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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 最初その言葉を聞いた時、克哉は信じられなかった。
 しかし御堂から初めて強い力で抱き付かれて…少し時間が経ってやっと…
その言葉がじんわりと胸の中に沁みていく。

 自分が御堂を欲しかったから、あれだけ酷い行為を繰り返していたのだと
気づいた時にはもうすでに遅くて…。
 人形のようになっていた彼を前にして、もう二度と彼に自分の想いは届く事も
ないのだと…何度絶望に陥ったのかも判らない。
 だから、本当にこれは夢ではないのか…と思った。
 しかし腕の中にいる、相手の暖かさだけは…本物、だった。

「み、どう…」

 気を抜くと、涙が零れそうだった。
 しかし…その顔を相手に見られたくなくて、彼の肩に顔を埋めてしっかりと
抱きしめ返していく。
 相手の息遣いが、体温が、鼓動が全て愛おしい。
 二人は雪の降り注いでいるベランダで…しっかりと抱き合い、お互いを
確かめ続けていた。

「…佐伯…」
 
 御堂が瞳を細めて、静かに顔を寄せて来る。
 吸い寄せられるように…唇を重ね、その背中を掻き抱く。
 パジャマ姿の相手が冷えないように、強い力で引き寄せて…熱い舌先を
お互いに絡ませ合う。
 クチュ、ピチャ…という水音がお互いの脳裏に響き合い。
 ドックンドックンという心音がうるさいくらいだった。
 ようやく唇を離すと…御堂は間近で愛しい男の顔を見つめていく。
 その顔は甚く、満足そうであった。

「…君にそんな顔をさせているのが自分だと思うと、気持ちが良いものだな…」

「そんな顔って、どんな感じなんだ…? 自分では鏡が無ければ、
判らないからな…」

「少し拗ねたような…私の言葉に困惑しているような、そんな顔だ。
以前は…君の意地悪そうか、傲慢に微笑んでいる顔しか見たことが
なかったからな…」

「…悪かったな」

 憮然と言い返す様がまたおかしくて、ククっと笑いを噛み殺していく。
 けれど…以前の作り物のように一切、表情を変えなかった頃に比べれば
からかわれているって判っていても、御堂が笑ってくれる方が何万倍もマシだ。

「…で、君からは返さないのか?」

 不満そうに御堂が尋ねると、とっさに何の事を言っているのか察する事が
出来なかった。

「…何をだ?」

「改めて、君の気持ちを…口にしてくれないのか?」

「…俺は、何度もあんたに対して言っているだろ…?」

「私は、今…聞きたい。今なら…君の言葉を信じて、受け入れられるからな…」

 今思い返せば…正気に戻った日に泣きそうな顔を浮かべながら
克哉はこちらに想いを伝えてくれていた。
 あの時は信じられなくて、そんな言葉を聞いても困惑と混乱しか生まれなかった。
 けど…彼に対してのわだかまりを無くした、今なら信じられる。
 だから…心の底から、もう一度…聞きたかった。

「そんなにお望みなら、幾らでも聞かせてやる…覚悟、しておけ…」

「…んっ…」

 克哉の唇が、耳元に触れて…彼の微かな息遣いと共に…腰に響く
低く掠れた声が鼓膜に直撃してくる。

「…御堂、孝典…俺はあんたを…心から、愛している―」

 そうして、強く強く…愛しい人の身体をしっかりと克哉は抱きしめていく。
 御堂も同じくらいの強さで抱きしめ返していた。
 お互いの心は、幸福感でいっぱいだった。

『良かったね…』

 ふいに、脳裏に…もう一人の自分の祝福する声が響き渡った。
 一瞬…どうしようかと思ったが、そのまま…無理に抑え込まずに好きなように
させておいた。
 かつては、もう一人の自分の甘さや弱さが許せなかった。
 こんな奴と同じ身体を共有しているのも歯痒くて、正直良い印象を持っていなかった。
 だから…今までは封じ込めて、表に一切出さないようにしていたのだが…。

(…だが、こいつが御堂の心を解してくれなかったら…俺と御堂は上手くいかなかった
可能性もあるからな…)

 悔しいが、こいつが甘ったれた事を言ってくれたおかげで…昨日までと違って
御堂の態度は別人のようだった。
 以前はそんな甘えなど邪魔なだけだと考えていたが、御堂の幸せそうな顔を見ていると
そこまで…もう一人の自分を否定する気持ちがなくなっていた。
 だから、初めて…甘すぎる性格をした自分を、受け入れ始めていた。

(…まあ、良い。とりあえず、好きにしていろ。お前の功績は確かにあるからな…)
 
 それからゆっくりと…もう一人の自分の心が、緩やかに溶け込み始める。
 御堂の心が閉ざされた日から、自分の胸の中には黒に近い濁った灰色の気持ちが
広がり、占めていた。
 しかし今はゆっくりと変化し始めていく。
 黒と白が混ざり合い、光に照らされて…銀色へと、変化していく。
 自分の中に優しさとか慈愛とか、そんな感情が染み渡っていくのが…不思議と
悪い気持ちではない。
 気づけば…克哉の方にも、穏やかな表情が浮かび始めていた。

「…君の今の顔、好きだ。とても…優しい、からな…」

「そうか。あんたの顔は…どんな顔でも、そそるぜ…例えば俺に必死に縋り付いて
くる時…とかな・・・?」

 耳朶を甘く食まれながら…そんな際どい事を言われれば、御堂の顔は
真っ赤に染まるしかない。

「佐伯っ! 君はどうして…こんな時も…!」

「こんな時だから、言うんだ。あんたの可愛い顔を沢山拝めるからな…?」

「…まったく、本当に君という男は…」

 気づけば、いつものように強気な笑みを浮かべられていたが…先程の
穏やかな顔も、この顔も…今ではすっかり愛しいと感じられるようになったのだから
仕方が無い。
 もう一度…克哉の顔がゆっくりと寄せられてくる。
 御堂はそれを…静かに瞳を伏せて、受け入れていった―。
 
 それと同時に…一瞬だけ街並みに強い陽光が差し込み、白い雪が積もった世界を
眩いばかりの白銀に染まった―

 それは…二人を祝福しているかのように…神々しく美しい光景だった。

 白い雪がヒラリヒラリと舞い落ちる。
 それはまるで雪の精が輪舞を踊っているかのような
幻想的な光景だった。
 この白銀の輪舞が終わり…街を覆っている白い雪が溶け終わる頃には
恐らく二人の間に…確かなものが生まれているだろう。

 絆と呼ばれる、互いを想い合う気持ちが―
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楽しく読ませていただきました!
毎日、楽しみに読んできました。
途中、二人の想いのすれ違いに何度も歯がゆい思いをしましたが、無事に想いを寄せあえれるようになってよかったです。これってノーマル克哉のおかげですよね!
これからも克哉と御堂さんが幸せでいられますように…。
では、次回作も楽しみにしています。
シェリル 2007/11/29(Thu)11:34:53 編集
拝読ありがとうでした!
 シェリルさん、初めまして!
 白銀の輪舞の方の感想、どうもありがとうございます! 私もすれ違っている部分は歯痒いな~と書いてて思ってました(笑)
 けれど、どうにか幸せになってくれて本当に良かったです。
 通常のEDだとN克哉が出て来る余地がないのでせめて心の中に居るのだけでも認めてあげればな…というのもこの話を書いた動機だったりします。
 多分その内、幸せになったその続きをオフとかでこっそり書いているかも知れません。
(まだ書き足りてないし…)
 次回作も楽しんでもらえれば幸いです。
 ではでは!!
香坂 幸緒 2007/12/01(Sat)18:17:37 編集
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香坂
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女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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