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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ―自分の欲望に正直になってしまえば良いのにさ…

 明け方に歓楽街のホテルの一室で眠りに落ちていた最中、そんな声が
頭の中に鮮烈に響いて、意識が覚醒していった。

「…朝、か…」
 
 たった今、聞こえた声に対して…苦いものを滲ませながら克哉は
呟いていった。
 整えられたビジネスホテル風の、素っ気無い内装の室内。
 窓から朝日が差し込み、その窓の向こうにはネオンが消えた歓楽街の
光景が広がっている。

 昨晩も、凶暴な衝動を自分の中から逃す為に…適当な相手に声を
掛けて一夜を共にした。
 隣に寝ている青年は色素の薄い髪をした、いかにも遊び慣れた雰囲気を
漂わせていた。
 何となく初めて眼鏡を掛けた日に抱いた、『秋紀』とか言う少年に似ている
気がしたが…今の彼にはそんな事はどうでも良かった。
 
  隣に眠っている青年は眠っているというよりも、ぐったりとして意識を
失っているといった感じで…全身にこちらが噛み付いたキズや、痛みが
伴うぐらいに吸い上げた痕が刻みつけられている。
 それは昨晩も…克哉が欲望と衝動のままに行きずりの人間を犯し
まくった証でもあった。

―代わりじゃ、物足りない癖に。本当に欲しいものを食べない限りは…
お前の欲望は決して満たされないよ…?

(また…お前か。いい加減、黙れ…)

 甘くねっとりと誘惑の言葉を囁く自分に対して、苛立ち混じりに頭の中で
克哉は答えていく。

―あっはっは…! 嫌だね! 僕だってお前だもの…! こうやって自己主張を
したり言葉を発する権利ぐらいはあるからね! それよりも…認めなよ。
あの男が欲しいって! あの甘美な肉体の味をもう一度味わいたくって堪らないって
気づきなよ! 自分の欲望に忠実なのが…お前なんじゃなかったの?

 頭の中のもう一人の自分の姿が、ゆっくりと浮かんでいく。
 それは…気弱で自信がない、うだつの上がらないもう一人の自分ではなかった。
 其処に立っていたのは12歳の頃の自分。
 今の克哉と、弱い彼の元となった…存在。
 色に例えるなら、今の克哉が青で…弱い方の克哉を黄色と例えるなら
原色の緑に当たる部分が、この12歳の自分だった。
 御堂を愛し、解放するまで…ごく自然に自分の中に溶け込んで存在していた。
 けれど彼を愛して、欲望を抑えるようになった頃から…自然と分離して、そしてこんな
誘惑の言葉をまるで悪魔のように囁く存在になっていた。

(…そうだな。欲望に忠実に生きて来たのが…俺だ。だが…お前の言葉はそれでも
却下させて貰おう。俺はそれでも…二度と、御堂の元に現れるつもりはない…)

―あ~あ、随分とお前…つまらない奴になったよねぇ。御堂って奴を本気で
犯して監禁して、乗馬鞭で打ちつけたりしていた頃のお前の方が輝いていたのに…。
 おかげで僕は退屈でしょうがないよ…。その辺の奴をどれだけ犯そうが、貪り
尽くそうが…今のお前の欲しいものはすでに心が決まっているんだ。
 代わりで、その飢えは癒されないよ。それでも…お前はそんなバカな真似を
繰り返すつもりなのかなぁ…?

 子供特有の、残酷な一面を覗かせながら…頭の中で、少年のままの自分が
嗤(わら)っていた。
 だが…そんな自分の声に抗うように、克哉は首を横に振っていく。

(バカで結構だ…それでも、俺は誓った。二度と御堂を傷つけないと…。
一度、あいつの生活も人生もグチャグチャにした。同じ過ちを二度…俺は
繰り返すつもりはない…!)

―バ~カ…。そんな自分に嘘ついて生きたら、窮屈でつまらないだけじゃないか?
 お前はすでに自分の欲望と本能のままに生きて、解放される楽しさを存分に
知っているんだろ? それなのにそのやせ我慢…どこまで出来るのかなぁ

 どこまでも厭らしく、少年はこちらを嘲り続ける。
 その声こそ、御堂を傷つけたくないと強く望む心と同時に存在する…自分の
本音でもあるのだろう。

(一生でも、してやるさ…)

 それがやせ我慢である事は承知の上だ。

―つまんないねぇ。本気でそんな事をするつもりなのぉ…?

(あぁ…本気だ。だからお前の戯言に付き合ってやるつもりはない…だから、
失せろ…)

―ふ~ん、そう? それなら僕の勝手にさせてもらうよぉ?

 つまらなそうに少年が呟くと同時に、また…強烈な衝動が湧き上がってくる。
 心を焼き焦がすぐらいに激しく、自我を失ってしまうぐらいに強く…性衝動や、憤りに
似た強烈な感情が、胸の底から溢れ出してくるようだった。
 それは…彼の心の悲しみや痛みから生まれ出ずるもの。

―誰よりも飢えているくせに、そのやせ我慢がどこまで続くかを…僕は
ここで見守っていてやるよ。

 人は愛を求めて、時に飢える。
 本当に欲しいものが手に入らない時。
 自分の本心や本性を捻じ曲げて、理性で生きている時。
 それに抗うように…激しい衝動が湧き出て、コントロールを失わせてしまう
時がある。
 今の克哉はまさにそんな状態で…いつ、心の中の欲望と衝動の爆弾が
爆発して、自分の予期せぬ結果を招くのか判らない不安定な状態がずっと
続いていた。

 それでも、御堂を襲わない為に。
 会社や、周囲の人間に影響が出ないように。
 男達が集う歓楽街を彷徨い歩く社会的なリスクを背負ってでも…今の
克哉にはそうやって、自分の心を逃がす以外に術はなかった。
 行きずりのどんな男性遍歴を持っているのか判らない相手と寝る時は
克哉も必ずコンドームをつけるように配慮している。
 それもまた、性欲の発散を中途半端なものにしている要因になって
いるのだが。

 御堂の内部のあの熱さと、キツさと…甘美さを鮮烈に覚えている
克哉にとっては、どんな相手も…あの存在の代わりになどならない。
 他のを知れば知るだけ、満たされぬ想いは募り…彼を焼き焦がしていった。

―正直になれば、楽になるのになぁ…

 出勤時間まで、まだ随分と時間があった。
 だからもう一寝入りしようと横になった途端、残念そうな少年の頃の自分の声が
響き渡っていく。
 残酷な部分を残したままの、自分自身。
 
 愛を知って、相手を傷つけたくないと知ったから自分と乖離してしまった部分。
 それが彼の内側から、常に誘惑の言葉を吐き続ける。
 克哉はそれでも…それに対して抗い続けていた。

 だが、御堂を想う心が強くなればなるだけ…欲求もまた激しくなり、日増しに
こちらの殻を突き破ってしまいそうなぐらいに膨れ上がっていく。
 それでも、それに負けてなるものかと…克哉は短く呟いていった。

『うるさい。少し黙れ…』

 そう、あっさりと冷たく言い放ち、一時のまどろみに落ちていく。
 そんな彼の中で…少年のこちらを嘲笑する声が、けたたましく響き続けて
いたのだった―

 

 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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