鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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23日分は、朝に執筆している途中で一度は吹き飛ばしました。
出かける直前に、ブログ内に…帰宅したら小ネタを代わりに掲載しますと
記していましたが、本日…珍しく帰宅後に書けるコンディションを保っていたので
リセット13話をそのまま書かせて頂きました。
(残業2.5時間を二連続やっていたらまず普段は帰宅後は書けない…)
現在はぜんっぜん、甘くない御克のターンです。
この後に…お尻ペンペンしたくなるぐらいにクソ生意気な子供の克哉と
それを押さえつける為に自分の意識ごと封じ込めてしまった眼鏡が
どのように絡んでいくか。
とりあえず現在、中盤に当たります。
御克のターンが終わったら、徐々に終盤に入ります。
良かったら最後まで付き合ってやって下さいませ。
それでは今夜はおやすみなさいませ(ペコリ)
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赤で覆いつくされた歓楽街のホテルの一室。
朱色のビロードのようなベッドシーツの上に克哉は気づけばうつ伏せの
体制で組み敷かれ、乱暴に脱がされたワイシャツで両手首を拘束された。
「くぅ…!」
克哉が苦悶の声を漏らしていきながら軽く身を捩ろうとした。
だが、御堂は後ろからそれを押さえつけて阻んでいく。
「…ほう? 私に好きにしろ…と言った癖に君は抵抗するのか?」
その一言を聞いて、克哉は弾かれたように顔を上げて…首を振り向かせて
いきながら男の顔を見つめて、首を横に振っていく。
「…いいえ、その言葉に偽りはありません。御堂さんの好きなように
なさって下さい…」
「…ふん。なら、好きにさせて貰おうか…」
「っ…くっ!」
相手に耳の後ろの付け根の辺りを強く吸い上げられて、つい苦痛を訴える
声が漏れていった。
そうしている間に乱暴にズボンと下着を一気に引き下ろされて臀部を
露にされていく。
間髪を入れずに、御堂の優美な指先と…冷たいローションが自分の窄まりの
周辺に落とされて、弾かれたように克哉の肉体は跳ねていった。
「ひゃ…! 冷たっ…!」
「…すぐに熱くしてやる…」
克哉の耳元で呟いた御堂の声には、欲望の声と…怒気が半々で混ざっていた。
それを敏感に感じ取って、克哉の身体は軽く竦んでいった。
一度も男の欲望をこの身で受けた経験がない克哉には、これから御堂に犯されると
いう現実にどうしても身が強張ってしまっていた。
好きにしろ、と言ったのは自分の方だ。
なのにこんなに…恐怖と戦慄を覚えてしまっている。
そんな不甲斐ない自分に唇を噛み締めながら耐えていくと…御堂はそんな
克哉を眺めて、訝しげに瞳を細めていた。
(どうして抵抗しない…?)
こちらの行為を素直に享受している佐伯克哉に心底、違和感を覚えていった。
自分が良く知っている彼であるなら、きっと途中で形勢を逆転させて…こちらを
逆に犯し返すだろう。
事実、彼との関係はそういう形で始まっていた。
半ば嫌がらせが入っていたプロトファイバーの営業目標の引き上げ。
本来ならあの時、御堂はそれを口実にあの生意気な眼鏡を掛けた佐伯克哉を
慰み者にして気を晴らすつもりだった。
だが、逆に逆手に取られてこちらがあの男に陵辱されている場面を撮影
されてしまい…そして、御堂の地獄の日々は幕を開けたのだ。
―お前なら、私を逆に犯し返すだろう…!? そういう男じゃなかったのか…!
自分の記憶の中に在る佐伯克哉と、今目の前にいる克哉の余りの違いに
御堂は心底、憤りを覚えていた。
苛立ち混じりに克哉の内部に指を侵入させて、強引に快楽を引き出していく。
ヌチャ…ネチャ、グチャ…グプッ…!
相手を辱めてやる為にわざと大きな水音を立てるように内部を掻き回して
いってやる。
その度に克哉の肉体は耐え切れないとばかりに大きくうねり、苦しげに呼吸を
繰り返しながら喘いでいった。
「はっ…んんっ…! やっ…其処、は…はぁ…んっ!」
今までの人生の中で、他者にそんな部位を触れられた経験そのものが
なかった克哉はともかく前立腺の部位を弄られて生じる激しい悦楽にただ、
翻弄されていくしか出来なかった。
「…やだ、という割りには顕著な反応をしているじゃないか…?」
相手の感じる部位を探り当てて其処を執拗に攻め上げていく度に
腕の中の克哉は耐えられないとばかりに艶っぽく身悶え続けていく。
其れを見ている内に…御堂の中に形容しがたい欲望が生じ始めていく。
―はっ…はっ…。
知らず、御堂の呼吸も荒いものへと変わっていく。
紛れもなく今、目の前で感じて啼いている克哉の姿を目の当たりにして…
彼は興奮していた。
恋焦がれて、逢いたいと願っていた男だった。
あんな酷いことをされていたにも関わらず、どれだけ痕跡を消し去ろうとしても
頭の中からあの男の残影を追い払えなかった。
自分の知っている彼と、今…腕の中に納まっている彼はあまりに違い過ぎて
別人と言えるぐらいのレベルであったけれど、だが…容姿だけは、紛れもなく
逢いたいと願う男とまったく同じものだった。
―だから、気づけば御堂は欲情して相手が欲しくて仕方なくなっていた。
胸を穿たれるような悲しみと怒り。
それを…一時だけでも忘れ去りたかった。
自分は、この男に抱かれる事を望んでいた。
だが…今は、どちらでも構わなくなっていた。
ふいに…見知らぬ男と連れ立って歩いていた先程の彼の姿が脳裏を
過ぎっていく。
―他の誰かと肌を重ねられるぐらいなら…!
それは猛烈な独占欲。
この男が、他の誰かを抱いたり…自分以外の男に抱かれる事など許す
事が出来なかった。
だから御堂は執拗に責め立てていく。
今は自分以外の人間のことなど、一切考えられないように…!
「克哉…」
「はっ…あ…!」
初めて、この男の下の名前を呼んだような気がした。
相手の脆弱な場所をともかくしつこいぐらいに指の腹で擦り上げていけば
その内部は怪しく蠕動を繰り返し、こちらの指を食いちぎらんばかりだった。
まだ、指を二本含ませただけだというのに…この蠢きぶりは何だと
いうのか。
とても…男を知らない人間の中とは思えないぐらいだ。
「…君の中は…随分といやらしいな。これなら…充分そうだな…」
「えっ…! 御堂、さ…ん、待って…あ、あぁぁぁっ…!」
いきなり指を引き抜かれていったかと思うと同時に、蕾の入り口に熱い
塊を押し当てられていって克哉はつい身構えてしまっていた。
だが男は一切容赦しようとしなかった。
ドクンドクンと脈打つ己の性器で、克哉の際奥まで一気に貫いていった。
「う…あっ…!!」
その衝撃に、唇を強く噛み締めながら克哉は耐えていく。
挿入してすぐに御堂の激しい律動は開始していった。
「…今は、私を感じろ…!」
私以外の人間の事など、一切考えられないように!
今…この瞬間だけでも、私だけを見ろ!
お前が、他の人間と肌を重ねることなど許せない。
こんなに…自分の中に深くその存在を刻み付けておきながら…
そんな真似をしていたというのなら…!
―お前にその罪を贖って貰おう…!
そんな残虐な考えと衝動に支配されながら、御堂はとにかく感情のままに
乱暴に克哉を突き上げていった。
首筋を何度も、何度も痛いぐらい吸い上げられながら、刻印のように赤い痕が
無数に刻まれ続けていく。
ギシギシギシギシッ!
ベッドが大きく軋み音を上げるくらいに激しく、克哉の内部を犯し続ける。
怒りの余り、感情が昂ぶりすぎたせいか…御堂の双眸からは知らぬ間に
涙が伝い始めていた。
それは、深い失望と悲しみを感じた為に流れた、御堂の感情の発露でもあった。
―ポタリ…
それを背中に感じて、克哉は切なくなった。
御堂が、泣いている。
その濡れた感触を僅かに感じるだけでも…四つんばいにさせられて相手の
顔が見えなくても、充分にそれを察してしまったから。
だから克哉は、悲しげに目を伏せながらも…一切抵抗せず、この人の
好きなようにさせていった。
(…やはり、貴方は…泣いているんです、ね…)
そのまま御堂の激しい抽送は続けられていく。
克哉は、腰を高くせり上げながら…必死になって受け入れる以外の
事は何も出来なかった―
朱色のビロードのようなベッドシーツの上に克哉は気づけばうつ伏せの
体制で組み敷かれ、乱暴に脱がされたワイシャツで両手首を拘束された。
「くぅ…!」
克哉が苦悶の声を漏らしていきながら軽く身を捩ろうとした。
だが、御堂は後ろからそれを押さえつけて阻んでいく。
「…ほう? 私に好きにしろ…と言った癖に君は抵抗するのか?」
その一言を聞いて、克哉は弾かれたように顔を上げて…首を振り向かせて
いきながら男の顔を見つめて、首を横に振っていく。
「…いいえ、その言葉に偽りはありません。御堂さんの好きなように
なさって下さい…」
「…ふん。なら、好きにさせて貰おうか…」
「っ…くっ!」
相手に耳の後ろの付け根の辺りを強く吸い上げられて、つい苦痛を訴える
声が漏れていった。
そうしている間に乱暴にズボンと下着を一気に引き下ろされて臀部を
露にされていく。
間髪を入れずに、御堂の優美な指先と…冷たいローションが自分の窄まりの
周辺に落とされて、弾かれたように克哉の肉体は跳ねていった。
「ひゃ…! 冷たっ…!」
「…すぐに熱くしてやる…」
克哉の耳元で呟いた御堂の声には、欲望の声と…怒気が半々で混ざっていた。
それを敏感に感じ取って、克哉の身体は軽く竦んでいった。
一度も男の欲望をこの身で受けた経験がない克哉には、これから御堂に犯されると
いう現実にどうしても身が強張ってしまっていた。
好きにしろ、と言ったのは自分の方だ。
なのにこんなに…恐怖と戦慄を覚えてしまっている。
そんな不甲斐ない自分に唇を噛み締めながら耐えていくと…御堂はそんな
克哉を眺めて、訝しげに瞳を細めていた。
(どうして抵抗しない…?)
こちらの行為を素直に享受している佐伯克哉に心底、違和感を覚えていった。
自分が良く知っている彼であるなら、きっと途中で形勢を逆転させて…こちらを
逆に犯し返すだろう。
事実、彼との関係はそういう形で始まっていた。
半ば嫌がらせが入っていたプロトファイバーの営業目標の引き上げ。
本来ならあの時、御堂はそれを口実にあの生意気な眼鏡を掛けた佐伯克哉を
慰み者にして気を晴らすつもりだった。
だが、逆に逆手に取られてこちらがあの男に陵辱されている場面を撮影
されてしまい…そして、御堂の地獄の日々は幕を開けたのだ。
―お前なら、私を逆に犯し返すだろう…!? そういう男じゃなかったのか…!
自分の記憶の中に在る佐伯克哉と、今目の前にいる克哉の余りの違いに
御堂は心底、憤りを覚えていた。
苛立ち混じりに克哉の内部に指を侵入させて、強引に快楽を引き出していく。
ヌチャ…ネチャ、グチャ…グプッ…!
相手を辱めてやる為にわざと大きな水音を立てるように内部を掻き回して
いってやる。
その度に克哉の肉体は耐え切れないとばかりに大きくうねり、苦しげに呼吸を
繰り返しながら喘いでいった。
「はっ…んんっ…! やっ…其処、は…はぁ…んっ!」
今までの人生の中で、他者にそんな部位を触れられた経験そのものが
なかった克哉はともかく前立腺の部位を弄られて生じる激しい悦楽にただ、
翻弄されていくしか出来なかった。
「…やだ、という割りには顕著な反応をしているじゃないか…?」
相手の感じる部位を探り当てて其処を執拗に攻め上げていく度に
腕の中の克哉は耐えられないとばかりに艶っぽく身悶え続けていく。
其れを見ている内に…御堂の中に形容しがたい欲望が生じ始めていく。
―はっ…はっ…。
知らず、御堂の呼吸も荒いものへと変わっていく。
紛れもなく今、目の前で感じて啼いている克哉の姿を目の当たりにして…
彼は興奮していた。
恋焦がれて、逢いたいと願っていた男だった。
あんな酷いことをされていたにも関わらず、どれだけ痕跡を消し去ろうとしても
頭の中からあの男の残影を追い払えなかった。
自分の知っている彼と、今…腕の中に納まっている彼はあまりに違い過ぎて
別人と言えるぐらいのレベルであったけれど、だが…容姿だけは、紛れもなく
逢いたいと願う男とまったく同じものだった。
―だから、気づけば御堂は欲情して相手が欲しくて仕方なくなっていた。
胸を穿たれるような悲しみと怒り。
それを…一時だけでも忘れ去りたかった。
自分は、この男に抱かれる事を望んでいた。
だが…今は、どちらでも構わなくなっていた。
ふいに…見知らぬ男と連れ立って歩いていた先程の彼の姿が脳裏を
過ぎっていく。
―他の誰かと肌を重ねられるぐらいなら…!
それは猛烈な独占欲。
この男が、他の誰かを抱いたり…自分以外の男に抱かれる事など許す
事が出来なかった。
だから御堂は執拗に責め立てていく。
今は自分以外の人間のことなど、一切考えられないように…!
「克哉…」
「はっ…あ…!」
初めて、この男の下の名前を呼んだような気がした。
相手の脆弱な場所をともかくしつこいぐらいに指の腹で擦り上げていけば
その内部は怪しく蠕動を繰り返し、こちらの指を食いちぎらんばかりだった。
まだ、指を二本含ませただけだというのに…この蠢きぶりは何だと
いうのか。
とても…男を知らない人間の中とは思えないぐらいだ。
「…君の中は…随分といやらしいな。これなら…充分そうだな…」
「えっ…! 御堂、さ…ん、待って…あ、あぁぁぁっ…!」
いきなり指を引き抜かれていったかと思うと同時に、蕾の入り口に熱い
塊を押し当てられていって克哉はつい身構えてしまっていた。
だが男は一切容赦しようとしなかった。
ドクンドクンと脈打つ己の性器で、克哉の際奥まで一気に貫いていった。
「う…あっ…!!」
その衝撃に、唇を強く噛み締めながら克哉は耐えていく。
挿入してすぐに御堂の激しい律動は開始していった。
「…今は、私を感じろ…!」
私以外の人間の事など、一切考えられないように!
今…この瞬間だけでも、私だけを見ろ!
お前が、他の人間と肌を重ねることなど許せない。
こんなに…自分の中に深くその存在を刻み付けておきながら…
そんな真似をしていたというのなら…!
―お前にその罪を贖って貰おう…!
そんな残虐な考えと衝動に支配されながら、御堂はとにかく感情のままに
乱暴に克哉を突き上げていった。
首筋を何度も、何度も痛いぐらい吸い上げられながら、刻印のように赤い痕が
無数に刻まれ続けていく。
ギシギシギシギシッ!
ベッドが大きく軋み音を上げるくらいに激しく、克哉の内部を犯し続ける。
怒りの余り、感情が昂ぶりすぎたせいか…御堂の双眸からは知らぬ間に
涙が伝い始めていた。
それは、深い失望と悲しみを感じた為に流れた、御堂の感情の発露でもあった。
―ポタリ…
それを背中に感じて、克哉は切なくなった。
御堂が、泣いている。
その濡れた感触を僅かに感じるだけでも…四つんばいにさせられて相手の
顔が見えなくても、充分にそれを察してしまったから。
だから克哉は、悲しげに目を伏せながらも…一切抵抗せず、この人の
好きなようにさせていった。
(…やはり、貴方は…泣いているんです、ね…)
そのまま御堂の激しい抽送は続けられていく。
克哉は、腰を高くせり上げながら…必死になって受け入れる以外の
事は何も出来なかった―
そのホテルの裏口から入ると、フロントで人と対面しなくても部屋が
取れるシステムを採用されていた。
どうやら6種類のタイプの部屋が用意されているらしく…それらの部屋は
色によって区別されているようだった。
白い部屋は模様はスタンダードだが、コスプレ衣装が50種類用意
されている。
青い部屋はウォーターベッドと、部屋全体の内装が海と空を思わせる
色合いに設定されていて、透明なユニットバスが設置されている。
赤い部屋は、全体的に朱色の色調に纏められていて…ハードプレイを
楽しむ為の大人の玩具やSM道具が予め完備してある。
緑の部屋は、淡い黄緑のシーツや内装、そして壁には森林の絵が
描かれているようで…森のアロマが漂っている。
黒い部屋は、黒の色調で部屋全体が纏められていて…室内の
明かりを消すと、星空のように天井と壁が光る仕掛けがあった。
最後の桃色の部屋は、部屋の壁も寝具もピンクで纏められていて
ミラーボールが設置されている上に、大きなベッドが回転する作りに
なっているようだった。
六つの部屋それぞれに特色があり、パネルには各部屋が何室
残っているか数字が点滅していた。
御堂はそれで赤い部屋のパネルのボタンを押していくと…取り出し口に
ホテルのキーがガコン、と音を立てながら落下してきた。
それを乱暴に手にしていくと…壁に貼ってあった案内図を軽く眺めて
エレベーターに乗り込み、部屋がある階まで移動していく。
その間、ただ…克哉は御堂の成すがままだった。
バタンッ!
キーで扉を開いていくと同時にやや乱暴に閉めていって、克哉の身体を
其処に放り込んでいく。
「うわっ…!」
入り口の付近から突き飛ばされて、勢いで克哉は上等なカーペットが敷かれた
床の上へと尻餅を突いていく。
その間に御堂は後ろ手で部屋の鍵を閉めていくと…克哉の逃走経路を静かに
奪っていった。
「御堂、さん…」
その剣幕に思わず克哉は圧されていく。
今、自分の目の前にいる男は本気で怒っているようだった。
深い紫紺の双眸には深い憤怒の感情が宿って、鋭く輝いている。
「…君は一体、何なんだ…?」
御堂の声には、失望の感情が色濃く滲んでいた。
その癖、戸惑っているいるような…混乱しているような、そんな危うい
部分も同時に存在している。
「…君が私との事を、他人事のように語るというのなら…はっきりと
思い出させてやろう…」
そのまま、御堂がゆっくりと克哉の方へと歩み寄ってくる。
克哉はただそれを…身を硬くして、身構えていった。
逃げようか、と一瞬考えた。
御堂と自分の体格は同程度。
彼が本気になって取っ組み合い、抵抗をすれば…逃げられなくはない。
だが…敢えて、克哉はこの場から逃走することを諦めた。
(…この人は、恐らく…『オレ』まで逃げたら…凄く傷つくだろうな…)
追いかけて、追いかけて。
もう一人の自分と逢いたくて、会話をしたい一心で追いかけて来たというのに
寸での処ですり抜けてしまって…今の御堂は深く傷ついていた。
だから、克哉は御堂の気の済むようにして構わないと考えた。
きっともう一人の自分のように、こちらが演技して振る舞ってもこの人はきっと
本物でないのなら察してしまうだろうと感じたから。
なら…自分が出来る事はきっと、この人の怒りをこの身に受ける事
ぐらいだろう…。
「…貴方の好きになさって下さい…」
しかし、あの佐伯克哉からそんな殊勝な言葉が漏れた事で…御堂孝典は
目を大きく見開いていった。
信じられないものを見た、と言いたげに驚愕の感情を瞳に讃えていく。
「…君は、本当にあの佐伯…か? この部屋を見て…何も感じないのか?」
その時、ようやく…克哉は御堂の様子に気づいていった。
男の肩は大きく震えて、顔が青ざめている。
それで克哉はやっと気づいていった。
この部屋に数多く常備されている…大人の玩具の類は、眼鏡にこの人が
監禁されている期間…殆ど実際に試されたものばかりだった。
こんな部屋をわざわざ選ぶ事は、御堂にとってもリスクの高い事だっただろう。
だが…それでも、この部屋に連れていけば…『俺』の方なら、絶対に
何らかの反応があると思ったのだろう。
その事実を何となく察して…克哉は、切なくなった。
(貴方はそれぐらい…もう一人の『俺』を求めているのに…どう、して…)
―ここにいるのが、オレなのだろう。
「…すみません。オレは、貴方の期待には応えられません…。この部屋を
見ても、何も…」
アイツのように、御堂を責めて追い詰めて…快楽と苦痛交じりの感覚を
執拗に与え続けるような振る舞いは克哉には絶対に出来なかった。
「…私には、君が…判らない。どうして、さっきからそんな別人のような
言動と振る舞いを繰り返しているんだ…。何故…」
―それは、オレとあいつは別の心を持っている存在だから…
余程、その事実を今…目の前にいるこの人に告げてしまおうかと思った。
口を噤むか、告げるかどっちにするか暫し悩んでいく。
言うべきじゃない。最初はそう判断した。
しかし…言わない限りこの人の混乱は更に深まっていくような気がした。
信じてもらえないのは最初から承知の上だった。
だが…意を決して、ポツリと告げていった。
「…オレが、二重人格だと言ったら…貴方は、信じますか…?」
「…何、だと…?」
「…今、目の前にいるオレと…貴方を監禁して、全てを奪って…愛していると
最後に告げて去っていった『俺』とは別人格だという話を貴方にしたら…
その事実を、貴方は認めて下さいますか…?」
「君は、一体…何を、言っているんだ…?」
御堂は予想通り、信じられないという表情を浮かべていく。
当然の反応だった。
こんな話をいきなりされたからと言って、すぐに信じてくれる人間など
そうはいないだろう。
「…事実です。オレは、貴方を愛して去って行ってしまった佐伯克哉では
ありません。別の心を持った…弱くて、情けない人間でしかない。
この部屋を見ても…玩具を使って貴方を追い詰めようと考える事は
出来ないんです。貴方の期待に…オレでは応えられないんです。
本当に…御免なさい…」
うっすらと涙を浮かべながら、切々と語っていく。
それ以外に、何も出来る事など出来なかった。
どうすれば…もう一人の自分は表に出て来てくれるのか、今の彼には
判らない。
だからこの人の望みに応えてやれない事が本当に苦しくて、悲しくて
仕方なかった。
「何で、そんな事を言う…。本当に、そんな言い訳で…私とまともに
対峙するのを…避ける気なのか…?」
「………」
今の御堂の言葉を聞く限り、半信半疑な様子だった。
この反応こそ、むしろ自然だろう。
御堂は危うい表情を浮かべながら…克哉を見下ろしている。
克哉はただ…真摯な表情で、この人の顔を見つめ返していった。
「…信じる、信じないは貴方の自由です。…それを認める事が出来ないなら、
収まらないというのなら…オレを、貴方の好きになさって下さい。
…オレにはきっと、貴方にそれぐらいしか…出来る事はないと思いますから…」
僅かに瞳を潤ませながら、克哉は告げていく。
それ以外に…自分が出来る事など思いつかない。
恐らく深く傷つき失望して…途方に暮れている御堂。
彼の心は、恐らく自分では満たす事も癒す事も出来ないのなら…せめて
この身を差し出して慰み者になるぐらいしか、克哉には思いつかなかった。
「…それが、君の答えなのか…? 佐伯克哉…」
予測どおり、御堂の口調には強い怒気が滲んでいた。
一瞬怯みそうになったが…克哉は意を決して、コクンと小さく頷きながら
答えていった。
「…はい」
「…判った。それなら…君を私の好きにさせて貰おう…」
本気の憤りを込めながら、御堂は呟いていく。
そのまま一気に間合いを詰められると同時に…強引に腕を掴まれて
ベッドの上へと引きずり込まれていく。
克哉はそれを、硬い表情を浮かべながら受け入れていった。
「…君に嫌でも思い出させてやる。かつて…どんな事を私にし続けて
来たのかをな…っ!」
そのまま、シーツの上に克哉の身体を縫い止めて覆い被さっていく。
「…貴方の、気の済むように…どうぞ…」
馬鹿な行動だと自覚がある。
しかし、これくらいしか今の自分には出来ない。
いっそ、自分の事など壊してくれれば良いと思った。
この心が壊れてしまえば、その向こうからもう一人の自分が現れて
くれるというのなら…喜んで破壊される方を今の克哉は選ぶだろう。
それは愚かなまでの自己犠牲精神。
しかしそんな想いすらも、今の御堂にとっては…癪の種にしか
ならなかった。
「…その言葉に、後悔するなよ…!」
どう、怒りを孕んだ声で告げながら…御堂は、克哉の首筋に顔を埋めて
痛みを与えるぐらいに強く吸い上げていった―
取れるシステムを採用されていた。
どうやら6種類のタイプの部屋が用意されているらしく…それらの部屋は
色によって区別されているようだった。
白い部屋は模様はスタンダードだが、コスプレ衣装が50種類用意
されている。
青い部屋はウォーターベッドと、部屋全体の内装が海と空を思わせる
色合いに設定されていて、透明なユニットバスが設置されている。
赤い部屋は、全体的に朱色の色調に纏められていて…ハードプレイを
楽しむ為の大人の玩具やSM道具が予め完備してある。
緑の部屋は、淡い黄緑のシーツや内装、そして壁には森林の絵が
描かれているようで…森のアロマが漂っている。
黒い部屋は、黒の色調で部屋全体が纏められていて…室内の
明かりを消すと、星空のように天井と壁が光る仕掛けがあった。
最後の桃色の部屋は、部屋の壁も寝具もピンクで纏められていて
ミラーボールが設置されている上に、大きなベッドが回転する作りに
なっているようだった。
六つの部屋それぞれに特色があり、パネルには各部屋が何室
残っているか数字が点滅していた。
御堂はそれで赤い部屋のパネルのボタンを押していくと…取り出し口に
ホテルのキーがガコン、と音を立てながら落下してきた。
それを乱暴に手にしていくと…壁に貼ってあった案内図を軽く眺めて
エレベーターに乗り込み、部屋がある階まで移動していく。
その間、ただ…克哉は御堂の成すがままだった。
バタンッ!
キーで扉を開いていくと同時にやや乱暴に閉めていって、克哉の身体を
其処に放り込んでいく。
「うわっ…!」
入り口の付近から突き飛ばされて、勢いで克哉は上等なカーペットが敷かれた
床の上へと尻餅を突いていく。
その間に御堂は後ろ手で部屋の鍵を閉めていくと…克哉の逃走経路を静かに
奪っていった。
「御堂、さん…」
その剣幕に思わず克哉は圧されていく。
今、自分の目の前にいる男は本気で怒っているようだった。
深い紫紺の双眸には深い憤怒の感情が宿って、鋭く輝いている。
「…君は一体、何なんだ…?」
御堂の声には、失望の感情が色濃く滲んでいた。
その癖、戸惑っているいるような…混乱しているような、そんな危うい
部分も同時に存在している。
「…君が私との事を、他人事のように語るというのなら…はっきりと
思い出させてやろう…」
そのまま、御堂がゆっくりと克哉の方へと歩み寄ってくる。
克哉はただそれを…身を硬くして、身構えていった。
逃げようか、と一瞬考えた。
御堂と自分の体格は同程度。
彼が本気になって取っ組み合い、抵抗をすれば…逃げられなくはない。
だが…敢えて、克哉はこの場から逃走することを諦めた。
(…この人は、恐らく…『オレ』まで逃げたら…凄く傷つくだろうな…)
追いかけて、追いかけて。
もう一人の自分と逢いたくて、会話をしたい一心で追いかけて来たというのに
寸での処ですり抜けてしまって…今の御堂は深く傷ついていた。
だから、克哉は御堂の気の済むようにして構わないと考えた。
きっともう一人の自分のように、こちらが演技して振る舞ってもこの人はきっと
本物でないのなら察してしまうだろうと感じたから。
なら…自分が出来る事はきっと、この人の怒りをこの身に受ける事
ぐらいだろう…。
「…貴方の好きになさって下さい…」
しかし、あの佐伯克哉からそんな殊勝な言葉が漏れた事で…御堂孝典は
目を大きく見開いていった。
信じられないものを見た、と言いたげに驚愕の感情を瞳に讃えていく。
「…君は、本当にあの佐伯…か? この部屋を見て…何も感じないのか?」
その時、ようやく…克哉は御堂の様子に気づいていった。
男の肩は大きく震えて、顔が青ざめている。
それで克哉はやっと気づいていった。
この部屋に数多く常備されている…大人の玩具の類は、眼鏡にこの人が
監禁されている期間…殆ど実際に試されたものばかりだった。
こんな部屋をわざわざ選ぶ事は、御堂にとってもリスクの高い事だっただろう。
だが…それでも、この部屋に連れていけば…『俺』の方なら、絶対に
何らかの反応があると思ったのだろう。
その事実を何となく察して…克哉は、切なくなった。
(貴方はそれぐらい…もう一人の『俺』を求めているのに…どう、して…)
―ここにいるのが、オレなのだろう。
「…すみません。オレは、貴方の期待には応えられません…。この部屋を
見ても、何も…」
アイツのように、御堂を責めて追い詰めて…快楽と苦痛交じりの感覚を
執拗に与え続けるような振る舞いは克哉には絶対に出来なかった。
「…私には、君が…判らない。どうして、さっきからそんな別人のような
言動と振る舞いを繰り返しているんだ…。何故…」
―それは、オレとあいつは別の心を持っている存在だから…
余程、その事実を今…目の前にいるこの人に告げてしまおうかと思った。
口を噤むか、告げるかどっちにするか暫し悩んでいく。
言うべきじゃない。最初はそう判断した。
しかし…言わない限りこの人の混乱は更に深まっていくような気がした。
信じてもらえないのは最初から承知の上だった。
だが…意を決して、ポツリと告げていった。
「…オレが、二重人格だと言ったら…貴方は、信じますか…?」
「…何、だと…?」
「…今、目の前にいるオレと…貴方を監禁して、全てを奪って…愛していると
最後に告げて去っていった『俺』とは別人格だという話を貴方にしたら…
その事実を、貴方は認めて下さいますか…?」
「君は、一体…何を、言っているんだ…?」
御堂は予想通り、信じられないという表情を浮かべていく。
当然の反応だった。
こんな話をいきなりされたからと言って、すぐに信じてくれる人間など
そうはいないだろう。
「…事実です。オレは、貴方を愛して去って行ってしまった佐伯克哉では
ありません。別の心を持った…弱くて、情けない人間でしかない。
この部屋を見ても…玩具を使って貴方を追い詰めようと考える事は
出来ないんです。貴方の期待に…オレでは応えられないんです。
本当に…御免なさい…」
うっすらと涙を浮かべながら、切々と語っていく。
それ以外に、何も出来る事など出来なかった。
どうすれば…もう一人の自分は表に出て来てくれるのか、今の彼には
判らない。
だからこの人の望みに応えてやれない事が本当に苦しくて、悲しくて
仕方なかった。
「何で、そんな事を言う…。本当に、そんな言い訳で…私とまともに
対峙するのを…避ける気なのか…?」
「………」
今の御堂の言葉を聞く限り、半信半疑な様子だった。
この反応こそ、むしろ自然だろう。
御堂は危うい表情を浮かべながら…克哉を見下ろしている。
克哉はただ…真摯な表情で、この人の顔を見つめ返していった。
「…信じる、信じないは貴方の自由です。…それを認める事が出来ないなら、
収まらないというのなら…オレを、貴方の好きになさって下さい。
…オレにはきっと、貴方にそれぐらいしか…出来る事はないと思いますから…」
僅かに瞳を潤ませながら、克哉は告げていく。
それ以外に…自分が出来る事など思いつかない。
恐らく深く傷つき失望して…途方に暮れている御堂。
彼の心は、恐らく自分では満たす事も癒す事も出来ないのなら…せめて
この身を差し出して慰み者になるぐらいしか、克哉には思いつかなかった。
「…それが、君の答えなのか…? 佐伯克哉…」
予測どおり、御堂の口調には強い怒気が滲んでいた。
一瞬怯みそうになったが…克哉は意を決して、コクンと小さく頷きながら
答えていった。
「…はい」
「…判った。それなら…君を私の好きにさせて貰おう…」
本気の憤りを込めながら、御堂は呟いていく。
そのまま一気に間合いを詰められると同時に…強引に腕を掴まれて
ベッドの上へと引きずり込まれていく。
克哉はそれを、硬い表情を浮かべながら受け入れていった。
「…君に嫌でも思い出させてやる。かつて…どんな事を私にし続けて
来たのかをな…っ!」
そのまま、シーツの上に克哉の身体を縫い止めて覆い被さっていく。
「…貴方の、気の済むように…どうぞ…」
馬鹿な行動だと自覚がある。
しかし、これくらいしか今の自分には出来ない。
いっそ、自分の事など壊してくれれば良いと思った。
この心が壊れてしまえば、その向こうからもう一人の自分が現れて
くれるというのなら…喜んで破壊される方を今の克哉は選ぶだろう。
それは愚かなまでの自己犠牲精神。
しかしそんな想いすらも、今の御堂にとっては…癪の種にしか
ならなかった。
「…その言葉に、後悔するなよ…!」
どう、怒りを孕んだ声で告げながら…御堂は、克哉の首筋に顔を埋めて
痛みを与えるぐらいに強く吸い上げていった―
―バカ…
御堂と対峙しながら、眼鏡を外した…かつての佐伯克哉は静かに
涙を零しながら心の中で呟いていた。
たった今、御堂が必死に追いかけられている間に…眼鏡を掛けて
から表に出続けていたもう一人の自分の意識は深い眠りに付いて
しまっていた。
―幾ら残酷な子供の自分を表に出したくないからって…お前が
犠牲にならなくても良かったのに…。オレに、そう命じれば…
それで、良かった筈なのに…。
御堂の顔を見てしまった為に、残酷な子供の心がこの人に対して
牙を剥こうとしてしまった。
それを阻む為に…眼鏡の意識は、全力を持ってその意識を抑え込み
結果…残された弱い克哉の心が、こうして身体を使用することになって
しまっていた。
身体を使っている心が眠りに就いてしまった場合、人は防衛本能で
他の意識を引きずり出して…肉体を保護しようという本能がある。
今の克哉の意識は、そういった事情で表に出て…こうして御堂と
顔を合わす事になってしまっていた。
(御堂さん…信じられないって、何がなんだか判らないって…そんな
呆然とした顔しているな…)
深夜の歓楽街、追いかけてきた御堂の頬を優しく撫ぜながら…
克哉はそんな事を考えていく。
御堂の唇はワナワナと震えて、何か言いたげだった。
けれど…あまりの出来事に、頭の切り替えが上手く出来ずに沈黙を
今の処保っている。
一言で言えば、まさにそんな状態になっていた。
「君は…さっきから、言っている? それにやっている事も支離滅裂
じゃないか! 君と話したいと思ったから、逢いたいと何故か思ってしまった
からこそ…こんな場所まで君を追いかけてきたんだ! それなのに…
関わるなとは大した言い草だなっ!」
「…すみ、ません…!」
「謝るなっ! そんな言葉を君から聞きたい訳じゃない!」
御堂は段々、怒りを押し殺せなくなっているみたいだった。
いきなり克哉の黒いスーツの襟元を引き掴んで、射殺しそうなくらい
憤りが篭った眼差しで見据えてくる。
「どう、して…! 去り際に、私の事を好きだとか…そんな事を言った、癖に…
私から、逃げ続けるんだっ…! そんな事を言うから、私は君の事を…
忘れる事が、どうしても出来なかったのに…! それに、何で…駅で私を
遠くから見守るような、そんな事をして…いたんだ。
あれで、私は…君に、逢いたくて…一度で、良いから…話したくて仕方、
なくなって…しまったのに…何で…」
監禁されている間、どれだけ痛めつけられようとも御堂は決して
屈しない精神力の持ち主だった。
だが…今、彼は瞳から一筋の涙を零しながら…切々と克哉に
訴えかけていた。
こちらの首を締め付けて痛いぐらいだった力がふと緩んで…
御堂は顔を俯かせていく。
それを見て…克哉は、もらい泣きをしそうになった。
(御堂さん…御免、なさい…。オレじゃなくて、貴方は…『俺』と話したくて
ここまで来て、追いかけて来たっていうのに…)
なのに、やっとそれに手が届いた瞬間に…もう一人の自分の意識は
あの残虐な一面を持つ少年の心を封じる為に、一緒に意識の深遠へと
落ちてしまったのだから皮肉以外の何物でもなかった。
人を愛して…御堂を二度と傷つけたくないと、強く願ってしまったから
起きてしまった悲劇に、克哉はただ…涙するしかない。
ポタリ…。
知らず、克哉の頬に涙が伝い…裏路地の地面に、一粒、二粒と…小さな涙の
染みを作っていく。
それに気づいて御堂はハっと顔を上げて…目の前の男の顔を凝視
していった。
「…何故、君が…泣いているんだ…?」
「すみません…。貴方が、本当に…『俺』を想ってくれている事が判るから…
どうしても、涙が…」
「…君はどうして、さっきから…他人事のように、話し続けているんだ…?
まるで、他の人間のことを言っているような口ぶりじゃないか…」
「………」
この言葉に、どう答えれば良いのか克哉には判らなかった。
結果、沈黙を保つ以外になくなってしまう。
本当のことを話したって、こんな荒唐無稽な話をすぐに信じて貰える
訳がないと思った。
自分達が二重人格である事、いや…もう一つ、今は意識が乖離して
しまっているから…三つ、心がある事があるのか。
それらの心が、この一つの肉体の中でせめぎ合い…主導権を
争ったり、眠ったり引っ込んだりしているなど…他の人間に話したって
頭がおかしい奴と思われるのがオチだ。
だから克哉は…口を噤むしかなかった。
―そのまま、永い永い沈黙が落ちていく。
両者とも空気が凍るような重い沈黙を保っていたが…先にそれに
耐えられなくなったのは御堂の方だった。
「…だんまり、か。君は一体…どこまで私を振り回せば気が
済むんだっ!」
「っ…!」
御堂は感情のままに、克哉を引き寄せていった。
そして首に襟の痕が付くぐらいに強く激しく引っ掴んで…噛み付くように
勢い良く顔を近づけてきた。
痛みと柔らかい感触を同時に、克哉は感じていった。
「ふっ…!」
「はっ…!」
衝動に突き動かされるように、御堂は克哉の唇を強引に奪い…その
身体を強く強く抱き締め続けていく。
その激しさに眩暈すら覚えて、克哉は呼吸困難に陥りそうになった。
この腕の強さと、息すら満足に出来なくなるような熱烈な口付けこそ…
御堂の想いの強烈さの何よりの証だった。
それにただ…克哉は翻弄されながら、腰が抜けてしまうまでの間…
唇を貪られ続けていった。
「はぁ…んっ…」
ようやく解放された時には、刺激が強すぎたせいで…満足に立って
いられなくなっていた。
御堂の身体に凭れ掛かるようにして、背中にすがり付いていく。
克哉のその様子を見て、御堂は更に肩を震わせていった。
「…どうしてっ! 私の成すがままでいるっ! 私の知っている君なら…
絶対に応えて、逆に私を翻弄するだろうに…!」
「…っ! ごめんなさいっ…!」
「だから! 謝るなと言った! さっきから君はおかしすぎるっ! 私の
知っている君とあまりに言動と反応がかけ離れ過ぎている! あの傲慢で
自信家で、私を犯し尽くした君はどこにいった! 其処に…君がいるのに、
私は、君に全然…逢えていないような気分になるっ! 何で…私を、見る目
まで…違っているんだっ!」
御堂は、泣いていた。
いつも冷然としていて…取り澄ました顔を崩さなかった、完璧な
エリートを体現していた男が、感情的になって捲くし立て続けている。
その様子を見て、克哉は…胸が引き絞られる想いだった。
―今の自分はまさに、障壁だ。御堂が逢いたくて逢いたくて堪らない
もう一人の自分と対面する為に、大きく立ちふさがっている邪魔者。
御堂の涙を見る度に…その想いが強まっていく。
何故、あいつが眠りに就いてしまったのだろう。
この人が求めるのは、もう一人の自分なのに…ここにいるのが
どうしてオレなのだろうか。
心の底から、彼は悲しくなってしまっていた。
―ごめんさない
謝りながら、御堂の前に克哉は立ち尽くしていく。
暫く…二人は、無言のまま抱き合っていった。
しかし…次第に、御堂の方から肌を突き刺すような怒りの感情が
伝わってくる。
それに気づいて、ハっと克哉が顔を上げていくと…・
「っ…! 御堂さん! 何を…!」
其処に在った御堂の獰猛な視線に、克哉は射抜かれながら…
強引に腕を引かれていく。
そして裏路地から強引に連れ出され、歓楽街の表通りへと無理矢理
戻されていった。
―来い。
心底、憤りを込めた声で御堂が告げていく。
その顔はゾっとするぐらい冷たく、凍りつくようだった。
そして男はそのまま…克哉を一軒のホテルへと連れ込んでいったのだった―
御堂と対峙しながら、眼鏡を外した…かつての佐伯克哉は静かに
涙を零しながら心の中で呟いていた。
たった今、御堂が必死に追いかけられている間に…眼鏡を掛けて
から表に出続けていたもう一人の自分の意識は深い眠りに付いて
しまっていた。
―幾ら残酷な子供の自分を表に出したくないからって…お前が
犠牲にならなくても良かったのに…。オレに、そう命じれば…
それで、良かった筈なのに…。
御堂の顔を見てしまった為に、残酷な子供の心がこの人に対して
牙を剥こうとしてしまった。
それを阻む為に…眼鏡の意識は、全力を持ってその意識を抑え込み
結果…残された弱い克哉の心が、こうして身体を使用することになって
しまっていた。
身体を使っている心が眠りに就いてしまった場合、人は防衛本能で
他の意識を引きずり出して…肉体を保護しようという本能がある。
今の克哉の意識は、そういった事情で表に出て…こうして御堂と
顔を合わす事になってしまっていた。
(御堂さん…信じられないって、何がなんだか判らないって…そんな
呆然とした顔しているな…)
深夜の歓楽街、追いかけてきた御堂の頬を優しく撫ぜながら…
克哉はそんな事を考えていく。
御堂の唇はワナワナと震えて、何か言いたげだった。
けれど…あまりの出来事に、頭の切り替えが上手く出来ずに沈黙を
今の処保っている。
一言で言えば、まさにそんな状態になっていた。
「君は…さっきから、言っている? それにやっている事も支離滅裂
じゃないか! 君と話したいと思ったから、逢いたいと何故か思ってしまった
からこそ…こんな場所まで君を追いかけてきたんだ! それなのに…
関わるなとは大した言い草だなっ!」
「…すみ、ません…!」
「謝るなっ! そんな言葉を君から聞きたい訳じゃない!」
御堂は段々、怒りを押し殺せなくなっているみたいだった。
いきなり克哉の黒いスーツの襟元を引き掴んで、射殺しそうなくらい
憤りが篭った眼差しで見据えてくる。
「どう、して…! 去り際に、私の事を好きだとか…そんな事を言った、癖に…
私から、逃げ続けるんだっ…! そんな事を言うから、私は君の事を…
忘れる事が、どうしても出来なかったのに…! それに、何で…駅で私を
遠くから見守るような、そんな事をして…いたんだ。
あれで、私は…君に、逢いたくて…一度で、良いから…話したくて仕方、
なくなって…しまったのに…何で…」
監禁されている間、どれだけ痛めつけられようとも御堂は決して
屈しない精神力の持ち主だった。
だが…今、彼は瞳から一筋の涙を零しながら…切々と克哉に
訴えかけていた。
こちらの首を締め付けて痛いぐらいだった力がふと緩んで…
御堂は顔を俯かせていく。
それを見て…克哉は、もらい泣きをしそうになった。
(御堂さん…御免、なさい…。オレじゃなくて、貴方は…『俺』と話したくて
ここまで来て、追いかけて来たっていうのに…)
なのに、やっとそれに手が届いた瞬間に…もう一人の自分の意識は
あの残虐な一面を持つ少年の心を封じる為に、一緒に意識の深遠へと
落ちてしまったのだから皮肉以外の何物でもなかった。
人を愛して…御堂を二度と傷つけたくないと、強く願ってしまったから
起きてしまった悲劇に、克哉はただ…涙するしかない。
ポタリ…。
知らず、克哉の頬に涙が伝い…裏路地の地面に、一粒、二粒と…小さな涙の
染みを作っていく。
それに気づいて御堂はハっと顔を上げて…目の前の男の顔を凝視
していった。
「…何故、君が…泣いているんだ…?」
「すみません…。貴方が、本当に…『俺』を想ってくれている事が判るから…
どうしても、涙が…」
「…君はどうして、さっきから…他人事のように、話し続けているんだ…?
まるで、他の人間のことを言っているような口ぶりじゃないか…」
「………」
この言葉に、どう答えれば良いのか克哉には判らなかった。
結果、沈黙を保つ以外になくなってしまう。
本当のことを話したって、こんな荒唐無稽な話をすぐに信じて貰える
訳がないと思った。
自分達が二重人格である事、いや…もう一つ、今は意識が乖離して
しまっているから…三つ、心がある事があるのか。
それらの心が、この一つの肉体の中でせめぎ合い…主導権を
争ったり、眠ったり引っ込んだりしているなど…他の人間に話したって
頭がおかしい奴と思われるのがオチだ。
だから克哉は…口を噤むしかなかった。
―そのまま、永い永い沈黙が落ちていく。
両者とも空気が凍るような重い沈黙を保っていたが…先にそれに
耐えられなくなったのは御堂の方だった。
「…だんまり、か。君は一体…どこまで私を振り回せば気が
済むんだっ!」
「っ…!」
御堂は感情のままに、克哉を引き寄せていった。
そして首に襟の痕が付くぐらいに強く激しく引っ掴んで…噛み付くように
勢い良く顔を近づけてきた。
痛みと柔らかい感触を同時に、克哉は感じていった。
「ふっ…!」
「はっ…!」
衝動に突き動かされるように、御堂は克哉の唇を強引に奪い…その
身体を強く強く抱き締め続けていく。
その激しさに眩暈すら覚えて、克哉は呼吸困難に陥りそうになった。
この腕の強さと、息すら満足に出来なくなるような熱烈な口付けこそ…
御堂の想いの強烈さの何よりの証だった。
それにただ…克哉は翻弄されながら、腰が抜けてしまうまでの間…
唇を貪られ続けていった。
「はぁ…んっ…」
ようやく解放された時には、刺激が強すぎたせいで…満足に立って
いられなくなっていた。
御堂の身体に凭れ掛かるようにして、背中にすがり付いていく。
克哉のその様子を見て、御堂は更に肩を震わせていった。
「…どうしてっ! 私の成すがままでいるっ! 私の知っている君なら…
絶対に応えて、逆に私を翻弄するだろうに…!」
「…っ! ごめんなさいっ…!」
「だから! 謝るなと言った! さっきから君はおかしすぎるっ! 私の
知っている君とあまりに言動と反応がかけ離れ過ぎている! あの傲慢で
自信家で、私を犯し尽くした君はどこにいった! 其処に…君がいるのに、
私は、君に全然…逢えていないような気分になるっ! 何で…私を、見る目
まで…違っているんだっ!」
御堂は、泣いていた。
いつも冷然としていて…取り澄ました顔を崩さなかった、完璧な
エリートを体現していた男が、感情的になって捲くし立て続けている。
その様子を見て、克哉は…胸が引き絞られる想いだった。
―今の自分はまさに、障壁だ。御堂が逢いたくて逢いたくて堪らない
もう一人の自分と対面する為に、大きく立ちふさがっている邪魔者。
御堂の涙を見る度に…その想いが強まっていく。
何故、あいつが眠りに就いてしまったのだろう。
この人が求めるのは、もう一人の自分なのに…ここにいるのが
どうしてオレなのだろうか。
心の底から、彼は悲しくなってしまっていた。
―ごめんさない
謝りながら、御堂の前に克哉は立ち尽くしていく。
暫く…二人は、無言のまま抱き合っていった。
しかし…次第に、御堂の方から肌を突き刺すような怒りの感情が
伝わってくる。
それに気づいて、ハっと克哉が顔を上げていくと…・
「っ…! 御堂さん! 何を…!」
其処に在った御堂の獰猛な視線に、克哉は射抜かれながら…
強引に腕を引かれていく。
そして裏路地から強引に連れ出され、歓楽街の表通りへと無理矢理
戻されていった。
―来い。
心底、憤りを込めた声で御堂が告げていく。
その顔はゾっとするぐらい冷たく、凍りつくようだった。
そして男はそのまま…克哉を一軒のホテルへと連れ込んでいったのだった―
―御堂はともかく、克哉の背中を追い続けていた。
目を灼くぐらいに鮮やかなネオンの輝く歓楽街。
緩やかに移動を繰り返す人波を静かに掻き分けながら、
決して見失うものかと強く決意していきながら…御堂は足を
進めていく。
見知らぬ誰かの肩を抱きながら、歩き続けていく彼の姿を見ている
だけで…何故か胸がチクチクと痛んでいった。
どうしてこんなに、それだけの事で軋むような思いをしなければ
ならないのか。
その答えは薄々と気づいている。だが認めたくなかった。
―私の事を好きだと言った癖に…!
それなのに、他の人間を連れてこんな処をあの男が歩いている。
その事実が、酷く悔しかった。
だがそんな御堂の葛藤に気づく事なく…二人は街の奥へと進んでいった。
ホテルの前で両者が足を止めると同時に…御堂は、ついに声を
掛けてしまっていた。
「佐伯っ!」
それは、御堂自身も驚くぐらいの大声だった。
モロに怒りの感情が込められた呼びかけだった。
まさか…こんな声を、自分が上げてしまうなんて―
―その瞬間、二人の耳から歓楽街の喧騒が消えていく
空気が硬直するような気がした。
相手の肩が少しだけ震えて…暫く、身動きを取らなかった。
御堂はそれを固唾を飲みながら見守っていく。
そして…時間が凍るような思いを双方味わっていきながら…
ようやく、佐伯克哉はこちらを振り返った。
彼は驚愕に目を見開いていた。
それを見て、逆に御堂の方が驚いてしまった。
「…何で、あんたが…こんな処に…?」
「…君を探しに来たからに決まっているだろう! そうでなければ…どうして
私がこのようないかがわしい場所に足を向けるっていうんだっ!」
最初から、気づけば喧嘩腰になってしまっていた。
だが溢れてくる怒りの感情が普段は冷静な御堂を突き動かして
しまっていた。
今までの人生、ここまでの怒りと失望の感情を覚えた経験など御堂には
なかった。
「…君という男は! 去り際にあんな捨て台詞を…私の事を好きだとか
言葉を残して、勝手にいなくなった癖に…! それなのに他の人間を
抱くような、そんな真似を君という男はする奴だったんだな…!
そんな男を、一年近くも忘れられずにいた私も、大層滑稽な道化だった
んだろうな…!」
こんなみっともない事、言いたくなかった。
なのに勝手に、言葉が口を突いて出てきてしまう。
知らない間に、涙が勝手に滲み出てしまっていた。
知りたくなかった、自分の本心なんて。
どうしてこの一年、この男の事をどうして忘れられなかったのか。
思い出す度に身体が疼いてしまっていたのか。
藤田から情報を聞いて、いても立ってもいられずにこんな街まで足を
向けてしまっていたのか。
全て、答えは薄々と気づいていた。
だが…見たくなかった、自覚したくなかった。
―この男を、自分は好きになってしまっていたからだった―
「…何で、そんな事を…あんたが、言う…んだ…?」
御堂が涙すら浮かべながら捲くし立てた言葉の羅列を聞いて、克哉は
信じられないものを見るような眼差しを浮かべていった。
その唇も指先も小刻みに震えて、定まる気配がない。
「あんたが、俺を忘れられなかった…それは、憎い…から、だろう…?」
「あぁ、お前が心底憎い! 今…この場で首を絞めて殺してやりたいぐらいになっ!」
怒り狂う御堂の剣幕に押されて、克哉の今夜の一夜の相手になる筈だった
茶髪のウルフカットのいかにも遊び慣れた風な雰囲気を纏った青年は…
ボソリ、と呟いていった。
「…何かあんた、面倒そうなことになっているみたいだから…俺は退散
させてもらうよ。あんたイイ男だし、どんな風に俺を苛めて抱いてくれるか
興味はあったけど…面倒な事は嫌いな性分なんでね。
それじゃ、勝手に遣ってて貰える?」
「あぁ、すまないな。君がいない方がこの男と話がしやすいので…素直に
感謝しておこう。ありがとう」
「どう致しまして。んじゃ痴話ゲンカはどうぞご自由に~。ではね…」
と言って、修羅場の気配を察して…巻き込まれては堪らないとばかりに
軽そうな青年はあっさりとその場を去っていった。
そして街中の通路の中心に残されたのは二人だけとなった。
だが、大声で口論をしている両者は周囲の人間の目を嫌でも引いてしまい
悪目立ちしている状態になっていた。
「…佐伯。ここで会話を続けていると…必要以上に周りの人間の注目を
集めてしまう。場所を変えないか…?」
感情を思いの丈ぶつけた事と、あの青年が立ち去った事で少しだけ
御堂の方も冷静さを取り戻しつつあった。
それでやっと…周りの人間の目が突き刺さるように向けられている現状に
気づいて静かな声で提案していった。
だが…克哉は何も答えない。
―酷く不安定な眼差しを向けながら、こちらを見つめてくるのみだった…
その様子に気づいて、御堂は訝しげな表情になっていく。
「佐伯…どうしたんだ?」
この男に監禁されていたせいで、何ヶ月もこの男と一緒の屋根の下で
暮らしていたことがあった。
その間にただの一度も見せた事がない表情を今の克哉は浮かべている。
蒼い双眸は落ち着くなく揺れ続けて、まったく定まる様子がない。
まるで迷子の子供が泣きそうになっているような…そんな切ないような
心細そうにしている様子に、御堂はただ…愕然となるしかなかった。
「俺は…俺は…!」
いきなり、克哉が己の胸元を苦しげに押さえ込みながら呻いていった。
「佐伯っ?」
とんでもないものを目撃したような気分になりながら、御堂が声を
張り上げて呼びかけていく。
だが、彼にはその声が届いていないようだった。
「俺は…また、あんたを…泣かせて、苦しませて…しまったんだな…」
「…君、は…っ!」
信じられないものを見るような眼差しで、御堂は克哉を見た。
彼は…泣いていた。
一筋の涙を、頬に伝らせて…光らせて、切ない表情を浮かべながら…
御堂を、見つめていた。
「また…俺は、大切な人間を…追い詰めて、しまったんだな…」
「君は、一体…何を、言っているんだ…?」
克哉の様子がおかしい、と嫌でも気づかずにはいられなかった。
だが…彼は今にも消えそうな、儚い表情を浮かべていく。
それは…幻のように、目の前の男が掻き消えてしまいそうな予感が
して思わず御堂は間合いを詰めて、克哉の方に歩み寄っていこうと
すると…。
「来るなっ! 俺はもう二度とあんたを傷つけたくない! だから俺に
近寄らないでくれ! そして…もう、追わないでくれっ!」
今度は克哉が激昂する番だった。
それはまるで子供が癇癪を起こしているかのような光景だった。
「どうして、君は…そんな事を言う!待てっ!」
御堂が近づこうとした瞬間、弾かれるように相手の肩が揺れて…
いきなり走り出してしまった。
「逃げるな! まだ…話は終わっていない! 君に話したい事も…
伝えたい事も一杯あるんだっ…!」
御堂は必死だった。
追いかけて、追いかけて…やっとこうして言葉を交わすことが
出来たのだ。
まだ、本当に御堂が言いたいと思っている言葉を伝えられていない。
その状態で、決して逃せる訳がなかった。
「行かないでくれっ! 佐伯っ!」
どこか悲痛な声を上げながら、ともかく懸命に御堂は逃げる克哉の
背中を追いかけていった。
相手が全力で走って逃げたので、こちらも容赦しなかった。
持てる力の全てを振り絞る形で、遮二無二走り続けた。
そして…どれぐらい、歓楽街を舞台にした二人の鬼ごっこは続いた
事だろうか。
ついに奥まった薄暗い路地に辿り着いて、克哉を追い詰める形になった。
ようやくこの男を追い詰めた。
そう確信した瞬間。
「来ないで下さい…」
今までとは打って変わって、静かな…別人のような声で、そう
短く告げられていった。
「…その君の要望を聞くつもりは、ない…!」
相手の言葉を一刀両断して、御堂は間合いを詰めていった。
「…オレに、もう関わらないで下さい…お願いします。御堂さん…」
「君の言うことを聞く気はない! いい加減に観念しろっ!」
そして乱暴に御堂は相手の肩口を掴んで、強引にこちらの方を
向かせていった。
ようやく対峙する形になって、険しい顔をしながら叫んでいく。
「…御堂、さん…」
そしてようやく…克哉の顔を間近で見てぎょっとなっていく。
いつの間に外したのか、彼の顔には眼鏡がなかった。
そのせいで…さっきまでと別人のような印象になってしまっている。
瞳に力がなくなって、表情もキリリとした凛とした印象から…気弱で
温和なものへと変わってしまっている。
彼を追いかけていた僅かな時間で、別人のような変貌を遂げてしまって
いる事実に…御堂は、呆然となってしまった。
「…何故、今更…私を、さん付けでなんか…君は、呼ぶんだ…?」
今の佐伯克哉は、どこかおかしかった。
それに猛烈な違和感を覚えながら御堂は訴えていく。
「君は私の事を『御堂』と呼び捨てで呼んでいた筈だっ! この後に及んで
どうしていきなり…!」
そして、相手の襟元を掴んでいきながらその瞳を覗き込んでいく。
静かで冷静な目だった。
「…もう一度、お願いします。もう…『俺』に関わらないでやって下さい…」
懇願するように、彼は御堂に語りかけていく。
そう…今、目の前にいるのは…例の銀縁眼鏡を公園で受け取る以前に
存在していた佐伯克哉。
気弱で自信がなく、いつもオドオドしていた無能なサラリーマンだった
方の彼の人格。
「私には…君が、判らない…どうして、今になって…そんな、事を…」
克哉の言葉に、御堂は傷ついていく。
今にも泣きそうな顔を浮かべている彼に向かって、佐伯克哉は
そっとその頬を撫ぜ擦りながら告げていく。
―それが貴方の為でもありますから
そう、静かに優しく告げていく。
御堂はただ…あまりの事態に、呆けるしか出来なくなっていたのだった―
目を灼くぐらいに鮮やかなネオンの輝く歓楽街。
緩やかに移動を繰り返す人波を静かに掻き分けながら、
決して見失うものかと強く決意していきながら…御堂は足を
進めていく。
見知らぬ誰かの肩を抱きながら、歩き続けていく彼の姿を見ている
だけで…何故か胸がチクチクと痛んでいった。
どうしてこんなに、それだけの事で軋むような思いをしなければ
ならないのか。
その答えは薄々と気づいている。だが認めたくなかった。
―私の事を好きだと言った癖に…!
それなのに、他の人間を連れてこんな処をあの男が歩いている。
その事実が、酷く悔しかった。
だがそんな御堂の葛藤に気づく事なく…二人は街の奥へと進んでいった。
ホテルの前で両者が足を止めると同時に…御堂は、ついに声を
掛けてしまっていた。
「佐伯っ!」
それは、御堂自身も驚くぐらいの大声だった。
モロに怒りの感情が込められた呼びかけだった。
まさか…こんな声を、自分が上げてしまうなんて―
―その瞬間、二人の耳から歓楽街の喧騒が消えていく
空気が硬直するような気がした。
相手の肩が少しだけ震えて…暫く、身動きを取らなかった。
御堂はそれを固唾を飲みながら見守っていく。
そして…時間が凍るような思いを双方味わっていきながら…
ようやく、佐伯克哉はこちらを振り返った。
彼は驚愕に目を見開いていた。
それを見て、逆に御堂の方が驚いてしまった。
「…何で、あんたが…こんな処に…?」
「…君を探しに来たからに決まっているだろう! そうでなければ…どうして
私がこのようないかがわしい場所に足を向けるっていうんだっ!」
最初から、気づけば喧嘩腰になってしまっていた。
だが溢れてくる怒りの感情が普段は冷静な御堂を突き動かして
しまっていた。
今までの人生、ここまでの怒りと失望の感情を覚えた経験など御堂には
なかった。
「…君という男は! 去り際にあんな捨て台詞を…私の事を好きだとか
言葉を残して、勝手にいなくなった癖に…! それなのに他の人間を
抱くような、そんな真似を君という男はする奴だったんだな…!
そんな男を、一年近くも忘れられずにいた私も、大層滑稽な道化だった
んだろうな…!」
こんなみっともない事、言いたくなかった。
なのに勝手に、言葉が口を突いて出てきてしまう。
知らない間に、涙が勝手に滲み出てしまっていた。
知りたくなかった、自分の本心なんて。
どうしてこの一年、この男の事をどうして忘れられなかったのか。
思い出す度に身体が疼いてしまっていたのか。
藤田から情報を聞いて、いても立ってもいられずにこんな街まで足を
向けてしまっていたのか。
全て、答えは薄々と気づいていた。
だが…見たくなかった、自覚したくなかった。
―この男を、自分は好きになってしまっていたからだった―
「…何で、そんな事を…あんたが、言う…んだ…?」
御堂が涙すら浮かべながら捲くし立てた言葉の羅列を聞いて、克哉は
信じられないものを見るような眼差しを浮かべていった。
その唇も指先も小刻みに震えて、定まる気配がない。
「あんたが、俺を忘れられなかった…それは、憎い…から、だろう…?」
「あぁ、お前が心底憎い! 今…この場で首を絞めて殺してやりたいぐらいになっ!」
怒り狂う御堂の剣幕に押されて、克哉の今夜の一夜の相手になる筈だった
茶髪のウルフカットのいかにも遊び慣れた風な雰囲気を纏った青年は…
ボソリ、と呟いていった。
「…何かあんた、面倒そうなことになっているみたいだから…俺は退散
させてもらうよ。あんたイイ男だし、どんな風に俺を苛めて抱いてくれるか
興味はあったけど…面倒な事は嫌いな性分なんでね。
それじゃ、勝手に遣ってて貰える?」
「あぁ、すまないな。君がいない方がこの男と話がしやすいので…素直に
感謝しておこう。ありがとう」
「どう致しまして。んじゃ痴話ゲンカはどうぞご自由に~。ではね…」
と言って、修羅場の気配を察して…巻き込まれては堪らないとばかりに
軽そうな青年はあっさりとその場を去っていった。
そして街中の通路の中心に残されたのは二人だけとなった。
だが、大声で口論をしている両者は周囲の人間の目を嫌でも引いてしまい
悪目立ちしている状態になっていた。
「…佐伯。ここで会話を続けていると…必要以上に周りの人間の注目を
集めてしまう。場所を変えないか…?」
感情を思いの丈ぶつけた事と、あの青年が立ち去った事で少しだけ
御堂の方も冷静さを取り戻しつつあった。
それでやっと…周りの人間の目が突き刺さるように向けられている現状に
気づいて静かな声で提案していった。
だが…克哉は何も答えない。
―酷く不安定な眼差しを向けながら、こちらを見つめてくるのみだった…
その様子に気づいて、御堂は訝しげな表情になっていく。
「佐伯…どうしたんだ?」
この男に監禁されていたせいで、何ヶ月もこの男と一緒の屋根の下で
暮らしていたことがあった。
その間にただの一度も見せた事がない表情を今の克哉は浮かべている。
蒼い双眸は落ち着くなく揺れ続けて、まったく定まる様子がない。
まるで迷子の子供が泣きそうになっているような…そんな切ないような
心細そうにしている様子に、御堂はただ…愕然となるしかなかった。
「俺は…俺は…!」
いきなり、克哉が己の胸元を苦しげに押さえ込みながら呻いていった。
「佐伯っ?」
とんでもないものを目撃したような気分になりながら、御堂が声を
張り上げて呼びかけていく。
だが、彼にはその声が届いていないようだった。
「俺は…また、あんたを…泣かせて、苦しませて…しまったんだな…」
「…君、は…っ!」
信じられないものを見るような眼差しで、御堂は克哉を見た。
彼は…泣いていた。
一筋の涙を、頬に伝らせて…光らせて、切ない表情を浮かべながら…
御堂を、見つめていた。
「また…俺は、大切な人間を…追い詰めて、しまったんだな…」
「君は、一体…何を、言っているんだ…?」
克哉の様子がおかしい、と嫌でも気づかずにはいられなかった。
だが…彼は今にも消えそうな、儚い表情を浮かべていく。
それは…幻のように、目の前の男が掻き消えてしまいそうな予感が
して思わず御堂は間合いを詰めて、克哉の方に歩み寄っていこうと
すると…。
「来るなっ! 俺はもう二度とあんたを傷つけたくない! だから俺に
近寄らないでくれ! そして…もう、追わないでくれっ!」
今度は克哉が激昂する番だった。
それはまるで子供が癇癪を起こしているかのような光景だった。
「どうして、君は…そんな事を言う!待てっ!」
御堂が近づこうとした瞬間、弾かれるように相手の肩が揺れて…
いきなり走り出してしまった。
「逃げるな! まだ…話は終わっていない! 君に話したい事も…
伝えたい事も一杯あるんだっ…!」
御堂は必死だった。
追いかけて、追いかけて…やっとこうして言葉を交わすことが
出来たのだ。
まだ、本当に御堂が言いたいと思っている言葉を伝えられていない。
その状態で、決して逃せる訳がなかった。
「行かないでくれっ! 佐伯っ!」
どこか悲痛な声を上げながら、ともかく懸命に御堂は逃げる克哉の
背中を追いかけていった。
相手が全力で走って逃げたので、こちらも容赦しなかった。
持てる力の全てを振り絞る形で、遮二無二走り続けた。
そして…どれぐらい、歓楽街を舞台にした二人の鬼ごっこは続いた
事だろうか。
ついに奥まった薄暗い路地に辿り着いて、克哉を追い詰める形になった。
ようやくこの男を追い詰めた。
そう確信した瞬間。
「来ないで下さい…」
今までとは打って変わって、静かな…別人のような声で、そう
短く告げられていった。
「…その君の要望を聞くつもりは、ない…!」
相手の言葉を一刀両断して、御堂は間合いを詰めていった。
「…オレに、もう関わらないで下さい…お願いします。御堂さん…」
「君の言うことを聞く気はない! いい加減に観念しろっ!」
そして乱暴に御堂は相手の肩口を掴んで、強引にこちらの方を
向かせていった。
ようやく対峙する形になって、険しい顔をしながら叫んでいく。
「…御堂、さん…」
そしてようやく…克哉の顔を間近で見てぎょっとなっていく。
いつの間に外したのか、彼の顔には眼鏡がなかった。
そのせいで…さっきまでと別人のような印象になってしまっている。
瞳に力がなくなって、表情もキリリとした凛とした印象から…気弱で
温和なものへと変わってしまっている。
彼を追いかけていた僅かな時間で、別人のような変貌を遂げてしまって
いる事実に…御堂は、呆然となってしまった。
「…何故、今更…私を、さん付けでなんか…君は、呼ぶんだ…?」
今の佐伯克哉は、どこかおかしかった。
それに猛烈な違和感を覚えながら御堂は訴えていく。
「君は私の事を『御堂』と呼び捨てで呼んでいた筈だっ! この後に及んで
どうしていきなり…!」
そして、相手の襟元を掴んでいきながらその瞳を覗き込んでいく。
静かで冷静な目だった。
「…もう一度、お願いします。もう…『俺』に関わらないでやって下さい…」
懇願するように、彼は御堂に語りかけていく。
そう…今、目の前にいるのは…例の銀縁眼鏡を公園で受け取る以前に
存在していた佐伯克哉。
気弱で自信がなく、いつもオドオドしていた無能なサラリーマンだった
方の彼の人格。
「私には…君が、判らない…どうして、今になって…そんな、事を…」
克哉の言葉に、御堂は傷ついていく。
今にも泣きそうな顔を浮かべている彼に向かって、佐伯克哉は
そっとその頬を撫ぜ擦りながら告げていく。
―それが貴方の為でもありますから
そう、静かに優しく告げていく。
御堂はただ…あまりの事態に、呆けるしか出来なくなっていたのだった―
例のキャラソング、無事に19日に手元に届きました!
わ~い! ありがとう大きなカメラ!(笑)
という訳で聞いてみました…。
視聴中…。
エエ声してるやんか! 克哉はん!(何故か関西弁)
三曲目のコントラスト! 特にワイは気に入ったでぇ!
ホンマにエエ萌えをありがとうな!
これでご飯三杯ぐらいは軽くイケる~!
以上、感想でした。思わず関西弁が出るぐらいドキドキしました。
(※香坂は関東生まれの関東育ちの子です)
ふっ…エピローグ後にどんなエッチをしたか、妄想は膨らむばかりだ…。
思わず頭の中であれやこれや、とか二人のイチャイチャシーンを想像して
しまったよ…(ドキドキ)
思わず今日突発でそっちのネタでも書き下ろして掲載してやろうかと考えた
ぐらい…何ですが、今日は連載の方の要のシーンでもあるので…流石に
本日は自重します。はい。
土日は長い場面を書く絶好のチャンスでもありますからねぇ…(ふ~)
あまりダラダラと延ばすと話に締まりがなくなるので…。
(ただ、勢いで突発的に近い内に書いているかも知れませんが)
後、本日頂き物を二点追加させて頂きました!
どちらも送った小説に挿絵を頂く形ですけど、素敵挿絵をつけて貰えて
本人的にはウハウハです!
克克新婚小説1 『いってらっしゃい』には「最果て」のおしげさんから!
6月に掲載したメガミドSS「紫陽花」には「花冠を。」のむいさんから
それぞれイラスト描いて貰えました!
わ~いわ~い!(大はしゃぎ)
何か『いってらっしゃい』の方は、本文にない動作が入っていたんですが
凄くエロくてドキドキしたし…どうせなら追加しちゃえv という感じで20行ぐらい
加筆修正しましたv
そしてむいさん…いつもメールとかありがとう。
ここにこそりと私信残しておく。
ついでに萌茶、参加したかった~!! 平日は時間取れないから
仕方ないけど、週末に開催する日は是非参加させて下さい!
という訳でキャラソングは無事入手した! という報告と頂き物の挿絵の
追加作業をやらせて頂きました。
本日分の更新は夜になると思います。
…夜に参加する予定の絵茶があるから早い内に書いておきたかったけど
さ~これから書くか! と思ったら昨日会社に携帯忘れていた事が発覚
したもので…(涙)
今日中に連絡しないといけない人がいるので大人しく行って来ます…。
んじゃとりあえず今回はこの辺で…(そそくさ~)
わ~い! ありがとう大きなカメラ!(笑)
という訳で聞いてみました…。
視聴中…。
エエ声してるやんか! 克哉はん!(何故か関西弁)
三曲目のコントラスト! 特にワイは気に入ったでぇ!
ホンマにエエ萌えをありがとうな!
これでご飯三杯ぐらいは軽くイケる~!
以上、感想でした。思わず関西弁が出るぐらいドキドキしました。
(※香坂は関東生まれの関東育ちの子です)
ふっ…エピローグ後にどんなエッチをしたか、妄想は膨らむばかりだ…。
思わず頭の中であれやこれや、とか二人のイチャイチャシーンを想像して
しまったよ…(ドキドキ)
思わず今日突発でそっちのネタでも書き下ろして掲載してやろうかと考えた
ぐらい…何ですが、今日は連載の方の要のシーンでもあるので…流石に
本日は自重します。はい。
土日は長い場面を書く絶好のチャンスでもありますからねぇ…(ふ~)
あまりダラダラと延ばすと話に締まりがなくなるので…。
(ただ、勢いで突発的に近い内に書いているかも知れませんが)
後、本日頂き物を二点追加させて頂きました!
どちらも送った小説に挿絵を頂く形ですけど、素敵挿絵をつけて貰えて
本人的にはウハウハです!
克克新婚小説1 『いってらっしゃい』には「最果て」のおしげさんから!
6月に掲載したメガミドSS「紫陽花」には「花冠を。」のむいさんから
それぞれイラスト描いて貰えました!
わ~いわ~い!(大はしゃぎ)
何か『いってらっしゃい』の方は、本文にない動作が入っていたんですが
凄くエロくてドキドキしたし…どうせなら追加しちゃえv という感じで20行ぐらい
加筆修正しましたv
そしてむいさん…いつもメールとかありがとう。
ここにこそりと私信残しておく。
ついでに萌茶、参加したかった~!! 平日は時間取れないから
仕方ないけど、週末に開催する日は是非参加させて下さい!
という訳でキャラソングは無事入手した! という報告と頂き物の挿絵の
追加作業をやらせて頂きました。
本日分の更新は夜になると思います。
…夜に参加する予定の絵茶があるから早い内に書いておきたかったけど
さ~これから書くか! と思ったら昨日会社に携帯忘れていた事が発覚
したもので…(涙)
今日中に連絡しないといけない人がいるので大人しく行って来ます…。
んじゃとりあえず今回はこの辺で…(そそくさ~)
―その話を藤田から最初に聞かされた時は信じたくない、と
正直に思った。
だが、御堂孝典は物事を曖昧にしておくのが何よりも嫌いな
性分だった。
かつての自分の部下でもあった男が口にした―佐伯克哉が
夜の歓楽街で遊んでいるという噂。
それを聞いた時、ショックだった。
自分とて男だ。同性の生理欲求というのは良く判っている。
男性である以上、ストレスが溜まっていたり疲れてくると無性に
快楽を欲する時がある。
それくらいは判っているのだが…「あんたの事も好きだともっと早くに
気づけば良かった…」と、自分にそんな告白を残して消えた男が、自分と
再会したにも関わらず…他の相手と遊んでいるという事実が、どうしても
御堂には腹立たしかった。
あんなのは偶然だと思おうとした。
そんな真似をしでかしている奴なら、さっさと忘れてしまおうとも考えた。
だが…話の真偽を確かめなければ、間違った判断を下してしまう恐れも
あったので…御堂は一人、夜の歓楽街。
例の佐伯克哉が最近、頻繁に出入りしているという新宿二丁目へと
足を踏み入れていった。
目の前に広がる鮮やかなネオンの集まりは、夜の帳が下りた後では圧倒的な
存在感を放ってこちらの目を焼くぐらいだ。
其処に緊張した面持ちでその入り口に立っていくと…御堂は険しい表情を
浮かべながら人の流れを目で追っていた。
(本当にこんな処に…アイツが、いるのか…?)
今までの人生の中で、接待でゲイバーなどを指定してくるクライアントとかも
あったので何度か夜にこの界隈に来た事があったが…一人で歩いたことは
一度もなかった。
―まさかこのような場所に足を踏み入れる事になるなんて、予想もした
事がなかった。
しかし、この近辺を歩いたことがない以上…どの辺りを探せば良いのか
自分には判らなかった。
知識がない以上、どこを歩けば効率が良いのか…どの店に行けば良いかすら
見当がつかない。
だから御堂はともかく、ガムシャラに高速で歩き始めていた。
(ともかく奴を見つけるしかない…)
もし、必死に捜索して見つからなかったとしたら…その時はあの噂は
デマに過ぎなかったと割り切れば良い。
そう考えて、鬼気迫る形相で大股で歩き始めた。
御堂自身はそれで注目を浴びている事などまったく気づいていなかった。
(何をそんなにジロジロと見ている! 私は人探しをしたいだけだっ!)
心の中で苛立ち混じりに叫んでいく。
その瞬間、目元が恐ろしいぐらいに吊り上って更に怖い形相になっていた。
御堂自身、非常に整った容姿の持ち主である。
全身を仕立てがしっかりとしたスーツに身を包んで…髪の毛のセットにも
一部の隙もない。
そんなエリートサラリーマン然をした人物が、夜の街を険しい顔で練り歩いたり
したら目立つことこの上ないのだが、本人にその自覚はまったくなかった。
御堂の硬質な美は、知らず…周囲の男達の視線を集めていく。
だが、余りに顔が怖い状態なので…誰も声を掛けられない状態になっていた。
ジロジロと見られてしまっている事だけは気づいているが、それが余計に
周囲の注目を集めていってしまう。
この時間帯に街を歩くのは目的の店に向かう道筋か、待ち合わせ場所に
向かっているか…もしくは、相手を物色しながらナンパの機会を狙っているか…
そんな感じだ。
御堂に声を掛けたい、と思う男は何人もいたが…恐ろしい速さで歩き
回っている為に誰も声掛けられない。
悪目立ちも良い処であった。
「佐伯、どこだ! どこにいるっ!」
知らない間にそんな言葉を零していきながら…
そんな調子で30分も街中を歩いていたら、疲れて来た。
早足をスーツ姿でそんな長時間続けていたら体力の消耗が激しくて
当然であった。
流石に少し休もうと肩で息をしながら、少しペースを緩めていくと…
近くにいた男が近寄ってくる。
黒髪の、蒼い目をした男だ。カラーコンタクトを使っているのか…
独特の雰囲気があって、少し目を惹く人物だった。
「…おに~さん、美人だね。一人?」
「取り込み中だ。ナンパに応じる気はまったくない」
「あ、そ、そうなんだ…」
「…という訳で失礼する」
相手がこちらに会話の糸口を求めて声を掛けているのに関わらず
一切取り付く暇を見せなかった。
きっぱりと切り捨てるように言い放っていくと…そのまま踵を返す辺り
ナンパしようとする人間の立場すらなかった。
ショボンと黒髪の青年は落ち込んでしまっているようだが…初対面の
人間に必要以上に関わる気はまったくない。
自分が求めるのはただ一人…あの男だけ。
(佐伯…どこにいるんだっ!)
念じるように、心の中で叫んでいく。
強く、激しく…まるで焦がれているかのように!
その強い念が功を成したのか…ふと、行き交う人波の狭間に…一瞬だけ
あの男の後姿を見たような気がした。
誰か、見知らぬ人間を連れて二人で歩いている姿を見て…御堂は
思わず追いかけていってしまった。
「佐伯っ!」
声を掛ける、だが振り向く気配はない。
御堂の声は、夜の街の喧騒に掻き消されてしまって少々声を
張り上げたぐらいでは届かなかった。
だが、それでも御堂は諦めない。
必死の表情をしながら…佐伯克哉と思しき人物の背中を追いかけ始めていく。
―その後に、どんな運命が待ち受けているかも未だ知らずに―
正直に思った。
だが、御堂孝典は物事を曖昧にしておくのが何よりも嫌いな
性分だった。
かつての自分の部下でもあった男が口にした―佐伯克哉が
夜の歓楽街で遊んでいるという噂。
それを聞いた時、ショックだった。
自分とて男だ。同性の生理欲求というのは良く判っている。
男性である以上、ストレスが溜まっていたり疲れてくると無性に
快楽を欲する時がある。
それくらいは判っているのだが…「あんたの事も好きだともっと早くに
気づけば良かった…」と、自分にそんな告白を残して消えた男が、自分と
再会したにも関わらず…他の相手と遊んでいるという事実が、どうしても
御堂には腹立たしかった。
あんなのは偶然だと思おうとした。
そんな真似をしでかしている奴なら、さっさと忘れてしまおうとも考えた。
だが…話の真偽を確かめなければ、間違った判断を下してしまう恐れも
あったので…御堂は一人、夜の歓楽街。
例の佐伯克哉が最近、頻繁に出入りしているという新宿二丁目へと
足を踏み入れていった。
目の前に広がる鮮やかなネオンの集まりは、夜の帳が下りた後では圧倒的な
存在感を放ってこちらの目を焼くぐらいだ。
其処に緊張した面持ちでその入り口に立っていくと…御堂は険しい表情を
浮かべながら人の流れを目で追っていた。
(本当にこんな処に…アイツが、いるのか…?)
今までの人生の中で、接待でゲイバーなどを指定してくるクライアントとかも
あったので何度か夜にこの界隈に来た事があったが…一人で歩いたことは
一度もなかった。
―まさかこのような場所に足を踏み入れる事になるなんて、予想もした
事がなかった。
しかし、この近辺を歩いたことがない以上…どの辺りを探せば良いのか
自分には判らなかった。
知識がない以上、どこを歩けば効率が良いのか…どの店に行けば良いかすら
見当がつかない。
だから御堂はともかく、ガムシャラに高速で歩き始めていた。
(ともかく奴を見つけるしかない…)
もし、必死に捜索して見つからなかったとしたら…その時はあの噂は
デマに過ぎなかったと割り切れば良い。
そう考えて、鬼気迫る形相で大股で歩き始めた。
御堂自身はそれで注目を浴びている事などまったく気づいていなかった。
(何をそんなにジロジロと見ている! 私は人探しをしたいだけだっ!)
心の中で苛立ち混じりに叫んでいく。
その瞬間、目元が恐ろしいぐらいに吊り上って更に怖い形相になっていた。
御堂自身、非常に整った容姿の持ち主である。
全身を仕立てがしっかりとしたスーツに身を包んで…髪の毛のセットにも
一部の隙もない。
そんなエリートサラリーマン然をした人物が、夜の街を険しい顔で練り歩いたり
したら目立つことこの上ないのだが、本人にその自覚はまったくなかった。
御堂の硬質な美は、知らず…周囲の男達の視線を集めていく。
だが、余りに顔が怖い状態なので…誰も声を掛けられない状態になっていた。
ジロジロと見られてしまっている事だけは気づいているが、それが余計に
周囲の注目を集めていってしまう。
この時間帯に街を歩くのは目的の店に向かう道筋か、待ち合わせ場所に
向かっているか…もしくは、相手を物色しながらナンパの機会を狙っているか…
そんな感じだ。
御堂に声を掛けたい、と思う男は何人もいたが…恐ろしい速さで歩き
回っている為に誰も声掛けられない。
悪目立ちも良い処であった。
「佐伯、どこだ! どこにいるっ!」
知らない間にそんな言葉を零していきながら…
そんな調子で30分も街中を歩いていたら、疲れて来た。
早足をスーツ姿でそんな長時間続けていたら体力の消耗が激しくて
当然であった。
流石に少し休もうと肩で息をしながら、少しペースを緩めていくと…
近くにいた男が近寄ってくる。
黒髪の、蒼い目をした男だ。カラーコンタクトを使っているのか…
独特の雰囲気があって、少し目を惹く人物だった。
「…おに~さん、美人だね。一人?」
「取り込み中だ。ナンパに応じる気はまったくない」
「あ、そ、そうなんだ…」
「…という訳で失礼する」
相手がこちらに会話の糸口を求めて声を掛けているのに関わらず
一切取り付く暇を見せなかった。
きっぱりと切り捨てるように言い放っていくと…そのまま踵を返す辺り
ナンパしようとする人間の立場すらなかった。
ショボンと黒髪の青年は落ち込んでしまっているようだが…初対面の
人間に必要以上に関わる気はまったくない。
自分が求めるのはただ一人…あの男だけ。
(佐伯…どこにいるんだっ!)
念じるように、心の中で叫んでいく。
強く、激しく…まるで焦がれているかのように!
その強い念が功を成したのか…ふと、行き交う人波の狭間に…一瞬だけ
あの男の後姿を見たような気がした。
誰か、見知らぬ人間を連れて二人で歩いている姿を見て…御堂は
思わず追いかけていってしまった。
「佐伯っ!」
声を掛ける、だが振り向く気配はない。
御堂の声は、夜の街の喧騒に掻き消されてしまって少々声を
張り上げたぐらいでは届かなかった。
だが、それでも御堂は諦めない。
必死の表情をしながら…佐伯克哉と思しき人物の背中を追いかけ始めていく。
―その後に、どんな運命が待ち受けているかも未だ知らずに―
今朝は電波状況が悪いのか、回線が安定せず…30分くらい
途中で弾き返され続けているうちに出勤時間が迫って来たので
お休みします。
うう…すみません。
けど流石に20~30分程度の時間で一話書けないよ(汗)
本日は2.5時間残業してくる予定なので夜も書けなさそう
ですし。すみません、明日は書きます。
それでは行って来ます。
途中で弾き返され続けているうちに出勤時間が迫って来たので
お休みします。
うう…すみません。
けど流石に20~30分程度の時間で一話書けないよ(汗)
本日は2.5時間残業してくる予定なので夜も書けなさそう
ですし。すみません、明日は書きます。
それでは行って来ます。
※9月18日の午前一時から午前六時までブログのメンテナンスに
入ります。ご了承下さい。
本日はキャラソンの発売日…ですが、当日になっても
支払い番号来ないんですけど~!
代引きにしたら発送早くなるかな~と変更した途端…。
『10月9~23日の間に発送』
グォォォォォォォォォ!
悲鳴上げて、更に確認しました。
佐伯克哉のキャラソング、アマゾンだと通常3~5週間で発送とか
書いてありました。
…どうも在庫切れ起こした模様。
という訳で賭けに出てみました。
配送料無料で3~5週間待つか。
多少の割り増し代金払っても発売日に近い日程で購入するか。
…素直に後者選びました。
楽しみにしていたんだから、3~5週間待つのはいやぁぁぁ~!
…という訳でビックカメラで購入手続きしました。
500円前後、割り増しでしたが背に腹は変えられん…。
明日にセブンイレブンの窓口で支払って参ります!(シュタ)
つか、CDショップ屋回って巡るよりそっちのが安上がりだしねぇ。
…一応、そこではまだ在庫表示ありました。
1~2日で発送とあったから…ここに限らず、配送手数料が掛かるような
店なら、まだ手に入るかもです。(9月17日23時時点)
9月20日のチャットまでには届いて欲しいなぁ…。
しかしキチメガ人気、ますます凄いなぁ。
…パンの缶詰と良い、大人気だな。関連グッズの数々。
後は無事に届いてくれますように~(なむ~)
入ります。ご了承下さい。
本日はキャラソンの発売日…ですが、当日になっても
支払い番号来ないんですけど~!
代引きにしたら発送早くなるかな~と変更した途端…。
『10月9~23日の間に発送』
グォォォォォォォォォ!
悲鳴上げて、更に確認しました。
佐伯克哉のキャラソング、アマゾンだと通常3~5週間で発送とか
書いてありました。
…どうも在庫切れ起こした模様。
という訳で賭けに出てみました。
配送料無料で3~5週間待つか。
多少の割り増し代金払っても発売日に近い日程で購入するか。
…素直に後者選びました。
楽しみにしていたんだから、3~5週間待つのはいやぁぁぁ~!
…という訳でビックカメラで購入手続きしました。
500円前後、割り増しでしたが背に腹は変えられん…。
明日にセブンイレブンの窓口で支払って参ります!(シュタ)
つか、CDショップ屋回って巡るよりそっちのが安上がりだしねぇ。
…一応、そこではまだ在庫表示ありました。
1~2日で発送とあったから…ここに限らず、配送手数料が掛かるような
店なら、まだ手に入るかもです。(9月17日23時時点)
9月20日のチャットまでには届いて欲しいなぁ…。
しかしキチメガ人気、ますます凄いなぁ。
…パンの缶詰と良い、大人気だな。関連グッズの数々。
後は無事に届いてくれますように~(なむ~)
※ 某克克チャット行ってから、どうも新婚ネタが幾つも浮かんでいて
勿体無いので週に一回ぐらいのペースで連載の合間に挟んでいくと
思います。
どうぞご了承下さい。
明日は普通に通常の連載物を書きます(ペコリ)
克克新婚ネタ3 爪切り編 『…バカ』
ある日曜日の昼下がり。
新居のマンション内での話だった。
克哉が昼食の片付けと、洗濯物を干し終えるともう一人の自分が
リビングのソファに腰を掛けながら爪を切っている姿に遭遇していった。
パチン、パチン…パチン。
小気味の良い音が、規則正しく聞こえてくる。
新聞の中に折り込まれているスーパーの特売のチラシを広げながら
爪を切る姿は妙に生活感があって新鮮に感じられた。
強引な挙式から、一緒に暮らすようになってすでに一ヶ月以上の月日が
経過していた。
最初の頃は躊躇いや困惑を感じていたが、これだけの時間が流れれば
どれだけ異常な状況でも適応してくるものだ。
こうやって平和な昼下がりを過ごしていると、何となくほのぼのした
気分になってきた。
パチン、パチン…パチン。
合理的な性格の眼鏡が、どうしてここまで時間を掛けて爪を切って
いるのが少し不思議で、つい気になって克哉はソファの隣のスペースに
腰を掛けながら問いかけていく。
「…ねえ、『俺』。何で爪切り一つにそんなに丁寧に時間掛けているの?」
ちなみに克哉の爪きりは、伸びてきたなと思ったら一週間から十日に
一回程度実行に移す程度だ。
ついでにいうと、あまり時間を掛けず1分前後で終えてしまう。
だがもう一人の自分はこの時点で5分以上の時間を掛けて実に
丁寧にやっている。
それが単純に疑問だった。
「…それが夫のたしなみという奴だろう?」
「…どういう事?」
相手が何故、そんな発言を言い出したのか判らずにキョトンと
していくと…眼鏡はふいに何かを企んでいるような、どこか意地悪い
表情を浮かべていった。
「…判らないか?」
「だから、爪切りがどうして夫のたしなみに繋がるんだよ…?」
本当に判らないから聞いているのに、相手の含みのある言い方と
笑い方に少しイラっとしていった。
克哉の様子を見て喉の奥で笑っている様子を見て、ついムっと
なってしまう。
こちらが拗ねた顔を浮かべていくと…いきなり、耳元に唇を
寄せられて囁かれた。
―キチンと爪の処置をしておかないと…指でお前の中を掻き回したり
する時に、不必要に傷つけてしまうだろう…?
その一言を聞いた瞬間、カッと克哉は耳まで真っ赤に染めていった。
生々しく、行為の記憶が頭の中を過ぎって…口をパクパクさせて
いった。
思いっきり反論したい。
なのに、あまりの動揺っぷりに克哉はまともな単語を口にする事が
出来なかった。
「な、ななななななっ…」
昨晩のセックスで、相手の指がこちらの内部を探って…嫌っていう程、
焦らされて煽られた記憶が鮮明に蘇ってしまう。
こんな真昼間から、Hしている時の事なんて思い出したくないのに…
克哉のそんな意思とは裏腹に、営みの記憶は津波のように押し寄せて来ていた。
「バカッ! どうして耳元でそんな事を囁くんだよ! 死ぬほど…恥ずかしく
なるだろっ!」
照れ隠しについ手近にあった黄色の中心が軽くくぼんでいるデザインのクッションを
投げつけていったが、それを眼鏡は胸元で受け止めていった。
それが机の上に置いてあった灰皿なら、それなりのダメージに繋がっていたかも
知れないが基本的に克哉は気弱な生活が災いして、強気の態度に出れない。
「…相変わらず鈍い行動だな。そんなノロノロした動作で投げつけられても…
俺が喰らうと思うか?」
「悪かったな動作がノロくて! ほんっと…お前、信じられない…っ!」
「…そんな顔して、信じられないとか…バカとか言っても、こちらを誘っている
ようにしか見えないぞ?」
「だ、誰がっ…! むぐっ…!」
気恥ずかしくて一瞬だけ相手の前で俯いていた隙に素早く間合いを詰められて、
強引に顎を捕まれて上を向かされていく。
そのまま問答無用で唇をキスで塞がれて、ねっとりと時間を掛けながら熱い舌先が
口腔を辿り始めていった。
最初はジタバタと抵抗の意志を示したが…的確に口腔内の脆弱な場所を
舐め上げられて刺激されていくと…腰が砕けて、力が徐々に入らなくなっていった。
「ん…ふぁ…」
5分もたっぷりと濃密なキスを施されていくと、もうマトモな思考回路は蕩かされて
崩壊寸前になっていった。
いつだってこの男はそうだ。
克哉が幾ら抵抗しようとも、反論しようとも…こうやって快楽で強引にこちらの意思を
封じて思い通りにしてしまう。
それが少し…悔しかった。
「さて…こちらの爪切りは終わった。次はお前の番だな…」
「えっ…?」
いきなり、ソファの上に押し倒されて覆い被さられる格好になって呆けた
表情を浮かべていった。
だがそのままスルリと克哉の腕を掬い取っていくと…その指先に口付けながら
再びとんでもない発言をぶつけられていった。
「…行為の最中、爪が伸びていると…お前が夢中になって俺にしがみついている時に
痛いんだぞ。…まあ、男の勲章と思って黙って大概は受けているがな…」
「っ…!」
そ、そういえば…確かに快楽に翻弄されて無我夢中になっている時は、相手の
背中に縋り付いてしまっている事が多々あるけれど。
だ、だからってこんな組み敷かれている状態で…面を向かって言う台詞じゃない
事も確かだった。
「そ、そんなに…痛く…していた、のかな…?」
「あぁ、痛い。ま…こちらも愉しんでいる最中だからその時は特に気にしていないがな。
終わった後は数日痛む時があるぞ…」
「ご、御免…」
相手にそう言われてしまうと、思わず抵抗の意思が削がれてしまう。
そんなやりとりをしている間に…眼鏡は爪切りを片手に、パチンパチン…と
丁寧に克哉の爪の手入れを始めていった。
「丁寧に、やってやろう…愛情を込めながら、な…?」
「あっ…んっ…」
指と指の間を、スルっと撫ぜられていくだけで鈍い快感が走り抜けていく。
その状態で真摯な表情を浮かべながら、こちらの爪を切っている姿は不覚にも
格好良く映って…不覚にもドキドキした。
爪を切られている時間は一瞬のようにも、凄く永いようにも感じられていった。
「ほら…両手の処置は終わったぞ。さっさと足を出せ…」
「んっ…あっ…」
カプっと指先を咥えられながらそんな発言をされると、ビクリ…と克哉の肩が
震えていった。
キスされて、指先とかそういう場所に触れているだけなのに全身が性感帯に
なってしまったかのように過敏に反応していってしまう。
「こら…そんな声を出すな。俺には誘っているようにしか聞こえないぞ…?」
「誘って、いる訳…あっ…」
そうしている間に体制を変えられていて、眼鏡は少し後方に下がって…ソファの
上に横を向いて足を延ばしている格好の克哉の足先をそっと掬い取っていった。
そのまま…恭しく足先に口付けられていくと、ペロリと舐め上げられていく。
その表情も、癪に障ることに非常に様になっていて…ドキドキドキ、と心臓の
鼓動が止まらないままだった。
眼鏡はその体制のまま、高らかに告げていった。
―ここの処置が終わったら、たっぷりと可愛がってやるよ。楽しみにしていろ…
強気な笑みを浮かべながら告げられていく。
素直に頷くのは少し悔しかったけれど…火照り始めた身体は確かにもう一人の
自分を求めていて。
…とても夜が来るまで我慢出来そうになかった。
まったく、この男と一緒に暮らすまで自分がこんなに快楽に弱い性質であった
事を自覚した事はなかったのに…。
他愛無い日常の中でさえも、ドキドキハラハラさせられて。
おかげで一ヶ月以上、顔を突き合わせて暮らしているにも関わらず一向に
相手に飽きる暇がなかった。
―バカ…
そう、克哉は短く答えながら…爪切りが終わって再び圧し掛かって来たもう一人の
首元へと両腕を回していったのだった―
勿体無いので週に一回ぐらいのペースで連載の合間に挟んでいくと
思います。
どうぞご了承下さい。
明日は普通に通常の連載物を書きます(ペコリ)
克克新婚ネタ3 爪切り編 『…バカ』
ある日曜日の昼下がり。
新居のマンション内での話だった。
克哉が昼食の片付けと、洗濯物を干し終えるともう一人の自分が
リビングのソファに腰を掛けながら爪を切っている姿に遭遇していった。
パチン、パチン…パチン。
小気味の良い音が、規則正しく聞こえてくる。
新聞の中に折り込まれているスーパーの特売のチラシを広げながら
爪を切る姿は妙に生活感があって新鮮に感じられた。
強引な挙式から、一緒に暮らすようになってすでに一ヶ月以上の月日が
経過していた。
最初の頃は躊躇いや困惑を感じていたが、これだけの時間が流れれば
どれだけ異常な状況でも適応してくるものだ。
こうやって平和な昼下がりを過ごしていると、何となくほのぼのした
気分になってきた。
パチン、パチン…パチン。
合理的な性格の眼鏡が、どうしてここまで時間を掛けて爪を切って
いるのが少し不思議で、つい気になって克哉はソファの隣のスペースに
腰を掛けながら問いかけていく。
「…ねえ、『俺』。何で爪切り一つにそんなに丁寧に時間掛けているの?」
ちなみに克哉の爪きりは、伸びてきたなと思ったら一週間から十日に
一回程度実行に移す程度だ。
ついでにいうと、あまり時間を掛けず1分前後で終えてしまう。
だがもう一人の自分はこの時点で5分以上の時間を掛けて実に
丁寧にやっている。
それが単純に疑問だった。
「…それが夫のたしなみという奴だろう?」
「…どういう事?」
相手が何故、そんな発言を言い出したのか判らずにキョトンと
していくと…眼鏡はふいに何かを企んでいるような、どこか意地悪い
表情を浮かべていった。
「…判らないか?」
「だから、爪切りがどうして夫のたしなみに繋がるんだよ…?」
本当に判らないから聞いているのに、相手の含みのある言い方と
笑い方に少しイラっとしていった。
克哉の様子を見て喉の奥で笑っている様子を見て、ついムっと
なってしまう。
こちらが拗ねた顔を浮かべていくと…いきなり、耳元に唇を
寄せられて囁かれた。
―キチンと爪の処置をしておかないと…指でお前の中を掻き回したり
する時に、不必要に傷つけてしまうだろう…?
その一言を聞いた瞬間、カッと克哉は耳まで真っ赤に染めていった。
生々しく、行為の記憶が頭の中を過ぎって…口をパクパクさせて
いった。
思いっきり反論したい。
なのに、あまりの動揺っぷりに克哉はまともな単語を口にする事が
出来なかった。
「な、ななななななっ…」
昨晩のセックスで、相手の指がこちらの内部を探って…嫌っていう程、
焦らされて煽られた記憶が鮮明に蘇ってしまう。
こんな真昼間から、Hしている時の事なんて思い出したくないのに…
克哉のそんな意思とは裏腹に、営みの記憶は津波のように押し寄せて来ていた。
「バカッ! どうして耳元でそんな事を囁くんだよ! 死ぬほど…恥ずかしく
なるだろっ!」
照れ隠しについ手近にあった黄色の中心が軽くくぼんでいるデザインのクッションを
投げつけていったが、それを眼鏡は胸元で受け止めていった。
それが机の上に置いてあった灰皿なら、それなりのダメージに繋がっていたかも
知れないが基本的に克哉は気弱な生活が災いして、強気の態度に出れない。
「…相変わらず鈍い行動だな。そんなノロノロした動作で投げつけられても…
俺が喰らうと思うか?」
「悪かったな動作がノロくて! ほんっと…お前、信じられない…っ!」
「…そんな顔して、信じられないとか…バカとか言っても、こちらを誘っている
ようにしか見えないぞ?」
「だ、誰がっ…! むぐっ…!」
気恥ずかしくて一瞬だけ相手の前で俯いていた隙に素早く間合いを詰められて、
強引に顎を捕まれて上を向かされていく。
そのまま問答無用で唇をキスで塞がれて、ねっとりと時間を掛けながら熱い舌先が
口腔を辿り始めていった。
最初はジタバタと抵抗の意志を示したが…的確に口腔内の脆弱な場所を
舐め上げられて刺激されていくと…腰が砕けて、力が徐々に入らなくなっていった。
「ん…ふぁ…」
5分もたっぷりと濃密なキスを施されていくと、もうマトモな思考回路は蕩かされて
崩壊寸前になっていった。
いつだってこの男はそうだ。
克哉が幾ら抵抗しようとも、反論しようとも…こうやって快楽で強引にこちらの意思を
封じて思い通りにしてしまう。
それが少し…悔しかった。
「さて…こちらの爪切りは終わった。次はお前の番だな…」
「えっ…?」
いきなり、ソファの上に押し倒されて覆い被さられる格好になって呆けた
表情を浮かべていった。
だがそのままスルリと克哉の腕を掬い取っていくと…その指先に口付けながら
再びとんでもない発言をぶつけられていった。
「…行為の最中、爪が伸びていると…お前が夢中になって俺にしがみついている時に
痛いんだぞ。…まあ、男の勲章と思って黙って大概は受けているがな…」
「っ…!」
そ、そういえば…確かに快楽に翻弄されて無我夢中になっている時は、相手の
背中に縋り付いてしまっている事が多々あるけれど。
だ、だからってこんな組み敷かれている状態で…面を向かって言う台詞じゃない
事も確かだった。
「そ、そんなに…痛く…していた、のかな…?」
「あぁ、痛い。ま…こちらも愉しんでいる最中だからその時は特に気にしていないがな。
終わった後は数日痛む時があるぞ…」
「ご、御免…」
相手にそう言われてしまうと、思わず抵抗の意思が削がれてしまう。
そんなやりとりをしている間に…眼鏡は爪切りを片手に、パチンパチン…と
丁寧に克哉の爪の手入れを始めていった。
「丁寧に、やってやろう…愛情を込めながら、な…?」
「あっ…んっ…」
指と指の間を、スルっと撫ぜられていくだけで鈍い快感が走り抜けていく。
その状態で真摯な表情を浮かべながら、こちらの爪を切っている姿は不覚にも
格好良く映って…不覚にもドキドキした。
爪を切られている時間は一瞬のようにも、凄く永いようにも感じられていった。
「ほら…両手の処置は終わったぞ。さっさと足を出せ…」
「んっ…あっ…」
カプっと指先を咥えられながらそんな発言をされると、ビクリ…と克哉の肩が
震えていった。
キスされて、指先とかそういう場所に触れているだけなのに全身が性感帯に
なってしまったかのように過敏に反応していってしまう。
「こら…そんな声を出すな。俺には誘っているようにしか聞こえないぞ…?」
「誘って、いる訳…あっ…」
そうしている間に体制を変えられていて、眼鏡は少し後方に下がって…ソファの
上に横を向いて足を延ばしている格好の克哉の足先をそっと掬い取っていった。
そのまま…恭しく足先に口付けられていくと、ペロリと舐め上げられていく。
その表情も、癪に障ることに非常に様になっていて…ドキドキドキ、と心臓の
鼓動が止まらないままだった。
眼鏡はその体制のまま、高らかに告げていった。
―ここの処置が終わったら、たっぷりと可愛がってやるよ。楽しみにしていろ…
強気な笑みを浮かべながら告げられていく。
素直に頷くのは少し悔しかったけれど…火照り始めた身体は確かにもう一人の
自分を求めていて。
…とても夜が来るまで我慢出来そうになかった。
まったく、この男と一緒に暮らすまで自分がこんなに快楽に弱い性質であった
事を自覚した事はなかったのに…。
他愛無い日常の中でさえも、ドキドキハラハラさせられて。
おかげで一ヶ月以上、顔を突き合わせて暮らしているにも関わらず一向に
相手に飽きる暇がなかった。
―バカ…
そう、克哉は短く答えながら…爪切りが終わって再び圧し掛かって来たもう一人の
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女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
鬼畜眼鏡にハマり込みました。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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