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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※このSSは2010年度の七夕SSになります。
予想よりも長くなったので3~4話程度に分けます。
克克の禁断症状が出たので突発で書いたような話ですが
それでも良いという方だけお読みくださいませ。

ささやかな願い  前篇  中編

―克哉は目の前の眩いばかりの光景に目を見開いていった
 
 対岸には、もう一人の自分の姿が淡い光を放って存在しているのが判った。
 彼の周囲には無数の蛍が明滅を繰り返して飛び交っていて、自分達の間に
流れる川は青白く輝いていた。
 其れはつい目を奪われてしまうぐらいに美しい光景だった。
 
「うわっ…!」
 
 さっきまでは普通の川だったのに、その幻想的な光のおかげで一瞬にして
様変わりをしていた。
 そう、其れは天高く存在する天の川が地上に降りてきたかのような風景だった。
 普通なら決してあり得ない情景を前に克哉が言葉を失っていくと脳裏に
一人の男の声が響きわたっていった。
 
―今夜、ささやかな私からの贈り物に喜んで頂けましたか…?
 
「…Mr.Rっ? 一体どこに…?」
 
 声が聞こえた瞬間、克哉は慌てて周囲を見回してその姿を探し始めていく。
 だがどれだけ目を凝らしても見つけだす事は叶わなかった。
 その状態のまま、その歌うような口調だけが脳裏にしっかりと響き渡っていった。
 
―今晩は七夕ですからね。短冊を見て、ついあの方に会いたいといじらしい願いを
書いた貴方に、私からのささやかな贈り物です。今から、もう一人の貴方に行く為の
架け橋をその川に掛けて差し上げましょう…
 
「架け橋、ってうわっ…これはっ!」
 
 姿を見せないまま黒衣の怪しい男がそう言うと同時に、自分と眼鏡が立っている
位置に光の橋が掛かっていって更に克哉はびっくりしていった。
 だが一瞬にして現れたその橋はあまりに美しく、克哉は絶句しながらそれに
魅入っていった。
 
「本当に、綺麗だ…」
 
―ふふ、お気に召して頂けたようですね…。七夕というのは各地に様々な伝承が
残っていますが、その中には二人が逢瀬をする夜には天の川に橋が掛かり、
行き来出来るようにするというものがあります…。せっかく貴方が川まで
来たのならそれを再現してみたのですが、如何でしょうか…?
 
 其れはきっと、男の気まぐれとも言える行動だった。
 克哉が自宅ではなく、勢い余って反対方向の川に逃げたから思いついた
程度の事でしかない。
 男の言葉に克哉は答えなかった。
 だが、一言も発さずに光の橋を見つめているのが何よりの答えだったのだ。
 この思っても見なかった光景は、克哉にとっては大きなサプライズとなっていた。
 
(まるで、織姫と彦星みたいだな…。七夕の夜に、天の川を渡って相手の元に
行くなんて…)
 
 其処は本来なら、大きな川に隔てられて水の中に入らない限りは向こう岸と
行き交う事が出来ない場所の筈だった。
 だが、今は相手の元に向かう白く光り輝く橋が掛けられている。
 非日常とも言える光景、克哉はそれに目を奪われていきながら引き寄せられる
ように対岸に立つもう一人の自分を見つめていった。
 
―俺の元に来い…
 
 そう訴えるように、眼鏡が両手を軽く開いて待ち構えていた。
 甘い愛の言葉はまったくなかったけれど、その動作だけで今の
克哉には十分だった。
 それだけでも凄く、嬉しかった。
 自分の傍に来いと、動作で気持ちを示してくれているだけでも…そんな
ささやかな事でも、克哉は満ち足りた気持ちになっていった。
 
(ああ、そうか…あいつも、オレに会いたいと…傍に来いと示してくれるだけでも、
こんなに幸せな気持ちになれるんだ…)
 
 克哉はその事実に気づいていくと、橋に足を掛けて渡り始めていく。
 その光の橋はフワリと柔らかく、まるで布地かスポンジの上を歩いている
ような感覚だった。
 少しおぼつかない足取りになりつつも、克哉は早足でもう一人の自分の元へと
向かい始めていく。
 一歩一歩、確実に。
 青白く輝く川、明滅する無数の蛍、そして白く輝く橋の三つに囲まれた自分たちは
まるで、伝承の中に出てくる織姫と彦星のようだった。
 
(きっとそんな事を面向かって言ったら、お前に呆れられてしまうだろうけどな…。
けど、本当にそう感じるよ…)
 
 そういって、フワフワと頼りない光の橋を渡っていく。
 少しずつ、もう一人の自分に近づいていく度に鼓動が高鳴っていくのが判った。
 相変わらず相手の口元にはシニカルで意地の悪い笑みが浮かべられたけれど、
ようやく向こう岸に辿り着いた瞬間、こちらが相手の胸の中に飛び込んでいくと…
しっかりとその身体を抱きとめてくれていった。
 
「やっと、俺の元に来たか…。随分と時間が、掛かったな…」
 
「うん、御免…。待たせてしまって…」
 
 そして相手の顔を見上げていきながら言葉を紡いでいこうとした。
 だがそれよりも先に、もう一人の自分に唇を塞がれて…情熱的なキスを
交わす結果になってしまった。
 息苦しくなるぐらいに荒々しく舌先を絡め取られて、吐息から何もかもを
奪い尽くされてしまいそうな…そんな口づけだった。
 
「はっ…あっ…」
 
 克哉が甘い声をつい漏らしていくと、一瞬だけ相手の優しい色を帯びた
瞳と視線がぶつかっていった。
 行動も、物言いも意地悪な癖に…その時だけ、酷く優しいものを滲ませていて…
それで克哉は全てを許しても構わないという心境になっていった。
 
(全く、お前って本当に素直じゃないよな…)
 
 そう呆れながらも克哉もまた温かいまなざしを浮かべていきながら相手の
頬と髪を撫ぜていった。
 二人の間に穏やかな一時が流れていく。
 
「…機嫌はようやく、直ったか…?」
 
「うん…」
 
「そうか、なら良い…」
 
 そうして、もう一人の自分の方からしっかりと抱きしめてくれた。
 今はこれで良い、と克哉は考える事にした。
 
(今夜、こうして会えて…あんな風に逃げたオレの前にもう一回現れてくれた。
願いごとは充分に叶えられたんだ。充分、だよ…)
 
 そうして克哉は目の前の相手をもう一度見つめていく。
 今夜の思いがけない幸福を心から嬉しく思いながら…相手の首にしっかりと
抱きついてその温もりをしっかりと感じていったのだった―
 
 
 
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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