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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―佐伯克哉は夢を見ていた

 夢の中は薄い青と灰色が入り混じったような不思議なモヤが
発生していた。
 その中でもう一人の自分が、心の奥底で残虐な子供の自分を
しっかりと抱き締めたまま眠り続けている。
 水晶のように透き通った氷の中で、整った顔立ちの青年と子供が
抱き合って凍り付いている様は異様な程、絵になる光景だった。
 その氷は厚く、克哉が少しぐらい叩いたり揺さぶったりしたぐらいでは
まったく揺らぐ気配はなかった。

―いつまで、眠っているんだよ…! お前は…!

 本気の怒りを込めながら、この夢を見る度に克哉は必死に
呼びかけていく。
 だが、ただ一度も…もう一人の自分が、こちらに応えてくれた
事などなかった。

―本当に、こんな氷に閉じこもったままでいて良いのかよ!
御堂さんの事をお前は好きなんじゃないのかよ!
 なのに…お前が、こんな処でいつまでも寝ていて言い訳が
ないだろ! あの人がどれだけ…お前を求めているのか、
とっくの昔に、お前だって判っているんだろう…!

 氷を叩く度に、克哉の掌に突き刺すような冷たさと痛みが
走っていく。
 それでも決して、克哉は呼びかけるのを止めなかった。

―あの人が逢いたい佐伯克哉は『お前』なんだ!オレがいたって
仕方ないんだ! それなのにどうして…オレに人生を譲って…
お前がここにいる事を選択するんだ! 
 それが間違いだって事にいい加減気づいてくれよ!

 感情が昂ぶる余り、涙をこぼしていきながら…克哉はともかく
訴えかけていく。
 自分だって、生きたいという欲求はある。
 あの眼鏡を手にするまで…中学の入学式の頃から、25歳の
秋を迎えるまで…自分の方が表に出て生きてきたのだから。
 家族も、友人も…他に執着するものがない訳ではない。
 その気になれば、克哉自身が生きたって全然構わないのだ。
 なのに、彼は…敢えてそれを放棄する選択を選ぼうとしていた。

―御堂さんと、オレが万が一添い遂げて…一緒にいるように
なっても、お前は本当に…後悔しないのかよっ!
 一番好きで仕方ない人が、同じ肉体を共有しているとはいえ…
オレと結ばれて、それをその内側から見守ることになったら、
お前は辛くて仕方ないんじゃないのか!?

 そう、叫んだ瞬間…初めて、眼鏡が反応した。
 それに気づいた克哉は、半ば宣戦布告のような発言を
相手にぶつけていった。
 どんな理由でも良い。
 まずはもう一人の自分を起こさなければ、事態は改善しないと
心底思った。
 それが、相手を怒らせる結果になっても…いつまでも逢いたい人間に
逢うことが出来ずに御堂を苦しませるくらいなら、全然構わないと思った。

―辛くない訳がないだろう!

 それは怒号と形容出来るぐらいの、激しい心の叫びだった。
 眼鏡は、御堂を愛して止まない。
 大切な存在になってしまったからこそ、自分を閉じ込めてでも
その人を守りたいなんて事を考えるようになったのだから。
 
―なら、来い! 起きろよ! あの人は…お前を、心から望んでいるんだ!

―だが、俺がここから出れば…このクソガキが必ず御堂に余計な
チョッカイを掛ける…だから、駄目だ…。

―なら、オレが代わりにここで生きる! だから…起きてくれ!

 無我夢中に、畳み掛けるように克哉は氷の中のもう一人の自分に
言葉を掛け続けた。
 その間、ピシパキ、と小さな音を立てて氷に小さなヒビが入っていく。
 後…もう少しか、と喜びかけた瞬間…氷の中で眼鏡は悲しそうな
瞳を浮かべながら告げて来た。

―もう少し…お前が、出ていろ…

―どうしてだよ! そんなの…。

―お前も、御堂を好きなんだろう…?

―っ! そんなの、どうだって…良いだろう。そうだよ…オレは御堂さんを
好きだよ! だからあの人にとって一番良いようにしたい。
 それだけ、なんだ…!

―それなら、せめて…最後に何か言って来い。じゃなければ…後悔
することに、なるぞ…。

 克哉は懸命に呼びかける。
 しかしそれに対して、本当に切ない瞳を浮かべていた。
 
 ―次の瞬間、まばゆいばかりの光が氷の内側から発せられた

 そのまま眼鏡は無理やり、克哉を夢の中からはじき出させて…
強制的に意識を覚醒していった。

「はっ…」

 自室のベッドで、全身汗だくになりながら目覚めていく。
 まだ、鼓動が荒く忙しない。
 ドクドクドク…と、心臓が早鐘を打っていた。

「どうして、お前は…」

 心底悔しそうに、克哉はつぶやいていく。
 窓の向こうには鮮やかな朝日が浮かんでいる。
 その中で…涙をうっすらと浮かべながら克哉は、シーツを
強く握り締めていった。

 それと同時に、携帯が御堂からのメールを着信していく。
 …間髪入れずに応えていくと、すぐに日時を指定する内容のが
もう一通届けられた。

―指定された日時は、今夜20時。都内の有名なホテルの一室だった

 それを見て、険しい顔を浮かべながら克哉は身体を起こしていく。
 何かを決意するように。
 祈るように…真摯な顔をしながら。
 そして克哉は入念に髪のセットをしていった。

―鏡の中にいたのは、眼鏡を掛けたもう一人の自分の姿かたちをした
克哉であった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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