の背後で…本多の為に、自分が濡れるのも構わずに傘を
必死に差している筈だ。私の先回りをしてその男を捕まえるなど…不可能だ」

「…けど、実際に俺はこうして此処にいるでしょう? それに俺の協力があったからこそ
貴方はこの男を取り逃がさずに済んでいる。それなら、それで良いでしょう。
同じ人間が同時に存在する…そんな奇跡も、この雨が見せた一時の気まぐれな
幻とでも解釈しておけば良い。生きていれば…時に、そんな神秘や不思議に一度ぐらいは
遭遇する事はありますよ…」

「悪いが、私はそういった類はまったく信じる主義ではないな」

 これもすっぱりと即答する御堂を見て、可笑しそうに眼鏡は嗤(わら)う。
 そこに不快なものを感じて…見る見る内に御堂の表情は強張ったものに
なっていく。
 見れば見るだけ、接すれば接するだけ…これが自分が知る佐伯克哉と違いすぎて
不信感が増していく。
 だが、自分はこんな彼に過去に接したことはなかっただろうか?
 そうだ…克哉と初対面の時、一瞬にして別人のようになって。
 目の前の男は、その傲慢で自信に溢れさせている方の克哉だ。
 
「…けど、事実ですよ。そんなに頭が固いと…思わぬ所で、真実というのを
取り零す恐れがありますよ…」

 そして、男はコツコツ…と靴音を響かせながらゆっくりと御堂の方へと歩み
寄って行った。
 咄嗟に、御堂は身構えてしまいながら…それを待ち受けた。

「…そんなに硬くならなくても良いですよ。俺は…もう行きますから。
あぁ、そういえば一つだけ言って置かないといけない事があったな。
…御堂さん、もう一人の『オレ』を頼みますよ。あんたに何かあったら
あいつは恐らく嘆くだろうから。あんたの良さは…人の事を当てにせずに
責任感を強く持って事に当たる事だが、言葉が足りなさ過ぎて…今回のように
大きなすれ違いを生んでいく。この男だって…」

 そうして、自分が気絶させた男を一瞥しながら…。

「…あんたを、信頼していたんだよ。だから…何の説明も弁明もなく会社を
去っていった事でショックを受けた。そして噂に翻弄されて…間違ったあんたの
像を自分の中に作って、恨むしかなくなったんだ。哀れな奴だが…その悲劇の
一旦は、あんたにもある。もう一人のオレも…あんたと再会するまでは、本当に
悩んで苦しんでいたんだ。…あんたの一人で抱え込む性分は時に、そのような
苦しみを…生み出す時もあるんだと。それぐらいは…自覚してくれよ」

「…っ!」

 御堂は、その言葉を受けて強張った表情を浮かべていく。
 今まで、そんな事を自分に向かってぶつけてきた奴など…一人もいなかった
からだ。
 だが、どれだけ指摘されようと…32年間生きて来て形成された人格を一朝一夕で
変えられる訳ではない。

「…克哉は、苦しんでいたのか…?」

「あぁ、あいつもあんたを好きで好きで…しょうがなかったからな。だから…
もう二度と、あいつに黙って姿を消さないで下さいよ? じゃあ…俺はそろそろ
行きますよ。もうじき…パトカーや救急車も到着するでしょうからね…」

 眼鏡がそう告げると同時に、この駐車場の隅の一角に一台のパトカーが
到着したのが目に入った。

「待て…! 言いたい事だけ言って君は消えるのか…!」

「えぇ、そうですよ。同じ顔した男が同じ場所に二人存在していたら面倒な事にしか
ならないでしょうからね…」

 そうして、本当に言いたい事だけ好き勝手に言ってのけた男はあっさりと
踵を返していく。
 御堂はそれを追いかけようとした。
 だが一度だけこちらを振り返った男の顔を見て、立ち尽くすしか…なかった。
 余裕に満ちた、皮肉な笑顔が…とても切なく、悲しいものに変わっていたから。
 そして…小さく、ポツリと告げていく。

―あいつを宜しく頼みますよ、御堂さん

 それはまるで…とても大切な者を託すかのような、切な声音だった。
 御堂は驚いて、言葉を失って立ち尽くしていく。
 そうしている間に幻のように…眼鏡の姿は掻き消えていった。

 それは雨が見せた一時の幻だったのだろうか?
 御堂の心の中で猛烈な疑念が湧き上がっていく。
 そうしている間に…救急車の方も到着して、本多は搬送されて…克哉も
付き添いとして同乗する事になった。
 
 そして御堂は、元工場長の引渡しと状況説明する為に…その場に残る
事を選択していく。
 本当は本多に克哉を付き添わせるのは、チリリと胸が焦げるような想いがしたが
自分には成すべきことがある。
 個人的な感情に振り回されて良い時ではない。
 それに克哉は、自分の事を好きだと言った。
 大切な人間だとはっきりと告げてくれたのだ。

 だから御堂は克哉を信じて…事後処理をこなしていく事に勤めていく。
 そして全てが一通り片付いた後、克哉と連絡して…本多が搬送された病院へと
自分も駆けつけたのだった―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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