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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―不思議な夢を何度も見た
 自分が消えてしまいそうな時に、必死になって手を伸ばして
 そちらに引き寄せてくれた記憶。
 それはもしかしたら…生まれる前に、あったかも知れない出来事。
 

 『オレ達、もしかしたら…双子だったのかも知れない、ね…』

 消え入りそうになりながら、眼鏡にとっては予想外の一言を克哉は口に
していった。

「な、に…?」

 てっきり、愛の告白でもされるのだろうと硬くなって身構えていた眼鏡にとっては
予想外の一言であった。

「…お前に主導権を奪われてから、何度か見た不思議な夢があるんだ…。最初は
二人で同じ場所にいたんだけど、オレの方が深い穴に飲み込まれそうになって…
もうじき、自分が消えるな…と覚悟を決めた時に『来い』と誰かに…引き寄せられる夢。
 最初は何だろう、と思っていた。けれど…前にどこかの本で読んだことがあったんだ。
 
 双子というのは自然界に結構多く発生していて…けれど、生まれる前に淘汰されて
もう一人の身体の中に包み込まれてしまったり、お腹の中から消えてしまって別の
場所で同一日時に生を受ける不思議な例がある事を…。
『ミッシング・ツイン』と呼ばれる現象らしいんだけど…もしかしたらオレ達の場合は、
お腹の中で片方が淘汰される時に、もう片方が…自分の身体の中に招き入れたの
かも知れないね…」

 だから、自分と彼は個別に魂を持っているのではないか…と。
 そうでなければ、どうして…Mr.Rという不思議な人物の力があるからといって…
こうして別々の身体で存在出来るのだろうか?
 克哉は何となく、二重人格というよりも…この身体には二つの魂が宿っていたからこそ
こんな不思議な事が可能になっていたのではないか…と感じていた。

「そ、んな事…」

 ある訳がない、と続けるつもりだった。
 だが…唐突に一つのビジョンが浮かび上がる。
 弱く消えそうになっていた光。
 それに必死になって追いすがる大きな光。
 逝くな、と…自分は必死に叫び、そして…その光を飲み込む映像。

(何だ、これは…?)

 それは夢か現か、実際にあったことかそうでないかは判別出来ない夢。
 されど…二人の記憶に、そのビジョンがあるのなら実際にあったかも知れない出来事。
 眼鏡の方は、再び呆然とするしかなかった。
 克哉の方はどこか達観したように微笑んでいる。

「…その夢が事実かどうかなんて、オレには判らない。けれど本当の事だったのならば…
消えた方がオレの方ならば、最初からオレは『亡霊』で…お前が自分の身体に受け入れて
くれたから存在出来ていたに過ぎないんじゃないのかな…?
 そしてお前が眠っていた13年間、オレは生きる事が出来た。その期間に…お前に
とっての御堂さんのように自分が心から愛したり…誰かに必要とされたり、そういう存在を
作れなかったのならば…淘汰されるのは、オレの方だ。違うかな…?」

 そう、眼鏡の方は生まれた時から12年と…そしてこの二年間の合計14年。
 克哉の方はあの不思議な銀縁眼鏡を受け取ってから数ヶ月後までの13年間…27年間の
生の内、ほぼ均等の時間を自分達は生きてきた。
 出来すぎるが故に、出来ないものの心を理解出来ず孤高であった眼鏡。
 その体験を無意識下で覚えていたせいで、秀でることを良しとせず…誰も傷つけないように
衝突しないように生きてきた克哉。

「…オレは誰も本気で求めようとしなかった。傷つきたくなかったから…誰も傷つけたく
なかったから…。けれどお前と御堂さんを見ている内に、お前の中に閉じ込められてから
そんな人生が…どれだけ空虚だったかを、思い知ったんだ。
 誰かを好きになって、本気で変わろうと。その人間の為に必死になって努力して
前向きに生きていこうとする事…オレは、そんなお前の姿を見て…ようやく、気づかされたんだ。
そして本気で憧れて、その輝きに…惹かれたんだ…!」

 憧憬の想いを込めて、そっと相手の頬に手を伸ばす。
 それを眼鏡は無言で許していく。
 少しずつ、もう一人の自分の姿が薄い淡いものへと変わっていく。
 何も、いえなかった。
 自分の内側にコイツはずっといたのに、眼鏡は存在しないものと扱っていた。
 うっとおしく…弱い、情けない奴だと見下して…深く考えた事もなかった。
 自分の中で、こんな事を考えて…生きていたと初めて知って…彼は戸惑うしか
なかった。

(何故、今になって言う…!)

 いや、今になったからこそ…彼はようやく告げたのだろう。
 愛しいという想いが湧いて来ても、この状況ではもう遅い。
 そして…この想いを受け取れば、ずっと追いかけてきた御堂に対しての最大の裏切りになる。
 その葛藤で、胸が苦しくてどうかなりそうだった。
 いや…だから、コイツはずっと求めなかったのだ。
 自分を、手に入れようとしないスタンスを貫いて来た。
 『誰よりも、眼鏡の傍にいてその心に触れて来た』が為に…!

 何も、言えなかった。
 ただ、相手がギュっと抱きついてくるのを…無言で許した。
 好きにすれば良い。
 お前に残された時間は、本当に後僅かだというのなら―

「…お前の想いは、判った。だが…俺には、お前の気持ちを受け入れる訳にいかない。
御堂に対して、裏切れない。お前に…報いる訳に、いかない…」

「知っているよ…だから、オレは…御堂さんに生きて欲しいという選択をしたんだろ…?」

 嗚呼、本当に薄くなっている。
 消えてしまうのだな…と実感させられた。
 そう、そう彼が選択したからこそ…今、こうして抱きついてくる事くらいは許している。
 自分の愛する人間を生かす為に、自らの命を差し出す。
 そんな馬鹿な真似をする人間の最後の抱擁を、どうして拒めるというのだろうか…?

「ねえ、我侭を言って良いかな…?」

「何だ、聞ける事なら…叶えてやろう」

「…一度だけ、キスして良い…?」

「あぁ、構わない。一度だけ…だろう?」

「うん…」

 残された時間が五分を切った状態。
 だから眼鏡も頷いていく。
 そっと互いに顔を寄せて…唇を静かに重ねあった。
 触れるだけの、長いキス。
 軽くだけ…眼鏡の方からも相手を抱き締めて…相手の好きなように
させていった。

(あぁ…キスってこんなに、幸せな気持ちになれるものだったんだ…)

 胸に、幸福感が満ちていく。
 何度も夢の中で身代わりに抱かれて来た。けれど自分を見てくれないで身体を
重ねるよりも、自分の存在を認めてくれて…触れるだけのキスをした方が余程気持ち良かったし
心も満足していた。
 ほんの僅かな時間だけで良い。
 こうして抱き締められて、本当に心から想う人間の腕の中で安らぐことが出来たなら…
生きてて良かったと…心底思えた。

 自分が生きていた時間の中、何も出来なかった。成さなかった。
 けれど最後の最後で…本当に好きになった人間の為に何かを出来たのならば…
自分が生きていた意義はあったのだろう。やっとそう思う事が出来た。 
 克哉の身体が淡く輝き、細かい粒子となりつつある。
 腕の中の存在が次第に儚くなっていく中…それでも、最後の刻まで彼は…もう一人の
自分を抱き締め続けていた。

「…ねえ、オレ。御堂さんに対して…もっと泣いたり、怒ったり…そういう姿をちゃんと
見せて良いんだよ? 今…オレとしたように、声を荒げて本気で言い合ったり…そういう
事が出来るようになっていけば…もう、お前の中の獣や憎しみが暴走する事はないと
思うから…。だから、どうか…幸せになって、な…」

「あぁ…努力する。だが、お前は…本当にそれで満足、なのか…?」

「うん、満足。だって…やっとお前に対して出来る事があったんだもの…」

「そうか…」

 そして、もう一度…唇を重ねた瞬間…もう一人の自分の身体は完全に原型を
留めなくなった。
 藍色の闇の中、眩く輝く粒子となって…自分の手の中で消えていく。
 
―ありがとう『俺』 どうか…御堂さんと幸せに

 心からそう願いながら…もう一人の自分は、その運命を受け入れていった。
 その様は…まるで夜空に多数の星が瞬くようだった。
 そうして星屑にしかなれなかった存在は、己の魂を燃やしていく。
 本来なら、なかったかも知れない生の中で…誰かを生かせた事に満足して
消えていく。
 眼鏡は、静かな顔をしながら…その光が消えるまで…その場に立ち尽くす他なかった。

 その数時間後。
 集中治療室の前に戻った眼鏡の元に、看護士の口から…御堂の容態が峠を越したという報が、
届けられたのだった―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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