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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 たった今、克哉が本多に向かっていった「大食い大会」という単語に
太一は目ざとく反応していった。

「克哉さん、大食い大会って何? この人…そんなのに出るの?」

「あ、うん…今年、会社の方で開かれるクリスマスパーティーにはそういう
催しが開かれるみたいでね。…最初はオレの方が誘い掛けられたんだけど
本多が代わりに出てくれる事になってね。まあ…オレよりも絶対に本多の
方が沢山食べれるし、場も盛り上げてくれるだろうからその方が
良いんだろうけどね…」

「克哉さんの、代わりに…この人が参加するって事か…」

「あぁ、確かにな。何か気づいたらその話が俺の方に振られていてなぁ…。
気づいたら乗せられちまっていたんだ。まあ…出ると一度言った以上は
最善を尽くすつもりであるけどな」

 微妙に唇と口の中が火傷でヒリヒリした状態で本多が答えていく。

「…ふ~ん…そうなんだ。ねえ、克哉さんが勤めている会社のクリスマス会って
外部の人間が入っても平気なの?」

「えっ…うん、一応大丈夫だよ。結構大きな会場を貸しきってやるし…一応、事前
申請すれば社員の家族とか、知人とかが出入りしても大丈夫だけど…」

「なら、その大食い大会に俺も参加しちゃ駄目かな?」

『『…! えぇ!!』』

 その瞬間、僅かな間が空いてから…本多と克哉の驚愕の声がほぼ同時に
ハモっていった。
 
「た、太一! 一体何を考えているんだよ! 大食い大会に参加って…」

「ん~俺、お祭りごととかそういうのって大好きなんだよね。特に目立ったり、その場を
盛り上げるようなパフォーマンスとかをしたり考えたりするのも。それに俺、見た目は
細いけど結構食べれる方だから…優勝までは行かなくても、イイ線いく自信は
あるからね」

 そういって瞳を軽く伏せながら、何かを企んでいるような表情を浮かべていくと
いきなり本多の耳元に唇を寄せて、克哉には聞こえない音量で告げていった。

―ねえ、本多さん。その大会の優劣で…克哉さんを諦めるか否かを決めない?

 と…どう考えても宣戦布告としか思えない一言を呟かれて、本多はぎょっとなった。

「ってっ…お前…!」

「…今の提案、どうかな~? 俺…いつまでもこんな曖昧で不毛な状態を続けているよりも
そういう大会で優劣をつけてしまったほうが良いと思うんだよね?」

「…た、確かにな…」

 その瞬間、本多と太一の間に見えない火花がバチバチと散っていた。
 少し観察していれば、どちらも克哉に対して気がある事は明白だった。
 だからこそ…本来は克哉の友人同士という間柄でも限らず、自分たちはどこか
ぎこちなかったし…敵意も存在していた。
 これはいわば、太一からの宣戦布告のようなものであり…こちらに対しての
牽制みたいなものだ。
 その大会で負けたなら、もう克哉を口説いたりするなという意図で…太一がこの話を
持ちかけて来たのは確かだった。
 なら、男としては決して引けない。
 …本多とて、克哉に本気なのだから。

「…良し、お前が参加出来るように俺がエントリーしてやるさ。その代わりこちらが
買ったなら…諦めてもらうからな」

「よしっ…交渉成立だね。という訳で…本多さん、だっけ? 俺の参加することに関しての
手続きとかそういうのお願いすんね~」

 そういって意味深に克哉の方を見遣りながら太一にそう宣言していくと、太一は
愉快そうに瞳を細めながら返事をしていった。

「って二人とも何を勝手に話を進めているんだよ! いきなり外部の人間を大会に
参加させるって、そんな…!」

「…それで会が盛り上がるっていうのなら、断られる事はないと思うぜ。やる気ない
人間が無駄に集まるよりも積極的に参加する奴が多い方が催し事も…絶対に
盛り上がるからな」

「そうそう、俺が参加すれば…絶対に大食い大会は盛り上がるよ。壇上で
客を楽しませるトークとか、パフォーマンスとかは…バンドを長年やっているから
経験あるしね。損はさせないと思うよ」

「うっ…まあ、確かに…太一はそういうトークとかは上手いなって以前から
思っていたけど…」

「ならそれで良いっしょ? …やるからには俺も精一杯頑張るからさ。
克哉さん是非とも俺を応援してね?」

 人懐っこい笑みを浮かべながら太一がいけしゃあしゃあと言い放っていくと
流石にこの言葉には本多も無視は出来なかったらしい。
 明らかに気分を害したような表情で言い返していく。

「待てよ、おい…! 一応克哉は俺の同僚であり親友だぞ。こっちを差し置いて
部外者が応援してくれとか言うのは図々しいんじゃないのか?」

「俺だって克哉さんの友人だよ。それなりに深い付き合いのね…そっちの
方こそ…『単なる』友人の割には、色々としゃしゃり出て来すぎじゃない?」

 そのまま場の雰囲気が一気に悪くなって…二人の間が険悪になりかけると
克哉は思いっきり叫んでいった。

「あ、もう…本多! そろそろ昼休みが終了する時間だよ! ここへの移動
時間とかそういうのを含めるといくら営業がある程度の自由裁量が許されて
いると言っても厳しいんじゃないか?」

「…げっ! 確かにそうだ! そろそろ昼休みを切り上げて取引先とか
営業とかに向かわないとヤバイ、な…」

 何か太一に主導権を握られっぱなしの言われっぱなしの状態で立ち去るのは
非常に悔しい部分があったが…その辺がサラリーマンの悲しさである。
 仕事を疎かにしてまで、恋敵と延々と争っている訳には行かなかった。

「ん、お仕事はちゃんとこなした方が絶対良いと思うよ。という訳で
本多さん行ってらっしゃい~」

 と清々しい勝者の笑みらしきものを浮かべながら太一がにっこりと笑みを
向けていった。
 …こんな状況で、相手の満面の笑みなんか見せ付けられても悔しさを
覚えるだけであった。

(こ、このガキ…いつか必ず絞めてやる…)

 それなりに度量が広い方の本多でも、ここまで良いようにされっぱなしだと…
額に青筋が浮かんで怒りを覚え始めていった。
 しかし仮にもこちらは年上であり、立派な社会人でもある。
 辛うじてその憤りを抑えていくと、深く深呼吸をしていって…席を立ち上がっていく。

「…確かに二人の言う通りかもな。俺はそろそろお暇させて貰うぜ」

「太一…オレの方もリミットだから、失礼させて貰うね。また食べに来させて
貰うから宜しく」

「ん、いつでも大歓迎だよ克哉さん。あ、本多さん…一つ、良いすか?」

「何だ?」

「…さっきの黒いスープ、結構ベースにニンニク使ってあるから…ブレスケア
きちんとやっておいて下さいね」

「………何だと?」

 その瞬間、血管がプチと焼き切れそうな気がした。
 営業をやっている人間として、それはある意味致命傷にも近い嫌がらせに
等しかった。
 これから取引先に向かうというのに…ニンニクの臭いを漂わせて交渉なんぞ
間違っても出来る訳がない。

「てめえ! 営業をやっている人間に向かって真昼間からニンニクを
使用するなんて良い根性をしているじゃねえか!」

 ついに本多が限界を迎えて吼えた瞬間、彼にとって救いの主となる
存在が…入り口の方から静かに現れていったのだった。

 



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香坂
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女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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