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―克哉に見守られながら御堂は夢を見ていた。
夢の中で御堂は、暗いモヤの中に包まれていた。
周囲は薄暗く、どこに何があるのかもロクに判らない。
暗中模索、とはまさにこんな状況のことを言うのだろう。
どこを見渡しても、何も見えない。
どの方向を振り向いても目標となりそうな物が存在しない。
それでも、心の中に求める人物を…必死になって彼は
探し続けていく。
『佐伯…どこにいるんだ?』
小さく呟きながら、ゆっくりと進んでいく。
こんな闇の中で一人で進むのは心細い。
けれど…遅くはあるが、御堂は立ち止まったりはせずに…
彼は進んでいく。
人生に立ち止まっている暇などないと思う。
迷って、悩んで…苦しんで、それで停滞をしても時間の無駄に
しかならない。
それは御堂の考えであり、信念だった。
―こんな処で不安だからとジッとしていて何になる?
不安だからこそ、足を止めてはダメなのだ。
進んでいけば…何かが見つかる可能性がある。
行動さえすれば、状況を変える糸口を掴めるかも知れない。
その可能性がある限り、御堂はあの男を求めることを止めたりは
しないだろう。
例え、彼自身がもう自分が追いかけて来る事を望んでいないと
知っても…。
「私は、それでも…『君』とキチンと一度話すまでは、諦めはしない…」
苦しげな表情を浮かべながら、力強く口にして…それでも
御堂は進んでいった。
辺りは幾ら進んでも、薄暗いままで…やはり何も存在しない。
こんな不毛な夢をどうして自分は見ているのだろうかと思った。
建物も、人影も生き物の気配や植物や地面の感触すらも
存在しない。
今、足を付いている場所とてフワフワと頼りない感触で、地面という
感じすらしない。
こんな場所は夢の中ぐらいしかないと思った。
だから今の彼は、ここが自分の夢の中だという自覚があった。
「まったく…夢を見る事自体、久しぶりだというのに…何だってこんなに
意味の無い夢を見るんだ…?」
御堂は普段の睡眠時間は4~5時間程度で、日中にこなしている激務のせいで
大抵眠りが深く、夢など見る余地がない。
不眠症など、精神的に弱い人間が掛かる病だと思っている。
己の果たす事、やらなければいけない事を見据えている人間はそんな
甘ったれな病気に掛かっている暇などないという考えもある。
そういう精神の持ち主であるせいで…夢など普段はまったく寄せ付けないの
だが、一つ例外があるとすれば…佐伯克哉に関する夢だけだった。
御堂が唯一、ここ一年以内に見ていたのは彼に関わった時にされた
悪夢の行為の数々。
それと去り際の切ない瞳と、あの告白の日の記憶だけだった。
しかし…今の御堂には、そんな判断材料はない。
だから、また無駄と思いつつも進んでいった。
どれぐらい進んだのか判らない。
永遠に続きそうなぐらいに永い道のり。
何も見つからない事に、いい加減焦れて来てしまった。
「…いつまで経っても何も見つからないとはな…! 何だってこんな
夢を見ているんだ…! どうせなら、夢の中ぐらいまともに出て来い!
夢の中まで君は私から逃げ続けるつもりなのかっ!」
本気の怒りを込めながら。
本心からの言葉を叫んでいった。
その瞬間、何もなかった闇の中に…鮮烈な光が生まれ、予想も
つかなかった光景を御堂に見せていく。
「っ…!」
その時、御堂は見た。
雁字搦めに鎖で縛られながら氷の中に閉じ込められている眼鏡を
掛けた佐伯克哉の姿を。
「何だこれは…!」
そしてその腕には、小学生くらいの子供をしっかりと抱き締めて
二人で氷漬けの姿になっている。
まるで…氷の中に何かを封じ込めているような、そんな異様な光景に
御堂は愕然としていく。
この情景は…一体何だというのか。
―これが今の俺の状況だ。だから…諦めて、くれ…。
フイに、声が聞こえた。
それは追い求めていた男の声。
「佐伯…っ!?」
―この腕の中の子供は、残酷な俺の心。あんたを追い求めて、傷つけて
ボロボロにしようとするぐらい犯そうと…そんな衝動を持った俺の心の象徴。
こんな奴を野放しにして、もう一度あんたを傷つけてしまうことは耐えられ
なかった。だから…俺は…
「ちょっと…待て、君は、何を言っているんだ…?」
―俺はここに、コイツごと俺を封じた。だから弱いオレが…表に出ている。
だから、諦めてくれ…。それが、あんたを守る一番良い方法だから…
切なげに、悲しげな声で…眼鏡は御堂に告げていく。
その瞬間、その夢が遠くなり…氷漬けになった眼鏡の姿すらも
遠いものへと変わっていく。
「待て! 私はまだ…君に、何も…!」
必死になって手を伸ばしていく。
だが、彼の姿はまたどんどんと遠くなってしまう。
「行くな! 私は…君を…君を…!」
彼の目は悲しげに伏せられたまま。
こちらを決して見ようとしない。
それでも御堂は必死になって叫んでいく。
「君を…好き、なんだ…! だから諦めるのなんて…絶対に嫌だ!」
はっきりと、その言葉を告げていく。
眼鏡は最後に一言…答えていった。
―ありがとう。あんたにそう言って貰えて…俺は、幸せ者だな…。
だからこそ、もう傷つけたくないんだ。さよなら…
そして、強引に夢から御堂は連れ戻される。
光が周囲に満ちて、強引に意識が夢から浮上していった。
そんな御堂の髪を、愛しげに撫ぜ擦る手があった。
「御堂、さん…」
悲しげな表情を浮かべながら、眼鏡を掛けていない彼の方と
目があった。
その瞳には…深い哀切の色が滲んでいる。
「…君、は…?」
混乱し、激しく喘ぎながら…御堂は小さく呟いていく。
そんな彼に向かって、どこまでも儚く…克哉は微笑んでいったのだった―
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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