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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ―御堂から一通のハガキとメールが来たのは、その姿を目撃した
翌日の事だった。
 彼が姿を消したその時から空虚な日々を送っていた克哉にとっては
立て続けにショックな出来事が襲い掛かって来ていて…本気で
困惑してしまった。

 ハガキの方に関しては…本多や、片桐の方にも同じ文面の
素っ気無い挨拶が記載されている。
 だが、克哉宛のだけは…090で始まる電話番号がしっかりと
手書きで記されていたのだ。
 それを見ただけで…心臓がバクンバクン言って落ち着かなかったと
いうのに…PCのアドレスの方に、御堂の携帯のものらしいメルアドから
一通、メールが届いていて…余計にショック死するかと思った。

(ど、どうして…御堂さんが、俺のパソコンアドレスを…?)

 今まで、御堂と携帯同士でプライベートなやり取りをした記憶は
なかった。
 プロトファイバーの件で仕事上の連絡を取っていた時も…会社の
PCのメール同士でしかしてこなかった筈だ。
 だが、MGNに所属していた頃とは違うアドレスだったが…
「元気だろうか 御堂」と言う題名のメールを見て…明らかに
克哉は動揺していた。
 いや、良く考えれば…社内のPC同士でのやり取りはやっていたのだから
知っていてもおかしくはない。
 だが御堂はすでにMGNを退社している。
 となると…このアドレスに送信してきたという事は克哉のメルアドを、
あの御堂が控えていたという事になる。
 それ以外の理由は考えられなかった。
 余計に…混乱した。

(あの人は一体…何を、考えているんだ…?)

 MGNを退社して、音沙汰なくなってから一ヶ月が過ぎている。
 その間…連絡しようとすれば、幾らだって出来た筈なのに…あの人は
何も克哉に言ってくれないまま姿を消してしまった。
 それなのに、昨日は大雨の中…会社の前で待っていて。
 翌日にはハガキとメールでの打診だ。
 …少し考えれば、御堂がこちらと会いたいと思ってくれたから働きかけて
くれた、というのが妥当な所だが…あの御堂が自分に対して、そんな想いを
持ってくれていたのだろうか…?

「…どうしよう。考えれば考えるだけ…判らなくなってくる…」

 頭を抱えながら、PCの前で呻いていると…外回りから帰って来たらしい
本多が丁度、八課のオフィス内に戻って来た。

「今戻ったぜ。MGNの方から…新商品に関しての説明や概要を書いた
書類を受け取って来たから…今からそれに関して、皆に報告をさせて
貰いたいんだが…良いか?」

 本多がいつものように大声で、勢い良くそういうと…課全体が活気づいて
いくようだった。
 プロトファイバーの一件以来、社内での八課の評判は上々で…以前の
ように軽んじられたり馬鹿にされるようなことは激減していた。
 売り上げ数そのものに関しては凡庸な結果に陥ってしまったけれど…
準備期間があれだけ短かった商品で…という前置きがついていたので
それなりの評価に結びついていたのだ。

「ああ、本多君。今日も寒いというのに…本当にお疲れ様でした。さあ…
暖かいお茶を用意しましたから、ズズっとどうぞ…」

 本多が入って来ると同時に、給湯室の方に消えていた片桐がお盆を
持ちながら戻って来る。
 その上には現在、八課のオフィス内で事務作業を担当している人数分の
湯のみが乗っかっていた。

「あ、片桐さん。ありがとうございます。ええ…もう冬ですもんね。やっぱり…
外に出ると相当に寒いから、お茶凄い在り難いっすよ。頂きます」

 豪快に笑いながら、片桐が淹れた美味しいお茶をそっと受け取り…火傷
しないように慎重に飲み始めていった。
 だがそんなやり取りを他の人間がしているのにもかかわらず、克哉は
相変わらずPC前で硬直していたので…ついに不審がられて、本多が
湯のみを片手に持ちながら、こちらの方まで近づいて来た。

「よう、克哉…。さっきから何、ボーと見ているんだ?」

「えっ…あっ…」

 本多に間近で声を掛けられて、やっと正気に戻った時にはすでに遅かった。
 克哉がたまたま、そのメールを開いたまま…画面を止めていたので、
本多は見てしまったようだった。
「元気にしているか? 御堂」と書かれたその題名を…。

 それを見た瞬間、ピクリ…と本多の眉がつりあがるのに気づいて、克哉は
困惑してしまった。
 以前から、本多と御堂の仲はかなり険悪で…お世辞にも仲が良いとは
言い難い部分があった。
 何度か、御堂に嫌がらせをされているんじゃないかと勘繰られたこともあった。
 二週間前にもわざわざ呼び出しを受けて、問い詰められたぐらいなのだ。

「おいおい…! どうして御堂からのメールなんて…届いているんだ?」

「あ、今日…ハガキで、転職した事の挨拶が届いていたから…その補足、みたいな
ものじゃない…かな。以前は同じプロジェクトに関わっていたんだし…」

「あいつがそんなに、人間らしいタマか? 俺らに対しての扱いなんて常に見下した
感じで高圧的だっただろうが…。お前、そんなに御堂と個人的に親しくしていたのか?」

「えっ…。まあ、何度か二人で…」

 と、言いかけてはっとなった。
 ホテルに行った事がある何て事…口が避けたって言える訳がないのに、一体何を
口走ろうとしたのだろうか。
 ハッとなって慌てて口元を手で覆っていくと…余計に不審そうな目で本多に
睨まれていた。

「二人で…何だ?」

「あの…ワインバーに連れていって貰ったりとか、朝食をご馳走になったとか
それくらいなら…あるから…」

 辛うじて、差しさわりのない内容をとっさに口にしていく。
 だが、朝食という単語が本多的には何か引っ掛かったらしい。

「…朝食? お前…御堂とそんなに朝早くに顔合わせたことあったのか…?」

 ギクン!

(…其処を突っ込むなよ…)

 …御堂に朝食を振る舞われたのは、初めて抱かれた朝の事だ。
 いつもなら行為が終わるとさっさと出ていく癖に、その日から共に朝を
迎えるようになって…何故か自分がシャワーを浴びている間に…
ルームサービスを頼んでいてくれていた。
 その日の事を思い出してつい、顔が赤くなってしまうが…それが
余計に挙動不審の態度に繋がって、本多の疑念を更に深いものに
変えていってしまう。

「ああ、たまたま偶然…顔合わせたことがあって。それだけの話だよ…。
どうして本多はそんなに、御堂さんの事に対して突っ込んで来るんだよ」

「あぁ…確かに、な。けど…何か、お前の御堂に対しての反応って妙に
引っ掛かるというか釈然としないものがあってな。それが気になるから
ついくどくなっていたかも…悪いな」

「あ、うん…謝ってくれれば、いいんだけど…」

 素直にこう謝られると、それ以上文句をいう事も出来ない。
 チラリと横目に…PCの画面と、御堂から来たハガキに記された
携帯番号を眺めて克哉は考えあぐねいていく。

(…どちらに連絡すれば、良いんだろう…)

 これが御堂の携帯のアドレスからであるなら、自分もプライベートな
携帯のメルアドから返信を出した方が良いのだろうか…?
 そんな事をつい考えてしまって、ハっとなっていく。

(って…何、そんな甘いことを考えているんだ…! 御堂さんがどういう
意図でオレに連絡してくれたのか、まだ判っていないのに…)

 けれど、御堂と言う名前を見ただけで逸る心は…疑いようもない。
 あの人の声が聴ける…顔が見れる、と思うだけで鼓動が落ち着かなく
なるのは紛れもない事実なのだ。
 PCの前で御堂の事を考えて一人百面相をしていると…この一ヶ月
空虚で何に対しても反応がなかったのが嘘のように思えてくる。

―どうやらその後も、本多は色々と克哉に向かっていっていたようだが
考えに耽っている間は見事に聞こえていなかった。

「…って、おい。克哉…聞いているのか?」

 ついに本多がその件に関して、ちょっと憤っていくと…やっと克哉は
正気に戻っていく。

「嗚呼、うん…聞いていたよ。じゃあ…オレはちょっと席外すから」

「…って全然聞いてないじゃないか! 今の俺の忠告、やっぱり全然
耳に入ってなかっただろう!」

 いきなり、本多が吼えていったので…オフィス中の人間がビクリ、と
震えていった。
 そう、克哉が聞き飛ばしていた内容は…コンコンと、いかに御堂のような
人間に心許したら酷い目に遭うかを諭している内容だったのだ。
 だが、見事に思考に耽っていた克哉は馬耳東風状態で…その忠告を
聞き飛ばしていたのであった。
 それを今の叫びで察したが、本多に何を言われようとも…すでに克哉の
心は決まっている。
 いや、むしろ…本多が邪魔をしようとすればするだけ、止めようとすれば
するだけ…心が熱く燃えていくのを感じていた。

 そうしている間に、克哉は素早く御堂からのメルアドをコピーペーストして
自分の携帯宛のメール本文に移していく。
 これでこちらの携帯から、御堂の携帯に送れるようになる筈だ。

「…そんな事言われたって、本多にそこまで口を出される言われはないよ!
オレが御堂さんと連絡を取るかどうかは…オレの自由な訳だし。
この間から心配してくれているのは在り難いけど、必要以上に口を出されて
指示されるのは本当に心外なんだけど!」

 珍しく克哉が強い口調で言い返すと…その場にいた全員がアッケに
取られていた。
 克哉は基本的に、今では仕事が出来るという評価に変わっていたが…
人当たりの良さや気弱な所はほぼ、以前と変わっていなかった。
 なのに…本多に対してそんなに強い口調で言い返すことなど、長年
殆ど見た事がない場面だった。
 本多自身も驚いてしまっていたらしい。
 どう言い返せばいいのか迷っている内に…素早く克哉はPCを素早く終了
させていくと…勢い良く席を立っていく。

「…片桐さん。ちょっと資料取って来ます」

「…あ、はい。行ってらっしゃい…佐伯君」

 上司である片桐に向かってそう声を掛けていくと、素早く克哉はオフィスの外へと
出ていった。
 そのまま…素早く駆け出していって、物陰に隠れていくと…。

「克哉っ! 待てよ! まだ話は終わってないぞ!」

 と、正気に戻った本多が全力で扉から飛び出して来て…克哉を探し始めていた。

(やっぱり予想通りだ…)

 だが、伊達に長年付き合って来た訳じゃない。
 本多の行動パターンは克哉は予測済みだった。
 だからこそPCもキチンと閉じて出て来た訳だし、こうして物陰に隠れたのだ。
 そのまま克哉に気づかず真っ直ぐに資料室に向かって突進していく本多を
やり過ごしていくと…克哉は素早く、御堂に対してメールしていった。

『連絡、どうもありがとうございました。とても嬉しかったです。
新しい職場が見つかられたようで何よりです。…これはオレの携帯の
番号とメルアドになります。良かったら連絡下さい』

 と素早くその文面の後に携帯番号とメルアドを打ち込んでいって、
相手へと送信していく。
 ガラにもなくその間、心臓はドキドキし通しだった。

(…こんなに、ドキドキしてる…)

 あの人から連絡があった。
 ほんの僅かでも連絡が取れた。
 たったそれだけの事でもこんなに高揚している自分が不思議だった。

(嗚呼、そうか…)

 けれど、素早く…本当に5分も経たない内に御堂から来た返信の
内容を見て、気づいていく。

(オレは…こんなに、貴方が好きで…堪らなかったんだ…)

『なら、今夜19時に…君を以前連れて行ったワインバーで待っている。
其処で会おう』

 簡潔でそっけない文章。
 けれど…すぐに場所と時間を指定されて…一層、鼓動が早くなった。

(御堂さんも…オレに会いたいと、思ってくれていた…?)

 その対応のあまりの素早さに、そんな馬鹿げた事を考えていってしまう。
 それがどうしようもなく嬉しくて仕方なくて…。
 克哉はギュウっと…自分の携帯を強く握り締めながら、そのメールの
本文を飽きる事なく眺め続けていたのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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