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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※お待たせしました。本日から連載再開です。
間が開いてしまったので過去のリンクも貼っておきますね。

 夜街遊戯(克克)                              

 
 ―もう一人の自分が、他の誰かと楽しそうに話している

 その事実に酷く心がざわめいているのが判る。
 こうして目の前にいるのに、誰かと一緒にホテルに入る所なんて
見送りたくなどなかった。
 そして…すぐ隣に座っているユキという男性も、同じ思いのようだった。
 少しだけこの偶然に克哉は感謝していた。

 この街に来るのは初めての克哉でも、相手が見つかっている人間に
割り込むように声を掛けたりするのはタブーだというのは…この店の
空気を読めば、何となくは察していた。
 初めて来る場で、克哉一人だけでは…そのタブーを犯す勇気はなかなか
持てないでいただろう。
 けれど克哉は直感的に察していた。言葉の端々と、チラチラとリョウと
名乗る青年を見る仕草と表情から、彼もまた…目の前で想い人が他の男と
消えるのを快く思っていない事を。

―ここで見送るのが、本来のハッテン場でのルールであり、流儀だ。

 眼鏡とリョウ、と名乗る青年との間に割り込むよりも…このブルーコンタクトを
嵌めた黒髪の青年と会話を続けた最大の理由。
 それは、今…この場で確実に克哉と利害が一致する存在は彼以外に
いなかったからだ。

「ねえ、ユキさん…一つ聞いて良いですか?」

「何だい?」

 その瞬間、克哉は潜めた声で相手の耳元で告げていく。

「…リョウさんが、あいつとホテルに入ったらどんな気持ちですか…?」

「っ…!」

 その瞬間、相手の目が一瞬だけ激しく揺れていった。
 すぐに取り繕うと必死になっている。
 けれどその激しい感情の揺らめき…それが雄弁に、彼の心境を
克哉に教えてくれていた。

(やっぱりこの人は…あの人に対して、本気なんだな…)

 遊び人に見えても、場数を踏んだ経験豊富そうに見える男性でも…
本気で誰かを想う気持ちは、変わらないものだとその反応で判った。
 
「…どうして、そんな事を聞くんだ…?」

「…貴方に、協力して欲しいからです…」

 その瞬間、克哉の瞳が強く揺れていく。
 今、自分が考えていることが大胆極まりないことは判っている。
 けれど…優柔不断で、オロオロしている内に…今夜も彼の背中を見送る
ことになるぐらいなら、動きたい。
 克哉は心からそう考えていた。
 詳細は話していない。けれど会話の流れと状況から…その一言でユキという
男性は、克哉が何をしたいのかを察していったようだ。
 途端に難しい表情になって、心配そうに問いかけてくる。

「…正気か? …確かにお前さんはこの場が初めてだからしょうがないと
思うが…一応この店は、その日の相手が見つかった相手に割り込むのは
ルール違反だ。暗黙の了解と言い換えても良い…それを判っているのか?」

「はい、判っています。はっきりと教えて貰っている訳ではないですが…
他の客の動きとかそういうのを見れば、二人で話している人間の間には
店の人間も滅多に割り込まないようになっている。それぐらいは
観察していれば判りますから…」

「…初めて店に入った人間が、そんな真似したら次回からは門前払いを
食らうぞ…まったく、大人しそうな顔して…意外に大胆だったんだな…」

 二人は他の人間に聞かれないように、顔を寄せ合いながら…会話を
続けていく。
 だが、先程と違ってどれだけ近くにいても色事の匂いはまったく感じない
会話のやりとりだった。

「けど、オレは…嫌、なんです。あいつが目の前にいるのに…他の誰かと
消えるのは、どうしても…見過ごしたくない、んです…」

 こういう場で、こんな我侭を言うのはタブーだって判っている。
 多くの男が、その日の相手を求めて集う場所。
 独占欲や嫉妬、その他もろもろのドロドロしたものを引きずらないという
ルールで成り立っている場で、こんな事をいう克哉はきっと異端者以外の
何者でもない。
 けれど、染まっていないからこそ…克哉は割り切れない。

「…そんなに、あの男が好きでしょうがないって事か…? お前さんにとって…」

 その言葉を問いかけられた時、一瞬…素直に答えるかどうか迷った。
 しかし…すぐに大きく頷いて肯定していった。
 ここで嘘をついても、誤魔化しても何もならないと思ったからだ。
 もう一人の自分に会いたいと思っているからこそ、此処まで来た。
 けれど初めて来る場所に合わせて、その本音を押し殺せる程…克哉は
器用な性分ではないのだ。
 涙をうっすらと浮かべながら、初対面の相手にこんな事を吐露するのは
間違っているのかも知れない。
 けれど…駆け引きが出来ないのなら、味方になってもらうには本音を
ぶつけるしかないと思った。

「…そうです。好きで…堪らないんです…あいつの、事が…」

 だから…自分をナンパしてここまで連れて来た男性にこう正直に答えることは、
馬鹿にされても仕方ないと半ば覚悟の上で、自分の本心を相手に告げていった。
 暫く無言で見詰め合っていく。それから…少しして盛大にユキは
ため息を突いていった。

「…ったく、こういう街に慣れてないにも程があるな…お前さん。
けど、正直言うと…俺はそんなピュアな気持ちって奴から、
随分と遠ざかってしまっていたな…」

 そうして…諦めたような、遠い目になっていった。

「…誰かを真剣に想うのは、怖いからな。相手を好きになればなるだけ…
その一言一句に支配されて、無駄に傷ついて消耗して…。それに疲れて
本気の恋愛から逃げて、俺はこの街を彷徨うようになっちまった…。
だから、嫉妬とか独占欲とか感じても…意識しないように努めていたんだがな。
ったく…目を逸らしていたもんを、わざわざ気づかせてくれちゃってなぁ…」

「ユキ、さん…?」

 その瞬間、ユキの目は随分と悲しげなものになった。
 それはおどけた態度に隠されていた彼の本心、素顔だった。
 今目の前にいるのは…最初に見た、この場に慣れた遊び人風の男性ではない。
 克哉と同じように、誰かを想って…惑い苦しむ存在だった。

「…まったく、純粋な気持ちっていうのは性質が悪いね。おかげで…
気づいちまったよ。俺はあいつを、取られたくないって本心にさ…。
どう責任取ってくれるんだ…?」

「…出来る限り、貴方に協力します」

 克哉は強気に微笑みながら、はっきりした口調でそう告げた。
 恐らく…これは最大のチャンスであり、好機だ。
 今…目の前にいる彼を捕まえなかったら、きっともう二度とこの街の中で
もう一人の自分を見かけることはないような気がしていた。
  こうして自分がユキと出会い、そしてもう一人の自分に声を掛けた存在が
この男性の想い人であるという…その偶然を生かさなかったら、きっともう
ダメなような気がしていた。

「だから…貴方も、協力して下さい…お願いします…。オレはあいつを…」

 そう、真剣な顔で告げようとした瞬間…ユキは、首を振った。

「…もういい。言わなくても…充分、お前さんの気持ちは伝わったから…」

 そうして、緩やかに彼は笑っていく。
 その顔は…迷いが払拭されていた。

「あ~あ、この店…結構気に入っていたんだがねぇ。まあ…欲しいものを
手に入れる為なら、これぐらいの代価は覚悟するべきかねぇ…」

「えっ…? 何を…?」

 克哉が相手の呟きの意味を理解出来ずに呆けた顔を浮かべていくと
彼はいきなり立ち上がっていき、ニっと笑っていった。
 そうしてガシっと克哉の手を握っていくと…力強く微笑んでいった。

―そしてユキは、これから自分がどう動くかを…密やかな声で
そっと克哉に耳打ちして伝えていったのだった―
 




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初めまして
今晩は。初めまして。真奈美と申します。私はパソコンを持っていないので、鬼畜眼鏡は未プレイですが、これからもお宅様のサイトを見に来てもよろしいでしょうか?
真奈美 2009/03/24(Tue)22:45:31 編集
構いませんですよ~
 こんにちは、初めまして。
 未プレイの方でも、鬼畜眼鏡に興味があるのならば…気軽に読んでやって下さいませ。
 読み手の方がどんな理由でもこちらのサイトに興味を持って下さって、閲覧してくれているっていうのは励みになりますからね。
 文章しかほぼないサイトですが、興味あるものがありましたら読んで下さいませ。
 返信遅れてしまってすみません。
 それでは失礼致します(ペコリ)
香坂 2009/04/02(Thu)00:09:00 編集
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

 当ブログサイトへのリンク方法


URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/

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