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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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3月23日より再開しました。現在の連載物のメインは
   この話になります。
 克克で、歓楽街を舞台にしたお話です。
 良ければ読んでやって下さいませ。

  夜街遊戯(克克)                                   10 
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  ―克哉は目の前の男が、自分という存在が生まれるキッカケになっている 
  その事実すら、知らなかった。
  かつて、佐伯克哉が二つの心に分かれてしまう前は…その傍らには
  いつも彼がいたのだ。
  幼い頃からいつも一緒で、ただ一人…かつての自分が心を許した存在。
  けれど小学校の高学年の頃から、密かに裏切られ続けて。
  卒業式の日に、その痛い真実を明かされてしまった。
   その苦痛から逃れる為に、今の克哉の心は生まれ…本来の佐伯克哉の意識は
  深い眠りに就いて自分が生きることになった。
   それらの顛末の全てを、克哉は知る由もなかった

『貴方は誰、ですか…?』

 その一言を放った瞬間、目の前の男性の纏う空気がガラリと変わった。
 多くの人間が行き交う夜の新宿の街中で、二人は向かい合う。
 歩道の隅の方に立っているので…沢山の人間が行き交いながらも、誰も
彼ら二人に関心など払わずに過ぎ去っていった。
 けれど肌がピリピリとするような緊張感が、彼らの間に走っていく。

(…いきなり、雰囲気がこの人…変わってしまっている…!)

 相手の瞳に穏やかではない感情が浮かんでいる事実に気づいて、克哉は
蒼白になっていった。
 無自覚に失言をしてしまった事に、相手の態度で気づいてしまったからだ。
 
「…ねえ、それ…本気で言っているの? 君が…僕を忘れるなんて、有り得ない
筈なんだけど…」

「…すみません。本当に…名前も、思い出せないんです…」

「…っ!」

 その一言を克哉が放った瞬間、目がカっと見開かれていく。
 相手は明らかにその一言に憤っているのが判って、身が竦みそうになった。
 けれど嘘は言えない。克哉は本当に…目の前の存在が誰なのか、一切情報を
頭の中から引き出せない状態だったのだから。
 この存在の事を覚えているのは、眼鏡の意識。
 最初に生まれた佐伯克哉の方だ。
 そしてあの小学校の卒業式の日以来、かつての親友だったこの青年に纏わる記憶の
全てを、自分の意識と共に心の奥に沈めてしまっていた。
 屈辱と痛みに塗れたその苦い体験は、眼鏡の方だけで抱えていた。
 だから克哉にとっては…心がざわめき、何か強烈な不安を伴いながらも…名前すらも
思い出すことが叶わなかった。

(オレは…この人との間に、何があったんだ…? まったく…思い出せない…!)

 警鐘のように、ドックンドックンと鼓動が荒立ち、猛烈な焦燥感が湧き上がってくる。
 背中から嫌な汗がドっと溢れてきそうだった。

「…名前を、教えて下さい…! それを聞けば、思い出せるかも知れませんから…!」

 ついに耐えきれずに、感情のままにその一言を口に出してしまう。
 その瞬間、克哉は見てしまった。
 相手の怒りに燃えた、恐ろしい眼差しを形相を。
 それはこちらを竦ませて、恐怖を抱かせるには十分な威力を持った反応だった。

「ご、ごめんなさい…!」

「来るんだ!」

 とっさに怯えてしまった克哉の腕を、男は強引に捕まえていく。
 骨まで軋んでしまいそうな強烈な力だった。これだけ手に力を込められて
しまえば…腕の骨にヒビが入ってしまいそうなぐらいだ。
 そのまま荒々しく早足で人波を掻き分けて、赤いフレームの眼鏡を掛けた
青年は…繁華街の、人気がない裏路地の方へと克哉を連れていった。
 華やかな夜街の裏側。喧噪は聞こえるのに、ネオンという光に照らされている
場所と違って薄暗く、頽廃的な裏側を象徴しているような場所。
 一人で迂闊に歩いたら、危険な目に遭うかも知れないような危険な臭いが
立ち込めている区域に、気づけば誘導されてしまっていた。

 ダンっ!!

 そして、薄汚れたテナントビルの立ち並ぶ隙間。
 人目につき辛い場所に連れ込まれてしまうと、強引に壁の方へと突き飛ばされて
目の前の男性に壁際に閉じ込められてしまっていた。
 そして男は…眼鏡を外して、激情のままに叫んでいく。

「…僕の顔に、これでも見覚えがないのかい!?  澤村だよ! 澤村紀次!
子供の頃から…小学校を卒業する日まで、君の傍らにいた僕を…忘れたなんて
そんな冗談をいつまで続けるつもりなんだよ!!」

 眼鏡を外した、澤村と名乗る男性の素顔は整ったものだった。
 それが余裕や、からかいを含んだ全ての感情を吹き飛ばしてこちらに
詰め寄ってくる。
 途端に頭の芯からズキズキするような鋭い痛みが走り抜けていく。
 だが、肝心の事がやはり思い出せなかった。
 食い入るように、突き刺すように相手の鋭い眼差しが克哉に向けられ続ける。
 けれど…やはり、ダメだった。
 彼に纏わる記憶を、克哉の方の人格では何一つ有していないのだから
仕方ないことであったが…これだけ相手が真剣になっても、彼は…首を横に
振ることしか出来なかった。

「ご、めんなさい…! 本当に、貴方の事を思い出せないんです…!
オレは、貴方の事を…知らない!!」

「う、そ…だ…!」

 その一言を放った瞬間、澤村はショックの余りに瞠目して硬直していく。
 今の言葉が、どれだけ目の前の男性にダメージを与えたのか…その
反応で判ってしまった。
 けれど、これ以上偽ることなど出来ない。
 自分はやはり…彼を、知らないのだ。思い出すことが出来ない以上…胸がどれだけ
ざわめき続けようと、初対面の既知ではない人物という結論しか導き出されなかった。

「なら、人違い…なのか…? こんなに、克哉君に似ているのに…?」

「そう、かも…知れませんね…」

 克哉には、そうとしか言えない。
 何故なら自分には…小学校を卒業する以前の記憶が曖昧なのだ。
 だから彼が本当に、その時代の親友であったとしても…もう、思い出すことが
出来ないのだ。
 そうなってしまったら、見知らぬ他人と同列だ。
 傷つけることになってしまっても偽る訳にはいかない。
 本当に申し訳なさそうな表情で…克哉は首を振って目を伏せていく。
 そして、小さく呟いていった。

「ごめん、なさい…」

 そう、克哉が呟いた瞬間…澤村の態度は一変した。

「へえ…君にとって、僕は覚えている価値もない存在だったって事か…? もしくは
世の中には似た人間が三人いるっていうから…僕の知っている克哉君の瓜二つさんが
君に過ぎないって…どっちかなのかな?」

「似た、人間かも知れませんね…。オレの中には、貴方に関する思い出は
何一つ、存在しませんから…」

 もしかしたらこの人は『俺』の方の関係者なのかも知れなかった。
 けれどそれを口に出すことは憚(はば)かられてしまったので…そういう
物言いをするしかなかった。
 瞬間、澤村の顔が能面のように冷たい無機質なものとなった。

「そう…そっくりさんね。もしくはシラを切る演技? なら…どこまでそれを
続けられるのかな…?」

 瞬間、いきなりネクタイの部分を強引に掴まれて痛いぐらいに…男の方へ
顔を近づけさせられた。
 そのまま…有無を言わさず、噛みつくように口づけられていく。

「…っ!」

 男の突然の行動に、頭が真っ白になってまともに行動出来なかった。
 そうしている間に…まるで何か別の生き物のように克哉の口腔に…相手の
舌先が乱暴に侵入してきた。
 とっさに引き剥がそうと、抵抗をしようとしたが…それよりも先に、澤村に
両手首を掴まれて拘束されてしまったが為に、阻まれてしまっている。
 逃げようにも…相手の身体と、背後の壁に閉じ込められてしまっている
状態では…叶わなかった。

 グチャグチャ…

 粘質の水音が、脳裏に響くと…生々しい感覚が脳髄を走り抜けていく。
 もう一人の自分以外の人間に、深い口づけをされているという違和感と
嫌悪感と共に…久しぶりの官能的な感覚に、否応なしに身体が反応
してしまっていた。
 何がなんだか、判らなかった。頭はグルグルと混乱してしまって満足に
考える事など、出来ない。
 どうしてこの男性がいきなりこんな真似をしてきたのか…訳が判らずに
翻弄されるしかなかった。

(やっ…だっ…! あいつ、以外に…こんな…っ!)

 涙が滲んで来そうだった。
 本気で気が狂いそうになるぐらいに、悔しかった。
 けれど…相手の荒々しい口づけで、克哉の身体の奥に潜んでいた肉欲が
否応なしに引きずり出されていく。
 最後にセックスをしたのは、一か月前のあの日。
 …それから、何度もあいつが与えてくれた感覚を忘れられずに自慰をしたが…
決して満たされずに、克哉は欲望を持て余していた。
 腰が砕けてしまいそうなぐらいに…激しいキスを続けられる。
 抵抗も、言葉も…全てを奪い去るような嵐のような口づけだった。
 ようやく…両手と唇が解放された時には、克哉は壁に凭れかかりながら…
今にも崩れそうな身体をどうにか支えて、荒い呼吸を繰り返すのみだった。

「…もう、君が…僕の知っている克哉君なのか、そうでないのか…。演技を
しているだけなのか、違うのか…どうでも良くなってきた…」

「えっ…?」

 克哉が驚きの声を漏らすと同時に、両方の胸の突起を服の上から弄られて…
足の間に、相手の腿が割り込んで…反応しかけている下肢を擦りあげられていく。
 たったそれだけの刺激にビクン、と顕著に身体が反応して硬くなり始めてしまっている。

「ただ、僕をこんなに昂ぶらせた責任は君に取って貰おうか…。以前から、
僕はね…君に似た『克哉君』にずっとこうしたかったんだ…。生意気で、
傲慢で…人を人とも思わない、あの冷たい奴を…こうやって僕の下に屈伏させて
快楽でその顔を歪ませたら…きっと、愉快だろうなってずっと昔から…そう
思っていたからね…」

「なっ…何を、言っているんですか…!」

 そんな暗い発言をした澤村の瞳は、狂気すら孕んでいた。
  正直言うと、澤村自身にも…さっき衝動的にキスしてしまった理由が
何なのか、自分でも判り兼ねていた。
 だが、激情に任せてキスしたら凄く気持ちが良かった。 
 そうして困惑し切っている相手の顔を見たら…酷く嗜虐的な気持ちが
湧き上がって来て、自分は目の前の相手に欲情しているのだな…と
その事実に気づいてしまった。
 否、もしかしたら…彼が佐伯克哉に抱いている根源の気持ちは、好意や
愛憎と言われるものだったのかも知れない。
 正直言うと克哉の反応を見ていると、良く似た同名を持った別人なのか…
もしくはシラを切られているのか判別がつかない。
 けれど…今のキスで、澤村は相手をグチャグチャにしてやりたいという
衝動を覚えてしまった。
 自分の事だけを見て、感じさせて…胸に湧き上がる憤りの感情の全てを
こいつに叩きつけてやりたい。
 その狂暴な気持ちを抱いたまま…相手の耳元で、ねっとりと囁きかける。
 
「…嗚呼、ちゃんとお金なら払ってあげるよ。一晩で…10万なら、悪い
話じゃないだろ…? ちゃんと君のことも気持ち良くさせてあげた上で…
お金も上げるよ。だから後腐れないセックスを目いっぱい愉しまない…?」

「じょ、冗談じゃない! 誰が、そんな…!」

 相手の発言に本気で憤って、睨みつけていった。
 だが、そんな克哉の抵抗を嘲笑うように…男は、克哉の下肢に息づく
欲望を強く握り締めていく。
 素早くジッパーを引き下げられると…顕著に反応した性器を引きずり出されて
先端をくじくように指の腹で擦りあげられていった。

「ひゃ…ぅ…!」

 あまりの唐突で性急な刺激に、ヒュッと鋭い息を吐いて克哉は固まり掛けていく。
 けれどこちらの抵抗を削ぐように…男はもっとも敏感な部位を指の腹で攻め立てて
先端から先走りが滲むぐらいに…濃厚な愛撫を施していった。

「ほら…もう、こんなに気持ち良さそうだ…。キスと、ちょっと煽っただけで…
厭らしく蜜を零している癖に、何をそんなに抵抗しているんだい…?」

「やっ…だっ…! やめ…!」

「君のコレ、は…嫌がっていないよ…ほら…!」

 男は揶揄するように、克哉の性器を握り締めて素早い動きで扱き上げる。
 思考回路はグッチャグチャで、暴れ出したいぐらいに悔しさが溢れて来る。
 けれどペニスは男性にとって、もっとも鋭敏な器官で…其処を弄られたら
肉体的には、快感を感じて抗えなくなってしまう部位でもある。
 相手の手の中でドクドク…と脈打っている。
 そして、一か月…満たされることなかった欲求不満の身体は、あっという間に
陥落して…相手の手の中で熱い精を解放していく。

「いやぁ、だぁぁー!!」

 イク瞬間、浮かんだのはあいつの顔。
 もう一人の、自分の顔だった。
 不安定だった心では、こうして与えられる快感と温もりから逃れられない。
 ついさっきまで孤独と痛みを抱えていたという事情が…克哉から、この男の手を
拒む気力を奪い掛けていた。

「…正直になってよ…。こんなに沢山、僕の手の中で出した癖に…。
君の身体は凄く感度も良いみたいだしね…。もっと、欲しいんじゃないの…?」

「そ、んな…事は…離せ、離して…くれっ!」

 欲望を放ってしまった途端に、頭が冷えて…こんな男の手にあっさりと
陥落してしまった自分が情けなく感じられてしまった。
 このままだと流されて、最後まで抱かれる。
 その事を考えた途端に、ゾっとなった。

(あいつ以外の男のモノを、受け入れるなんて…絶対に、嫌だ…!)

 寂しさ故に、心が冷えていた故に…相手に付け入る隙を与えてしまった。
 だから克哉は拒みきれなかった。
 しかしその事態の一歩手前にまですでに差し掛かっている事を自覚した途端…
克哉の心に生じたのは、相手が欲しいというよりも…もう一人の自分以外の
人間にこの身を抱かれたくないという最後の矜持だった。

「今さら、逃してなんて上げないよ…! 無駄な抵抗なんて、止めたら…?」

「やだっ! 絶対に嫌だっ! 離せ、離せよっ!!」

 まだ腰に満足に力が入らない状態でも、必死になってもがいて…克哉は
その腕から逃れようと足掻き続けた。
 その瞬間、澤村は激昂して…克哉の身体を壁に打ち付ける勢いで…
押さえつけていった。

「いっ…つ…!」

「逃がさないよ…。僕はもう、君を犯して…ヒーヒーと啼かせたくて…堪らなく
なっているんだから…」

「ひぃ…!」

 相手の生々しい欲望が、ズボンの生地越しに…克哉の下肢に押し付けられる。
 もう一人の自分に一か月前…この街で彼を見つけた晩に同じような事をされた。
 あの時はそれでも、身体の奥に火が灯るのを感じていった。
 けれど…今の克哉が感じているのは、血の気が失せるような感覚だった。
 それで嫌でも思い知らされる。
 自分は…あいつ以外の人間に抱かれるなど、冗談ではないという本心を。

―嫌だ! お前以外に…抱かれるなんて、嫌だぁ!!

 気づけば、そう叫んでしまっていた。
 切実な想いを込めながら、頭の中で呼びかけていくのはもう一人の自分の事だけだった。

―冷たくても、何でも良い。酷い男でも何でも…オレは、お前以外の奴と…
セックスなんて、したくない!

 それは追い詰められたからこそ出た、今の克哉の真実。
 そう叫んだ瞬間、フイに意識が遠のきかける。

「えっ…?」

 突然、頭が真っ白になるような真っ黒になるような…チカチカした感覚を
覚えていく。
 同時に身体の力が抜けて、虚脱状態になっていき…。
 それはまるで、悪質の貧血か何かに掛かってしまった時のよう。

(こ、んな時に…何でっ…!)

 意識が、遠のきかける。
 必死になって抗うが、全てが無駄だった。
 まるでブレーカーが落ちたみたいに、全ての感覚が遮断されていき…。

「うっ…あっ…」

 そうして、小さく呻きながら…克哉の意識は暗転して…深い闇へと
突き落とされていってしまったのだった―
 
  
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
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