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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 指定された日時の五分前を迎えて、佐伯克哉は…御堂に指定
されたホテルの部屋の扉を叩いていった。
 眼鏡を掛けて、キリっとした眼差しと…ピシっとノリの利いたスーツを
身に纏った彼は…一見すると、もう一人の自分そのもののように見える
事だろう。
 だが、この格好で御堂に会うのは克哉は抵抗があった。

(…あの人の前でまで、こんな格好をする必要はないだろうな…)

 克哉はこの一週間、ずっと仕事中は容姿の他に立ち振る舞いも口調も…
全て眼鏡を掛けた方の自分のものを演じ続けていた。
 御堂に抱かれて、彼の人への想いを自覚した朝。
 必ず、この人と眼鏡を再会させると誓った。
 だからこそ…いつ、もう一人の自分が戻ってきても良いように…克哉は
内側から見続けて、良く知っているもう一人の自分の言動や行動を
そのままトレースして、それを職場内で続けて周りに不審がられないように
勤めていた。

 仕事上の付き合いしかない人間相手なら、それでも十分に通じるだろう。
 けれど…長年付き合いのある本多や片桐、そして…本気で眼鏡を
想う御堂にはそんな小手先の小細工はきっと、通用しない。
 眼鏡を掛けたまま、この扉を開けるか…暫し逡巡していった。
 
―このまま引き返してしまおうか…?

 そんな弱気な想いも、一瞬脳裏に過ぎっていく。
 迷い続けている内に勝手にドアを一回、かなり弱くノックしてしまっていた。

(しまった…!)

 立った音は微弱なものだった。
 とっさに踵を返そうとした矢先、扉は唐突に開いていった。 
 その向こうに立っているのは、いつもの通り上質のスーツに身を包んで
完璧に髪型を整えた御堂孝典だった。

「っ…!」

 こちらの姿を見て、御堂が瞠目していく。
 焦がれた存在の姿をいきなり見て…言葉を失ったようだった。
 だが、すぐに違和感に気づいていく。
 姿かたちは間違いなく…眼鏡を掛けた方の克哉のものだ。
 しかし…目の光だけは、異なっていた。
 あの突き刺すような鋭さや力強さがないアイスブルーの瞳は…
すぐに、気弱な方の彼である事を示していた。

「…何の真似だ…?」

 怒りを押し殺したような声を、御堂が喉から搾り出していく。
 それを見て…克哉は観念せざる得なかった。

―やはりこの人に、演技など通用する筈がなかった。

 一時、眼鏡のように振舞おうとも…きっとそんなフェイクでは、この人の
飢えは満たされはしないだろう。
 御堂が激しく希求するのは、もう一人の自分だけなのは…先週、
犯された時に嫌という程、思い知らされたのだから…。

「…やはり、貴方の目は誤魔化せないようですね…」

 苦笑しながら、克哉はすぐに眼鏡を外して…髪をクシャクシャに乱して
いつもの自分のようにしていった。
 一転して、其処に立っている克哉の印象は温和で穏やかなものへと
変わっていく。

「…君は私を侮辱しているのか? まあ良い…此処で立ち話を
続けていても仕方がない。来い」

「…はい」

 大の男が二人で、扉を開けた状態で入り口で延々と会話していたら
悪目立ちをしてしまうだろう。
 都内でも有名なホテルだから、もしかしたら思いがけない所で知り合いに
遭遇してしまう可能性もある。
 強引に腕を引かれて、部屋の中に連れ込まれていく。
 部屋の中央に辿り着くと頃には御堂の瞳は…怒りに爛々と輝いていた。

「…どういうつもりだ?」

「…貴方に、誤魔化しや演技が通じるとは最初から思っていません。
これは職場で不審がられない為のものです。あいつがいつ帰って来ても
良いようにね…」

「…何、だと?」

 何もかも達観したようなそんな眼差しを浮かべながら、そんな事を告げる
克哉を…御堂は訝しげな顔しながら凝視していく。

「…この一週間、貴方ともう一人の俺をどうやったら逢わせる事が
出来るかと…あいつが戻ってきても違和感がないように振る舞う
ことばかり考え続けていました…」

 そう呟いた克哉の顔は、どこか儚かった。
 今にも消えてしまいそうな…そんな印象を漂わせていて、御堂は
見ていて落ち着かない気持ちになっていく。
 
「…君は、随分と悲観的なんだな。話をしているとイライラしてくる」

「…仕方ないでしょう? 御堂さんが求める佐伯克哉は…オレの方では
なく、傲慢で身勝手で酷い『俺』の方だと判ってしまいましたから…。
 それなら、貴方を幾らオレが想っても…迷惑にしかならない。
悲観的になっても…仕方ないでしょう?」

「…何? 今…君は、何と…」

「…御堂さん、オレも…貴方を想っていると言ったら、貴方は一体…
どんな答えを下さいますか?」

 それはあまりにサラリとした口調で、本心なのかと…一瞬、疑った。
 だが…克哉の目を見て、御堂は瞬時に察していった。

―彼は本気なのだと。

 瞳に宿る、情熱的な輝きに…たった今、さりげなく放たれた告白は
真実味を帯びたものである事が判る。
 御堂は、言葉を詰まらせるしかなかった。
 即答出来ない、その沈黙こそが…何よりの、答えだった。

「…困りますよね。貴方が何も言えない事が…何よりの答えですね」

 フっと…諦めるような、切ないようなそんな表情を浮かべていった。

「…すまない」

 御堂は、心底申し訳なさそうに謝った。
 けれど…相手の気持ちが真実だと感じ取れたからこそ、偽りの言葉は
吐いてはいけないとも思ったのだ。

「…良いんです。答えは判り切っていた事ですから…」

 そう告げた克哉は、悲しげな笑みを浮かべていった。
 見ているこちらが胸が締め付けられるようなそんな顔で。

「…佐伯」

 御堂もまた、それを見てどこか心が痛むような顔をしていった。
 克哉の方から…ゆっくりと間合いを詰めていく。
 一歩、二歩と…歩み寄ると、そっと御堂の頬に手を添えて…
まるで慈しむように撫ぜていく。

「…御堂さん、一つだけお願いがあります。それを…聞いて、
下さいますか…?」

「…何だ?」

 御堂がこちらを真っ直ぐ見つめてくると同時に、克哉はそっと…
耳元に唇を寄せて囁いてくる。
 それが耳に届いて、見る見る内に御堂の表情が変わっていく。

―それがオレの最後の願いです。…叶えて下さいますか…?

 念を押すように、克哉はそっと告げていく。
 暫く御堂は真剣に悩んだ末…フっと一瞬だけ瞳を細めていくと…
コクリ、と頷いて見せたのだった―
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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