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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ベランダに一歩、踏み出すと…コンクリートは氷のように冷たかった。
 本当は何か履物を履いた方が良いのは判っていたが、そのまま裸足で
手すりの方まで向かっていく。
 鈍色のからは微かに日が照っていて…空を覆う雲は灰色と白の
グラデーションを作り上げている。
 其処に雪の純白が酷く映えて…灰色の町並みを、白にゆっくりと
染め上げていく。
 その様子を…無言で、御堂は眺めていた。

「綺麗…なもの、だな…」

 雪ぐらいで、こんな感傷に浸れるとは思ってなかった。
 エリート街道を突き進んでいた頃は…雪が降ったぐらいで風景に
見惚れるような暇などカケラもなかった。
 ただぼんやりと景色を眺めて、物思いに浸る時間など無駄以外の
何物でもない。
 佐伯克哉、という人間に出会うまでの自分はそう考える人間の筈―だった。

 白い息を吐きながら
 ヒラヒラと粉雪が大気を舞う様子を眺める
 緩やかに降り注ぐそれはとても幻想的で
 見慣れた景色を非日常へと変えてく―
 その中で想うのはただ一人の…面影だった。

「…まったく…君はどこまで、私という人間を変えれば気が済むんだろうな…」

 憎まれ口を叩きながらも、その顔に笑みが浮かんでいた。
 そのまま…シンシンと降り注ぐ様子をそっと眺めていると…身体が冷たいな、と
やっと感じ始めた。
 パジャマしか着てない上に裸足でいれば…当然なのだが、そろそろ部屋に
戻ろうかと思い始めた矢先に、急に暖かな腕に包まれていく。

「…佐伯、か…?」

「あぁ…そうだ」

「…どこに、行っていたんだ…? 朝起きたら…お前の姿がなかったから…
探した、んだぞ…?」

「…すまなかったな。…そろそろ冷蔵庫の中身が乏しかったら、あんたが
寝ている内に買い出しに行ってた。…一人にさせて悪かったな…」

「あっ…」

 コメカミの辺りに小さくキスを落とされて、つい甘い声を漏らしていく。
 そのまま克哉の唇が首筋を伝い…軽く其処に痕を刻み込んでいた。
 どうしよう、と思った。
 昨日まではそうされると…感じるよりも先に、戸惑いの感情が先立っていた。
 しかし…今は違う。純粋に…感じて、いた…。

「…それより、も…御堂。こんな処にいたら、風邪…引くぞ…?」

 相手の吐息が、声が…自分の耳元に掛かっていく。
 それだけでゾクゾクと背中が震えて…甘い痺れが走っていった。
 暫く、二人はその後は…無言のままだった。
 ただ…克哉が自分を強く抱きしめてくれている…その腕の強さに
彼の気持ちがこもっている気がして…嬉しかった。

 トクン、トクン、トクン…トクン…。

 息遣いと共に、相手の鼓動が背中の方に感じられる。
 少し早めながらも…こんなに穏やかな音をしていたのだと…初めて気づく。
 お互いの白い息が、微風によって宙にフワフワと浮かんでいた…。

「…引かないさ。お前が…こうして、抱きしめてくれているのなら…な…?」

「…っ!」

 御堂から、そんな返答が戻ってくるとは予想もしてなかったのだろう。
 克哉が言葉に詰まり、答えに窮していく。
 ふと、今の彼の表情をこの目で見たい衝動に駆られていく。
 …困惑している彼の腕からするりと抜け出すと…御堂はそのまま
少し腰を落としてベランダの手すりに…両腕で身体を支えるようにして
寄りかかっていた。

「御堂…何がおかしいんだ…?」

「ん? いや…君の驚いている顔など…こうやってゆっくりと見たのは
初めて…だからな。意外に愉快なものだと思ってな…?」

 そうして、初めて穏やかな眼差しで佐伯克哉という男を見つめた。
 こういう格好になると…彼よりも目線が低くなる形になった。
 自分の方が確か少しだけ高いせいで…こんな高さで克哉の顔を
見るのは久しぶりだった。

「そう、か…」

 克哉がふてくされた表情で、眼鏡を押し上げる仕草をする。
 自分の真意を図りかねている。
 そんな戸惑いの表情を浮かべている彼が…何か愛しく感じられた。

「佐伯…私は、君がそんな顔が出来る人間だとは…以前、監禁されていた
時は考えもしてなかった…」

 監禁、という言葉に…克哉の顔に緊張が走っていく。
 憎まれごとでも言われるとでも思ったのだろう…固唾を呑んで御堂の次の言葉を
待っていた。

「…あの時は、君が憎くて…仕方なかった。君の元に堕ちてやるものか!
私は君が…酷い事をすれば、するだけ…意地になった。
 けれど…あぁ、北風と太陽の寓話というものがあったな。私達の関係は
それに凄く良く似ている…そう、思わないか? 佐伯…?」

 そう、今思えば…自分達の関係はそのままあの有名な寓話に
当てはまっていた。
 佐伯克哉という人間が御堂孝典という人間を手に入れようとやっきになって
酷い行為を続けている時は、決して自分は彼に心を預けようとしなかった。
 しかし彼が…慈悲の心を見せて、この身と心を暖めてくれた時―自分は
心から、彼に惹かれた。

「御堂…それ、は…」

 克哉とて、その有名な話ぐらいは知っている。
 同時に…言葉の意味を察して、まさか…と思っているようだった。
 驚愕に目を見開き、その唇を細かく震わせている。
 …この傲慢な男に、こんな顔をさせているのが自分だと思うと…御堂は
愉快で仕方なかった。

「佐伯…」

 初めて、心の底から彼を愛しいと思って笑顔を浮かべる。
 今なら…彼の伝えてくれた言葉の数々を受け入れて、信じられる。
 だから御堂は、本当に嬉しそうに笑っていた。
 そのまま…彼の腕の中に勢い良く飛び込んで、その首に強く強く
こちらから抱きついた―。

『私も君が好きだ―』

 そうして―ずっと克哉が待ち望んでいた言葉が
初めて、御堂の口から紡がれた―。
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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