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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―眠りに落ちた後、眼鏡の意識はゆっくりと深い場所へと
飲み込まれていった。
 その過程で、小さな子供の泣き声を聴いた。

―あの声は一体、何だ…?

 あの残酷な子供の自分のものなのか?
 違和感を覚えながら…青い闇の中にゆっくりと飲み込まれていく。
 白や水色、青や紺の光が乱反射して…まるで万華鏡のようにキラキラと
輝いていた。
 その中をゆっくり…少しずつ墜ちていく。

(何であのガキの泣き声なんて…聞こえるんだ…?)

―俺はそんなにいらないのかよっ…!

 一瞬だけ桜の幻影が見える。
 アレは…何だ?
 もしかして…卒業式の日、なのだろうか?

―俺はお前を好きだったのに…お前にとって、俺は追い詰めるだけの
存在だというのなら…!

 少年の嘆きは、終わらない。
 けれど、眼鏡の耳には届かない。
 それは自分の過去に実際にあった事なのに…今の彼には、酷く
遠く感じられてしまった。
 切り離された自分の心。恐らくあの日に感じた自分の痛みも苦しみも…
あの子供の中に存在しているのだろう。
 徐々に、全てが遠ざかっていく。
 そうしている間に、どこかにフワリ…と着地していった。
 一瞬、仰向けに倒れる格好で…横たわっていくと…フワフワした感触の
地面の他に、青い闇だけが…ただ広がっていった。

「やっと来たんだね…」

 もう一人の自分の声が、気づけば聞こえていた。
 小さく頷いていくと…ゆっくりと自分のすぐ傍で…優柔不断な性格を
した自分が…具現化していった。

―気づけば、そいつに膝枕をされている格好になっていた。

 アイスブルーの瞳が穏やかに、こちらの眼を覗き込んでくる。
 あやすようにその髪を梳かれて、頬を静かに撫ぜられていく。

「…いたのか」

「うん…やっと、ここで顔を合わす事が出来たね…『俺』…」

「…俺は会いたくはなかったがな…」

 顔を見ている内に、眼鏡の中に穏やかではない感情が湧き始めていく。
 それは怒りや嫉妬と呼ばれるもの。
 …愛しくて堪らない御堂に、一時でもこいつが愛されて…受け入れられて
キスを交わした事を知っている。
 例え心が通わなくても…身体を重ねた事実がある。
 それだけで言いようのない負の感情があふれ出して…眼鏡の心を
荒ませていく。

「…うん、そうだね。お前にとって…オレは言わば恋敵のようなものだからね…。
会いたくなくて、当然だよ…。けど、今だけは妥協してくれるか…?」

「何故だ…?」

「あの子を、一緒に探してくれないか…?」

「…あの子って、あのガキの事か…?」

「…他に誰がいるっていうんだよ。そう…小学校の卒業式の日の苦い記憶を
抱いてしまっている12歳の時の俺らの姿をした子だよ。…必死に抑えていたん
だけど…逃げられてしまったからね。奥の方に行ったから…外には出ていない
筈なんだ…」

「…貴様、強引に人の眠りを妨げた上に…あのガキを逃がしたっていうのか…?」

 眼鏡の方が、気炎を吐きそうな勢いで憤っていくと…申し訳なさそうに
克哉は肩を竦めていった。
 そう…御堂に最後の願いをした時、そのまま克哉は全力であの氷に
体当たりして、強引に…眼鏡とあの子供を解放したのだ。
 その直後、克哉は代わりにあの子供を必死に抱きしめて抑えていたから…
眼鏡は愛しい、という気持ちだけで御堂と接する事が出来た。
 だが…行為が終わって、彼の意識がゆっくりとここに降りてくる間に
克哉の隙をついて…あの子供は逃げてしまったのだ。

「…それは、御免。予想以上にあの子の力が強くて…」

「お前が惰弱だからこそ…そんな失態を犯すんだ。…で、あのガキは…
一体どちらの方向に逃げたっていうんだ」

 眼鏡が問いかけると同時に、克哉はそっと指を指して…少年が
消えた方向を示していった。

「あっちの方向だよ。あの奥は…深い霧みたいなのが出ているから…
一人で行ったら確実に迷うような気がして…。だから一緒に行って
貰えるかな…?」

「…俺だって、方角なんて判らないがな。お前と一緒に行動する事に
何のメリットがあるというんだ…?」

「…あの子とは、オレよりも…お前の方が深い繋がりがある。お前が
御堂さんを愛したと自覚するまでは…あの子はお前の心の中に
存在していたんだからね…。だから俺よりも、お前との方が縁が
深い筈だから…」

「…あんなガキが、自分の中にいたなんてゾっとする限りだがな…」

 苦々しげに眼鏡が呟くと同時に、フイに克哉の表情が険しくなった。
 こんなに怒っているような顔を浮かべるコイツを見た事なんて今まで
なかったから…一瞬、眼鏡は言葉に詰まっていった。

「…お前がそうやって、あの子の部分も…オレを司る部分も拒絶
したからこそ…こうやって別々に存在しているんだよ…?」

 そう告げた克哉の表情は、憤怒を必死に押し殺している風だった。

「…どういう事だ?」

「…オレも、あの子の部分も…全てをひっくるめて「佐伯克哉」という
人間だって事だよ。その意味は追々…判ると思う。そろそろ行こうか…?」

 自分の膝の上に頭を乗せている眼鏡に向かってそう問いかけていくと…
いきなり強引にその頭を退けて、克哉は立ち上がっていった。

「うわっ! …お前、一言ぐらいは断わってから立ち上がれ…!」

「…あんな冷たいことばかり言っているんだから、自業自得だろ? 恐らく
あっちの方向にあの子がいる。そして…お前と一緒でなければきっと見つけ
だせない筈だ。何故なら…」

 其処で克哉は言葉を区切って、はっきりと告げていった。

「…あの子の本心は、お前の中に還りたがっているんだからね…」

「なっ…?」

 予想もしていなかった事を言われて、眼鏡がその場に硬直していると
その隙をついて…克哉は強引に彼の手を取ってスタスタと歩き始めていった。
 自分の手を引く克哉の背中には…迷いがなかった。

「さあ行こう。オレ達が…本当に幸せになる為には、まずあの子を
見つけないといけない。…その為に手を貸してくれ」

 そう、振り向きながら克哉ははっきりと告げていく。
 …その口調の強さに、眼鏡は反論を奪われていった。
 
「…其処まで頼むなら、手を貸してやらんでもない…」

「…ありがとう」

 全然素直じゃない様子で眼鏡が頷いていくと…克哉は柔らかく微笑み
ながら進んでいく。
 
―そして青い闇が晴れる所まで進んでいった先に現れたのは…どこまでも
深い樹海だった―
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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