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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※  この話はN克哉が事故で昏睡して記憶を失っている間、夢の世界で眼鏡と
十日間を過ごすという話です。それを了承の上でお読みください(やっと中盤…)

 深夜遅く、眼鏡がしっかりと寝静まった頃を見計らって…克哉はコソコソと自分の
部屋から毛布を持ち込んで、彼の部屋に侵入していった。
 目的は出来るだけ傍で眠る為だ。記憶は基本的に…眼鏡と一緒にいる時にしか
思い出せないから、克哉としてはもう少し近づきたいのだが…あんまり寄りすぎると
今度は襲われかけるから、かなりスリリングな毎日を送っていた。

(よ、良かった…兄さん、起きてないみたいだ…)

 毎晩の事ながら、酷く緊張していた。
 ドキドキと心臓を荒立たせながら、ベッドの上に横たわっている眼鏡の隣に自分も
横になっていく。
 ベッドサイズはどの部屋に置かれている物でもダブルサイズはある。
身長180を超える自分達でも、中心辺りにいるように心がければある程度寝返りを打っても
大丈夫な大きさだった。
 自分の身体がベッドのスプリングに沈むのを感じて…克哉は溜息を突く。

(…本当にこの人は、オレと顔が良く似ているな…)

 今夜は外も穏やかなようだった。
雪や風も殆ど降る事なく、高い位置に備え付けられている窓からはもうじき満月に
なろうとしている白い月が静かに浮かんでいる。
 その月光に照らされた顔立ちは整っていて、長い睫が目元に微かな陰影を作り…微かな
色気を醸し出していた。
 陶器めいた、白い肌につい触れてみたくて…そっと頬に手を伸ばしていく。
 軽く滑らせていくと、肌の表面は滑らかで触り心地は良かった。

「う…ん…」

 こちらの手に反応したのか、微かに呻き声を漏らしながらモゾモゾと眼鏡が身動きする。
 それに一瞬、起こしてしまったかとビクリとなったが…相手が起きる気配がないのが判ると
ほっと溜息を突いていく。

(何で…こんなにこの人は、オレに似ているんだろう…。オレに兄さんなんて…
いない筈、なのに…)

 今の克哉は20歳前後までの記憶を取り戻していた。
 だからこそ、確信もって言えた。佐伯克哉には…双子の兄なんて存在しない事を。
 少なくとも育つ過程において、まったく一緒に過ごしてきた記憶はない。
 けれど…自分に瓜二つ過ぎる容姿は逆に双子以外では有り得ない気がした。
 他人でここまで似ているのは可笑しすぎる。
 だからこそ…克哉は混乱していた。

「…兄さん、貴方は一体…本当はオレにとってどんな存在なんですか…?」

 その答えは、この七日間で思い出せた20歳までの記憶の中には存在しない。
 だからこそ…余計に、この人に対しての興味は尽きなかった。
 人には知りえない謎を解きたいという欲求がある。
 好奇心、知識欲は時に強い衝動で人を突き動かす力があるのだ。
 克哉にとって、こうして彼の隣で眠ることは相手に襲われて良いようにされる危険に
満ちた行為である。
 けれどそのリスクを犯してでも、毎晩聞こえる『声』と…この人の正体に関して知りたいと
いう気持ちを抱いていた。

『克哉…克哉…』

 静寂の中、また今夜も…切なく自分の事を呼ぶ声が脳裏に響いてくる。
 その声はとても優しく…同時に切ない色合いを持っていた。
 ただ静かに自分に対して呼びかけてくる声。
 ―目覚めた日から、一日も途切れる事のない…哀切を帯びた声掛けだった。

(また今夜も…貴方の声が聞こえる。…早く、知りたい。貴方が一体誰なのかを…)

 克哉は目を閉じて、その呼びかけに耳を澄ませていく。
 毎日、夜から朝に掛けての間だけ聞こえ続ける謎の声は…一日も早く記憶を
思い出さなければと克哉を掻き立てる原動力となった。
 だから…身の危険を感じながらでも、眼鏡の傍を離れないように必死にくっついて
いるのだが…。

 ふと、今は便宜上…兄と呼んでいる人の顔を見つめていく。
 それを見て…少しだけ不思議な気持ちになった。
 目の前で安らかな顔を晒して眠りこけている姿を見て、少しだけドキドキしている
自分がいた。

(まあ、あれだけ…セクハラされまくれば、多少は意識もするだろうけどな…)

 自分がここで目覚めて、初めてキスされた日から数えて、この五日間は…本気で
貞操の危機を感じたか数え切れないくらいだった。
 こっちがアワアワするような振る舞いや発言を平気でしでかしてくるし、すぐ押し倒したり
際どい処に触ってくるし…一緒にいて本当に気が抜けない。
 本当に兄弟なら、そんな真似をする筈がない。それでも…。

「…貴方の事、嫌いじゃないんだよな…。むしろ、好きと嫌いのどちらかだとしたら…好き、
なんだと思う…」

 克哉の胸に、この人の胸の中で泣きじゃくった日の記憶が蘇る。
 …本当に兄弟なのか、疑う気持ちがあっても…記憶の事を差し置いても出来るだけ傍に
いたいと望むのは…あの日、不安を抱いていた自分に優しくしてくれたからだと思う。

「っ…わっ…!」

 ふいに、眼鏡の腕が伸びて…その胸に引き寄せられる。
 もしかして起きたのか、と思ってヒヤっとしたが…どうやら無意識の内にこちらを
抱き寄せただけらしい。
 思いがけず、強い力で相手の胸元に顔を埋める格好になって…耳まで赤くなっていく。

(うわ…うわ、うわっ…)

 相手の鼓動を間近に感じて、赤面していく。
 それでも…この雪で覆われた世界は、空気すらも酷く冷たく澄み切っていて。
 …そんな中で、この温もりはとてつもない引力となっていた。
 どうしようもなく、意識をしている自分がいる。
 夕食の時のように…あんな風にチョッカイを掛けられたら、一応反撃して…拒むけれど、
もし…この人が真剣な顔をして自分を求めてきたら、多分拒めないような気がしていた。
 幸い、今の処…そんな事態にはならないで済んでいるけれど。

『克哉…克哉…』

 そう、顔も思い出せない声の主のように…こんな切ない声で自分の事を呼びかけてきたら―
きっと…許してしまう気がする。
 そんな自分に呆れながら、克哉はそっと瞳を閉じていく。
 傍に寄り添って眠る…相手の体温はとても暖かく。
 心地よさを感じていきながら、静かに眠りの淵に落ちていった―
 
 
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※  この話はN克哉が事故で昏睡して記憶を失っている間、夢の世界で眼鏡と
十日間を過ごすという話です。それを了承の上でお読みください(やっと中盤…)
  
 この世界に来てから、七日目の夜。
 眼鏡の胸で泣いて縋りついた日からは五日程が経過していた。
 あれから克哉の記憶は徐々に戻り続けて、現在は大学に入学した頃くらいまでは
思い出したらしい。
 6日目の朝辺りから、それまでは完全に眼鏡任せだった家事の類をやり始めたので
気になって「本多の事は思い出せたのか?」と聞いたら、うんと頷いていたので
丁度それくらいまでは戻ったんだな、と納得する事にした。
 
 本多憲二との出会いは、大学に入学してバレー部に入ってからの事だ。
 こいつの事を思い出したのなら…現在の克哉の記憶は18~21歳の間くらいまでは
回復したという目安となる。
 この辺りまで思い出せば、自分がどんな人間だったか…という事は把握出来るので
最初の五日間までは酷くおどおどした態度を見せていた克哉も、段々自分が知っている
彼に近づいていた。

「~♪」

 本日の夕食は、克哉の方が担当する運びとなった。
 キッチンに鼻歌を歌いながらエプロンをつけて一人で立ち…大きな鍋を前にややぎこちない
手つきではあるが包丁を握って鶏肉やニンジン、玉ねぎ、ジャガイモなどを下ごしらえして
シチューを作っている。
 大量の蒸気を溢れさせている鍋から、アクを梳くって…ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎの
順に野菜を入れてグツグツと煮込んでいた。

 煮込んでいる間、洗濯物をしたり…洗い物を片付けたり、レタスとトマトだけの簡単な
サラダを作ったり、パンをバターを薄く塗ってオーブントースターで焼いてカリっと仕上げ
たりして時間を潰していく。
 具がしっかりと煮込み終わる頃には市販のシチューの素を用意して、
火を下ろして掻き混ぜていく。
 ここら辺は今の時代、便利な物があってくれて本当に良かったな…と思った。

「よし、こんな物かな…久しぶりに作った気がするけど…上手く出来て良かった」

 シチューの素を全部溶かして、適度なとろみがついていくと…安心したような
笑みを浮かべていった。
 とりあえずサラダも、トーストもどうにか失敗せずに済んだ。
 これなら…彼に、それなりに美味しい夕食を振舞う事が出来るだろうと…安堵した瞬間
背後から、何か気配がした。

「っ…! 何っ!」

 克哉がシチューに気を取られている間に、眼鏡がいつの間にか忍び寄って背後を
取っていく。
 ふいに自分の胸元から腹部に掛けて、怪しく手が蠢き…カプっと耳朶の辺りを
思いっきり甘噛みされていく。

「っ…!! な、何をいたずらしているんですかっ!」

「…別に? お前が何か上機嫌でキッチンを立っている姿を見てチョッカイを掛けたい
気分になっているだけだ…気にするな…」

「気にします! 火を使っている間に…妙な事を仕掛けないで…あっ!」

 ふいに服の隙間から手を差し入れられて、胸の突起を軽く摘まれれば…克哉の
身体はビクっと震えていく。

「ちょっ…指、冷たい…ですから! やめ…」

 こっちが外そうともがいている内に、チュっと首筋に吸い付かれて軽く舐め
上げられていく。
 そのまま…調子に乗って、両方の指で突起を弄り上げていくと…。

 ドカッ!!!!

 克哉も負けじと、眼鏡の胸元に強烈な肘鉄を食らわしていく。

「もう!! いい加減にして下さい! オレは貴方にちゃんと美味しい夕食を食べて
欲しくて頑張っているんです! 邪魔しないで下さい」

「…俺は夕食よりも、お前を食わせて貰った方が欲求が満たせるんだがな…」

 パァン!!

 相変わらずの眼鏡の物言いに、今度は本日の調理の参考に使った料理書を片手に
思いっきり叩き上げていく。

「に・い・さ・ん? あんまりこっちの邪魔をすると…オレの方にも…考えがあるよ?」

 克哉がにっこりと笑いながら、声に不穏な調子を混ぜて言い切っていく。
 なかなか黒いものを滲ませている朗らかな笑顔である。
 その凄みに、一瞬…眼鏡も言葉に詰まったが…すぐに強気な笑みを浮かべて
応戦していく。

「ほう? お前の考えなど…たかが知れているが、どんな案を持ち出すつもりなんだ?」

「さあ…何だろうね? 夕食抜きなんて案はどう? 今日の夕飯はオレが作っているん
だから…夕食を食べさせるかどうかの権利はオレの方が握っていると思うんだけど…?」

「…ふっ。その程度か。それくらいで俺が怯むと思うか?」

「あぁ…その際には、オレの方でしっかりと食料庫への鍵は隠させて貰うから。
そうしたら…明日の朝まで兄さんの方は何も食べる事が出来ないでしょ? こんな案は
どうかな…?」

 それは流石に応えるので、眼鏡は一瞬…答えに詰まった。
 このロッジには冷蔵庫ではなく、食材の殆どは専用の冷室に置かれている。
 夢の世界なのに妙にこのロッジはリアルに作られていて…食料庫にもしっかりと
鍵の類はつけられている。ついでに空腹感までちゃんとある。
 それを握られてしまったら、空腹で明日の朝まで過ごす事になる。
 ここで下手に怒らせれば、もっと長い時間…こちらへの食料の供給は絶たれて
しまうかも知れない。この状況下で…下手な振る舞いをするのは、明らかに
こちらの不利であった。

「…ちっ! 知恵が回るようになったな。…お前に今日の夕食を任せたのは
失敗だったか…」

「もう、そんな妙なチョッカイを掛けてくるのが悪いんでしょ? ここで止めてくれれば
オレだってそんな真似しないよ。…そろそろ、シチューが完成するから…お皿とか
並べるの手伝ってよ」

 そう言って笑いながら、シチュー皿を用意して…その中にシチューを注ぎ始めていく。
 
「…気に入らんな」

 眼鏡は憮然としながらも克哉の言葉に従って、一応…この場は言う事を聞いてやる事にした。
 そうして…暖かい食事が、食卓の上に並べられていく。
 …目の前には、克哉がニコニコと微笑みながら…先に座って待っていた。

「お待たせ、兄さん。…さあ、夕食をどうぞ」

 そう笑顔で薦められてると、不本意ながら…悪い気分ではなかった。
 相手のペースに乗せられるのは好ましくないが、目の前に並んでいる夕食はどれも
簡単なものばかりだが確かに美味しそうだったからだ。

「あぁ…」

 眼鏡の口から、不機嫌そうな響きの声が漏れる。
 それでも表情は…微かに微笑んでいた。
 ゆっくりとした動作で克哉が作った夕食に手をつけていく。
 どれも悪くない味だったので…一応、眼鏡の機嫌はそれなりに回復していった。

 ―そうして、七日目の夜は静かに更けていった。

  溜息を突きながら、とりあえず抱きしめ続けてやると…次第に克哉の身体から
力が抜けて…相手の体重が全て、こちらに掛けられた。
 まったく同じ体格である為…それなりに眼鏡の方にも負担が掛かっていたが今は
敢えて何も言わずに好きなようにさせていった。
 先程までのヤル気は、見事に拡散されてしまっている。
 それが判ったのか…子供のように克哉は、相手に抱きつき続ける。
 記憶を失ってから、初めて拠り所を得たような…そんな気持ちになって…。

(暖かい…)

 眼鏡の鼓動を感じ取って、克哉はほっと息を突いた。
 ふと…瞳から涙がうっすらと滲んでいく。
 それで初めて…記憶を失くしてから、どれくらい自分は無理をして普通に振舞って
笑っていたのか、嫌でも自覚せざるを得なかった。

 記憶がなくなる、という事は…自分自身がどんな人間だったかも判らなくなるという
事である。自分がどんな事を好きだったのか、嫌いだったのか…どんな事を体験して
生きてきたのか…何を大事に想い、どんな人達が自分の周りにいたのかも
関係する全ての事を、忘れてしまうという事なのだ。
 誰だってこの状況で不安を覚えないで済む訳がないのだ。
 それでも…誰かにこうやって、縋りついた瞬間…ほっと安心して、嗚咽を漏らし始める。

「…おい。泣いているのか…?」

「…ご、御免。何か…ほっとしたら、つい涙が…」

「…面倒な奴だな。…好きにしろ…」

 口でそう言いつつも…特にどけ、とも何とも言わず…深い溜息を突きながら
克哉の頭をグシャグシャ、と掻き混ぜていく。
 何とも、珍妙な気持ちだった。
 …そのまま、二人の間に沈黙が落ちていく。
 耳に入る音は、微かな風の音と…風によってその度に微かに軋む窓の音、そして
お互いの息遣いと…鼓動のリズムだけだった。

「…ありがとう、甘えさせてくれて…少し、ほっと出来た…」

「…特別に、だからな。…普段の俺なら、こんな振る舞いは…そうは、しない…」

「…だろうね。貴方は…ちょっと意地悪な感じがするから。けど…今は優しくしてくれて、
本当に…ありがとう」

 そうして、うっすらと頬に涙が伝っている顔を上げて…こちらを真っ直ぐ見つめていく。
 …そんな弱々しい表情で、微笑まれても…こっちは困惑するしか出来ない。
 言いようの無い、モヤモヤした気持ちが胸の中に更に大きく広がっていく。
 それが不快なのか、悪くないものなのか…今の眼鏡にはまったく判らなかった。

「…ん。貴方に優しくして貰えると…凄く嬉しい。…貴方が本当に、オレの兄さんか
どうか判らないけど…優しくして貰えるとこんなに嬉しいって事は、記憶失う前も
…オレは貴方の事を好きだったんだろうな…」

「っ!!」

 思ってもいなかった事を言われて、眼鏡はぎょっとする。
 一体全体、こいつはこちらの心をどれくらい掻き乱せば済むのだろうか?
 もう一人の自分が…<俺>を好きだなんて、有り得る訳がない。
 そう考えて、視線で反論の気持ちを示していくが…こちらの反応を見て
ふっと克哉は楽しそうに…笑った。

「…オレが好きだっていうの、そんなに…驚く事なんですか?」

「…当然だ。そんな事が有り得る訳がない…」

 ベッドの上でぐったりとしながら眼鏡が答えていくと…そんな彼の反応も楽しいのか
またぎゅっと抱きついて克哉がクスクスと笑い続ける。
 
「…何か照れている兄さん、可愛い…。そんな顔も出来るんだ…」

「誰が可愛いって言うんだ。冗談も大概にしろ…」

 プイ、と克哉から顔を背けながら、呟いていくが…相手の腕の力は一向に弱まる
気配を見せない。
 すっかり相手の方はこちらに甘える気満々のようだ。
 何かを確認するかのように…こちらの輪郭を、頬の稜線を…鼻筋や顎のラインを指先で
辿っていた。
 瞳を笑ませながら、そんな風に触れられるとくすぐったいような居心地が悪いような
妙な気分になってくる。
 けれど、もう…不快になっていないのは…自分でも不思議だった。
 
「…本当に、暖かい…」

 しみじみとそう呟きながら、克哉は…もう一度、相手の胸に顔を埋めていく。
 再び…克哉の目元に涙が浮かんでくる。
 それで初めて…自分自身が、記憶を失くした事で…こんなに不安を覚えていた事を
自覚出来た。
 自然と肩が震えて、また嗚咽が零れていく。
 記憶が無くても…目の前の人に迷惑を掛けては駄目だと、そう思って閉じ込めていた
不安や惑いなどのマイナスの感情が…一粒、一粒…涙となって零れ落ちていく。

「おい…泣くな。本当に…面倒な奴だな…」

 そう言いながら眼鏡は相手の顔に唇を寄せて、そっと涙を拭っていってやる。
 最初は舌で涙を拭われて驚いた顔をしていたが…特に反論せずに、眼鏡の
成すがままだった。
 拭い終わると、ほっとしたのだろう。
 ふっと瞼を閉じていくと…そのまま、昨日からずっと張り詰めていたものが緩んで
そのまま眼鏡の胸の上で…安らかに眠り始めていた。

「…おい、寝るな…。と、もう…遅いみたいだな…」

 はあ、と深い溜息を吐きながら相手の身体を揺さぶったが一向に起きる気配がなかった。
 スースースーと実に穏やかな寝息を零しながら、幸せそうな顔をして…
克哉は眠っていた。
 これじゃあ、まるっきり子供だ。
 まだ…以前に一夜の相手にした、あの秋紀とかいう少年の方が手を出す気分になれる。
 よっぽど悪戯してやろうと思ったが…こうまで、あまりに無防備な姿を晒されると…そんな
気持ちさえも萎えて…どうにでもなれ、という気分になった。

「…まあ、仕方ない。乗りかかった船だ…。後、九日…子供のお守りを続けてやろう…」

 そうして、眼鏡も仕方なく瞼を閉じて…一時の休息へと意識を落としていく。
 …隣に暖かい気配がある、という事だけは…悪い気分でなかったのが今の
唯一の救いだった―
 眼鏡が余裕たっぷりに微笑むのと対照的に、克哉の方は困惑を隠し切れない
ようだった。
 瞳に惑いの色を濃く浮かべて…逃げようと身体を少しずつ…ズラしていくが、しっかりと
腰を押さえ込まれて阻まれていく。

「んっ…ぁ…」

 そうしている内にもう一度、唇を塞がれる。
 先程よりも深いキスだった。浅い処を舌先でくすぐられて背筋に悪寒に似た感覚が
走り抜けていった。

「ちょっと待って…! あの…何でこんな事をっ?」

 眼鏡の腕の中でもがきまくるが、一向に逃げられそうな気配はない。

「…お前に欲情したからだが?」

 あっさりととんでもない事を言ってのけて…そんな克哉の混乱を更に強めていく。

「よ、欲情って…うわっ…!」

 眼鏡の手が服の隙間から侵入し…背骨から腰のラインを怪しく撫ぜ回される。
 そのまま両手が尻房の処に回されて、捏ねくり回されれば…何とも妙な疼きを
覚えていった。

「…な、んで…こんな、事…」

「…言っておくが、お前とこういう事をするのは…今回が初めてじゃあないぞ? 今まで
だって何回があった訳だし…な?」

「そ、うなの…?」

 その一言を聞いて、克哉の抵抗が少しだけ緩んだ。
 お互いの下肢を押し付けあう格好になると…先に眼鏡の方が兆しを見せ始めて
硬く熱を帯びてくるのが…ズボン越しでも伝わって来ている。
 相手が間違いなく自分に欲情していると…はっきりと伝わってくると、克哉の方は
耳まで真っ赤にしながら…疑問を口にしていった。

「…じゃあ、その…オレと貴方って…恋人同士、だったの…?」

 ぶはっ!!

 その発言を聞いた瞬間、眼鏡は思いっきりむせていった。
 まさかそんな事を聞かれるとは予想もしていなかったので…こちらも動揺するしか
なかった。

「…さあ、どうだろうな…? お前の想像に任せておく。ただ…俺と何回かセックスをした事が
あるのは…事実だがな…」

 どうにか30秒くらいで体制を整えて、嘘じゃない範囲で答えていった。
 自分とこいつが恋人同士である訳がない。
 外の世界では、不本意にも同じ身体を共有している間柄なのだから。
 こいつの…恋人は…。

(…これ以上は考えるのは、止めておくか。つまらない事だ…)

 眼鏡が思考を中断させている間、克哉の方は色々とグルグル考えていたらしい。
 悩んで、迷って…瞳に困惑の色を滲ませている。
 それから…キッと唇を結んでいくと…自分から、眼鏡に口付けていった。

「っ!」

 今度は、眼鏡の方が驚かされる番だった。
 それは触れる程度のたわいないものであったけれど…向こうの方からされた、という
事が信じられなかった。

「…やっぱり。貴方に触れる度に…少しずつだけど、何かを思い出していく…」

 自分から触れてみた時、はっきりとそれを自覚した。
 それはどれも大した事がない思い出ばかりだったが…眼鏡の傍にいればいるだけ
近くにいればいるだけ、触れれば触れるだけ…自分の中の知識とか、記憶とかそういう
ものが流れ込んでくる。

 例えるならば今の克哉は初期化したばかりのパソコンで、眼鏡の方は外付けのハード
ディスクのようなものなのだ。
 克哉の方から記憶が消えていても、衝撃を受けた時に深層意識の中にいた眼鏡の方は
今までの記憶を保持している。
 この世界では、近くにいればいるだけ…克哉は色んな事を思い出せる。だから克哉は
彼に嫌われるのが恐い…と本能的に感じていたのだ。 

 ジワリ、と彼に触れる度に…記憶のカケラが、浮かんでくる。
 昨日目覚めたばかりの時は…何も思い出せなくて、不安だった。
 けれど…兄と呼んでいるこの人が自分の近くにいる時だけ、何かを思い出すのが
多かった事は昨日から何となくは感じていた。

「…どんな事を思い出しているんだ?」

「…えっと、今は…子供の頃の時の記憶の方が多い、かな…? 幼稚園の頃に…仲の
良かった奴と一緒に遊んでいたりとか、泥だらけになって帰って来て母さんに怒られたりとか
そんな他愛無い事ばかりだけど…んっ!」

 ふいに腰骨をやんわりと撫ぜられて、ピクっと身体を震えさせていく。
 その度に、頭の中に軽い電流が走って…自分の中の回線が一つ一つ、繋がっていく
感覚がした。
 それで…克哉は覚悟を決めた。
 この人と恋人であるかどうかなど…今は判らない。
 だが、今の自分にとって…彼と一緒にいる事は必要なのだと、本能的に察したのだ。
 自分にはどうしても、思い出さなければいけない事がある。 
 それは目覚めてから、ずっと強く感じていた事なのだから…。

「…兄さん。オレにとって…今は、貴方が…必要、なんです…オレには…どうしても、
思い出さないといけない事が…あるみたい、だから…」

 無意識の内に、感じていた。
 自分の中に大切な記憶があると。決して忘れたままでいてはいけないものが存在
していると。記憶の断片を思い出して、更にその確信は強まっていった。

「…ほう?」

 しかし、克哉の言葉を…どこか興味なさげに眼鏡は相槌を打っていく。

「…だから、離れないで下さい…今、だけは…っ!」

 泣きそうな顔を浮かべて…克哉が訴える。
 瞳にうっすらと涙を浮かべて…懸命に気持ちを伝える様は…どこか冷淡だった
眼鏡の心境に…変化を齎していった。
 克哉の頬にそっと静かに手を伸ばしていくと…相手の頬を撫ぜながら、先程とは違って
少しだけ優しさが篭ったキスを落としていく。

「…そんなにお前が言うなら、傍にいてやるよ…」

 面倒だとは思ったが…こうまで言われると、邪険にする気も無くなっていた。
 そうして、もう一度だけ…キスを落としていった。

 ―今度は、克哉も拒む事はなかった。

 大切なものを思い出したいと願いながら、強く強く…。
 記憶を失くして、不安に満たされている心をどうにか宥めようと…目の前の
温もりに縋り付いてくる。
 そんな克哉を、眼鏡は溜息をつきながら…先程とは違う意味合いで、自分の腕の中に
閉じ込めていった―
 寝室に辿り着くと同時に、バタンと扉を閉じて…眼鏡は即座にベッドの上に
横たわって不貞寝をする。
  いっその事、残りの日数をこうして過ごしてしまおうか…などとかなりネガティブな考えが
頭を過ぎっていく。

「…何とも非生産的な話だな…」

 しかし、それでは自分が退屈で死ぬ方が先になるような気がした。
 シーツの上を何回か転がって、やりきれなさを逃がそうと足掻いてみる。
 深呼吸すれば、ある程度は精神が安定するなんて嘘だと思った。
 幾ら深く溜息を突いても、胸の奥にあるイライラは一向に無くなってくれない。
 余計に黒い染みのように広がっていくばかりだ。

 コンコンコン…

 そうしている内に、ドアを三回ノックする音が聞こえた。
 誰が来たか何て見なくても判る。
 今、この世界には自分達ただ二人しかいないのだから―

『兄さん、入って良い?』

「…断る。今は一人にさせておいてくれ…」

『…オレ、そんなに…怒らせるような事をしたのなら、謝るよ。だから…』

「…謝ってどうにかなると思っているのか? お前が何かしたから怒っているんじゃなくて
お前と一緒にいると、俺は腹が立って仕方が無くなるんだ。
 だから暫く一人にさせろ。ある程度落ち着いたら下に戻ってやるから…」

 段々取り繕うのも面倒になって、素で接し始める。
 こういうやや冷たい物言いをしている方が余程、本来の自分らしく感じられて
やっと少し安心出来た。

 …この夢の中で最初に目覚めた頃の佐伯克哉は、Mr・Rが言っていた通り…無垢な
状態になってしまっていた。
 ようするに…物言いから何から、かなり子供っぽくて…いつも通りに全然接せられる
雰囲気ではなかったのだ。

 一方的に懐かれて、甘えられて…まさにインプリティングとでも言うのだろうか?
 Mr・Rに自分が兄だと嘘を吐かれても、一切疑う事無く信じ込んで…こちらに
懐き倒して来たのだ。
 一晩寝起きしたら、幾分か精神年齢が上がってまともに会話出来るようになっていたから
ほっとしたが…ようするに眼鏡のイライラは昨日からの積み重ねの結果である。
 今はこいつの顔を見たくない、もう限界だ。
 それが正直な眼鏡の心境であった。

『やだよ。オレは…兄さんの傍にいたいんだから…』

「子供じゃないんだ。ちゃんとこちらの意見くらいキチンと汲み取れ。落ち着いたら
ちゃんと戻ると言っているんだから…その通りにしろ」

『……………』

 扉越しに、やや大きな声を出して言い返すと…暫くの間、沈黙が落ちる。
 その静寂を破ったのは…克哉の方だった。

 バァン!!

 大きな音を立てて扉を開いていく。
 その顔は…少し怒っているようであった。
 ズカズカとこちらの方に歩み寄ってくると、いきなりベッドシーツに横たわっている
眼鏡の上に乗り上げて、必死の形相で…訴えかける。

「ねえ! そんなに…オレ、兄さんを怒らせる真似をした? それなら何をしたのか
キチンと言ってよ! 一方的に怒られて無視されるような事されるのは…嫌、だよ…!」

(…お前に兄さん、何て言われている事自体が俺の苛立ちの原因なんだが…な…)

 実際は自分達は兄弟でも何でもなく、同じ肉体を共有する存在である。
 ここは彼の心の世界だから、こうして二人で在れるが…これは言わば、特殊な
状況以外の何物でもない。
 …何と言えば良いのか、少し考えている内に…この状況が、何とも珍しい事になっている
事にふと…気づいた。

(…これじゃあ、俺がこいつに組み敷かれているみたいだな…有り得ない話だが…)

「ねえ、兄さん! 何か言ってよ…! 貴方に嫌われたら…オレ…!」

 今の克哉には、記憶が一切ない。
 何も判らないし、思い出せない状況で…ただ二人きりで過ごしているのだ。
 だから眼鏡に頼るしかないし、目の前にいる存在に嫌われたらと思うと恐くなって
とてもじゃないが落ち着いていられないのだ。

「うるさい奴だ…少し黙れ…」

 悲痛な表情を浮かべている克哉の顔を見て、ふと…触手が動いた。
 相手の腕を強引な力で引き寄せていくと…身を起こして、自分の唇で相手のそれを
塞いで黙らせていく。
 いきなりのキスに、今度は克哉の方が驚く番だった。
 思ってもみなかった行動を取られて…呆気に取られて、言葉を失っているようだった。
 その顔を見て…少しだけ、眼鏡の嗜虐心が満たされていく。
 やっと自分のペースを取り戻せたような感じだった。

「…って、兄さん…今の…何…?」

「…ただのキスだが?」

「…兄弟で、そういう事って…するものだっけ…?」

「普通は、しないな」

 と、答えながら面倒なのでもう一回唇を塞いでいく。
 少なくともこうしている間は…ゴチャゴチャとうるさい事を言わなくなるのなら
押し問答をしているよりはこんな振る舞いをしていた方が何万倍もマシだった。
 触れるだけのキスだったが…時間を重ねていく内に幾度か吸い付いていったり
軽く唇の輪郭を舌先で舐め上げたりしてやる。
 その間…克哉の方は呆然と、その口付けを受けているだけだ。

 唇が離れた頃には…腰や腕の力が抜けたせいか…ガクンと、眼鏡の身体の上に
倒れ込む形になった。
 距離があって、兄さん呼ばわりされている内はイマイチ…気が乗らなかったが、
こうやって呆然とした顔で…こちらに密着しているのなら少しは手を出しても良いと
いう気分になった。

「な…に、今の…どうし、て…?」

「お前がゴチャゴチャとうるさいからだ…。気が変わった。…俺を苛立たせた責任は
お前にキチンと取って貰おうじゃないか…なぁ…?」

 そうして、愕然とした表情を浮かべている克哉の腰と背中に両腕を回して
自分の方へと引き寄せていく。
 その時、この世界に来て初めて…眼鏡はいつも通りの強気な笑みを口元に
浮かべていった―
  外から帰って来ると、とりあえず暖かい飲み物を用意してやる事にした。
  もう一人の自分と十日間を過ごさないといけないのは…もう変えられない事なので、
少しでも快適に過ごす為に…多少は気遣ってやる事にしたのだ。
 室内には暖炉とフカフカのクリーム色の絨毯が敷き詰められているせいか、
かなり暖かかった。
 克哉をリビングルームにあるソファの上に座らせると、キッチンから二人分の紅茶を
運んで一先ず手渡してやった。
 窓の外には相変わらず、ヒラヒラヒラと粉雪が舞っていた。

「ほら…紅茶だ。熱いから気をつけろよ…」

「ん、ありがとう…兄さん」

 …相変わらず、警戒心のカケラもない笑顔でこちらを「兄さん」と呼ぶ克哉に
眼鏡はチリ、とまた苛立ちを覚える。

(…こいつの平和そうな顔を見ているとどうしてもイラつくな…)

 今までにこいつを二回ぐらい抱いた事があったが…どちらの時も、こちらが
仕掛けると混乱して、イヤイヤしながら快楽に浸る…というパターンばかり
だったので…こんな風に警戒心もまったくなく、屈託ない笑顔を向けられるのは
初めての経験で…正直、どうすれば良いのか判らない。
 同じ、細長いソファの上に腰掛けているが…その距離は若干、遠い。
 少し腕を伸ばして引き寄せる事は充分可能な距離だったが…イマイチ、そんな
気になれなかった。

(むしろ…警戒したり、嫌だ嫌だと言ってくれていた方が…よっぽど、抱く気が
起こるな…)

 Mr.Rは無視をするのも、優しく扱って大事にするのも欲望のままに陵辱するのも
自分の自由、と言っていたが…無視はし辛いし、優しく扱うとこちらが非常に居たたまれない
気分になるし…ついでに言うと欲望のままに陵辱するのもイマイチ乗り切れない。
 眼鏡の方は正直…二日目で、この状況を持て余し気味だった。
 熱い紅茶を火傷しないように飲み進めながら…何度目になるか判らない、深い溜息を
漏らしていく。
 少し離れた位置で克哉は…兄と信じ込んでいる相手が入れた紅茶を
大事そうに喉に流し込んでいた。

「…兄さん。凄く浮かない顔をしているけど…平気?」

(…お前のせいなんだが、な…思いっきり…)

 よっぽど、直接言ってやろうかと思ったが…寸でのところで飲み込んでいく。
 こちらが浮かない顔をしていると…ようやく、犬コロのような人懐こい笑みが消えて
少し困ったような表情に変わっていく。
 それでやっと…本来のペースを眼鏡は取り戻せた気がした。

「…この部屋が寒いから、な。それで不機嫌になっているだけだ…気にするな…」

 そういって、紅茶を飲み干して…とっとと別の部屋にでも移動しようと思った矢先に
克哉に手首を掴まれた。
 唐突な行動に、つい…訝しげな顔になってしまっていた。

「…何だ?」

「兄さん…寒いんだよね?」

「…見れば判るだろう。お前の為に…外まで迎えにいったばかりだしな…」

「…御免。どうしても朝日を見たいって思ってしまったから…迷惑、掛けて御免なさい…」

 
 シュンとうな垂れながらそう言うと同時に、ふいに…克哉は眼鏡の掌をマッサージ始めた。
 まさかそんな行動に出るとはまったく予想もしていなかっただけに…眼鏡は
ぎょっとして目を見開いていく。
 しかし克哉の動作はまったく止まる様子がない。
 はぁ~と熱い吐息を掛けて、こちらの指先を暖め始めていた。

「…っ! ってお前! 何をやっているんだ…!」

「えっ…だって、兄さん…寒いって言っていたし…」

 まさか、こんな気恥ずかしい真似をしでかすとは予想もしていなかっただけに
完全に眼鏡はペースを乱されていた。

「…もしかして、嫌だった?」

「…もういい。されているだけで恥ずかしくなるから…止めろ」

 ぶっきらぼうにそう言うと…眼鏡は克哉から、少し乱暴に手を離して
今度こそソファから立ち上がって踵を返していく。
 決して相手の方を振り返らなかったので…バレる事はなかっただろうが…
眼鏡の耳はほんのりと赤く染まっていた。

(…たかがこれしきの事で、どうしてこの俺が動揺しなければいけないんだ…?)

 胸の中に言いようのない苛立ちが更に広がり、憤りへと変わっていく。
 自分がペースを握って相手を翻弄するのなら大歓迎だが、相手にこちらのペースを
乱され巻くって動揺させられるなど冗談ではない。
 それは断じて、眼鏡にとっては許せない事実だった。

「ほんっきで恨むぞ…あの男…っ!」

 こんな状況で、後…九日も過ごす羽目になるなど冗談ではない。
 どうにかしてそれを縮められないだろうか真剣に眼鏡は考え始めた。
 スリッパを履いてバタバタと音を立てていきながら、一先ず二階の寝室になっている
部屋の方に逃げ込んでいく。

 ―今は、何も考えずに一人になりたい。

 そう思いながら、リビングから躍起になって離れようとしている眼鏡の後を…
極力、足音と気配をさせないように気をつけながら…克哉が追いかけていった―
 15日の夜、某所にて開催されていた絵チャットに参加して参りました。
 ジャカジャカジャカ~と好きなように温泉にてキスマークつけられまくっている克哉とか
12歳克哉がYES・NO枕を抱えている絵とかを描き巻くっていたら、会話の流れで12歳の
彼の場合、相手は眼鏡しかいないでしょ! となり…
 
 12歳の克哉が夢の中で眼鏡に良い様にされて夢精って萌えるよね!(腐ってます)
 
 という最終的結論に落ち着きました。
 私個人的にも、そのネタは萌える! と思ったので…即興で良ければ書きますです! と
また名乗り上げて…(セーラーロイドの時と同パターン?)一時間くらいの予定のつもりが、
二時間くらい執筆に掛かりましたがリアルタイムで一本仕上げました。

  つ~訳で作品倉庫に本日、「白銀の輪舞」と「遠い日のカケラ」の二本を収納しました。
「真紅の情熱」「セーラーロイド第一話」「月鏡」の三本はまた後日、時間を見て
アップしますです。うわ~どんどん話が溜まっていく~(自業自得?)

 …過去にも別ジャンルで、チャットしながら一本話を仕上げるっていうのやらかした事
あったけど…本気で無茶やるよな、自分って突っ込みたくなりました。
 13000文字にも及ぶ量を書き上げたせいで、10000文字までOKな処に投稿出来ずに
弾き出されましたし(実話)
 何かふと、作品数数えてみたら…アンソロジーに投稿した作品含めて完結した作品は
気づいたら11本にも及んでいました。
 今年中に十本は作品完成させる、という目標はとりあえず無事達成出来ましたv
 何か自分的に相当頑張っています。これだけ短期間で話仕上げたのは流石に
初めてなんで…(通常ペースは月に2本上げれば良い方です)

  後は別ジャンルの冬コミ原稿、頑張ります。
 雪幻3はもうちょいお待ち下さい~。ではでは!
 眼鏡は『あの日』から再び佐伯克哉の心の中で静かに眠っていた。
 しかし突然、その闇は大きな振動が走り、ひび割れていった。
 最初は何が起こったのかと思った。
 どれくらいの時間が経過したのかは、はっきりとは判らない。
 その激震があってから暫くして漆黒の闇の中に、黒衣の男が静かに浮かび上がり
ゆっくりと彼の元へと歩み寄った。

「お久しぶりですお元気でしたか?」

俺が元気なように見えるか?」

「えぇ、とても。以前にお逢いした時と変わられないようで嬉しいですよ」

 こちらが不機嫌そうに言い返したにも関わらず、胡散臭そうな笑顔を浮かべてあっさりと
そう言ってくるものだから正直、毒気を抜かれた。

どうして、お前がここにいる? ここは俺たちの領域でお前がおいそれと入って
来られる場所じゃない筈だが

えぇ、普通の状態でしたら私も貴方達のように精神力の強い御方の心に入り込む
事は容易に出来る事ではありません。ですが今は、大きな綻びが生まれましたからね

その綻びとは、何の事だ?」

 眼鏡は、もう一人の自分が強い意思を持ち始めた頃から緩やかにその中に
溶け込んで何ヶ月も眠り続けている状態になっていた。
 そのせいでここ数ヶ月間の外の世界の情報については断片的にしか
判っていない。だから今はどうなっているのかも悔しいがまったく知らない状況だった。

佐伯克哉さんが、大きな事故に巻き込まれて意識不明の重態になりました

「っ! 何だ、と?」

そして、あの人の心の方は今は仮初の死を迎えている。
 貴方がここで目覚めるまでの間ようするに、貴方達の身体は空虚なものになっていた。
だからこうして、私が介入する事が出来た訳です

どうして、俺にそれが判らなかったんだ?」

 同じ身体を共有し、その心の世界に存在していながら眼鏡はまったく、
今はどうなっているのか判らなかった。
 そんな重大な事をよりにもよってこんな怪しい男に告げられて知った事で非常に眼鏡の
プライドは傷つけられていた。だからかなり激しく眉が寄っていた。
 それでも目の前の男は悠然と微笑みながら、言葉を紡いでいく。

事故にあった時点で、佐伯克哉さんは全てをシャットアウトしたからですよ。
あれをご覧になって下さい

 そうして長い金髪を揺らしながら、闇の中でMr・Rは指し示していく。
 その指の先にはふいに、ふわっと白く輝く何かが浮かび上がり輪郭を
形作っていった。
 音も、しっかりと踏み締める為の大地もない曖昧な世界の床を男はゆったりした
足取りで進んでいく。
 闇の中に浮かび上がったのは氷か水晶で作られた結晶のようだった。
 大きな結晶のその中心には裸のままの、佐伯克哉が穏やかな顔を
しながら
…立ち尽くす形で眠り続けていた。

何でこいつは、こんな風になっているんだ?」

どうやら、事故の際にもう助からない! と死を覚悟したんでしょうね。実際は同乗者の
方の咄嗟の機転で被害は最小限に抑えられたのですが
 恐らく死に行く際に全てを閉ざし、硬い殻で覆って貴方と、ご自分の魂だけでも
壊れぬように守ったのでしょうね

 そう、その水晶のような殻は己の魂だけでも守ろうと庇った為に生まれた。
 水晶のアチコチは大きくひび割れて、断裂していた。
 しかしそのおかげで、眼鏡の方の意識は衝撃を感じた程度で済んで
無事だったのだ。
どうして、俺ですら知らない事をお前の方が良く判っているんだ…?

 心底、現状と男の説明に苛立ちを覚えながら眼鏡は問いかけていった。

簡単ですよ。この人が死に行く寸前の強い願いにこの私が少しだけ力を貸して
叶えて差し上げたのですから。だから事情に多少は詳しい。それだけの話です
 肉体が滅んでも、魂だけでも無事ならば私の力で私の力が及ぶ領域内だけでも
貴方達を生かせますからね。どちらの貴方でも、殺すには惜しい素質を持っていますから
微力ながら、お手伝いさせて貰っただけですよ

前々から、胡散臭い男だとは思っていたがそんな事まで出来たのかお前は

 非常に非現実的な話ではあるが、この男ならそれくらいやれるだろうぐらいで
眼鏡は流す事にした。そもそも自分達がこうして二つに意識が分かれたキッカケを作ったのも
この謎の男である。こいつには妙な力がある。それだけ承知していれば充分だった。

それで、貴方に頼みたい事があります。この人の心と、身体のリンクが繋がるまで
恐らく後十日から二週間は掛かるでしょう。その間ここで二人で過ごしていて貰いたいのです。
 今のこの人は、外界から全てを閉ざしてしまったおかげで心が無垢な、真っ白な状態に
なってしまっています。
 その間、半身である貴方が傍にいれば回復も早まるでしょうからね

ようするにこいつは、全てを忘れている状況な訳か。それならその間、俺がこいつの
代わりに外に出ていれば良いだけじゃないのか? 何故お前は、そんな面倒な事を
俺に頼むんだ?」

 眼鏡の方は思いっきりやる気なさそうに問い返していった。

この人がキチンと目覚めなければ、貴方の意識も表には出れませんよ。
 先程
肉体と心のリンク、という単語を出したでしょう?
 この水晶で覆われている限りは
外部からの衝撃が無い代わりに、接点も失われる。
まずは
この中から、この人の心を出して安心させない事にはいつまでも貴方たちの
身体は眠り続けるだけでしょう


それは非常に面倒な事だな」
 
 何とも厄介な事になったもんだ…と、それが正直な眼鏡の感想だった。

「…ここは言わば、貴方達だけの世界です。貴方さえ敵意を抱かなければ…佐伯克哉
という人間にとって、何よりも安全な場所。今のこの人は…一時的にですが、ここに
逃げ込んで己の魂を守っています。それを壊した後…支える事が出来るのは、ようするに
同じ魂から生まれ出でた…貴方以外にはいない。そういう話な訳です…」

「…もし、俺が拒否したらどうなると言うんだ?」

「さあ…? どうでしょうね。貴方が協力して下さるのなら…私の補助も良く効いて
十日から二週間程で目覚める事が出来るでしょうが…ね。私だけの力ではいつの日に
なるのか判りません…とだけお答えしておきましょうか?」

「…ちっ。ようするに…早く目覚めさせたかったら俺はお前に協力するしかないって訳か…。
気に入らんな…」

 悠然と微笑むMr.Rと対照的に…眼鏡の表情はかなり浮かなかった。
 自分が物事の手綱を引いてリードするのなら良いが、相手に握られてその通りにしなければ
ならないのはかなり癪だった。

「…貴方が非常に飲み込みの早い方で、私の方も助かります。では…協力して下さるのなら
その水晶に…そっと触れてみて下さい…」

「…判った。触れれば良いんだな…」

 眼鏡の言葉に、Mr.Rは楽しげに微笑みながら頷いていく。
 そうして…自分の傍らに存在している水晶にそっと両手を触れさせていった。

 パリィィィィン!!!!

 触れた途端、瞬く程の間に水晶はガラスのように儚く砕け散り…その破片がキラキラと
煌きながら周囲に舞い散っていった。
 佐伯克哉の身体は、宙に投げ出される形になり…それをとっさに、眼鏡は
抱きかかえていく。
 子供のように…無防備な、顔だった。
 自分が抱きしめている間に、ふっとMr.Rが彼の耳元で何かを囁いて…そっと
離れていった。

(子供みたいな顔して…スヤスヤと眠っているな…)

 そんな感想を抱いた瞬間、突き刺すような寒さが襲い掛かって来た。
 一瞬の内に空虚な闇は…一面の銀世界へと変わり、裸だった克哉も…白いセーターと
厚手のズボンという、風景に見合った格好へ変化していった。

「何だこれはっ…?」

「…自らを閉じ込めていた殻が破られた事で…この人の現在の心象風景が…
現れたんですよ。この白い雪は…現在の無垢になった心を。この寒さは…
第三者の介入を拒絶している事を現しています。
 目覚めたばかりのこの人は…じきに介入者である、私もじきに弾き出すでしょう。
 その間…この夢の中で傍にいる事が出来るのは…同じ深層の海から生まれ出でた
貴方だけとなるでしょう…」

「雪の中に二人きりで…生きていろっていうのか。なかなかのサバイバルだな…」

 その言葉の奥には、冗談じゃないという響きが大いに含まれていた。

「あぁ…大丈夫ですよ。これは夢の中…と申したでしょう。ですから…紡がれたばかりの
内ならば…これくらいの事は出来ますから…」

 そうして、Mr.Rの長いおさげが風雪と共に吹かれている内に…白い雪の上に
蜃気楼のような揺らめきが生まれ、あっという間に大きな木造のロッジが目の前に
生まれていく。
 現実ならば有り得ない光景に…思わず、眼鏡は瞠目してしまった。

「どうですか? なかなか良いロッジでしょう? あぁ…食料や蒔、防寒用具の類も
しっかり完備しておきましたから…住み心地は良い筈ですよ…」

「…随分と便利というか、何でも有なんだな。…俺が望めば、白亜の宮殿か何かでも
作り出す事が出来るのか?」

「えぇ…強く望めば、今の内ならば出来るでしょうが…あ、もう無理ですね。
…佐伯克哉さんが目覚めたようですから…」

「…何?」

 自分と黒衣の男が話している内に、腕の中に収めていた克哉が瞼を揺らして
「うぅ…ん…」と短く呻いていた。

「タイムリミットです。私や貴方がこの世界に…他の物を作り出すのはもう
出来ません。彼が目覚めた時点で…ここは彼を中心に、回っていくでしょうからね…
あぁ…さりげなく貴方達の間柄は、双子の兄弟という事にしておきましたのでそのように
振舞って下さいね…」

 そのまま…雪が吹き荒ぶと同時に、黒衣の男の輪郭が薄くなり…そのまま
風に乗って…静かに消え行こうとしていた。
 禍々しいまでの…綺麗な笑みに、思わず眼鏡はぞっとなる。
 そして男は…歌うような口調で、悪魔のような誘惑の言葉を口に上らせていった。

『そろそろ…私は退出の時間のようですね。
 今の佐伯克哉さんは無垢で、脆弱な存在です。…ですから、懐柔して…貴方の
思うが侭にする事も、言いくるめて…貴方の方が再び肉体の主導権を握る事も
望めば充分に可能となる事でしょう。
 …無視をするのも、優しく扱って大事にするのも…欲望のままに陵辱するのも、貴方の
自由になされば良いと思います。…それは、他の誰にも知りえない…貴方達二人だけの
秘め事となるのですから…ね…』

 そうして、完全に男の姿は消え…自分達だけが、白い世界に取り残された。
 腕の中の克哉を眺めて…眼鏡は、ふっと…自虐めいた笑みを浮かべた。

「…なるほど、そういう楽しみがあるのなら…このつまらない世界で十日を
過ごすのも…悪くはないな…」

 そうして、まだ意識が混濁したままの…もう一人の自分の唇に、熱い舌を
ゆるく這わせていく。
 挑発的にその唇を噛んで…軽く吸い上げれば…剣呑な光が、眼鏡の瞳の中に
宿っていた。
 その腕の中で…無防備に眠る、無垢な心に戻った魂が眠り続けている。

 この閉ざされた世界でただ二人きりで過ごす事でどのような結末が生まれるのかは
まだ誰にも予想がつかない事だった。

 愛か、憎しみか。
 それとも欲望か、絶望か。
 悲しみか、至上の悦びか。
 それとも…耐えがたき罪の意識か、懺悔か。
 それは全てが終わった後にしか判らない事だろう。
 
 そうして彼らにとっての約束の十日間は幕を開けたのだった―
 

 
 


 
 
  一面はどこまでも白い雪で覆われていた。
  淡く透明な朝日の光が、雪原の上に降り注いで…白銀にキラキラと煌いて、
乱反射を繰り返していく。
 空には薄い白と青と橙の三色が綺麗なグラデーションを作り出している。
 白に覆われた山峰は鋭く切り立って、遠方で幾重にも重なっていた。
 
「…綺麗、だな…」

 白い息を吐きながら、克哉は…その見事な光景に目を奪われていた。
 昨晩から降り続いていた雪は、今は止んで…酷く晴れ渡った空模様を
見せていた。
 ここが、どこなのか…彼には判らない。
 目覚めたら、この山にいて…かなり立派なロッジの部屋のベッドの上に
横たわっていた…という感じであった。

「…本当、ここはどこなのかな…これだけ綺麗な朝日を見れる場所なら…
地名くらいは覚えておきたいのに…」

 そう呟きながら、ふと地面の上に残る…自分の足跡を眺めていく。
 あれだけ雪が降り続けているのに、積雪量はそこまでではなく…自分の足跡が
5センチくらいの深さで純白の雪の上に一直線に刻み込まれている。
 白いコートに、立派な飾り模様が編みこまれている白いセーター。それとライトグレイの
厚手のズボンに、雪国用の靴下と長靴。
 それが今の自分の格好だ。

「…って、今のオレが聞いても無駄かもな。…何にも思い出せないし、引っかかる物も
あんまりないし。昨日の晩までいた人は…すっごい訳判らない事をベラベラ話している
だけだったしな…」

 深い溜息を突きながら、空を仰いでいく。
 克哉は目覚めたら、まっさらな状態になっていた。
 ようするに…自分がどこに住んでいたかも、何をやっていたのかも…知り合いや家族の
事も一切合財、綺麗に忘れてしまっていた。
 長い金髪の謎めいた男は…『十日も立てば思い出せますよ』とか慰めを口にして
くれたけれど本当に十日で思い出せるのかが…怪しかった。

 微風が吹く度に、口元から白い息がゆっくりと流れていく。
 肌を突き刺すぐらいに寒いが…そのおかげで空気は酷く澄んでいて
目の前の見事な風景がクリアに見えた。
 ふいに…ザク、ザク…と雪を踏みしめる音が聞こえてきた。
 克哉は振り返らずに、暫くその音に耳を傾けていく。
 見ずとも…その相手は誰だか、判りきっていたからだ。
 こちらが振り返る気配すら見せないと…背後の相手は、やや不機嫌そうに
こちらに声を掛けてきた。

「おい、お前…あんまり長時間…そんな処で突っ立っていたら…風邪を引く。
そろそろ…戻ったらどうだ?」

「ん…判ってるよ。兄さん…けど、こんなに綺麗な光景…滅多に見れないし
せめて日が昇り切るまで…見てたいんだけど…駄目かな…?」

「…お前の好きにしろ。ただこれくらいは巻いておけ。お前に風邪を引かれると
世話を焼かないといけないのは…俺だからな…」
 
 そうして、背後に立っていた人物は…克哉の首元にやや乱暴な手つきで
白いマフラーを巻いていった。
 ふわりとした手触りの編み物が首に巻かれると…それだけで随分と暖かく感じられて
つい顔が綻んでいった。

「ふふ…すっごい暖かい。優しいね…兄さん…」

「…気持ちの悪い事を言うな。それで…気が済んだのか」

「ううん…もう少し…」

 首を振りながら、ふと相手の方に振り返ると…その相手は、自分と同じ顔を不機嫌そうに
歪めて、軽く眼鏡を押し上げる仕草をしていた。
 態度からして、「早くしろ…」と表に出まくっていたが…何となく、意地悪したい気持ちに
なって…再び、徐々に白さを帯びていく朝の空を眺め続けていた。
 傍らに立つ相手の、白い息が…風に靡いて、立ち消えていく。

「…いい加減にしたらどうだ…? 俺は物凄い寒いんだが…」

 五分もしたら、相手の方も焦れてしまったらしい。
 それを聞いて…ついに克哉は観念した。
 名残惜しいが、これ以上は諦めた方が良さそうだった。

「ん、判った。これで十分だよ…行こう、兄さん…あっ…」

 こちらが笑顔を浮かべて振り返っていくと…ふいに空に灰色の雲が広がって、再び
ハラリハラリ、と白い雪の結晶が降り注ぎ始めていた。

「…見ろ。お前があんまりモタモタするから、また雪が降り出したぞ…」

「ん、ごめんなさい。それじゃあ…早く戻ろう…?」

 克哉が屈託のない笑顔を目の前の相手に向けていくと…眼鏡は平静な表情を
浮かべて踵を返していく。

「…行くぞ」

 そうして、二人はロッジの方に戻っていく。
 白い雪には二人分の往復の足跡が刻み込まれていく。
 この白い雪も、大気の冷たさも…酷くリアルだった。
 
(…夢の中にしては、本当に良く出来ているな…。あの男の力というのも
意外に侮れんな…)

 自分の肩口を軽く掴みながら、後をついてくる…もう一人の自分に、眼鏡は
非常に複雑な気持ちを抱いていた。
 こいつは今は何もかもを一時的にだが、忘れている。
 これが夢の中だという事も気づかず、Mr.Rがついた「この人は貴方のお兄さんですよ」と
いう嘘もまったく疑いもせずに信じ込んでいる。
 その事実が言いようのない苛立ちを眼鏡に与えていたが…とりあえず、顔には出さずに
建物の方へと足を進めていった。

「後…九日、か…」

「…それ、何の話…?」

「いや…何でもない。行くぞ…」

「あっ…」

 放っておくと、克哉の方は足をマゴマゴさせて遅れがちになるので…面倒なので
手をぎゅっと掴んで牽引する形で、眼鏡は雪道を進んでいった。

 そう…この仮初の世界は後…九日。
 全部で十日間で終わりを告げる、と…あの謎多き黒衣の男が告げた。
 その間、自分達はこの世界で…二人だけで過ごす事になる。
 正直、面倒だから断りたくて仕方なかったが…断る訳にはいかない理由も
存在したので…結局、この茶番じみた事に付き合う羽目になったのだ。

 10分も坂道をゆっくりと下りながら歩けば自分達が寝泊りしているかなり立派な
木造のロッジが姿を見せていく。
 軽井沢とか、別荘地とかにある…金が掛かっていそうな造りの物だ。

「ついたぞ…」

「ん、ここまでありがとう…兄さん」

 そうして、今まで…決して見た事がない無邪気な笑顔を…もう一人の自分が
浮かべていく。
 それに舌打ちをしながら…眼鏡は、こんな事態に陥った事の発端を…静かに
頭の中で再生し始めたのだった―
  予告ドラマの本多と御堂編、聴いて思いっきり吹き出しました。
  何ですかい! あのピー! とかピーとか自主規制音の嵐は!
とか思いながら最後まで聞きましたよ(笑)
 期間限定ドラマボイス、結構毎回ネタが面白いので楽しみです。
 次回のオールキャラ編はどんな感じになるのかしら…ワクワクワク。

 んで、本日は予め自己申告しますが…ちょっとズルっこしました。
 予め書いてあったSSを掲載して…一回休んで体制立て直します。
 昨日仕事で、久しぶりに肉体労働を割り振られたもんで身体がえらい
ピシパシ言ってまして…あ、こら今日は駄目だと素直に諦めました。

 セーラロイドの次の話は…これ書いている最中、早く書きたくてうずうず
している話なんですよ。
 けどこのコンディションで書いたら、多分真紅の情熱の時みたいに初っ端で
自分的に躓いて「がぁぁぁ~!」となる可能性高いんで(汗)
 つ~訳で明日から始める形にした方が良いスタートを切れると思ったんで
こうしました。ま…一応毎日連載始めた時から、自分で書いた作品ストックがある
限りはたまにこうやって体制立て直すのもOK、と定めていたんで…今日初めて
少しズルっこします。(まあすでに連続45日書いているのは確かだし…)

 んで溜まっていた拍手返信~。お待たせしてすみません~!

 chie子さん

 おおう! 凄い長いメッセージをどうもありがとうです! さりげに真紅~の方の感想も
どうもです!チーズの方は美味しかったですか? 最近またこっそりとこちらは新しい味を開拓して
リダーとクリーミィウォッシュというのも美味い! とか発見しました。どちらも少し匂いがあるチーズの
入門編としてオススメっす! セーラーロイド、 25歳の男がメイクアップするシーンは書いてて
私も吹き出しました。克哉が無駄に可愛すぎる! とときめいたのもナイショ(笑)
 御堂さんの変身シーンは今から可哀想になる事は自分の中の決定事項です(キッパリ)
 16分の1も余力あったらまったり更新します~! これからも頑張るです!(ムン)

 みついさん

 セーラーロイド、始めました。克哉の変身シーンの葛藤…私も彼らしいグルグルっぷりで自分的に
すっごく楽しかったです。タキシードマスター…とりあえず頑張って出演して貰いました。
 その内、派手な事をやらかす予定です。お楽しみに! 
 それと黒太一もの、無事に届いて良かったです。本日、こちらの方でもコソっと掲載しましたが。
 この作品はこちらに初リンクをして下さったみついさんに捧げたものなので、煮るなり焼くなりお好きに
扱って下さいませ!
 これからもどうも宜しくお願いしますです(ふかぶか~)

 おおう! 日記の方に残されたコメントまで書く時間ないので帰ったらしますです!
 とりあえずセーラーロイド、それなりに反響あったので第二話は来月辺りにまた一週間ぐらい
枠取って掲載します。
 んじゃお仕事行ってきま~す!(アセアセアセ)

 
 
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
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