鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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―ずっと、この一年間二人を見守っていた。
もう一人の自分は…オレを必要としていない事ぐらい判っていた。
だからずっと大人しく息を潜めて…彼の内側から、自分は見守り
続けていた。
時々、彼と繋がって…夢の中で言葉を掛けた事があったが、それに
決して甘えることもなく、こちらが手を伸ばしても受け入れられる事もなく。
傍観者でいる事しか、出来なかった。
(やっと…貴方に手を伸ばせる…!)
久しぶりに肉体のコントロール権が戻って、何分かは動けずにぐったり
しているしかなかった。
だが指先から…徐々に動かせるようになると、もう一人の克哉は―
銀縁眼鏡をゆっくりと外し始めた。
「…君、は…」
御堂は、ぎょっとなった。
一瞬で…自分を無理やり抱こうとしていた男の表情が豹変したからだ。
どこか鋭利で冷たい印象を持つ顔が、あっという間に穏やかで頼りなげな
ものに変わっていく。
(そういえば…初めて会った時の佐伯の顔は…こんな感じだったな…)
あの本多という、暑苦しくて体育会系まっしぐらな男と一緒に自分の処に
乗り込んで来た時は何て使えそうにない奴だ、としか思わなかった。
眼鏡を掛けた瞬間から…まったくの別人のような印象になって
―そして、自分の苛立ちが生まれるキッカケとなったのだ。
「本当に…御免なさい。御堂…さん…」
「………さん、だって…?」
目覚めてからはずっと、佐伯は自分の事を「御堂」と呼び捨てにしていた
筈だった。しかもさっきまでと全然声まで違う。
こんなに情けない様子の佐伯の声なんて…随分前に聞いたきりだ。
状況についていけずに困惑の表情を浮かべていると…強い力で
抱きしめられていく。
―それはどこまでも暖かい抱擁だった。
「さ、えき…君は…一体…」
なんなのだ? という問いかけはすでに言葉にならない。
ただどこまでも優しく抱きすくめられて…それでやっと、身体の力が
抜けていく。
こんな風に…彼に優しく抱きしめられた事など、初めてだった。
性的な意味合いを持たない、慈愛に満ちた腕の中は…御堂の中にあった
憎しみの感情を容赦なく溶かしていく。
もう一人の克哉は…泣いていた。
ただ静かな涙を頬に伝らせて…切ない表情を浮かべながら、御堂の
顔を優しく撫ぜ続けていた。
「御堂、さん…」
穏やかな、声で何度も飽く事なく…御堂の髪や頬に指を滑らせていく。
相手の涙が…御堂の頬に静かに落ちた。
顔がゆっくりと寄せられて…その唇が静かに重ねられた。
―それを拒む事なく、静かに御堂は受け入れていた。
(…この一年、ずっと…見ていた。どれだけもう一人の俺が…貴方を
愛していたかを…)
口は、上手く動いてくれない。
だから…克哉は、態度で相手への愛情を示し続けた。
自分は傍観者だった。
それだから、客観的な視点を持って判断出来た。
この人は紛れもなく…眼鏡を掛けた方の自分を想ってくれている。
あれだけ献身的に一年以上も世話を焼き続けていた、もう一人の自分の
努力は…実り始めていたのだ。
だからこそ、壊したくなかった。
やっと二人の間に芽生えた愛情の芽を守りたいと思った。
その強い想いが…強固な殻を突き破り…ほんの短い時間だけでも
こうして一年ぶりに表に出る事が出来たのだ。
「佐伯…私には、君が判らない…」
御堂も泣きそうな声で、呟いていた。
しかし…先程無理やり自分を貫こうとしていた克哉の性器が今は静まって
力を失っているのに気づくと…初めて、自分から彼を抱きしめていく。
こんなに…彼の身体を暖かいと思った事など、初めての事だった。
「…御堂、さん…これだけは…聞いて、欲しいんです…。どんなオレでも…
オレは、貴方を心から愛している…と…それだけは、忘れないで…下さい…」
本当は、自分が言うべき言葉ではない…と判っていた。
しかし…もう一人の自分は実は凄く不器用だという事も、知っていた。
眼鏡は酷く慎重になっていて…多分…御堂に想いを伝えるにはかなりの
時間を要するだろう。
けれど御堂は…たった一言、こちらの方から確かな想いを口にすれば…
心を開いてくれる筈だ、と確信があった。
それは人の心を読み取るのに長けた…穏やかな方の克哉だからこそ
判った事だった。
「…私、も…だ…」
御堂も、力なく応えて…こちらの身体をぎゅっと抱きしめていた。
それを感じて…急速に、意識が消えていくのが判った。
涙を流しながら、克哉はしっかりと…御堂を抱きしめていく。
自分がこうやって、表に出て…この人に触れる事はもう二度と
出来ないのかも知れない。
けれど、自分はそれでも良いと思った。
もう一人の自分も…紛れもなく自分自身なのだ。
どれだけ別人のようであったとしても…自分たちは確かに繋がっていて。
彼の悲しみは、自らの悲しみであり。
彼の喜びは、自分の喜びでもある。
例え二度と…こうして表に出る事は叶わなくても。
この二人が幸せならば…それで良い、と…克哉は思っていた。
(さようなら…御堂さん。もう一人の俺とどうか…幸せになって下さい…)
心からの願いを込めて…もう一人の自分に、この身体を返していく。
そのまま…穏やかな眠りが、御堂と…克哉の間に訪れた。
静かにその身を寄せ合って…ただ、間近に相手の体温と寝息を
感じ取っていく。
目覚めてから一ヶ月間、初めて二人の間に…こうして穏やかで
優しい時間が生まれたのだった―。
もう一人の自分は…オレを必要としていない事ぐらい判っていた。
だからずっと大人しく息を潜めて…彼の内側から、自分は見守り
続けていた。
時々、彼と繋がって…夢の中で言葉を掛けた事があったが、それに
決して甘えることもなく、こちらが手を伸ばしても受け入れられる事もなく。
傍観者でいる事しか、出来なかった。
(やっと…貴方に手を伸ばせる…!)
久しぶりに肉体のコントロール権が戻って、何分かは動けずにぐったり
しているしかなかった。
だが指先から…徐々に動かせるようになると、もう一人の克哉は―
銀縁眼鏡をゆっくりと外し始めた。
「…君、は…」
御堂は、ぎょっとなった。
一瞬で…自分を無理やり抱こうとしていた男の表情が豹変したからだ。
どこか鋭利で冷たい印象を持つ顔が、あっという間に穏やかで頼りなげな
ものに変わっていく。
(そういえば…初めて会った時の佐伯の顔は…こんな感じだったな…)
あの本多という、暑苦しくて体育会系まっしぐらな男と一緒に自分の処に
乗り込んで来た時は何て使えそうにない奴だ、としか思わなかった。
眼鏡を掛けた瞬間から…まったくの別人のような印象になって
―そして、自分の苛立ちが生まれるキッカケとなったのだ。
「本当に…御免なさい。御堂…さん…」
「………さん、だって…?」
目覚めてからはずっと、佐伯は自分の事を「御堂」と呼び捨てにしていた
筈だった。しかもさっきまでと全然声まで違う。
こんなに情けない様子の佐伯の声なんて…随分前に聞いたきりだ。
状況についていけずに困惑の表情を浮かべていると…強い力で
抱きしめられていく。
―それはどこまでも暖かい抱擁だった。
「さ、えき…君は…一体…」
なんなのだ? という問いかけはすでに言葉にならない。
ただどこまでも優しく抱きすくめられて…それでやっと、身体の力が
抜けていく。
こんな風に…彼に優しく抱きしめられた事など、初めてだった。
性的な意味合いを持たない、慈愛に満ちた腕の中は…御堂の中にあった
憎しみの感情を容赦なく溶かしていく。
もう一人の克哉は…泣いていた。
ただ静かな涙を頬に伝らせて…切ない表情を浮かべながら、御堂の
顔を優しく撫ぜ続けていた。
「御堂、さん…」
穏やかな、声で何度も飽く事なく…御堂の髪や頬に指を滑らせていく。
相手の涙が…御堂の頬に静かに落ちた。
顔がゆっくりと寄せられて…その唇が静かに重ねられた。
―それを拒む事なく、静かに御堂は受け入れていた。
(…この一年、ずっと…見ていた。どれだけもう一人の俺が…貴方を
愛していたかを…)
口は、上手く動いてくれない。
だから…克哉は、態度で相手への愛情を示し続けた。
自分は傍観者だった。
それだから、客観的な視点を持って判断出来た。
この人は紛れもなく…眼鏡を掛けた方の自分を想ってくれている。
あれだけ献身的に一年以上も世話を焼き続けていた、もう一人の自分の
努力は…実り始めていたのだ。
だからこそ、壊したくなかった。
やっと二人の間に芽生えた愛情の芽を守りたいと思った。
その強い想いが…強固な殻を突き破り…ほんの短い時間だけでも
こうして一年ぶりに表に出る事が出来たのだ。
「佐伯…私には、君が判らない…」
御堂も泣きそうな声で、呟いていた。
しかし…先程無理やり自分を貫こうとしていた克哉の性器が今は静まって
力を失っているのに気づくと…初めて、自分から彼を抱きしめていく。
こんなに…彼の身体を暖かいと思った事など、初めての事だった。
「…御堂、さん…これだけは…聞いて、欲しいんです…。どんなオレでも…
オレは、貴方を心から愛している…と…それだけは、忘れないで…下さい…」
本当は、自分が言うべき言葉ではない…と判っていた。
しかし…もう一人の自分は実は凄く不器用だという事も、知っていた。
眼鏡は酷く慎重になっていて…多分…御堂に想いを伝えるにはかなりの
時間を要するだろう。
けれど御堂は…たった一言、こちらの方から確かな想いを口にすれば…
心を開いてくれる筈だ、と確信があった。
それは人の心を読み取るのに長けた…穏やかな方の克哉だからこそ
判った事だった。
「…私、も…だ…」
御堂も、力なく応えて…こちらの身体をぎゅっと抱きしめていた。
それを感じて…急速に、意識が消えていくのが判った。
涙を流しながら、克哉はしっかりと…御堂を抱きしめていく。
自分がこうやって、表に出て…この人に触れる事はもう二度と
出来ないのかも知れない。
けれど、自分はそれでも良いと思った。
もう一人の自分も…紛れもなく自分自身なのだ。
どれだけ別人のようであったとしても…自分たちは確かに繋がっていて。
彼の悲しみは、自らの悲しみであり。
彼の喜びは、自分の喜びでもある。
例え二度と…こうして表に出る事は叶わなくても。
この二人が幸せならば…それで良い、と…克哉は思っていた。
(さようなら…御堂さん。もう一人の俺とどうか…幸せになって下さい…)
心からの願いを込めて…もう一人の自分に、この身体を返していく。
そのまま…穏やかな眠りが、御堂と…克哉の間に訪れた。
静かにその身を寄せ合って…ただ、間近に相手の体温と寝息を
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目覚めてから一ヶ月間、初めて二人の間に…こうして穏やかで
優しい時間が生まれたのだった―。
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HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
鬼畜眼鏡にハマり込みました。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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