忍者ブログ
鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
[101]  [102]  [103]  [104]  [105]  [106]  [107]  [108]  [109]  [110]  [111
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

  本多がそのまま…謎の男に連れていかれたのは奥まった場所に
ひっそりと存在する一軒の店だった。
 店内に入った途端に、エスニック風の不思議な香りが鼻腔を突いて
いった。

 店内につくと同時に、自分の怪しい銭形のコスプレ衣装は問答無用で
店員に没収された。
 このような服装は…当店のお客様には相応しくないという理由でだ。
 …そのおかげでようやく、普通の格好に戻れた本多は…実に落ち着かない
様子で、店内全体を眺めていった。
 今までの彼の人生で、まったく縁がなかった雰囲気の店である事は
疑いなかった。 

「…この店は…?」

「…私が経営している店ですよ。ああ、そんなに警戒なさらなくても
良いですよ。私は貴方に危害を加える気など…まったくありませんから」

(良く言うぜ…)

 こちらの警戒心を解かせる為に微笑んでいるのだろうが、存在からして
胡散臭い男にそんな対応をされたって、こちらとて警戒心を解ける訳が
なかった。
 
―佐伯克哉さんの真実を知りたくはないですか?

 誘惑するような、歌うようなそんな口調でこの男に問いかけられた。
 本多は、ずっと知りたかった。
 ある日を境に少しずつ克哉が変わっていってしまったその理由を。
 御堂がそれに関わっているのか、否かを。
 それに正直言って…彼には判らなくなってしまったから。

 克哉を追い詰めたのは御堂だと思っていた。
 けれど今日の克哉の一挙一足や、態度はその予想を大きく裏切るもの
ばかりで。
 どう見ても、御堂に対して好感を抱いているとしか思えない
振る舞いに表情。
 どちらが本当で、何が思い違いだったのか…本多は今、迷ってしまって
いたのだ。
 だからこんな男の誘いに、あっさりと…乗ってしまったのだ。

(何が本当なんだよ…。 克哉、お前にとって御堂はどういう存在
だっていうんだよ…)

 心から心配しているからこそ、本多は…答えを欲していた。
 それが断片であったとしても、克哉の事を彼は知りたかったのだ。
 前を進むMr.Rの姿を疑わしそうに見つめていきながら…ゆっくりと店の奥へと
進んでいく男の背中を追っていく。
 そうしている内に…赤い天幕で覆われた、妖しく重厚な雰囲気を漂わせた
地下の一室へと辿り着いていった。
 不思議な香の香りが一層濃いものになっていって、そのまま噎せ返って
しまいそうなくらいだ。
 そうしている内に本多の疑念は更に深いものになって、怪訝そうに
問いかけていく。
 
「本当に…ここで、克哉についての事が、判るのか…?」

『えぇ、私はそういう事に関しては嘘を言いませんよ。ちゃんと本多様に
佐伯克哉さんの真実のカケラをお見せいたします。こちらを…どうぞ…」

 そして、部屋の中心には何故か大きなテレビが鎮座していた。
 今、流行の薄型の代物だ。
 恐らくこれだけで40~50万は軽くするだろう…大型のワイドサイズの
テレビ。何故、こんな物があるのか…一瞬、理解に苦しんでいくと…。

『今から、このTVに…貴方様の知らない佐伯克哉様のカケラが映し出されます。
 それをどのように受け止め、解釈されるかは…貴方様次第でございます…』

「TVに、克哉が…? どうして、そんな事が…?」

 唐突な展開に、本多は迷いまくっている。
 自分の知っている克哉の人物像からしても、積極的にテレビに映るような
真似をしたり、人に映るように請われても許可するようには思えなかった。
 当然、他人に撮影されて欲しいと言っても、断りそうな…大人しい性格の
男だ。どうして…こんな処に、克哉が映し出されるのか疑問に思っていくと…。

『当店のテレビは…少々、不思議な力がございまして。雨の日だけ…
覗き見たいと強く願うことによって、その人物の隠されて表に出ない部分を
ほんの少しだけ垣間見せるのです。
 …その方が隠し通しておきたい事。決して他者に漏らした事のない
秘め事…そういう物が、これから短い時間だけ…このディスプレイに
映る事でしょう…。さあ、佐伯様の事を知りたいと思うのなら…強くその面影を
脳裏に描いて、このテレビを覗き込んで下さい。
 そうされれば…数ヶ月前に、何故克哉さんがあれだけ憔悴しきっていたのか…
その事情を知る足がかりにはなると思われます…』

「隠されて表に出ない部分…?」

 そう言われて、ハっとなった。
 …自分は克哉の事、どれくらい知っていたのだろうかと。
 大学時代から七年以上、克哉とは付き合いがある。
 当然、大学三年の時に克哉が部活を辞めてから卒業までの期間は
たまにキャンバスで顔を合わす程度の間柄になっていたが、キクチに一緒に
勤めるようになった頃から、交流は復活して…それから、本多にとっては
一番身近な仕事仲間になった。
 年が一緒であり、部活も同じ処に所属していたという気安さから…八課の
仲間達の中でも一番、過ごしている時間が多い存在だ。
 だから知っていると思っていた。
 けれど、今…気づいた。いつだって、克哉は肝心な事は殆ど自分に話して
くれていなかった事に…。

(良く考えたら、あいつって判らない部分が多くないか…?)

 本当なら、こんな覗き見みたいなことは絶対にしてはいけない。
 普段の本多の価値観ならば、決してそんな不正行為を自分に許すような
真似はしなかっただろう。
 正義心が誰よりも強い彼ならば、他の日に遭遇したのならば…この誘惑に
負けてしまうことなどなかっただろう。
 だが、どんな人間にも弱る時はある。
 迷い、苦しんで…本来ならやってはいけない過ちを犯してしまう時は…
人の心には、脆弱で脆い一面も存在する以上、ありえてしまうのだ。

―本来なら、こんなの…見てはいけない。克哉が俺に隠していたことを
暴くような…そんな、卑怯な真似を本当にして良いのか…?

 本多は、テレビを前にして葛藤していた。
 そうしている間に…ザーザーと音を立てて、電源がつけられていく。

―見ちゃ、駄目だ…!

 心の中で良心が大合唱していく。
 負けるものか…と思って、目を逸らそうとしたが…。

「っ…!」

 一瞬だけ飛び込んできたとんでもない光景に、むしろ…視線は釘付けに
なってしまった。

(何だ今のは…!)

 映ったのは、赤い天幕の部屋で…さるぐつわをされた状態で、大股開きで
寝かされている克哉の姿だった。
 その上に誰かが覆い被さっている…その相手の顔までは判らない。
 だが、その顔は間違いなく…克哉、だった。

「…興味を、惹かれましたか…?」

 ねっとりとした妖しい声音で、黒衣の男が囁く。
 こちらは驚きの余り、声も出なくなっていた。

「………」

「…だんまりですか。嗚呼…また、次の断片が出て来ましたよ…?」

 そうして、今度は…誰かの傍で跪いている克哉の姿だった。
 その相手の顔は見えない。
 だが、克哉は裸で相手の足元に鎮座して…苦しそうな顔をして何かを
咥えている。

(何だよ…これ、マジかよ…!)

 最初は、何を咥えているのか認識出来なかった。
 だが、ネチャネチャといやらしい水音が同時に耳に飛び込んでくる。
 克哉の顔が苦しそうに歪められ、不自然な程に上気して…その顔は異様に
扇情的であった。
 自分の同僚が、男の性器を咥えて…それを口で愛している姿などを
見せられて、ショックを受けないでいられる訳がない。

「か、つや…?」

 とても、目の前の出来事が現実とは思えない。
 だが作り物と言い切るには…リアルティがありすぎた。
 ワイド画面にドアップで映っているその顔は、自分が長年傍にいて良く
知っている『佐伯克哉』そのもので。
 だからこそ、本多は驚愕に浸りながら…こんなのは嘘だ、と心の中では
叫んでいるのに…それから目を離せない。

―こんなのはまだ、序の口ですよ…。

 男がどこまでも愉しげに哂っていく。
 動揺し、驚愕している本多の姿が愉快で堪らないというように。

「…こんなの、俺は…見たくねえよ! 克哉は…俺の知っている、克哉は…!」

 混乱して、怒鳴り声を上げていく。
 だが…Mr.Rがそっと本多の肩に両手を置いて軽く押さえつけていくと、其処から
何か強い呪縛にかかってしまったかのように…身体が動かなくなる。

―本多様。ショータイムは、これからですよ…?

 そして、男は歌うように宣言すると同時に…一層、信じたくない場面が
その画面に映し出されていく。

「…っ!」

 そして本多は硬直していく。
 その画面に映された光景は余りに淫ら。
 目を逸らそうと思った。
 だが、食い入るように見てしまう。
 本多は克哉のそんな顔など、見た事なかったから。
 こんなに艶っぽくて男を誘うように頬を赤らめている…そんな表情を彼が
出来るだなんて、今までこれっぽっちも思っていなかったから。

 ―そして本多は罠に落ちていく。
  中庸な幸せに落ち着こうとしてる克哉の前に、大きな波紋を落とす為に

  そして彼は、驚くべき場面をこれから幾つも、テレビを通して見せられる事と
なったのだった―
 
PR
 …一方その頃、本多はどうにかしてワインバーの会計を
終えると夜の街を走り続けていた。

(一体あの二人はどこにいるんだ…!?)

 幾ら12月の寒い時期だからといっても、これだけ分厚いコートと
帽子を被った状態で全力で走り続けていたせいで、本多は汗だくに
なっていた。
 もうじきクリスマスが近いせいか、彼が今走っている周辺は
綺麗で鮮やかなにイルミネーションが施されている歩道のせいで
大勢のカップルが歩き回っている。

 そんな中で、銭形刑事のコスプレをやっているような格好を
しているような自分がどれだけ浮き上がっている事か…。

(か、考えては駄目だな…!)

 と、出来るだけ前向きに考えるようにしているにも関わらず
この格好は必要以上に人目を引いてしまうらしい。
 痛いぐらいの視線が突き刺さっている。
 ついでに、多くのカップルにクスクスと笑われてしまっていて
非常に心が痛かった。

(俺だってこんな格好、好きでしているんじゃねえよ…!)

 心の中で盛大に叫んだが、その彼の雄叫びが周囲の人間に
伝わる事はなかった。

(これというのも…変装に最適ですよ、とかいう言葉に
躍らされて反射的に買ってしまったからだよな…)

 ついさっき、キクチ・マーケーティングからワインバーに行く
道のりの途中…克哉を尾行していた時の事だ。
 終業後の克哉は、こちらを警戒していたみたいだったので
本多もまた先手を打って…克哉の前から姿を隠し続けていたのだ。
 克哉が本多の行動パターンを読めるように、長い付き合いである
彼もまた…克哉のやりそうなことは予想がつくのである。
 そして彼にしては頑張りながら、目立たないように後を着けていた
最中…あのワインバーがあった駅に降り立った直後の事だった。
 
 通りかかった大きなデパートの前の、ワゴンの中で…クリスマス
パーティー用の様々な小道具が売っている場所があった。
 そして男が、道行く人に懸命に声を掛けていきながら
販促に勤しんでいたのだ。

「らっしゃいらっしゃい~! これなんかどうですか~! パーティーを
盛り上げるのに最適! ルパン三世と銭形刑事のコスプレセットだ~!
 大きめに作られているのでXLサイズは大柄な男性も平気だよ~!
普段と違う貴方になれる、変装用品としても最適! さあ買った買った~!」

 と大声で叫んでいる最中に…うっかり、本多は男と目が合ってしまった。
 その瞬間…変装に良いかも、とチラっと考えてしまっていたのが
良くなかったのだろう。
 非常にその店員は勢いがあって、こちらに迷いがある事を看破すると
押して押して押し捲った。
 そしてようやく購入の段階に入ると…結構な値段がして、財布の中身が
すっからかんに近くなってしまったぐらいだった。
 …そんな経緯で購入した変装道具、活用しなければ浮かばれないと思い
ヤケクソで着てみたいのだが…何か笑い者になっているだけで
到底有効に使われているとは言い難い気がした。

「これじゃあ俺…完全にピエロじゃねえか…!」

 御堂と克哉が、どうして二人きりで会っていたのか理由は
判らない。
 けれど本多は、御堂と関わってからの克哉の様子はずっと
おかしいものである事は気づいていた。
 その事情は彼には判らないままだ。
 一時は顔も青白く、今にも倒れそうな時期もあったぐらいだ。

 最初から御堂に対して良い感情を抱いていなかったというのも
あったが…本多にとってそれ以上に克哉が大事だった。
 特に、大学時代から会社まで一緒だった相手は彼一人だけで
あるというのも大きい。
 だが、それ以上に本多は克哉という存在に一目置いているし…
友人として好意を抱いているというのも大きな理由だった。

(何で、俺には何も話してくれないんだよ…。あんなに辛そうに
している時だって…!)

 彼らがタクシーに乗っていってしまった処は目撃している。
 すでに見失ってしまっている以上、後を追うのはかなり
厳しい状況だった。
 大きめの黒い折り畳み傘を片手に持ちながら、それでも手掛かりを
得られないかと本多は必死になって探していく。

(せめて理由だけでも聞かせてくれなきゃ…割り切れねえよ!
どれだけ俺がお前を心配し続けていたと…)

 フラフラと歩いている内に、イルミネーションがある地点をとっくに
通り過ぎて、暗い歩道に辿り着いていた。
 華やかなネオンに彩られている内は、12月の寒さも…暗闇のどこか
怖い部分も意識しないで済んでいた。
 だが人気がなくなり、車の存在もまばらになっていくと…そこいらの
暗がりの向こうから何かが飛び出して来そうな異様さはあった。

(人がいなきゃ…不気味な所も出てくるもんだよな…)

 この、鈍色の夜空と…雨が、そのおどろおどろしさを一層強調
しているかも知れなかった。
 …諦めて、戻ろうかと思ったその瞬間、本多はいきなり…黒衣の
男に声を掛けられた。

―真相を知りたくないですか?

 いきなり、そんな風に歌うように言われてびっくりした。
 そちらの方向に振り向いていくと…漆黒のコートと衣類に身を包んだ
金髪の男が立っていた。
 今の本多の格好の怪しさも何だが、この男もそれに負けていない
雰囲気を醸していた。

「…あんた、一体誰だよ…?」

 何となく、どこかで見た事があるような記憶があった。
 だが、はっきりとは思い出せない。
 本多が怪訝そうな顔をして問いかけていくと…・。

―ふふ、聞こえていなかったみたいですね。本多憲二様…貴方は
ご友人の佐伯克哉様の隠された部分を知りたくないですか…?

 いきなり、名指しで自分と克哉の名前を呼ばれて、心臓が
鷲づかみにされたかのように驚いていく。
 本多が驚きの余りに、その場に硬直していると…。

―真実を知りたいのならば、どうかお付き合い下さい。
貴方に知りたいことの断片ならば…見せて差し上げますよ?

 こちらが硬直して、何も言い返せずに見守っている中…
黒衣の男はどこまでも妖艶に微笑んで、その悪魔の囁きのような
甘美な誘惑の言葉を口にしていったのだった―
 何かいきなり、夏コミの準備や…就職活動とかで
忙しくなってきたので一先ず一回休みます。
 で、これから日付跨いで書く分を七日分という
扱いにさせて頂きます。

 …もし明日の仕事場見学で採用になって
来週から働く流れになった場合を見越してちょっと
安全策を取らせて貰いますね。

  最近、完全に夜型になっていたので…強制的にリズムを
7日から切り替えているので、猛烈に今眠いのです。
 今晩は早めに寝て、早朝に書く形にさせて頂きます。
(最近午前4時前後に寝る習慣になっていたので…。
強制的にそれを叩き直す意味で)

 もう一つは、7日は朝から夜まで珍しく用事があって全然
PCに触れないって事情がありますので。
 明日は前の職場の、年に一度だけの外部の人間にも
解放されている日なので懐かしい顔に挨拶してくる予定です。
 あ~多分、みんな明日は凄いんだろうな…(汗)
 
 とりあえず先日、別ジャンル(王レベですが)の委託先に
本置かせて貰う約束取り付けたので、そちらのジャンルの新刊と
キチメガの無料配布本(本文8Pくらいの予定)用の表紙紙を
ちょいと購入して来ました。

 …何かいきなり、忙しくなって来ましたけどやるど~!
 土日中に無料配布本の本文くらいは終わらせるつもりで
進めていきます。
 という訳で7日分は、これから書かせて頂きます。
 銭形本多(笑)がどのような流れに巻き込まれていくか…どうぞ
見守ってやって下さいませ(^^)
  タクシーの窓の外には鮮やかなネオンの輝きが広がっていた。
 それは宝石箱をひっくり返したかのような、様々な光が同時に
瞬いて、彩を成していた。
 御堂に手を繋がれたまま、息を詰めて…目的地に着くまでの
時間を過ごしていく。

 そしてようやくタクシーが目的地に辿り着くと、御堂は手早く会計を
済ませて克哉の手を引いていった。
 そしてホテルの玄関の前に辿り着くと…そっと克哉の方を向き直りながら
声を掛けて来た。

「今から鍵を取って来る。ここで待っていろ…」

「はい…」

 耳まで真っ赤に染めながら、克哉は頷いていく。
 だが正直、気が気ではなかった。
 あの剣幕からしたら、本多がこの後に追いかけてくるのではないか…と
いう懸念が消えなかったからだ。
  だが、男二人でフロント係の前で連れ立って宿泊すると言いに行くのも
正直、気まずいものがあった。
 これが同性でも、単なる友人同士であるならそんな風に克哉も意識を
する事はない。
 だが、御堂とは以前にこのホテルで何度も身体を重ねている。
 おかげでその間、フロントの人間に予約確認をして…御堂が鍵を
受け取りにいっている間、非常に気恥ずかしい思いをする羽目になった。

(…どうか、すぐに本多が追いかけて来ませんように…)

 御堂とホテルを利用した事は数あれど、今までここまで戦々恐々して
待っていた事などなかった。
 久しぶりにこの人と会えたのだ…せめて、この夜だけは邪魔を
されたくない。
 そんな事を強く願いながら、暫く黙って待っていく。
 雨は、まだ静かに降り注いでいた。

(最近…雨が多いな…)

 どうしても、雨が降る度にあの日の記憶が蘇っていく。 
 あの人の顔が見たくて、突き動かされるようにマンションの前に
行ってしまった日。
 そしてそれが…当面の御堂との決別の日になってしまった。
 …こうして、無事に再会出来たのに…まだどこかで現実感がなくて。
 これが夢でないか、疑いたくなる心が残っていた。

―お願いだから、これ以上…邪魔しないでくれ…!

 今、目の前にいるこの人をもっと確かなものに感じたい。
 これが…自分の都合の良い夢でないのだと、確認したい。
 実感したい。
 そして…この人と、触れ合いたい。

(浅ましいな…オレは…)

 自重しながら、冷たい雨をジっと見つめていく。
 雨を見る度、思い知らされる。
 …あの時、御堂を待っていた自分は心の中で泣いていた事を。
 あれだけ強い感情を、衝動を…今まで克哉は他人に対して抱いた経験など
なかった。
 御堂が、初めてなのだ。
 これ程までに強い感情を他者に抱いたのも…欲しいと、会いたいと
ただひたすらに願った相手は…!

 その瞬間、雨の向こうに大きな人影が見えた。
 一瞬…本多が懲りずに追いかけて来たのかと強張った瞬間…背後から
声を掛けられて更にぎょっとなっていった。

「ひゃっ…!」

「…何て声を出している。手続きは終わった。行くぞ…」

「あっ…はい…」

 一瞬、言葉に詰まった。
 振り返った御堂の瞳の奥に…かつてのような獰猛な光を見て、
ゴクン、と息を呑んでいった。
 この瞳には、見覚えがある。
 熱く…鋭く、こちらの全てを暴かんとばかりの鮮烈な眼差し。

(嗚呼…この目だ…)

 御堂の、こちらの全てを暴くような凶暴な眼差しに…気づいたら克哉の
心は灼かれてしまったのだろうか。
 ただ、見られている。
 それだけでゾクゾクと…期待しているような、興奮しているような気持ちが
ない交ぜになった悪寒が背筋に走り抜けていく。

「行くぞ…」

 そうして、やや乱暴に克哉の腕を掴んでいきながら…真っ直ぐに御堂は
エレベーターへと乗り込んでいく。
 以前もそうだったが、御堂が指定していた部屋はいつも高層階に位置
していた。
 そんな事をふと思い出すと同時に…強引に誘導されて、早足で…
彼がリザーブした部屋へと連れていかれた。
 手早い動作で、カードキーを通して開錠していくと…克哉を強い力で
引き寄せていって、一緒にその扉を潜っていく。

「っ…!」

 そして、扉が閉まると同時に…強く、強く引き寄せられていく。
 息が詰まってしまうぐらい、力の篭った抱擁。
 それは苦しくもあったけれど…同時に克哉の心の中に、強い
喜びを齎していって。

「御堂、さん…」

 熱っぽく、心からの愛しさを込めて御堂の名を呟いてその背中に
しがみついていく。
 久しぶりに触れる御堂の体温に、鼓動に…身体中が堪らなく熱く
なっていく。
 最早、条件反射になっているのではないか…と疑いたくなる
くらいに身体中のあちこちの血が沸騰していった。

(嗚呼…オレは、こんなに…貴方に触れたいと。抱かれたいと…
思い続けていたんだ…)

 ようやくその念願が叶って、克哉は今にも泣きそうな表情を浮かべた。
 切なく…苦しげな、その艶っぽい表情に気づくと…御堂もまた、強く
心を煽られていく。

 彼もまた、同じ心境だった。
 あの日、立ち尽くしていた彼の背中を見送ってしまった日から…
もう一度会いたいと願う心を押さえつける事は出来なかった。
 克哉に、会いたい。
 その想いは日々、御堂の中で強くなっていって…だから、こんな
らしくない事をしてでも、克哉とコンタクトを求めてしまった。

 その念願がようやく叶って、二人の心に激しい想いが宿っていく。
 それは…この瞬間、驚異的な速度で加速していって…いまだに
止まる気配はなかった。

「さ、えき…」

 御堂もまた、甘い声音でこちらの名を囁き…そして、こちらの
唇を強引に塞いでいったのだった―

 
 とりあえず4~5日に掛けて、突発的にやりましたアンケート企画。
 無事に終了しました。
 ご意見を下さった方々、どうもありがとうございます。
 そして久しぶりにコメント下さった方もいて、非常に嬉しかったです。
 皆様、サンキュ~です。

 …で、結果はひっくり返って別CPになった事だけ報告しておきます。
 2位とは一票差でした。
 やっぱりこの2つのCPは強かった…と改めて実感させられる想いで
ございました。
 見て!? というCPのリクエスト受けてびっくりしましたけれど(^^)
 それもまた良い思い出です。

 一位は6票。二位は5票、後のCPは一票ずつという結果でした。
 ただ、二位に投票して下さった方の中で…ある話の後日談として
是非! というご意見があったのでそれも良いかな~と…迷う
部分もチラホラ、と。

 少なくとも、置き土産に残していくのは一位CPですが…二位のCPも
余力あったら書きたいです。
 という訳で当日をお楽しみになさって下さい。
 ご協力ありがとうございました! 大感謝です!(ペコリ)

 後…現在連載中の話、多分うざいくらいに本多が出張ります。
 初めてこんなに多く出演させましたが、何か予想外の事ばかり
やらかしてくれて…書いている私もドキドキ状態です。
 
…けど、多分御堂と克哉単体だったら…この話、しっとりした
大人っぽい話になっていた筈なのに…。
 本多、侮りがたしです。
 そして銭形刑事の格好をしている場面が頭の中に思い浮かんだ時、
私が一番、吹き出しました。
  …本多、書くと面白いです。

 克哉が好きでしょうがないので暴走しまくっています。
 うざいです、KYです。
 けど…何かここまで来ると駄目な子ほど可愛いっていうか、
ちょっと愛着も湧いて来ています。

 多分これからも、予想外の事ばかりやらかしてくれて…話の
展開が読めない事態が続いていくと思われます。
 それで良かったらお付き合い下さい。

 

 ―今までの人生で、ここまで緊張して飲食店の席に座っていた
経験などなかった。
 
 程好い温度に設定された室内で…暖かな御堂の手に包み込まれて
幸福を感じている反面、背後に本多からの突き刺すような視線を
感じているような気がして、非常に落ち着かなかった。

(ど、どうか本多がこの店の中で暴走しませんように…)

 本多は特に、猪突猛進というか向こう見ずな所があって
恐らく自分が正しいと思ったら、克哉の救出という名目の元に
御堂に食って掛かる事ぐらい平気でやってしまうだろう。
 大学時代からの付き合いだ。
 彼のそういう性格は嫌っていう程、良く判っている。
 半ば生きた心地がしない状況で…相槌を打って、食事を
進めていく。

―どうしよう。味が良く判らない…

 せっかくの上等なワインも料理も、この状況では
存分に楽しむ事が出来なかった。
 恐らく背後の怪しい扮装をしている本多の存在に気づく
事がなかったら今頃、この楽しい一時を自分はもっと
満喫出来ていただろう。

(嗚呼…こんなに優しい顔をした御堂さんと接したことなど
殆どなかったからな…。こんな顔、出来たんだ…)

 お互いに胸が詰まっているせいで、殆ど会話は弾まない。
 何を話せば良いのか、迷っている部分があるからだ。
 だから御堂はその想いを…ちょっとした拍子に、克哉に触れたり
真っ直ぐ見つめてくることで伝えてくる。
 その眼差しはドキドキするぐらいに…慈しみが込められていて。
 彼に、こんな風に見られた経験がなかったからこそ…
克哉は眩暈がするくらいに嬉しくなる。

「…佐伯。満足…出来たか?」

 お互いにほぼ同じタイミングでコース料理を食べ終わり、
フォークを置いた瞬間に…御堂が穏やかに問いかけてくる。

「あ…はい。とても、美味しかったです…」

 ドキン、ドキン…ドキン。

 本当に僅かな一挙一足でもときめいて、胸が落ち着かなくなる。
 照れ臭くて、真っ直ぐに見つめ返せない。
 けれどもっとこの人を見ていたい…そんな相反する感情を
抱いていきながら、ふと…瞳を伏せていくと。

「…口元に、ついているぞ…?」

 御堂が静かに笑みながら…克哉の口元についていた
微かなソースの汚れを指先で拭って、カアっと顔が赤くなった。
 御堂に触れられたことと、顔に食べ零しがつくような真似を
してしまったという、二重の意味で恥ずかしかったからだ。

「あっ…は、はい…」

 其処で一気に濃密な空気が漂い始めていくと…。

 ガサガサ…グシャ! ガサッ!!

 背後から、非常に大きな新聞が捲れる音が響き渡っていった。
 それで思わず、正気になる。

(しまったぁぁ! 背後に変装した本多がいたんだった~~!!)

 思わず心の中で叫びそうになったが、どうにか声を出さずに堪えていく。

「…佐伯。どうした? 気分が悪いのか…?」

 しかし、御堂はそんなあからさまな妨害にまったく気にする
様子もなく…平然と尋ねてくる。

(御堂さん…もしかして、後ろに本多がいるの気づいてない…?)

「あの、御堂さん…。後ろの客…」

「…嗚呼、随分とマナーが悪い客だな。この店にそぐなわない奴だが
空気みたいに気にしなければ良いだけの話だ。違うか?」

 あっさりとそう答えられて…謎が解けていく。

(嗚呼、そうか。御堂さん…怪しい格好をしている本多は、最初から
『いないもの』として扱っているから全然気にしていなかったんだ…)

 御堂の今の本多に対しての態度はまさに、アウト・オブ・眼中。
 一応方角的に視界に入っていてもおかしくないのだが…見事な
くらいに御堂は、自分のテーブルと克哉以外を視界に入れないように
他のものはシャットアウトしていた。
 そこまで徹底して、一人の人間を無視して振る舞えるというその豪胆さは
感嘆に値する事だろう。
 間違っても人の顔色を伺う性分である克哉には到底…真似出来そうに
ない振る舞いだった。

「そ、そうですね…。で…この後、どうするんですか。御堂さん…?
コースのメニューの中には、デザートも一応入っていましたけれど…
オレは正直言うと、甘い物は正直苦手なので…」

「嗚呼、それは私も一緒だ。だから最初からデザートに関しては
コースから省いて貰ってある。…もう一杯、付き合う気があるか?
それならとっておきの店にもう一件…案内するが」

「………」

 本音を言うと、はい…と力いっぱい即答したかった。
 だが、ただ移動すれば確実に次の店にも本多は付いて来てしまうだろう。
 正直言うと、克哉は波風を立てたくなかった。
 しかし御堂に事実を言えば、元々犬猿の仲の二人だ。
 確実に言い争いになるのは目に見えていた。

(どうしよう…せっかく御堂さんが本多の存在をシャットアウトして
まだ気づいていないんだ…。この状況をどうにか生かさないと…)

 克哉は、御堂ともっと一緒にいたかった。
 二人きりになって、邪魔されない場所で語らいたかった。
 其処まで考えた時に、覚悟を決めていく。
 本多は、友人だ。
 今夜だってこちらを心配してくれたからこんな真似をしたという事
ぐらいは判っている。
 だが、克哉とて…会いたくて会いたくて堪らない人との時間を
これ以上、邪魔されたくはなかった。
 そこまで自覚した時、ようやく…克哉の決心は固まっていった。

「…気が進まないか? それなら今夜はここで…」

「いいえっ!」

 そういって、克哉は席から立ち上がると…御堂の耳元に向かって
唇を寄せていった。
 突然の出来事に、御堂と…背後に存在していた本多はほぼ同時に
ぎょっとなっていく。
 だが、克哉は…愛しい人以外に決して聞かれることのない音量で、
そっと囁いていった。

―他の店よりも、貴方と二人きりになれる場所に…行きたい、です…。

 かつては関係があった自分達だ。
 この一言がどういう意図で発した言葉か、判らない筈がない。
 すぐに御堂から離れて…目の前に鎮座した克哉の顔は、羞恥の余りに
真っ赤に染まっていた。
 自分でも大胆過ぎる振る舞いであったと思う。
 だが、ホテルなら。
 多少でも本多を撒いて、時間稼ぎして部屋の中にさえ入ってしまえば
これ以上…邪魔は出来ない筈だ。
 そう計算して、克哉はそう申し出ていく。

「…君は、それはどういう意味で言っているのか…判っているのか…」

「…冗談で、こんな事…オレは、言いません。紛れもなく…本心です…」

 その瞬間、御堂を求めて…克哉のアイスブルーの瞳が、
艶やかに煌いた。
 背後で本多がこれ見よがしに、再び新聞をガサガサガサガサと音を
立て始めたが、克哉もまた完全に無視を決め込んでいく。
 その本心を探るように…御堂もまた、ジっと鋭い眼差しで彼の瞳を
見つめ返していく。

「…そうか。なら、私と気持ちは一緒のようだな。良いだろう…今、
準備をする」

 そういって、手を上げてソムリエを呼んでいくと…ゴールドカードを
財布から取り出して、其れをそっと手渡していく。

「今夜はカードで」

「畏まりました。それでは…こちらに署名をお願い致します」

 そういって、サラサラと差し出された紙に流暢な字で己の名を書いていく。
 その慣れた仕草に…やはり御堂と、自分は住んでいた世界が違うのだと
いう事を思い知らされていく。

「少し待っていろ…」

「はい…」

 支払いを終えると、御堂はそのまま携帯を取り出していって…素早く
二箇所に電話掛けていく。
 どうやら相手先は、タクシー会社と…ホテルのようだった。
 そのやり取りを傍から聴いている間、ドキンドキンと心臓の音が一層
大きくなっていくのを自覚していった。

「…準備は全て整った。行くぞ」

「えっ…」

 5分くらい、待ったかと思いきや…いきなり手を引かれて克哉は
席を立たされた。
 そのまま容赦ない力で…引っ張られて店の外に向かっていくと…
まるでタイミングを見計らったかのように一台のタクシーが目の前に
止まっていく。

「行くぞ」

「えっ…。はい!」

 御堂は迷う事なく、タクシーの扉を開けて中に入っていく。
 そして行き先を告げていく。
 それは…御堂と克哉が、かつて使用していたホテルの名称だった。

「了解しました。ちょっと料金は嵩みますが構いませんか?」

「あぁ、構わない。出来るだけ早く向かってくれ」

 そうして…乗り込んで一分も立たない内にタクシーは動き始めていく。
 どうやら本多が慌てて追いかけてきたらしいが、どうやら会計を終えないで
飛び出そうとしたせいで…ワインバーの店員に思いっきり捕まって
ギャンギャンとやられているようだった。
  あんな妙な変装していただけでも悪目立ちをしていただろうに、それで
無銭飲食まで疑われたらとてもじゃないが…すぐには解放して
貰えないだろう。
 おかげで克哉達は悠々とタクシーに乗る事が出来たのだが、
チラリと見て…地面に転がされて、ソムリエに取り押さえられている
現場を見ると少しだけ胸が痛む想いがした。

(…ちょっと可哀想な気もするけどな…)

 その様子を見て、克哉は苦笑していくと…御堂は悠然と微笑みながら
告げていった。

「…これで、邪魔者は撒けたみたいだな…」

「へっ…?」

 最初、呆然となったが…すぐにその意味を理解していった。
 何てことはない。
 御堂は、とっくの昔に本多の存在に気づいていたのだ。
 だから手早く、タクシーとかを手配することで先手を打って対処
したのである。
 それに気づいて…克哉はクスクスと笑っていく。

「あの…気づいて、いらしたんですか…?」

「まあな。やたらとガタイのでかい怪しい男が私達の方をチラチラ
見ていたり…ガサガサやっていたのは流石に気づいていた。
 …しかしあれは誰だったんだ? 君の知り合いだろうか?」

(あぁ、やっぱりあれが本多とまでは…御堂さん気づいて
いなかったんだ…。そうだよな。じゃなかったら…きっと
店の中で血の雨が降っていたよな…)

「あ、はい…一応…」

 ここで嘘をついて必要以上に勘繰られても仕方ないので
正直に、そこまでは答えていく。

「…やはり、な。君と接近すれば露骨に邪魔するような
真似をしてくるから…君の知り合いだろうとは思ったがな。
随分とモテるじゃないか…。私がいない間にでも、君が
虜にした男か?」

「…冗談は、止めて下さい…!」

 とっさに、そんな事を言われてキッと御堂を見てしまった。
 御堂以外の男を魅了する気も、抱かれる気もまったくない。
 今の克哉には…目の前にいるこの人、だけだ。
 その意思を強い視線で訴えていくと…御堂は、どこか
満足げに微笑みながら克哉の手を握り締めていく。

「…悪かった」

 そう短く告げて…不器用に、御堂は黙って克哉の手を
握り締めていった。
 最初はどうしていいか判らなかったが…相手が素直に
謝っているのに、これ以上蒸し返して怒る訳にもいかなかった。

(本当に…この人は、ずるいな…)

 そうやって素直に謝られたら、こちらは許すしかなくなって
しまう。
 こうして握られている掌はとても温かくて、心地良かった。
 お互いに、言葉はなかった。
 ただ…暗いタクシーの車内の中で、運転手に気づかれないように
黙って手を握り合いながら目的地まで向かっていく。

(暖かい…)

 12月の雨の日。
 外気が冷たいからだろうか。
 …ただ、手が重なっているだけでもとても暖かくて。
 それだけでも、克哉は徐々に幸せな気持ちになっていく。

 そして…沈黙を保ったまま、タクシーは…二人を指定したホテルの
前へと運んでいったのだった―

 ―雨は浄化する力があるという
 喧騒する街も、傷ついた人の心も
 なら、降り注ぐ雨は街に住まう誰かの涙の代わりと
なるのだろうか…
  その深い悲しみを、癒す為に―

 就業時間を迎えた頃には空は鈍色に染まっていた。
 昨日に続いて、いつ降り出してもおかしくない空模様だった。

(今にも降り出しそうな感じだな…)

 結局克哉は、執拗に問い質してくる本多から上手く逃げ回りながら
キクチ・マーケーティングの玄関の扉を潜っていった。

(よし、本多はいないな…)

 常々、お節介な友人だなと思っていたが…本日ほど、それを痛感
させられた日はなかった。
 特に本多は出会いが出会いだけに、御堂の事を著しく敵視している部分が
あるので…恐らく、全てを話しても克哉の気持ちは判って貰えないだろう。
 むしろ余計な反感を抱くのは目に見えていた。
 だから、心配してくれるのは嬉しい。
 その想い自体は在り難く思っていても、どうしても本多に御堂に関係する
事は話せないというジレンマを抱いていた。
 問い質されればされるだけ、答えられないという苦い思いを経験する
ことになるので…特に今夜は克哉は友人から逃げ続けていたのだ。

「これから…御堂さんと会うって言ったら、絶対に邪魔されるのは
目に見えているからな…」

 はあ、と深く溜息を突きながらカバンから折り畳み傘を取り出していく。
 天気予報によれば、今夜は雨の勢いは強いがそんなに風はないとのことなので
これでも充分に持ちこたえられると思う。
 そうして…克哉は、地下鉄へ向かって…御堂が以前連れてってくれたワインバー
へと向かい始めていった。

 ―その背後に、身を潜めた本多が着けて来ていた事も未だ気づかずに…。

                            *

 MGN社からそう遠くない位置にある、駅前のワインバー。
 ここはワインの品揃えがかなり良く、御堂孝典は以前から友人達を
招いて何度かこの店に訪れていた。
 小さい店ながら置いてある商品の銘柄の多さもさることながら、料理の質も
かなりの物なので…値段は張るが、彼のお気に入りの店の一つであった。
 その奥の席に腰を掛けながら…御堂はどことなく落ち着かない様子で
佐伯克哉を待っていた。

(そろそろ…だな…)

 携帯電話を取り出して、チラリ…とそのディスプレイを眺めていく。
 時刻は19時50分と表示されている。
 待ち合わせの時間よりも、まだ十分早い。
 それでも…御堂は念の為に20分前にはここに辿り着くように行動
していたのだ。

「もうじき、か…」

 こんなに、誰かと会うのにソワソワした気分を味わった事など…
ついぞ記憶にない。
 彼と関係を持っていた時だって、こんな浮ついた気持ちを味わった事は
今までなかった筈だった。
 けれど…大隈に全ての責任を被らされてMGNを退社してから、
自然と佐伯克哉との関係も立ち消えてしまって。
 この一ヶ月それで…何度も、何度も彼の事を考えてしまっていた。
 それで…気づいてしまったのだ。
 
―少なくとも自分は、克哉にもう一度会いたいと願っている事に…。

 今まで彼にした事を思えば、自分がそんな事を思っているなど
図々しいにも程があると思う。
 だが、ダメ元で出したメールに返信が…しかも彼の携帯のものと思われる
ものから送信されているのに気づいた時、反射的に返事をしてしまっていた。
 あのスピードは自分でもびっくりしたぐらいだ。
 こんな感情は、青臭い学生時代以来のような気がする。
 
「もう…そろそろ、時間だな…」

 ディスプレイが19時55分を示したその時。
 店の扉が開け放たれていった。

「こんばんは…あの、御堂さんはいらっしゃるでしょうか…?」

 どうやら、雨が降っていたらしく…克哉は微かに濡れていた。
 その様子を見て、ふいに…彼が立ち尽くしていた夜の記憶が
御堂の中で蘇っていく。
 後、もう少し…自分が彼に気づくのが早かったならば。
 躊躇わずにあの日、克哉の元に行っていたら…この一ヶ月間
持て余していたモヤモヤした気持ちを抱かずに済んでいたのだろうか?
 つい、御堂は克哉を凝視していく。
 
 以前にも克哉と面識があるソムリエは優しく微笑みながら、頷いて
いくと…御堂のテーブルの方へと克哉を案内していった。

「それでは…お寛いで当店での一時を楽しんで下さいませ」

 ソムリエはそう告げていくと…恭しくお辞儀して一旦彼らの前から
立ち去っていった。

「…久しぶりだな。まさか本当に…君がこうして来てくれるとは、
思ってもいなかった…」

「オレ、もです。まさかこうして…貴方に、今日…早速会えるなんて
思ってもみませんでした…」

 お互いにまるでお見合いしているような緊張っぷりで…応対していく。
 御堂も克哉も、久しぶりに会えてテンションが高くなっているせいか
軽く顔を赤らめていた。
 だが…照れ臭くて、すぐにまともに相手の顔を見れなくなる。
 限りなく新婚っぽいというか、バカップルオーラが垂れ流しに
なっていたが当人達はまったく気づいた様子はなかった。

「…私もだ。あぁ、早く席についた方が良い。いつまでも立ち話を
しているのも…何だろうしな」

「あっ…はい。すみません…!」

 御堂に指摘されて、すぐにハっとなって向かい側の席に着席
していく。
 御堂が予約した席は奥のソファ席だ。
 二人に対して、4人分の座席が用意されている形だが…
この場合は向かい合うのが正しいだろう。
 …少しだけ、御堂の隣に座りたいという望みもあったけれど。
 それと同時に、背後で新しい客が訪れたような気配を感じる。
 まあ元々…良い店なのだ。自分達以外の客がいても当然だし
その時点では克哉はあまり意識することなく…真っ直ぐに御堂だけを
見つめ続けていた。

「佐伯…まずは飲み物のメニューだ。今夜は何を飲みたいかまずは
君が選ぶと良い。多少高いものでも…構わないぞ。
最初の一本は私から誘ったのだし…奢らせて貰おう」

「えっ…そんな、悪いですよ…! せめて割り勘で…」

「…今夜の再会を祝して、だ。それなら良いだろう…」

「…祝、杯…ですか…?」

 御堂からの言葉に、ちょっと驚きながら反芻していく。
 だが克哉が呆然として…微動だにしないことに気づいていくと、
御堂は仕方なく…メニューを奪い取って、自分で注文していった。
 恐らくこの様子では克哉に選ばせたら、絶対に遠慮して味ではなく
値段の安いものを選ぶのは目に見えていたからだ。
 どうせなら、今夜は美味しい物が飲みたい。
 その気持ちを優先して…御堂はさっさとリードすることに決めた。

「…その様子だと、君は遠慮して絶対に安いのしか選ばないだろうな。
どうせなら…旨いと思えるものが飲みたい。だから私が決めさせて貰おう」

 そういって、メニュー表を眺めていくと暫く思案していきながら…。

「1985年もののロマネ・サン・ヴィヴァンを」

「かしこまりました…」

 いつの間にかさりげなく立っていたソムリエにそう告げていくと…
御堂は静かに克哉の方を向き直っていく。
 こういう場面で慣れた様子でリードしてくれる姿は格好良くて、
同時に頼もしかった。
 だが…ふと気になって机の上に置かれたメニュー表を眺めていくと…。

「っ…!」

 驚きのあまりに、声が出なかった。
 たった今、御堂が告げたワインの値段は…15万円と出ていたからだ。
 動揺の色を濃く浮かべながら御堂を見つめて抗議しようとすると…。

「…値段は気にしなくて良い。どうせなら、君と旨いワインを飲みたいと
思って私が勝手にした事だ。祝杯だ…と言っただろう」

「け、けど…」

 こんなに高い酒を奢って貰うのはやはり…気が引けた。
 しかも、こんなに優しい顔の御堂を見た記憶は殆どないから…尚更だった。
 今まで見て来た御堂の顔は、意地悪だったり強気で隙のないものばかり
だったから、こんなにこちらを真摯に見つめて微笑んでいるような顔など…
まったく知らなかった。

「こんなに、高いものを…」

 そういって、断りの言葉を紡ごうとした瞬間…机の下で、御堂にしっかりと
手を握られていた。
 突然、相手の温もりに包み込まれてぎょっとなる。
 だがそれは…強い力で握られていて、少々の事では振り解けそうにない。
 困惑していると…ふいに、指を絡めるように強く、強く握りこまれていく。

「あっ…」

 かつて、身体の関係が在った頃の記憶が唐突に思い出されていく。
 御堂にほんの少し触れられるだけでザワザワザワ…と怪しい疼きが
背筋に走り抜けていくようだった。

「佐伯…」

 熱っぽい目で、見つめられていく。
 こんな眼差しをした御堂など、知らない。
 手を握られて…相手に瞳を覗き込まれているだけだ。
 それなのに、こんなに身体が熱くなって…ドキドキしている。

「御堂、さん…」

 ギュっと目を伏せながら、克哉からも手をしっかりと握り締めていく。
 ただそれだけの事なのに…心臓が破裂してしまいそうだ。
 けれど、同時に途方も無い幸福感が胸の奥から湧き上がってくる。
 手を繋ぐ、たったそれだけの事で御堂と深く繋がることが出来たような
気がして…興奮していく。
 
「…っ!」

 耳まで赤く染まっていくのが判る。
 それと同時に身体が反応を始めていって、下半身が硬く張り詰め始めて
いくのが判った。

(ヤバイ…っ!)

 飲食店にいる時に、下半身を勃起させるような真似をする訳には
さすがにいかなかった。
 慌てて御堂から意識を逸らそうとして明後日の方向に向いていくと…。

「っ…!?」

 余計に克哉はパニックに陥る事になった。
 まさに心臓が凍るような想いとはこの事だ。
 
(な、何で…こんな処に…!)

 思わず泣きそうになってしまった。
 ここまで友人が執念深いとは予想もしていなかったからだ。
 今までは克哉が、店の入り口に背を向けている格好なのでまったく
気づいていなかったが…彼らの後ろに位置する席には明らかに不審
人物が其処に鎮座していた。

 その人物の格好は、まさにルパン三世に出てくる銭形刑事のような
帽子とコートを羽織っていた。
 それだけならまだ良い。だがそれにサングラスを掛けて、パーティー用の
髭眼鏡についているような、チョビ髭が口元についていて怪しい事この上
なかった。
 そんな人物がこちらを伺うように新聞紙をあからさまに広げて、チラチラと
こちらを眺めているのだが…一つだけ変装しても隠せない部分があった。
 
―その立派な体格だ。

 本人は頑張って変装しているのだろうが、その体格の頑健さと立派な
部分だけは隠しようがない。
 むしろ190センチ近い筋肉質の体格の男が、そんな怪しい服装を
しているという事で悪目立ちしまくっている。
 言うまでもない。幾ら変装しようと…克哉がその人物を見間違える
事などなかった。

(何で本多がこんな処にいるんだよ~~!)

 心の中で真剣に泣きそうになりながら、克哉はどうにかそれでも…
御堂の手をしっかりとテーブルの下で握り締め続けていた。
 だが、さっきまでみたいにその感覚にうっとり…なんて事はすでに
出来る心境ではなかった。

 心底、自分の友人の事を恨みながら…克哉は、ワインが来るまで
その体制で御堂と共に待ち続けていたのだった―
 いつも見て下さっていてありがとうございます。
 本日は唐突ながら、アンケート企画でございます。

 今回…夏コミは一般参加ですが、当日にちょいと…
このサイトに置き土産を残していこうかなと考えています。
 テーマは夏祭り。

 で、CPは現在の処は決めていません。
 今回は…8月4~5日までに掛けて、一番リクエストが
多かったCPの内容のを書き下ろそうと予定しています。

 もし、このCPの話が読みたいっていう希望がありましたら
拍手で一言、答えて頂けると助かります。
 一番、リクが多かったものを書いていきます。
 良かったら協力してやって下さいませ。
 …返信等に対して不義理を噛ましまくっているので
作品を書く、という形でお礼をさせて頂きます。
 ではでは…(ペコリ)
  ―御堂から一通のハガキとメールが来たのは、その姿を目撃した
翌日の事だった。
 彼が姿を消したその時から空虚な日々を送っていた克哉にとっては
立て続けにショックな出来事が襲い掛かって来ていて…本気で
困惑してしまった。

 ハガキの方に関しては…本多や、片桐の方にも同じ文面の
素っ気無い挨拶が記載されている。
 だが、克哉宛のだけは…090で始まる電話番号がしっかりと
手書きで記されていたのだ。
 それを見ただけで…心臓がバクンバクン言って落ち着かなかったと
いうのに…PCのアドレスの方に、御堂の携帯のものらしいメルアドから
一通、メールが届いていて…余計にショック死するかと思った。

(ど、どうして…御堂さんが、俺のパソコンアドレスを…?)

 今まで、御堂と携帯同士でプライベートなやり取りをした記憶は
なかった。
 プロトファイバーの件で仕事上の連絡を取っていた時も…会社の
PCのメール同士でしかしてこなかった筈だ。
 だが、MGNに所属していた頃とは違うアドレスだったが…
「元気だろうか 御堂」と言う題名のメールを見て…明らかに
克哉は動揺していた。
 いや、良く考えれば…社内のPC同士でのやり取りはやっていたのだから
知っていてもおかしくはない。
 だが御堂はすでにMGNを退社している。
 となると…このアドレスに送信してきたという事は克哉のメルアドを、
あの御堂が控えていたという事になる。
 それ以外の理由は考えられなかった。
 余計に…混乱した。

(あの人は一体…何を、考えているんだ…?)

 MGNを退社して、音沙汰なくなってから一ヶ月が過ぎている。
 その間…連絡しようとすれば、幾らだって出来た筈なのに…あの人は
何も克哉に言ってくれないまま姿を消してしまった。
 それなのに、昨日は大雨の中…会社の前で待っていて。
 翌日にはハガキとメールでの打診だ。
 …少し考えれば、御堂がこちらと会いたいと思ってくれたから働きかけて
くれた、というのが妥当な所だが…あの御堂が自分に対して、そんな想いを
持ってくれていたのだろうか…?

「…どうしよう。考えれば考えるだけ…判らなくなってくる…」

 頭を抱えながら、PCの前で呻いていると…外回りから帰って来たらしい
本多が丁度、八課のオフィス内に戻って来た。

「今戻ったぜ。MGNの方から…新商品に関しての説明や概要を書いた
書類を受け取って来たから…今からそれに関して、皆に報告をさせて
貰いたいんだが…良いか?」

 本多がいつものように大声で、勢い良くそういうと…課全体が活気づいて
いくようだった。
 プロトファイバーの一件以来、社内での八課の評判は上々で…以前の
ように軽んじられたり馬鹿にされるようなことは激減していた。
 売り上げ数そのものに関しては凡庸な結果に陥ってしまったけれど…
準備期間があれだけ短かった商品で…という前置きがついていたので
それなりの評価に結びついていたのだ。

「ああ、本多君。今日も寒いというのに…本当にお疲れ様でした。さあ…
暖かいお茶を用意しましたから、ズズっとどうぞ…」

 本多が入って来ると同時に、給湯室の方に消えていた片桐がお盆を
持ちながら戻って来る。
 その上には現在、八課のオフィス内で事務作業を担当している人数分の
湯のみが乗っかっていた。

「あ、片桐さん。ありがとうございます。ええ…もう冬ですもんね。やっぱり…
外に出ると相当に寒いから、お茶凄い在り難いっすよ。頂きます」

 豪快に笑いながら、片桐が淹れた美味しいお茶をそっと受け取り…火傷
しないように慎重に飲み始めていった。
 だがそんなやり取りを他の人間がしているのにもかかわらず、克哉は
相変わらずPC前で硬直していたので…ついに不審がられて、本多が
湯のみを片手に持ちながら、こちらの方まで近づいて来た。

「よう、克哉…。さっきから何、ボーと見ているんだ?」

「えっ…あっ…」

 本多に間近で声を掛けられて、やっと正気に戻った時にはすでに遅かった。
 克哉がたまたま、そのメールを開いたまま…画面を止めていたので、
本多は見てしまったようだった。
「元気にしているか? 御堂」と書かれたその題名を…。

 それを見た瞬間、ピクリ…と本多の眉がつりあがるのに気づいて、克哉は
困惑してしまった。
 以前から、本多と御堂の仲はかなり険悪で…お世辞にも仲が良いとは
言い難い部分があった。
 何度か、御堂に嫌がらせをされているんじゃないかと勘繰られたこともあった。
 二週間前にもわざわざ呼び出しを受けて、問い詰められたぐらいなのだ。

「おいおい…! どうして御堂からのメールなんて…届いているんだ?」

「あ、今日…ハガキで、転職した事の挨拶が届いていたから…その補足、みたいな
ものじゃない…かな。以前は同じプロジェクトに関わっていたんだし…」

「あいつがそんなに、人間らしいタマか? 俺らに対しての扱いなんて常に見下した
感じで高圧的だっただろうが…。お前、そんなに御堂と個人的に親しくしていたのか?」

「えっ…。まあ、何度か二人で…」

 と、言いかけてはっとなった。
 ホテルに行った事がある何て事…口が避けたって言える訳がないのに、一体何を
口走ろうとしたのだろうか。
 ハッとなって慌てて口元を手で覆っていくと…余計に不審そうな目で本多に
睨まれていた。

「二人で…何だ?」

「あの…ワインバーに連れていって貰ったりとか、朝食をご馳走になったとか
それくらいなら…あるから…」

 辛うじて、差しさわりのない内容をとっさに口にしていく。
 だが、朝食という単語が本多的には何か引っ掛かったらしい。

「…朝食? お前…御堂とそんなに朝早くに顔合わせたことあったのか…?」

 ギクン!

(…其処を突っ込むなよ…)

 …御堂に朝食を振る舞われたのは、初めて抱かれた朝の事だ。
 いつもなら行為が終わるとさっさと出ていく癖に、その日から共に朝を
迎えるようになって…何故か自分がシャワーを浴びている間に…
ルームサービスを頼んでいてくれていた。
 その日の事を思い出してつい、顔が赤くなってしまうが…それが
余計に挙動不審の態度に繋がって、本多の疑念を更に深いものに
変えていってしまう。

「ああ、たまたま偶然…顔合わせたことがあって。それだけの話だよ…。
どうして本多はそんなに、御堂さんの事に対して突っ込んで来るんだよ」

「あぁ…確かに、な。けど…何か、お前の御堂に対しての反応って妙に
引っ掛かるというか釈然としないものがあってな。それが気になるから
ついくどくなっていたかも…悪いな」

「あ、うん…謝ってくれれば、いいんだけど…」

 素直にこう謝られると、それ以上文句をいう事も出来ない。
 チラリと横目に…PCの画面と、御堂から来たハガキに記された
携帯番号を眺めて克哉は考えあぐねいていく。

(…どちらに連絡すれば、良いんだろう…)

 これが御堂の携帯のアドレスからであるなら、自分もプライベートな
携帯のメルアドから返信を出した方が良いのだろうか…?
 そんな事をつい考えてしまって、ハっとなっていく。

(って…何、そんな甘いことを考えているんだ…! 御堂さんがどういう
意図でオレに連絡してくれたのか、まだ判っていないのに…)

 けれど、御堂と言う名前を見ただけで逸る心は…疑いようもない。
 あの人の声が聴ける…顔が見れる、と思うだけで鼓動が落ち着かなく
なるのは紛れもない事実なのだ。
 PCの前で御堂の事を考えて一人百面相をしていると…この一ヶ月
空虚で何に対しても反応がなかったのが嘘のように思えてくる。

―どうやらその後も、本多は色々と克哉に向かっていっていたようだが
考えに耽っている間は見事に聞こえていなかった。

「…って、おい。克哉…聞いているのか?」

 ついに本多がその件に関して、ちょっと憤っていくと…やっと克哉は
正気に戻っていく。

「嗚呼、うん…聞いていたよ。じゃあ…オレはちょっと席外すから」

「…って全然聞いてないじゃないか! 今の俺の忠告、やっぱり全然
耳に入ってなかっただろう!」

 いきなり、本多が吼えていったので…オフィス中の人間がビクリ、と
震えていった。
 そう、克哉が聞き飛ばしていた内容は…コンコンと、いかに御堂のような
人間に心許したら酷い目に遭うかを諭している内容だったのだ。
 だが、見事に思考に耽っていた克哉は馬耳東風状態で…その忠告を
聞き飛ばしていたのであった。
 それを今の叫びで察したが、本多に何を言われようとも…すでに克哉の
心は決まっている。
 いや、むしろ…本多が邪魔をしようとすればするだけ、止めようとすれば
するだけ…心が熱く燃えていくのを感じていた。

 そうしている間に、克哉は素早く御堂からのメルアドをコピーペーストして
自分の携帯宛のメール本文に移していく。
 これでこちらの携帯から、御堂の携帯に送れるようになる筈だ。

「…そんな事言われたって、本多にそこまで口を出される言われはないよ!
オレが御堂さんと連絡を取るかどうかは…オレの自由な訳だし。
この間から心配してくれているのは在り難いけど、必要以上に口を出されて
指示されるのは本当に心外なんだけど!」

 珍しく克哉が強い口調で言い返すと…その場にいた全員がアッケに
取られていた。
 克哉は基本的に、今では仕事が出来るという評価に変わっていたが…
人当たりの良さや気弱な所はほぼ、以前と変わっていなかった。
 なのに…本多に対してそんなに強い口調で言い返すことなど、長年
殆ど見た事がない場面だった。
 本多自身も驚いてしまっていたらしい。
 どう言い返せばいいのか迷っている内に…素早く克哉はPCを素早く終了
させていくと…勢い良く席を立っていく。

「…片桐さん。ちょっと資料取って来ます」

「…あ、はい。行ってらっしゃい…佐伯君」

 上司である片桐に向かってそう声を掛けていくと、素早く克哉はオフィスの外へと
出ていった。
 そのまま…素早く駆け出していって、物陰に隠れていくと…。

「克哉っ! 待てよ! まだ話は終わってないぞ!」

 と、正気に戻った本多が全力で扉から飛び出して来て…克哉を探し始めていた。

(やっぱり予想通りだ…)

 だが、伊達に長年付き合って来た訳じゃない。
 本多の行動パターンは克哉は予測済みだった。
 だからこそPCもキチンと閉じて出て来た訳だし、こうして物陰に隠れたのだ。
 そのまま克哉に気づかず真っ直ぐに資料室に向かって突進していく本多を
やり過ごしていくと…克哉は素早く、御堂に対してメールしていった。

『連絡、どうもありがとうございました。とても嬉しかったです。
新しい職場が見つかられたようで何よりです。…これはオレの携帯の
番号とメルアドになります。良かったら連絡下さい』

 と素早くその文面の後に携帯番号とメルアドを打ち込んでいって、
相手へと送信していく。
 ガラにもなくその間、心臓はドキドキし通しだった。

(…こんなに、ドキドキしてる…)

 あの人から連絡があった。
 ほんの僅かでも連絡が取れた。
 たったそれだけの事でもこんなに高揚している自分が不思議だった。

(嗚呼、そうか…)

 けれど、素早く…本当に5分も経たない内に御堂から来た返信の
内容を見て、気づいていく。

(オレは…こんなに、貴方が好きで…堪らなかったんだ…)

『なら、今夜19時に…君を以前連れて行ったワインバーで待っている。
其処で会おう』

 簡潔でそっけない文章。
 けれど…すぐに場所と時間を指定されて…一層、鼓動が早くなった。

(御堂さんも…オレに会いたいと、思ってくれていた…?)

 その対応のあまりの素早さに、そんな馬鹿げた事を考えていってしまう。
 それがどうしようもなく嬉しくて仕方なくて…。
 克哉はギュウっと…自分の携帯を強く握り締めながら、そのメールの
本文を飽きる事なく眺め続けていたのだった―
 掲載遅れます。
 30分くらい、上手くログイン出来なかったりはじき出されたりしたんで
大幅にロスくらいました…(汗)
 23時30分くらいから書くんで、3日分は若干日付を越えます。
(けど書く)

 ちなみに基本は御克ですが、結構この話は本多も絡んで参ります。
 ハリーポッターをこの間、全巻読んで…嗚呼、こういう風にキャラを輝かせる
方法があるんだ…と最終巻を読んで目からウロコが落ちたので、ちょいと
自分なりにそれを試してみることにしました。

 本当に僅かなすれ違いで、雨の日に会話が出来ずに…MGNを去った
御堂さんと克哉がどんな風に交流していくのか。
 …何か5~10話の予定だったのが、予想外に本多が生き生きと行動
してくれたんでもしかしたら15話前後の長さになるかも知れませんが
じっくりと書いていきます。
 良かったらお付き合い下さい。では…。
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カテゴリー
フリーエリア
最新コメント
[03/16 ほのぼな]
[02/25 みかん]
[11/11 らんか]
[08/09 mgn]
[08/09 mgn]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

 当ブログサイトへのリンク方法


URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/

リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
忍者ブログ * [PR]