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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※え~と…気合入れて書いたら、一回に投稿出来る文字数オーバーしました。
 けど、一応ワンセット扱いなので二回に分けて投稿します。
 …気づいたら、最終話だけで14P行きました。
 投稿出来る限界超えるまで書くなよ、自分ってツッコミ入れたいです。
 これが正真正銘の最終話です。良ければお付き合い下さいませ…。

夜街遊戯(克克)                                     10 
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 目の前で克哉がポロポロと涙を零している姿を見て、もう一人の自分もまた
ぎょっとなっていった。


おい、どうした!」

 煙草を吸っていた、もう一人の自分が顔を青ざめながら問いかけて来た。

想い、出したよ

「何っ!?」

 その一言を放った瞬間、眼鏡の顔は苦々しく歪んでいった。
 
「…お前が、本気で怒ってくれたのを…」
 
 涙をうっすらと浮かべながら、克哉が呟いた瞬間…眼鏡は瞠目して
言葉を失っていく。
 けれど相手の目の前で透明な笑顔を浮かべながら、そっと言葉を続けていく。
 
「どうして、その事を…! 忘れさせた、筈なのに…」
 
 その一言が耳に届いた瞬間、昨晩の最後の記憶が一瞬だけの脳裏に浮かんでいった。
 
―こいつから、昨晩の記憶を全て奪え…お前なら、それぐらい出来るだろう…
 
―ええ、お安い御用ですが…本当に、宜しいんですか?
 
―嗚呼、辛いだけの記憶なら覚えていない方がいいだろう。こいつがいつまでも辛気臭い
顔をし続けていたら…うっとおしいだけだからな…
 
―本当に、それだけですか…?
 
―…余計な詮索は良い。早く…やるんだ…
 
―はい、それが貴方の望みながら…叶えて差し上げましょう…我が主…
 
 それが、意識を失う直前の最後の記憶。
 全ての符号が克哉の中で組み合わさっていく。
 もう一人の自分が、本気で怒って自分の体を乗っ取った事。
 そして激しく抱いた後に、Rにこちらから記憶を奪わせたこと。
 その二つの事実から浮かび上がるものは…不器用ながらに、相手がこちらを思い遣って
くれていたというその想いだった。
 本当にどうでも良い…遊び程度にしか感じていない相手に、そこまで人は怒らない。
 
―こいつは、俺のものだ…!
 
 そう生々しく自分の頭の中で叫んでいた、もう一人の自分の魂の叫びをようやく
思い出すことが出来て…克哉は嬉しかった。
 その怒りこそが、真実だと…何より、もう一人の自分の本心を教えてくれているような…
そんな気がしたから。
 
「…忘れたく、なかったんだ…。お前が、オレの事で、本気で怒ってくれた事を…。
だって人間、どうでも良い奴の為に本気で怒ったりしないだろ…。
勝手な思い込みかも知れないけど…お前が、あの時…本気でオレの為に怒って
くれたのが嬉しかったんだ…。だから、忘れたく…なかった…」
 
 泣きながら、それでも克哉もまた不器用に自分の気持ちを目の前の相手に伝えていく。
 保護欲を掻き立てられるような、儚い表情。
 それを見て…眼鏡は慌てて、煙草の火を消して…克哉の方へと距離を詰めて…
自分の腕の中に抱きすくめていく。
 お互いに、言葉が出なかった。
 けれど胸の中に満ちるのは…とても温かくて、幸せな気持ち。
 幾重にも重ねられた虚飾の中に隠されていた、本当の想い。
 それが意地も自尊心も…ようやくかなぐり捨てることが出来たこの時に、
やっと相手に伝えることが出来た。
 
「馬鹿が…」
 
 相手の肩口に顔を埋めて、泣きじゃくる克哉に向かって…彼は小さくそう呟いた。
 けれど…本心から嘲っている訳ではなかった。
 
「御免…お前が、オレの事を思い遣って…それでMrRに忘れさせるように
頼んだっていうのは…判っている、けど…」
 
「もう良い…何も、言うな…」
 
 そう言いながら…克哉の唇をそっと己のそれで塞いでいく。
 温かくて優しい気持ちが満ちていく。
 涙で視界が霞んで…相手の輪郭すら曖昧になった。
 彼の背後では夜が完全に明けようとしていた。もう一人の自分が光に包まれて
輪郭すら曖昧にしていく。
 その瞬間、克哉は確かに見た。
今まで見たことがないくらいに優しく…もう一人の自分が微笑んでくれた事を。
 
言葉よりも、時に…行動や態度に、人の気持ちというのは現れる。
あまり好きだと言ってくれるような甘い男ではない。
けれどその時、克哉は…自分の事を、もう一人の自分もまた想ってくれている
その事実を実感出来たのだ。
 
「大、好きだよ…」
 
 少しずつ幻のように消えようとしている彼に向って…儚く微笑みながら
克哉はそう告げていく。
 そう、朝がくればいつだって彼は消えてしまう。
 本来なら会えない存在。対峙することも恋をすることも…この奇妙な現象が
なければ叶わない相手。
 だから…余計に、本気になったと自覚した時は不安だった。
 けれど…もう、良い。自分は紛れもなくコイツが好きで…相手もまた、こっちを
大切に想ってくれている。
 それがこの一か月で判ったから…だから、またいつになるか判らないけれど
会える事を祈って、想いを伝える言葉を口に出していく。
 
「あぁ、俺もだ…」
 
 一か月前に、告白した時と同じ言葉のやりとり。
 けれど…あの時よりもずっと気持が通い合っている実感があった。
 光の中に、眼鏡の姿がゆっくりと消えようとしている。 
 それを見送りながら…克哉は心からの笑顔を浮かべていった。
 
「嬉しい、よ…やっと…お前に、そう言って貰えた…」

 「そう、か…」

 克哉のその顔を見た瞬間…今まで小さなプライドに拘って想いを
告げようとしなかった事が本当に、馬鹿らしく思えた。
 たった一言…素直に告げれば、こいつはこんなに嬉しそうな顔を
浮かべたのに。

(俺も十分に馬鹿だったな…ちっぽけな事に拘り続けていた…)

 克哉のその笑顔が、その愚かしさに気づかせてくれた。
 もう少し一緒にいてやりたかったが…もうリミットのようだった。
 最後に、もう一度だけ小さくキスを落としていくと
…もう一人の自分は
穏やかに微笑み…そして、目の前で幻のように
消えていく。
 そして…部屋の中に残されたのは、克哉一人だけだった。
 
「…ありがとう、『俺』…」
 
 そう呟いて、克哉はそっと目を閉じていった。
 この一か月…夜の街を舞台に、本当に色々あったと思う。
 けれど…その出来事があったからこそ、彼は虚飾の中に覆い隠された真実を
見出すことが出来た。
 遊びではなかった。あいつもこっちを想ってくれていた。
 その事実が…本当に嬉しくて、仕方なくて。後から後から嬉し涙が溢れて来た。
 
「もう…迷わない、から…。お前の気持をしっかりと知ったから…な…」
 
 どれだけ苦しい夜も、いつかはこうして夜明けを迎える。
 長らく迷い…この恋について悩み続けた。けれど自分の答えはとっくに
出ていたのだ。
 
「…出来るだけ早く、次に会える事を祈っているよ…『俺』…」
 
 そう呟きながら、克哉は身体を起こしていく。
 週末の朝だが…一日をあまりグータラに過ごす訳にいかない。
 この一か月は特に悩んで、仕事があまり手がつかなかったからやらなければ
いけないことは山積みになっていた。
 
(あんまり自分のやるべき事を放り投げていると、あいつに呆れられそうだからな…。
次に会った時に胸を張って会えるように…やるべき事は、やらなきゃ…)
 
 そうして、やっと光を見出すことは出来た克哉は…前向きな気持ちを取り戻していく。
 真実を知ったから、心の中に確かなものが宿っていた。
 それが惑って弱くなってしまっていた彼を…強くさせていた。
 
 恋愛というのは人を弱くも、強くもする。
 本気で人を好きになれば、傷つくことは避けられない。だから…遊びの関係と
いうのは存在するのだろう。
 一時の快楽と温もりだけを分け合って、傷つかない距離を保つ。
 それは確かに心地よいけれど…人を支える芯にはならないのだ。
 克哉はやっと、見つけ出した。傷ついても何をしても知りたいと願った
相手の本心と想いを。
 
 だから彼は…前を見据える。
 あいつに次は胸を張って会えるように、笑って再会出来るように…今の自分に
出来ることからやっていこうと…ごく自然にそう思っていた。
 次にいつ会えるか判らないけれど…彼と自分は同一存在。
 普段は見えなくても、感じられなくても…確かに、常に傍に存在しているのだと…
あの怒って、表に出てくれた時に実感出来た。
 肉体を持って会えなくても、あいつはいつだって自分の中にいるのだから。
 それなら…みっともない姿を見せたくない。そう思った。

「これからは…しっかり、しなきゃな…あいつにこれ以上、呆れられたくないし…」

 やっと周囲の事に目が行くようになった。
 どれだけ惑っている間、自分がいっぱいいっぱいで…目を曇らせていたのか、
こうやって心に光がようやく射した今だからこそ…実感していく。
 けれど今は違う。世界が温かく感じられる。
 祝福されて…包み込まれているような、そんな風に克哉には感じられた。
 見えなくても、何でも…いつも一緒にいてくれている。
 その実感があるからこそ…やっと、克哉は少しだけ強くなれたのだった。
 
―大好きだよ、『俺』…
 
 もう一回…、自分の半身に告げていきながら…克哉はそっと窓の外を眺めていく。
 その時、世界は希望に満ち溢れて…とても輝いているように、今の彼には
映っていったであった―
 

 
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無題
すっごい面白かったです!!!!
そして感動しました・・・

これからも頑張ってください!!!!
みやび 2009/08/09(Sun)22:42:51 編集
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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