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書き終わらないと思います。
そういう訳で書ければ帰宅後に残り部分を書いてアップ、体調的に
厳しそうなら翌日の朝に書いて…二日間で一話書くという形で
掲載させて頂きます。
肝心な部分だったり、佳境の部分はちょっと多めに時間取って
掲載したので…ご了承下さい。
以下は呟き。もうじきオンリーですね!
知り合いの方にちょっとした無料冊子でも用意して持って行こうかと
画策しているんですが…なかなか時間が取れません(汗)
克克なら新婚ネタで一個仕上げられそうな気するけど…誰かいる人
いますか…?(ビクビク)
4~8P程度のペラい本なら、土曜一日使えば出来ますけどね。
持っていくかどうか現在悩み中…(む~ん)
生み出した複雑な想いそのものだった
克哉と眼鏡の目の前には、鬱蒼とした木々が樹立して存在していた。
余りにも多くの葉が折り重なっていて、その奥には光など殆ど差しそうに
ない雰囲気の樹海を目の前にして…眼鏡は眉を顰めていった。
「…お前、本当にこんな場所に入って行こうというのか…?」
「うん。だって…きっとあの子はここにいる筈だからね」
きっぱりと言い切りながら、克哉は眼鏡の手を強引に引いていきながら
ズンズンと前に進んでいく。
現実にいた頃は泣いてばかりだった筈なのに、何だって今自分の目の前に
いるコイツはこんなに強気でいるのか本気で不思議でしょうがなかった。
(何なんだこの変わりようは…?)
御堂の前では、泣いてばかりいた。
その想いを自覚しながら…殊勝な気持ちばかり抱いていたのを内側から
感じて知っている。
愛しい人間に関する記憶だけは、氷の中にいた時でも時折感じる事は
出来たからだ。
…だが、こいつと人格が切り替わってからの一週間。
もう一人の自分が何を想い、考えていたのか眼鏡の方は全てを
知っている訳ではない。
だから、接すれば接するだけ疑問は大きく膨らんでいく。
―こいつがここまで、強気であの子供を捜す理由は何故か…と。
眼鏡が逡巡している間に、克哉はがむしゃらに森の中を突き進んでいった。
しかし奥に進めば進むほど、光は殆ど差さなくなり…視界が徐々に
効かなくなる。
元々、太陽など望むべくもない世界だが…光が差さない深い森の中を
地図も方位磁石もない状態で進むというのは現実ではまさに自殺行為以外の
何物でもない愚行だ。
「おい! どんどん…暗くなっているぞ! お前方向が判って進んでいるのか?」
「ううん、全然判らないよ」
「何っ…!」
あまりにケロリ、と言い放たれてしまったので…眼鏡の方が本気で驚く
番になった。
「…オレには、あの子が本気で隠れてしまったら探知する事がし辛い。オレと
あの子は…遠い存在だからね。けど、お前とあの子は確かに繋がりあって
いる。探し出したかったら…お前を連れた状態で、あの子が隠れている場所
まで辿りつく以外に方法はないよ。だから進んでいる」
「…お前、ここで遭難して二度と戻れなかったという不安はないのか。聞けば
聞くだけ…聞いているこっちが心配になってくるぞ…」
「絶対に戻るよ。オレ達が揃って遭難したら…御堂さんが絶対に悲しむから。
それなら…絶対にどれだけ時間が掛かっても…オレ達にはあの子を探し出して
全ての悲しみの元を断つしか道はないんだから。逆にお前に聞くけれど
…竦んで、立ち止まって…それで何になるっていうんだ?」
真っ直ぐに…こちらを見据えていきながら克哉が問いかけていく。
もう一人の自分の瞳に、余りに迷いがなかったので逆に眼鏡の方が
言葉に詰まる結果になった。
そうだ…御堂と自分は、やっと再会出来た。心を通わせて…ようやく
肌を重ねることが出来た。
それなのに…何を弱気になっていたのだろうか…と歯噛みしたい
気持ちに陥った。
「…そうだな。ここまで来れば毒を食らわば皿まで…だな。判った…かなり
不安要素があるが、今はお前にトコトン付き合ってやる…。俺は絶対に
御堂の元に帰らなければならないからな…」
「…ん、ありがとうな。オレ…」
そう微笑んだ克哉の表情が思いがけず優しいものだったので、眼鏡は
少しだけ眼を奪われていった。
(って…何、コイツに眼を奪われているんだ…。コイツと俺は基本的に
同じ顔をしている筈だろう…?)
眼鏡は口元を覆いながら、自分で突っ込みを入れていった。
するとこちらがそっぽを向いている間に、克哉は予想もつかない
行動をし始めていった。
「とは言いつつも…明かりもなく、こんな深い森の中を進んでいくのは…
不安でしょうがないよね。…えい!」
そう克哉が掛け声を出していくと同時に…彼の手の中に、一つのカンテラが
生まれていった。
あまりに非現実な光景に、眼鏡は驚愕に眼を見開いていった。
「なっ…!」
「…あは、一応…ここはオレ達の世界でもあるから…気合入れればこれくらいの
物は作れるみたいだよ。…この樹海みたいな大きなものは、ちょっと厳しそう
だけどね…」
「…そういえば、ここは現実じゃなくて…俺たちの世界でもあったな。なら…
こういう物も作れるのか…?」
ふと、好奇心を抱いて…眼鏡ももう一人の自分に習って念じていくと…
次の瞬間、手の中にとんでもないものが生まれていった。
「…っ! って何を作っているんだお前は!」
それを見て克哉は顔を真っ赤にしながら叫んでいく。
眼鏡が手の中に生み出したもの…それは乗馬鞭と、荒縄だった。
そういえばこの男の元々の性癖は…相当に難有りだった事実を思い出し
克哉はかなり頭痛を覚えていく。
「…あのクソガキをお仕置きする為には良いかなと思ってやって
みただけの話だが、何か文句あるのか…?」
「大有りだよ! そんなものを持って現れたらあの子が怯えるだろうが!
これは没収するよ!」
といって克哉は鞭と荒縄を、眼鏡の手からひったくるように奪っていくと
全力でそれを木々の向こうに放り投げていった。
「貴様! 人の渾身の力作に何をする!」
「こんな物を渾身の力を込めて作るなっ! ほんっとお前…信じられない!」
何で自分たちは、こんな低レベルな事で言い争いをしなくてはいけない
のだろうか…と半ば頭の片隅で思いながらも、克哉はもう一人の自分を
睨み付けていく。
「…何だその眼は…そんなに反抗的な態度を取るっていうのなら…
お前に思い知らせてやっても良いんだぞ…?」
「へえ、やれるものならやってみたら? もうそういう酷いことはしない
筈じゃなかったっけ…『俺』…?」
「…御堂の人格を崩壊させるような行為は二度としないという意味だ。
…元々の俺は、相手を啼かせたり…苛め抜くのを好む性癖だからな…。
心配するな、加減はしてやる…」
相手の物言いを聞いて、克哉は楽しそうに笑っていった。
「…はは、やっとお前らしくなったな。…それで良いんだよ。ま…
お前に此処で苛め抜かれるのは勘弁願いたいけどね…」
その発言を聞いて、眼鏡は怪訝そうな顔を浮かべていく。
「…どういう意味だ?」
「…お前、御堂さんを想う余り…自分のそういう性癖まで否定しながら
ずっと生きていただろう? だから弱っていってしまった。
…確かにあんな風に、相手の人格を崩壊させる寸前までいたぶるような
そんな真似は二度としちゃいけないけれど…だからと言って、お前のその
嗜虐的な性癖が消える訳じゃない。折り合いをつけながら…それを出して
生きていったって良いんじゃないかな…と言いたいだけだよ」
そう告げる克哉の表情は、達観したものだった。
それを聞いて…眼鏡は、違和感を覚えていく。
―こいつも、御堂を想っている筈じゃないのか…?
しかし今の言い方は、『眼鏡』が現実に戻ることを前提にした言い方の
ような気がしてならなかった。
けれど…好きな相手がいながら、ここまで潔く…自分が生きる事を
諦められるものだろうか?
眼鏡にはそれが理解出来ない。
だから不機嫌そうな声を出しながら、逆に問いかけていく。
「…何だかさっきからお前の発言を聞いているとイライラしてくる。…そうだ、
ずっと疑問で仕方なかった。…お前も、御堂を想っている筈だろう…?
それなのに、どうして…そんなに全てをあっさりと諦められるんだ?
人の性癖を理解して認めるのも良いが…どうして、そう…達観したような
そんな顔をお前はしていられるんだ…?」
この世界に来てから、展開が速すぎて…頭と心がまったくついていって
いなかったが…ようやく眼鏡は自分のペースを取り戻して、ずっと不思議で
仕方なかった事を尋ねていく。
それに対して…克哉はどこか儚い表情を浮かべながら、そっと眼鏡を
見つめていった。
―それはどこまでも澄んだ宝石のようなアイスブルーの双眸
その瞳に、一瞬…意識が捕らえられていく。
深い樹林の中で二人はようやくお互いと向き合い…対峙していく。
―森の奥では小さい克哉の鳴き声が、微かに聞こえ続けていた―
―眠りに落ちた後、眼鏡の意識はゆっくりと深い場所へと
飲み込まれていった。
その過程で、小さな子供の泣き声を聴いた。
―あの声は一体、何だ…?
あの残酷な子供の自分のものなのか?
違和感を覚えながら…青い闇の中にゆっくりと飲み込まれていく。
白や水色、青や紺の光が乱反射して…まるで万華鏡のようにキラキラと
輝いていた。
その中をゆっくり…少しずつ墜ちていく。
(何であのガキの泣き声なんて…聞こえるんだ…?)
―俺はそんなにいらないのかよっ…!
一瞬だけ桜の幻影が見える。
アレは…何だ?
もしかして…卒業式の日、なのだろうか?
―俺はお前を好きだったのに…お前にとって、俺は追い詰めるだけの
存在だというのなら…!
少年の嘆きは、終わらない。
けれど、眼鏡の耳には届かない。
それは自分の過去に実際にあった事なのに…今の彼には、酷く
遠く感じられてしまった。
切り離された自分の心。恐らくあの日に感じた自分の痛みも苦しみも…
あの子供の中に存在しているのだろう。
徐々に、全てが遠ざかっていく。
そうしている間に、どこかにフワリ…と着地していった。
一瞬、仰向けに倒れる格好で…横たわっていくと…フワフワした感触の
地面の他に、青い闇だけが…ただ広がっていった。
「やっと来たんだね…」
もう一人の自分の声が、気づけば聞こえていた。
小さく頷いていくと…ゆっくりと自分のすぐ傍で…優柔不断な性格を
した自分が…具現化していった。
―気づけば、そいつに膝枕をされている格好になっていた。
アイスブルーの瞳が穏やかに、こちらの眼を覗き込んでくる。
あやすようにその髪を梳かれて、頬を静かに撫ぜられていく。
「…いたのか」
「うん…やっと、ここで顔を合わす事が出来たね…『俺』…」
「…俺は会いたくはなかったがな…」
顔を見ている内に、眼鏡の中に穏やかではない感情が湧き始めていく。
それは怒りや嫉妬と呼ばれるもの。
…愛しくて堪らない御堂に、一時でもこいつが愛されて…受け入れられて
キスを交わした事を知っている。
例え心が通わなくても…身体を重ねた事実がある。
それだけで言いようのない負の感情があふれ出して…眼鏡の心を
荒ませていく。
「…うん、そうだね。お前にとって…オレは言わば恋敵のようなものだからね…。
会いたくなくて、当然だよ…。けど、今だけは妥協してくれるか…?」
「何故だ…?」
「あの子を、一緒に探してくれないか…?」
「…あの子って、あのガキの事か…?」
「…他に誰がいるっていうんだよ。そう…小学校の卒業式の日の苦い記憶を
抱いてしまっている12歳の時の俺らの姿をした子だよ。…必死に抑えていたん
だけど…逃げられてしまったからね。奥の方に行ったから…外には出ていない
筈なんだ…」
「…貴様、強引に人の眠りを妨げた上に…あのガキを逃がしたっていうのか…?」
眼鏡の方が、気炎を吐きそうな勢いで憤っていくと…申し訳なさそうに
克哉は肩を竦めていった。
そう…御堂に最後の願いをした時、そのまま克哉は全力であの氷に
体当たりして、強引に…眼鏡とあの子供を解放したのだ。
その直後、克哉は代わりにあの子供を必死に抱きしめて抑えていたから…
眼鏡は愛しい、という気持ちだけで御堂と接する事が出来た。
だが…行為が終わって、彼の意識がゆっくりとここに降りてくる間に
克哉の隙をついて…あの子供は逃げてしまったのだ。
「…それは、御免。予想以上にあの子の力が強くて…」
「お前が惰弱だからこそ…そんな失態を犯すんだ。…で、あのガキは…
一体どちらの方向に逃げたっていうんだ」
眼鏡が問いかけると同時に、克哉はそっと指を指して…少年が
消えた方向を示していった。
「あっちの方向だよ。あの奥は…深い霧みたいなのが出ているから…
一人で行ったら確実に迷うような気がして…。だから一緒に行って
貰えるかな…?」
「…俺だって、方角なんて判らないがな。お前と一緒に行動する事に
何のメリットがあるというんだ…?」
「…あの子とは、オレよりも…お前の方が深い繋がりがある。お前が
御堂さんを愛したと自覚するまでは…あの子はお前の心の中に
存在していたんだからね…。だから俺よりも、お前との方が縁が
深い筈だから…」
「…あんなガキが、自分の中にいたなんてゾっとする限りだがな…」
苦々しげに眼鏡が呟くと同時に、フイに克哉の表情が険しくなった。
こんなに怒っているような顔を浮かべるコイツを見た事なんて今まで
なかったから…一瞬、眼鏡は言葉に詰まっていった。
「…お前がそうやって、あの子の部分も…オレを司る部分も拒絶
したからこそ…こうやって別々に存在しているんだよ…?」
そう告げた克哉の表情は、憤怒を必死に押し殺している風だった。
「…どういう事だ?」
「…オレも、あの子の部分も…全てをひっくるめて「佐伯克哉」という
人間だって事だよ。その意味は追々…判ると思う。そろそろ行こうか…?」
自分の膝の上に頭を乗せている眼鏡に向かってそう問いかけていくと…
いきなり強引にその頭を退けて、克哉は立ち上がっていった。
「うわっ! …お前、一言ぐらいは断わってから立ち上がれ…!」
「…あんな冷たいことばかり言っているんだから、自業自得だろ? 恐らく
あっちの方向にあの子がいる。そして…お前と一緒でなければきっと見つけ
だせない筈だ。何故なら…」
其処で克哉は言葉を区切って、はっきりと告げていった。
「…あの子の本心は、お前の中に還りたがっているんだからね…」
「なっ…?」
予想もしていなかった事を言われて、眼鏡がその場に硬直していると
その隙をついて…克哉は強引に彼の手を取ってスタスタと歩き始めていった。
自分の手を引く克哉の背中には…迷いがなかった。
「さあ行こう。オレ達が…本当に幸せになる為には、まずあの子を
見つけないといけない。…その為に手を貸してくれ」
そう、振り向きながら克哉ははっきりと告げていく。
…その口調の強さに、眼鏡は反論を奪われていった。
「…其処まで頼むなら、手を貸してやらんでもない…」
「…ありがとう」
全然素直じゃない様子で眼鏡が頷いていくと…克哉は柔らかく微笑み
ながら進んでいく。
―そして青い闇が晴れる所まで進んでいった先に現れたのは…どこまでも
深い樹海だった―
しっくりとこなかったので一日時間貰います。
代わりに即興で書いた克克新婚ネタを掲載しておきます。
ご了承下さいませ(ペコリ)
興味がある、読みたいという方だけ「つづきを読む」をクリックして
お読み下さいませ~。
―今、佐伯克哉は例えようのない憤怒に突き動かされていた。
(胸が焼け焦げそうだ…!)
あの残酷な子供の自分を押さえ込む為に、自らごと封じ込めたと
いうのに…もう一人の自分が必死に訴え、こちらの痛い所を突いて
いったのがキッカケで少しずつあの厚い氷はひび割れていった。
だが、眼鏡にとって決定打は…たった今、二人がした口付けだった。
心の伴わないセックスをする所までは、耐えられた。
けれど…あの瞬間、御堂は心からもう一人の自分を愛しいと
想いながらキスをしているのが伝わって来てしまった。
―それがどうしても、眼鏡には許すことが出来なかった…!
あの瞬間に、思い知った。
自分は絶対に、御堂がもう一人の自分を愛して末永く添い遂げる所を
内側で見守る事なんて出来ないのだと!
「み、どう…」
喉の奥から引き絞るような切迫した声で、その名前を呼んでいく。
灼けるように熱い舌先で相手の口腔を掻き回し…歯列から、内側の
柔らかい肉を丹念に辿っていく。
その口付けの余りの熱さと、濃厚さに…御堂は酸欠しかける。
だが、それでも決して容赦などしてやらない。
弱い方の自分に対しての嫉妬が、消えない。
どれだけ貪っても、足りないと飢える心がある。
その衝動のままに相手をがむしゃらに抱きしめて…その火照った肌を
弄り始めていった。
「さ、えき…! どうして、そんな…!」
「黙っていて、くれ…。今は、あんたが欲しくて、堪らないんだ…!」
「そ、んな事…言われて、も…はっ…んんっ…!」
ボタンを飛ばしそうな勢いで乱暴にワイシャツを剥いていくと、キスだけで
すでに硬く張り詰めていた胸の突起をしつこいぐらいに摘み上げていく。
相手の指先がそれを挟み込み、クニクニと刺激されるだけで何故…
こんなにも電流のような強烈な快楽が走るのか。
御堂の意思と関係なく、唇からは甘ったるい嬌声が零れていく。
「やっ…さ、えき…佐伯ぃ…んっ…!」
「御堂、やっと…あんたに、触れられた…」
情熱的な瞳を称えながら、眼鏡は…やっと愛しい人にこうして
触れることが出来た喜びを噛み締めていく。
胸を焦がす嫉妬の感情は相変わらず胸の奥に滾っていたが…
それを上回るぐらいの喜びが、彼の中に広がっていく。
―残酷な少年は、眠っている。だから愛しいという想いだけで…
この人に触れる事が出来る…!
それがどれだけ、喜ばしい事か…思わず涙ぐみそうになる。
御堂が、この腕の中にいる。
胸いっぱいに広がっていく多幸感に…眩暈すらしそうだった。
―それで、良い。今は…オレが、抑えているから…
もう一人の自分の声がか細い様子で、頭の中に響いていく。
―だから、今は…御堂さんと、過ごしていてくれ…後で…
その言葉が頭に響いて、眼鏡ははっきりと…克哉に告げていく。
―あぁ、必ず行く。だから今は…黙っていろ…
―…うん
どこか切なそうに、もう一人の自分の頷く声が聞こえて…そして
完全に今は気配が途絶えていった。
恐らく、もう一人の自分は…さっき、自分があの二人がキスをしていた
時に感じたショックと嘆きの感情を何倍もの規模で味わっているのだろう。
だが、それでも…眼鏡は御堂へと触れる事に躊躇いを見せなかった。
(お前の痛みは判るが…それでも、俺は決して…御堂を誰にも渡す
つもりはない…!)
こんなに愛しい人間をどうして、手放せるというのか。
御堂の敏感な場所に触れ、愛撫を施していく度に…愛しさと喜びが
溢れて、息が詰まりそうなぐらいだ。
深いキスと胸への愛撫を執拗なぐらい続けていくと…御堂の身体が
もっと深い刺激を求めて、小刻みに腰をくねらせ続けていく。
「御堂…ここに、いい加減触れて欲しくて…堪らないのか…?」
「あっ…判っている、のなら…焦らす、な…」
胸に添えていた手の片方を下肢へと伸ばし…相手のズボンのフロント部分を
寛げさせて性器をそっと握りこんでいくと…すでに其処は熱く張り詰めて、
ドクンドクンと荒く脈動していた。
先端からうっすらと先走りが溢れている姿は、相手が自分の手で感じてくれて
いた何よりの証で…克哉の男としての征服欲を満たしていく。
「…やっぱり、あんたは…相変わらず、いやらしい身体だな…。ちょっと触れた
だけで、もうこんなに…濡れてる…」
「だから! そういう事を…イチイチ、口にするなと…! どうして、君はいつだって…
そんなに、意地が悪い…んだ…」
目元を真紅に染めながら必死に訴えていくと…克哉は相手の耳元に唇を
寄せて、殺し文句をささやいていった。
―あんたが可愛くて愛しくて仕方ないからな。つい…虐めたくなる…
それを聞いた瞬間、ゾクンとした快感が背筋を走り抜けていく。
「っ…!」
恥ずかしくて嬉しくて、ついまともな言葉を発せられなくなる。
そうしている間に…御堂の性器を扱き上げる男の手は一層熱の篭ったものとなり
容赦なくこちらを煽り上げていく。
グチャグチュ…と淫らな粘質の水音が、手が動く度に響き渡り…聴覚さえも
犯されているような錯覚を覚えていく。
(体中の…全てが、熱い…!)
先週、自分が克哉を抱く側に回った時も相当に身体を熱く感じたものだが…
今、御堂が感じている熱はその比ではなかった。
血液が沸騰してしまいそうな…という形容詞が一番相応しい。
自分がこんなに熱くなれるとは…今まで知らなかった。
ペニスを弄られる度に、自分の蕾もまたヒクヒクと卑猥に蠕動を繰り返して
浅ましく蠢いていた。
限界近くまで追い上げられて、頭が真っ白になるような感覚を覚えていく。
「はぁ…あっ…! 佐伯、もう…!」
「あぁ、イケよ。あんたのとびっきりの顔を…見せて、くれ…」
「はぁぁー!」
一際大きな声を発しながらそして…ビックン、と大きく全身を跳ねさせていくと…
御堂は眼鏡の掌の中に熱く吐精していった。
忙しない呼吸を繰り返して、心臓が破裂しような感覚を味わっていくと同時に…
いきなり両足を掲げられて大きく、足を開かせていく。
「はっ…佐伯、何を…っ? はっ…あぁー!」
「すまない…だが、もう…我慢、出来そうに…ない…」
足を大きく割り開かせたと同時に、眼鏡は御堂の蕾に性器の先端を宛がい、
そのまま一気に貫いていく。
一応、ローションだけは己の性器にたっぷりとつけてくれていたおかげで…
一年ぶりの割りにはすんなりと入ったが…久しぶりの性交に、御堂は快楽
混じりの苦痛も同時に感じてしまっていた。
(苦、しい…が…だが、満たされる気持ちも…あるな…)
本来、男の身体は同性を受け入れるようには作られていない。
だから…性急な性器の挿入は、正直苦しくて辛い部分があった。
だが…焦がれた男の熱を身の奥でようやく感じられて…満たされて
いたのもまた事実だった。
―克哉が、自分の中で確かに息づいていた
それだけで、おかしくなりそうだった。
御堂の方から男の背中に腕を回して必死になってすがり付いていく。
克哉もまた…それに応えるように、強くその身体を掻き抱いていった。
お互いの気持ちが確かに重なり合う。
「やっと…あんたを、抱けた…」
心から嬉しそうに、眼鏡が告げていく。
御堂も…その顔を見て、綻ぶように微笑んでみせた。
「…私、もだ…。やっと、私を好きだと言った君に…触れられた…」
双方とも、とても幸せそうな顔を浮かべていく。
それは…これから起こる大きな運命の前の一時の幸福な時間。
そのまま二人は唇を深く重ねあい…お互いにその顔を見つめあう
正常位の体制で交歓を続けていく。
繋がった部位から淫らな音が響き続ける。
相手が動く度にその腹部に御堂の性器はこすられ続けて…耐え難い
までの強烈な快楽が走り抜けていった。
「あっ…ひっ…! やだ…そんな、に激しく…されたら、もう…!」
「どこまでも…乱れろよ。…あんたが、俺の腕の中で…感じて悶えて
くれるのは、凄く…そそる、からな…」
「そんな、のって…! も、や…駄目だ…もう、ダメ…!」
眼鏡が御堂の内部の脆弱な場所を丹念に攻め上げていくと…それだけで
堪え切れないとばかりに、その引き締まった肉体が跳ねていく。
感じて必死に喘いでいる御堂の姿は、ハっと息を呑むぐらいに
艶があった。
双方が絡み合う音が脳裏に響き、荒く刻まれたそのリズムが確かに
重なり合う。
それは一つに束の間だけでも溶けてしまえそうなぐらいの強烈な
感覚と快感。
余裕のない表情を浮かべながら、それを感じ取っていくと…二人は
ほぼ同じタイミングで限界を迎えようとしていた。
「もう…イク、ぞ…! 孝典…!」
「ん、はぁぁ…っ…!」
競り上がってくる熱い衝動。
それを叩きつけるように眼鏡は…御堂の内部で熱い精を解放して注ぎ込んでいく。
お互いにビクンビクン、と身体を小刻みに痙攣させていきながら…ほぼ同じ
タイミングで達していって…ベッドシーツの上に折り重なっていった。
―同時に眼鏡は、心地よいまどろみへと意識が浚われそうになった
(もう…リミット、か…)
本当はもう少し、愛しい人間の感触と体温を…感じていたかった。
だが…これから、自分は心の世界に戻らないといけなかった。
あの残虐な子供の自分を、どうにかしなければ…きっと、いつか自分は
この人を傷つけてしまうから…。
(必ず…戻ってくる、からな…)
もう、満足にこの人に説明している時間の余裕はなかった。
だから…心の中でそう呟きながら、とても優しいキスを御堂の唇に
落としていった。
「愛して、る…」
最後に、どうにかその気持ちだけを告げて…彼の意識もまた、
深い闇の中へと落ちていく。
どうか、どうか…必ずこの人の下へと帰れるように…心から祈りながら、
眼鏡はそっと意識を手放していった。
「…佐伯、眠ったのか…?」
少し経ってから、自分の上に思いっきり体重を掛けて眠り込んでいった眼鏡に
大して…御堂は、苦笑がちに尋ねていく。
最初は少しだけ眉を顰めていったが…フウ、とため息を吐いていくと…そっと布団を
手探りで掛けていきながら…お互いに楽な体制へと変えていった。
「…本当に、君は…手間が掛かるし、こちらを驚かせる事ばかりするな…」
そう、呟きながら…御堂からも、相手の唇にキスを落としていく。
そして…その傍らに横たわりながら、瞼を閉じていった。
今でも困惑はある。
事態についていけなくて…訝しがる気持ちも広がっていた。
だがそれら全てをグっと飲み込んで、ただ御堂は一つの事を祈っていた。
―自分が目覚めた時に、どうか…君の姿が消えていないようにと…
やっと、この時…御堂は、『佐伯克哉』という存在をしっかりと掴めたような
実感を感じることが出来たのだ。
どちらの彼でも、自分を愛してくれていると。
そう感じることが出来たからこそ…彼はただ、祈る。
せめて夜明けまで…消えないで自分の傍らにいて欲しいと…強く願いながら
少し遅れて…御堂も、深い眠りへと落ちていったのだった―
アップしよう! と思っていたんですが…どうも平日の疲れが
残っていて、途中で気づいたらソファで眠ってしまっていたので…
その日の内に掲載出来ませんでした(汗)
とりあえず今から、四日分書いて来ます!
(現在時刻、五日の朝八時)
五日分も、夜に改めて書けそうだったら書かせて
頂きます。
…職場の方で、状況が幾つか改善してきたので
どうも気が緩んでしまった部分もありますけどね。
んじゃ、もう少しだけお待ち下さい。
九時半にはオカンと長年付き合いあるおばちゃんと
一緒に出かけるのでそれまでに仕上げないと!
では、また後で~。
キスして下さい…
それが、御堂に告げた克哉の願いの内容だった。
…お互いに険しい表情を浮かべながら至近距離で見詰め合う。
御堂も克哉も、真剣な眼差しだった。
「…本当にそんな事で、良いのか…?」
確認するように、御堂が問いかけ…躊躇いがちな仕草で
克哉を引き寄せて…その頬を撫ぜていく。
その掌の思いがけない温かさと優しさに…思わず涙ぐみそうに
なっていく。
「…はい。それで、充分です…」
本音を言うなら、一度で良いから…心から自分の方を愛しいと
思いながら「抱いて」欲しい。
一週間前の交歓は、お互いにとって余りに切なく悲しいもので
あったから。
好きだと自覚した人間と初めて抱き合った記憶がそんなもので
ある事は、克哉自身とて…辛い。
だが、御堂は…もう一人の自分にとって最愛の人物。
そして…この人もまた、眼鏡の事を想ってくれている。
―克哉はその事実を知っていながら、御堂に抱いて欲しいという
口に出す事はどうしても出来なかった
内側で、あいつがどれだけこの人を愛して想っていたか…焦がれている
姿を見続けていて、何故そんな事を口に出せるというのだろうか。
(御免な…一度だけ、許して…くれ…)
これが、最後だから。
たった一度だけ愛されながらこの人とキスされた思い出を抱いて…
それで、お前に全てを譲るから。
だからどうか…ただ一度だけ、この人に自分が愛されることを…
許して、欲しいと…もう一人の自分に静かに伝えていく。
ドクン…!
呼応するように、自分の心臓が大きく跳ねていく。
―好きに、しろ…!
怒り交じりに、眼鏡の声が聞こえる。
けれど…無理やり、止めるような真似はしなかった。
だが…。
ドックンドックンドックン…!
緊張とは違う、早鐘が心臓から刻まれ続ける。
それで自覚する。
…もう一人の自分が、今…目覚めて、その殻を突き破ろうと
している気配を―
「…克哉」
初めて、御堂が…自分を下の名で呼ぶ。
それは、佐伯と呼んでいた眼鏡を掛けた方の自分と区別する為の
事だと、何となくは感じた。
けれど…凄い嬉しくて、泣きそうで…胸が引き絞られそうになる。
(あぁ…オレも、この人をこんなに…いつの間にか、好きに…
なっていたんだな…)
今までに何人かの女性と付き合った経験がある。
けれど、誰にもこんな切ない感情を抱いたことはなかった。
自分は、本当に…御堂が、好きなのだと…ただ、腕の中にいるだけで
実感していく。
「孝典、さん…」
克哉も、同じように…初めて、御堂の下の名前を呼んでいく。
それは最初で最後になる、呼びかけ。
御堂の指先が、克哉の髪を慈しむように撫ぜていった。
―とても、幸せな一時で胸が潰れそうだった
御堂の紫紺の瞳は、柔らかい色合いを浮かべていた。
克哉のアイスブルーの双眸はうっすらと涙をたたえて…宝石のように
光り輝いている。
暫く、お互いに瞳を覗き込むようにしながら見つめあい…そして、静かに
顔が寄せられていく。
―双方とも、それからは無言。そして静寂が落ちていく―
シィン、と部屋の中から音が消えていく。
代わりにお互いの息遣いや吐息、そして…唇が重ねあう柔らかい感触
などその他のものを鋭敏に拾い上げ始めていった。
克哉の方から強い力で…御堂の首元にしがみついていく。
それに応えるように、御堂も…ギュウっと息が詰まりそうなぐらいに
力を込めて、相手の身体を抱き締めていった。
『これで、良い…』
今まで、26年間生きて来た。
眼鏡を得た日から…自分は内側に閉じ込められて、恐らくこれからも
そんな日々は続いていくだろう。
自分はその現実を許容して全て受け入れた。
けれど…この一瞬、本当に好きだと想った人と…たった一度でもこうして
心から大切にされて、キスをしたその記憶。
長い人生において、つかの間に過ぎないその瞬間だけでも…今まで
生きてきて良かった、と思えた。
短い時間だけでも愛された記憶。
それだけで…もう、自分には充分、なのだ。
後は、貴方の幸せをただ…祈ろう。
もう一人の自分と、貴方が本当に幸せになる為に必要な事。
この一週間、その道筋を考え続けて来た。
そして…克哉はすでに、その為の答えを導き出していた。
―あの残虐な子供の自分も、眼鏡を掛けた自分も…そして自分自身も、
悲劇しか招きそうにない状態の中で、救われる為の道を―
『…勇気を…!』
心から、克哉は祈っていく。
深く深く、この人に口付けられていきながら…ぎゅっとそのスーツの
背中の生地を強く握り締めて、祈っていく。
永遠とも想えるぐらいに、永い口付けが終わっていく。
互いの口元から、銀糸を伝らせながら…そっと顔を離していくと。
「ありがとう…ございます…」
最後に、そう短く告げて…克哉は目を閉じ、まるで糸が切れた人形の
ようにその場に崩れ落ちていく。
「克哉っ!?」
とっさに御堂は相手の背に腕を回して、その身体を支えていったが…
完全に克哉は意識を失い、ぐったりとなっていく。
同じ体格の人間同士が、意識を失った相手の身体を支えるのにも
限界がある。
せめて頭を打たないように配慮しながら…ホテルのカーペットの上に
その身体を一旦横にしてから、再び呼びかけていく。
「克哉…起きろ! 一体、君に何が…?」
御堂は、動揺していた。
困惑の余りに叫びだしたい状態に陥っていた。
しかし、克哉のさっきの言葉を思い出して…ハっとなっていく。
―それがオレの最後の願いです。叶えて下さいますか…?
その台詞が鮮明に脳裏に再生されて…御堂は全身を小刻みに
震わせていった。
「…君は、もしかして…自分がこうなる事を覚悟の上で…私にあんな、
願いを…したのか…?」
意識を失った克哉は、当然答えない。
けれど…うわ言のように、細く掠れた声で…最後にこう告げた。
―待っていて、下、さい…。次に目覚めた時は…きっと、アイツと…
貴方は、会える筈…ですから…
何を、言っているのかと一瞬疑った。
知らぬ間に…御堂の瞳に、涙が零れていった。
かつて…自分に酷い行為を繰り返した佐伯克哉を悪魔だと想った。
けれど…今、自分の腕の中に崩れ落ちた佐伯克哉は何だというのか。
どこまでも、愚かなぐらいにこちらの事ばかり…気遣って。
本当に同じ人間なのかと、疑いたくなった。
―何故、一人の人間の中に悪魔と天使の顔が同時に存在するのだと…!
心から、御堂は叫びたくなった。
声が嗄れるぐらいに御堂は呼びかけ続ける。
だが、佐伯克哉はどれだけ揺さぶろうとも髪を掴もうとも目覚める
気配を見せなかった。
「克哉―!」
けれど、その悲痛な叫びは…最後に、完全に意識を落とす克哉の
耳に届いていく。
それだけで…少しだけ、嬉しかった。
―さようなら…
そう、心の中で呟き…克哉の意識は深層の部分へと落ちていき―
咆哮を上げながら、一匹の獣が…目覚めていく。
余りの展開に、御堂は瞠目し…硬直していると…。
「御堂…」
次に目覚めた佐伯克哉は、聞き覚えのある掠れたハスキーな声で
自分の名を呼んでいく。
「さ、えき…?」
確認するように、その名を呼んでいく。
そして…次の瞬間、心臓が止まりそうになった。
―今、御堂を鋭く射抜く双眸は…焦がれて止まないあの熱さが宿っていたから…
御堂は、震えていく。
動揺して、困惑して…惑いながらも、その身体に腕を伸ばしていくと…強引に
その腕に抱きかかえられて、ベッドの上に連れ込まれていく。
「佐伯、何を…っ?」
「…あんたを、抱くぞ…御堂」
展開についていけず、御堂がパニックに陥りかけると…眼鏡を掛けて
いなくても、雰囲気がガラリ…と変わった佐伯克哉は、きっぱりとそう告げて…
噛み付くような口付けを、御堂に落としていったのだった―
されたホテルの部屋の扉を叩いていった。
眼鏡を掛けて、キリっとした眼差しと…ピシっとノリの利いたスーツを
身に纏った彼は…一見すると、もう一人の自分そのもののように見える
事だろう。
だが、この格好で御堂に会うのは克哉は抵抗があった。
(…あの人の前でまで、こんな格好をする必要はないだろうな…)
克哉はこの一週間、ずっと仕事中は容姿の他に立ち振る舞いも口調も…
全て眼鏡を掛けた方の自分のものを演じ続けていた。
御堂に抱かれて、彼の人への想いを自覚した朝。
必ず、この人と眼鏡を再会させると誓った。
だからこそ…いつ、もう一人の自分が戻ってきても良いように…克哉は
内側から見続けて、良く知っているもう一人の自分の言動や行動を
そのままトレースして、それを職場内で続けて周りに不審がられないように
勤めていた。
仕事上の付き合いしかない人間相手なら、それでも十分に通じるだろう。
けれど…長年付き合いのある本多や片桐、そして…本気で眼鏡を
想う御堂にはそんな小手先の小細工はきっと、通用しない。
眼鏡を掛けたまま、この扉を開けるか…暫し逡巡していった。
―このまま引き返してしまおうか…?
そんな弱気な想いも、一瞬脳裏に過ぎっていく。
迷い続けている内に勝手にドアを一回、かなり弱くノックしてしまっていた。
(しまった…!)
立った音は微弱なものだった。
とっさに踵を返そうとした矢先、扉は唐突に開いていった。
その向こうに立っているのは、いつもの通り上質のスーツに身を包んで
完璧に髪型を整えた御堂孝典だった。
「っ…!」
こちらの姿を見て、御堂が瞠目していく。
焦がれた存在の姿をいきなり見て…言葉を失ったようだった。
だが、すぐに違和感に気づいていく。
姿かたちは間違いなく…眼鏡を掛けた方の克哉のものだ。
しかし…目の光だけは、異なっていた。
あの突き刺すような鋭さや力強さがないアイスブルーの瞳は…
すぐに、気弱な方の彼である事を示していた。
「…何の真似だ…?」
怒りを押し殺したような声を、御堂が喉から搾り出していく。
それを見て…克哉は観念せざる得なかった。
―やはりこの人に、演技など通用する筈がなかった。
一時、眼鏡のように振舞おうとも…きっとそんなフェイクでは、この人の
飢えは満たされはしないだろう。
御堂が激しく希求するのは、もう一人の自分だけなのは…先週、
犯された時に嫌という程、思い知らされたのだから…。
「…やはり、貴方の目は誤魔化せないようですね…」
苦笑しながら、克哉はすぐに眼鏡を外して…髪をクシャクシャに乱して
いつもの自分のようにしていった。
一転して、其処に立っている克哉の印象は温和で穏やかなものへと
変わっていく。
「…君は私を侮辱しているのか? まあ良い…此処で立ち話を
続けていても仕方がない。来い」
「…はい」
大の男が二人で、扉を開けた状態で入り口で延々と会話していたら
悪目立ちをしてしまうだろう。
都内でも有名なホテルだから、もしかしたら思いがけない所で知り合いに
遭遇してしまう可能性もある。
強引に腕を引かれて、部屋の中に連れ込まれていく。
部屋の中央に辿り着くと頃には御堂の瞳は…怒りに爛々と輝いていた。
「…どういうつもりだ?」
「…貴方に、誤魔化しや演技が通じるとは最初から思っていません。
これは職場で不審がられない為のものです。あいつがいつ帰って来ても
良いようにね…」
「…何、だと?」
何もかも達観したようなそんな眼差しを浮かべながら、そんな事を告げる
克哉を…御堂は訝しげな顔しながら凝視していく。
「…この一週間、貴方ともう一人の俺をどうやったら逢わせる事が
出来るかと…あいつが戻ってきても違和感がないように振る舞う
ことばかり考え続けていました…」
そう呟いた克哉の顔は、どこか儚かった。
今にも消えてしまいそうな…そんな印象を漂わせていて、御堂は
見ていて落ち着かない気持ちになっていく。
「…君は、随分と悲観的なんだな。話をしているとイライラしてくる」
「…仕方ないでしょう? 御堂さんが求める佐伯克哉は…オレの方では
なく、傲慢で身勝手で酷い『俺』の方だと判ってしまいましたから…。
それなら、貴方を幾らオレが想っても…迷惑にしかならない。
悲観的になっても…仕方ないでしょう?」
「…何? 今…君は、何と…」
「…御堂さん、オレも…貴方を想っていると言ったら、貴方は一体…
どんな答えを下さいますか?」
それはあまりにサラリとした口調で、本心なのかと…一瞬、疑った。
だが…克哉の目を見て、御堂は瞬時に察していった。
―彼は本気なのだと。
瞳に宿る、情熱的な輝きに…たった今、さりげなく放たれた告白は
真実味を帯びたものである事が判る。
御堂は、言葉を詰まらせるしかなかった。
即答出来ない、その沈黙こそが…何よりの、答えだった。
「…困りますよね。貴方が何も言えない事が…何よりの答えですね」
フっと…諦めるような、切ないようなそんな表情を浮かべていった。
「…すまない」
御堂は、心底申し訳なさそうに謝った。
けれど…相手の気持ちが真実だと感じ取れたからこそ、偽りの言葉は
吐いてはいけないとも思ったのだ。
「…良いんです。答えは判り切っていた事ですから…」
そう告げた克哉は、悲しげな笑みを浮かべていった。
見ているこちらが胸が締め付けられるようなそんな顔で。
「…佐伯」
御堂もまた、それを見てどこか心が痛むような顔をしていった。
克哉の方から…ゆっくりと間合いを詰めていく。
一歩、二歩と…歩み寄ると、そっと御堂の頬に手を添えて…
まるで慈しむように撫ぜていく。
「…御堂さん、一つだけお願いがあります。それを…聞いて、
下さいますか…?」
「…何だ?」
御堂がこちらを真っ直ぐ見つめてくると同時に、克哉はそっと…
耳元に唇を寄せて囁いてくる。
それが耳に届いて、見る見る内に御堂の表情が変わっていく。
―それがオレの最後の願いです。…叶えて下さいますか…?
念を押すように、克哉はそっと告げていく。
暫く御堂は真剣に悩んだ末…フっと一瞬だけ瞳を細めていくと…
コクリ、と頷いて見せたのだった―
夢の中は薄い青と灰色が入り混じったような不思議なモヤが
発生していた。
その中でもう一人の自分が、心の奥底で残虐な子供の自分を
しっかりと抱き締めたまま眠り続けている。
水晶のように透き通った氷の中で、整った顔立ちの青年と子供が
抱き合って凍り付いている様は異様な程、絵になる光景だった。
その氷は厚く、克哉が少しぐらい叩いたり揺さぶったりしたぐらいでは
まったく揺らぐ気配はなかった。
―いつまで、眠っているんだよ…! お前は…!
本気の怒りを込めながら、この夢を見る度に克哉は必死に
呼びかけていく。
だが、ただ一度も…もう一人の自分が、こちらに応えてくれた
事などなかった。
―本当に、こんな氷に閉じこもったままでいて良いのかよ!
御堂さんの事をお前は好きなんじゃないのかよ!
なのに…お前が、こんな処でいつまでも寝ていて言い訳が
ないだろ! あの人がどれだけ…お前を求めているのか、
とっくの昔に、お前だって判っているんだろう…!
氷を叩く度に、克哉の掌に突き刺すような冷たさと痛みが
走っていく。
それでも決して、克哉は呼びかけるのを止めなかった。
―あの人が逢いたい佐伯克哉は『お前』なんだ!オレがいたって
仕方ないんだ! それなのにどうして…オレに人生を譲って…
お前がここにいる事を選択するんだ!
それが間違いだって事にいい加減気づいてくれよ!
感情が昂ぶる余り、涙をこぼしていきながら…克哉はともかく
訴えかけていく。
自分だって、生きたいという欲求はある。
あの眼鏡を手にするまで…中学の入学式の頃から、25歳の
秋を迎えるまで…自分の方が表に出て生きてきたのだから。
家族も、友人も…他に執着するものがない訳ではない。
その気になれば、克哉自身が生きたって全然構わないのだ。
なのに、彼は…敢えてそれを放棄する選択を選ぼうとしていた。
―御堂さんと、オレが万が一添い遂げて…一緒にいるように
なっても、お前は本当に…後悔しないのかよっ!
一番好きで仕方ない人が、同じ肉体を共有しているとはいえ…
オレと結ばれて、それをその内側から見守ることになったら、
お前は辛くて仕方ないんじゃないのか!?
そう、叫んだ瞬間…初めて、眼鏡が反応した。
それに気づいた克哉は、半ば宣戦布告のような発言を
相手にぶつけていった。
どんな理由でも良い。
まずはもう一人の自分を起こさなければ、事態は改善しないと
心底思った。
それが、相手を怒らせる結果になっても…いつまでも逢いたい人間に
逢うことが出来ずに御堂を苦しませるくらいなら、全然構わないと思った。
―辛くない訳がないだろう!
それは怒号と形容出来るぐらいの、激しい心の叫びだった。
眼鏡は、御堂を愛して止まない。
大切な存在になってしまったからこそ、自分を閉じ込めてでも
その人を守りたいなんて事を考えるようになったのだから。
―なら、来い! 起きろよ! あの人は…お前を、心から望んでいるんだ!
―だが、俺がここから出れば…このクソガキが必ず御堂に余計な
チョッカイを掛ける…だから、駄目だ…。
―なら、オレが代わりにここで生きる! だから…起きてくれ!
無我夢中に、畳み掛けるように克哉は氷の中のもう一人の自分に
言葉を掛け続けた。
その間、ピシパキ、と小さな音を立てて氷に小さなヒビが入っていく。
後…もう少しか、と喜びかけた瞬間…氷の中で眼鏡は悲しそうな
瞳を浮かべながら告げて来た。
―もう少し…お前が、出ていろ…
―どうしてだよ! そんなの…。
―お前も、御堂を好きなんだろう…?
―っ! そんなの、どうだって…良いだろう。そうだよ…オレは御堂さんを
好きだよ! だからあの人にとって一番良いようにしたい。
それだけ、なんだ…!
―それなら、せめて…最後に何か言って来い。じゃなければ…後悔
することに、なるぞ…。
克哉は懸命に呼びかける。
しかしそれに対して、本当に切ない瞳を浮かべていた。
―次の瞬間、まばゆいばかりの光が氷の内側から発せられた
そのまま眼鏡は無理やり、克哉を夢の中からはじき出させて…
強制的に意識を覚醒していった。
「はっ…」
自室のベッドで、全身汗だくになりながら目覚めていく。
まだ、鼓動が荒く忙しない。
ドクドクドク…と、心臓が早鐘を打っていた。
「どうして、お前は…」
心底悔しそうに、克哉はつぶやいていく。
窓の向こうには鮮やかな朝日が浮かんでいる。
その中で…涙をうっすらと浮かべながら克哉は、シーツを
強く握り締めていった。
それと同時に、携帯が御堂からのメールを着信していく。
…間髪入れずに応えていくと、すぐに日時を指定する内容のが
もう一通届けられた。
―指定された日時は、今夜20時。都内の有名なホテルの一室だった
それを見て、険しい顔を浮かべながら克哉は身体を起こしていく。
何かを決意するように。
祈るように…真摯な顔をしながら。
そして克哉は入念に髪のセットをしていった。
―鏡の中にいたのは、眼鏡を掛けたもう一人の自分の姿かたちをした
克哉であった―
状況だったのでワードの方に書いて…帰宅してから、推敲して改めて
上げる予定でしたが…はい、疲れて早々と眠りこけてしまったのでこの時間帯に
なりました(汗)
という訳で日付を若干越えてから1日分の掲載になります。
とりあえず二日分は、もう一寝入りして…書けるようならいつも通りにアップ
していきます。
…週末、無茶した反動が今日辺り来ましたね(苦笑)
後、それはさておき…気づけばカウンター数が15万を越えておりました。
九月の初めくらいに、今月末が開設して一周年に当たるから…それぐらいの
時期までに達成していれば良いかな~と思っていただけに、ちょっと驚いて
しまっています。
一年足らずでこの数字まで達したのは初めての経験だけに非常に
嬉しいです。
いつも見て下さっている方々、拍手を下さっている方々、どうもありがとう
御座いますv
それが非常に励みになっているからこそ、多少気力が落ちていたり…
疲れてヘロヘロになっているような日でも「頑張って書こう!」と奮起する事が
出来ましたから。
いつも皆様、ありがとうございます!!
んじゃ…今夜は後、三時間ばかり寝ておきます。
おやすみなさい~(ぐ~)
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
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24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。