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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―冷静になって考えたら、あいつにラブメールみたいなのを
送るのなんて初めての事かも知れなかった…

 結婚前は、どうやって連絡すれば良いのか判らない状況が
続いていたので…当然メールなどした事がなく。
 結婚して、年が明けた頃辺りからこの携帯はごく自然に部屋の中に
置かれていて…自然と、克哉はこの青い色合いの機体を使うように
なっていた。
 だが、基本的に…この携帯で家族にも、友人にもそんなにメールを
する事もなく二ヵ月半が経過してしまっていた。
 他愛無い日常。そしてあいつに何を買って来て欲しいとか…遅くなった時に
何時くらいに帰宅するのか問い合わせるぐらいで、自分から用件もなく
打診をする事もなかった。

「…どうしよう。いざ、あいつにメールをしようと思っても…実際に携帯を
持ってみると、イマイチ文面が浮かばないよな…」

 元々、克哉はそんなに人に積極的に関わる方ではなかった。
 永い付き合いである本多でさえ…用件もなくメールしたり、誘いを掛けた事は
殆どなかった。
 仕事上で必要な事なら、幾らでもメール出来る。
 特に克哉のメールは文面が綺麗で、用件が判りやすいと取引先でも八課の
仲間達の間でも定評はあった。
 なのに、あいつへの想いをメールで伝えてみようとか柄にもない事を考えて
いくと…悔しくなるぐらいに、文章が浮かんでこなかった。

「えっと…『こんにちは、俺…元気かな? そちらは良い天気だったかな?
それとオレが作った弁当、ちゃんと食べてくれた? こっちの方は…』…う~ん…
何かありきたりのものしか浮かばないよな…」

 まずは当たり障りのない内容を軽く書いてみたが、自分でもしっくり行かない。
 こんな事が言いたい訳でも、聞きたい訳でもない。
 けれど…照れ臭さとか、そういうのが邪魔してしまって…どうしてもこんな内容しか
書けない自分が少し歯がゆくなった。
 自分の本心は、もっとこう…露骨で率直なものが渦巻いている。
 ふと、ジワリと自分の心の中にそれが浮かび上がっていくのを感じ取って…
無意識の内にゴクっと息を呑んでいく。

―例えば、お前が欲しくて堪らないとか…

 その欲望を自覚した瞬間、顔が真っ赤になった。 
 けれど…それが嘘偽りない自分の本音でもあった。
 
―お前の事を考えると、身体が疼いてどうしようもなくなって…お前の温もりが
恋しくて仕方ないとか…

 そんな事を考えている内に、耳まで赤く染まってドクドクドクと…胸が荒く脈打って
いくのを自覚した。
 
「な、何を考えているんだ…そんな、事ばっかり…。オレってこんなに…エッチ、
な人間だったのかな…」

 けれど、あいつの事を考えると…気づくとそんな事ばかり考えてしまっている
自分に嫌でも気づかされていく。
 欲望、だけじゃない。恋しいから、好きだから…ほんの少し離れているだけでも
酷く切なく感じてしまう。
 いつの間にか、自分の心の中にはあいつの事ばかりでこんなに占められて
しまっていた。

―いつの間にか、お前がこんなに自分の中に存在してしまっていたなんて…
今夜、こうして離れてみなければ判らなかった。
 …明日になれば、お前が帰って来てくれるのは判っている。けれど…終わったら
少しでも早く帰って来て欲しい…そして…

 そこまで、胸に湧き上がる想いを自覚して、本気で頭の天辺から湯気でも
噴き出してしまいそうだった。
 今、心の中に思い浮かんだ言葉の数々を実際に携帯で打ち込んで…画面の中に
表示されているのを見ると、思わず恥ずかしくなって全削除をしたい欲求に
駆られてしまった。
 けれど、それでも言いたい。もう一人の自分に…お前がいない夜はオレはこんなに
寂しいんだよって。恋しく感じて早く帰って来て欲しいと望んでいるんだって事を…
我侭だと承知の上でも、伝えたかった。

(もしかしたら…あいつに、我侭な奴だなとか…一晩くらい我慢出来ないのかって
呆れられたり、バカにされちゃうかも知れないけれど…)

 あいつは素直な性格をしていない。
 一緒に暮らしてみて初めて判ったが…凄く照れ屋で不器用な男だった。
 セックスの時はこちらを翻弄するような際どい発言をポンポン言う癖に、こっちが
たまに素直に好意を伝えるとそっぽを向いて顔を赤くして…黙ってしまう事もしばしばだ。
 けれど同じ屋根の上に暮らしている内に、もう一人の自分のそういう性格を徐々に
克哉は理解出来るようになった。
 だから自分が率直な気持ちをメールという形で伝えたら、悪態の一つや二つぐらい
飛んでくるかも知れない。

「…けど、それが…あいつだから仕方ないか。それでも、これを…送ろうっと…」

 もうちょっと少しぐらい、「愛している」とか「好き」とか言う言葉をキチンと
伝えてくれれば良いのにという欲もあるけれど。
 会えなくても会えなかった頃を思えば、今の状況は信じられないぐらいに
幸せなのだ。
 たった今…挙式をして、一緒に暮らす前の自分の気持ちを思い出して
しまったからこそ…はっきりと言える。
 好きな人間に求められて、こうして共にいられる事はとても幸福な事なのだと…。

「オレの正直な気持ちを…あいつに伝えよう。相手に要求するばかりじゃなくて…
ちゃんと自分から、動かないとな…」

 そう呟きながら克哉は覚悟を決めて…そのメールの最後の部分を打ち込んでいく。
 きっと後から読み返したら羞恥で居たたまれなくて、もしかしたら意地悪なあいつの
事だからずっとからかいの種にしてくるかも知れない。
 それでも良いと…半ば納得していきながら想いを込めて、文面を打ち込んでいった。

―オレを全力で愛して、いつも以上に可愛がって欲しい。だから…お前が帰宅するの
心待ちにしているから。身体にどうか気をつけて。…好きだよ。  克哉より

 それを入力し終わった後、克哉は…頬を赤く染めていた。
 とても素面では読み返せないぐらいに恥ずかしすぎるメール内容だ。
 第三者に読まれたらバカップル丸出しとツッコミを受けても致し方ないと諦めが
つくぐらいに甘ったれた内容だった。
 けれど…自分達は恋人同士で、新婚なのだ。
 …本当にたまにくらい、こういう甘いやり取りをメールでしたって構わない筈だ。

(うわ…死ぬほど、恥ずかしい…!)

 全てを打ち終わり、送信ボタンを押せば転送完了だ。
 だが…暫くフルフル両肩を戦慄かせていきながら克哉はこの期に及んで
迷ってしまっていた。
 けれど…その瞬間、メールを受信していった。
 克哉がEメールの編集画面を開いていたのでそれは一旦、サーバー側に
預けられてすぐに閲覧出来ない状況になっていたけれど…それに気づいて
一旦編集内容を保存して、受信ボタンを押して…その内容を眺めていく。
 メールの送り主は、眼鏡からだった。
 そこにはそっけない文面で、一言だけ書かれていた。

『明日は出来るだけ早く家に帰る。良い子にして俺を待っていろ』

 あいつらしい、簡潔な内容。
 けれど恐らく…今の克哉が一番望んでいる言葉を相手は伝えてくれていた。
 それを見たら、ジワっと嬉しくなって来た。
 言葉が足り無すぎて、時に迷わされることがあるけれど…こうして時に想いを
伝えてくれるのが、その分…愛おしかった。
 そして相手もまた、自分と同じように眠れぬ夜を過ごしていると判った
だけでも…気が楽になった。
 相手を求め、恋しがっているのは克哉だけじゃない。
 その一通のメールは…そう証明してくれている気がして、だから迷いを
吹っ切って…克哉はやっと送信ボタンを押す事が出来た。

 ドキドキドキドキ…。

 胸がそれだけで高鳴っていくのが判る。
 相手が、こちらの率直な言葉をメールで読んで…どんな反応が返ってくるか
気が気じゃない時間がゆっくりと過ぎていく。
 だが、3分も経たない内に即効で返信が届いていった。
 克哉はそれに驚きつつも急いでその内容を確認していくと…。

『俺もお前を好きだ。愛している』

 と…実にシンプルかつ、短く纏められた一言だけが記されていた。
 こちらがあれだけ長々と気持ちを書いたのに比べればあまりに短すぎる一文。
 けれど…それだけで、思わず歓喜の涙が滲むぐらい…克哉は嬉しくなった。

「ありがとう…『俺』…すぐ、返信してくれて…」

 それは時に離れる事になった夜が生じたからこそ、出来たやり取り。
 いつもべったりとしているだけじゃなく…距離が出来る事で、離れてみる事で
相手の重大性みたいなものを人は気づける時がある。
 克哉は愛おしそうにその携帯を胸に抱いていくと…柔らかく微笑みを
浮かべていく。

―このたった一言のおかげで安心して、今夜は良く眠れそうな気がした

 そして克哉は…電灯を消していくと、布団を掛け直してベッドの上に
改めて横たわっていく。

「大好きだよ…」

 それは相手には届かない一言。
 けれど明日、あいつが帰って来たのなら真っ先に伝えて、そして胸に
飛び込んでいこう。
 きっとこちらが積極的な行動に出たら、眼鏡はきっと驚くだろうけれど…
その姿を想像するだけでも克哉は嬉しくて、嬉しくて堪らなくなっていた。

―早く明日になりますように。あいつが帰って来てくれますように…

 小さく祈りながら、克哉はそっと瞼を閉じていく。
 そうして安らかな眠りは…間もなく、克哉の元へ訪れていったのだった―
 
 

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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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