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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  謎の巨大植物の蔓がまるでタコかイカの足のように、うねうねと不気味に
うねり続ける。
 それを素早い動作でかわしていると、ふいに頭の中にセレニティ・眼鏡の
指令が響き渡った。

『とりあえず…こう叫べ。エアロ・ハリケーンと…それで攻撃出来る筈だ』

「判った! エアロ! ハリケーン!」

 太一が必殺技名を叫ぶと同時に、地面から空気が巻き上がり…小規模な竜巻と
なって辺りに吹き荒んでいく。
 それは鋭い空気の刃となって、蔓を幾度も切りつけて…克哉の周辺に巻きついていた
不埒な蔓を何本か排除していった。

「今だ! 克哉さん! 逃げて!」

「う、うっ…んっ…はっ…判った…」

 結構な時間、蔓に良いように乱されていたので…頬をほんのりと上気させながら
克哉が逃れようと足掻いていく。
 しかしすぐに他の蔓が一斉に巻きつき、もがいてももがいても逃れられそうにない。

「くっ…まだ、駄目か! もう一丁! エアロ・ハリケーン!!」

 かなり意識を集中しながら叫ぶと、風の刃の一つ一つの軌跡が判ってくる。
 克哉の身体だけは傷つけないように細心の注意を払いながら叫んでいくと…再び
風刃が大気を踊り狂う!
 蔓が必死になって太一の方に振り下ろされていくが、この装いは…見た目はかなり
ふざけているが、彼の身体能力を極限まで引き上げてくれているせいか…
さっき捕まった時に比べて、振り下ろされる速度はゆっくりして見える。
 おかげで余裕でかわせていた。

「よっ! ほっ…! こんなのろい動きで、俺を捕まえられる訳ないっしょ!」

 余裕の表情を浮かべながら、太一はかわし続ける。

「…凄い。オレなんかより…よっぽどまともに戦えてる…」

 それ以前に、こんな格好をさせられていて…まったく照れる様子も微塵も見せずに
当然のように戦い続けているその精神力に克哉は感心していた。 
 克哉は単なるサラリーマンだが、太一は普段からライブハウスで人前で歌ったりして
舞台度胸のようなものがついているのが理由であった。
 そのおかげで目立つような真似も、奇抜な格好も太一の方は慣れているので…克哉と
違いスカートを幾らヒラヒラさせようとも羞恥のカケラもない。

「エアロ! ハリケーン!! 克哉さん! 今度こそ! さあ…手を!!」

 三度目の風刃の嵐を巻き起こすと同時に、太一は敵の懐に踏み込んで克哉の
方に必死の形相で手を差し伸べていく。

「うっ…判ったっ!」

 こちらも懸命に相手の方に手を差し伸べていく。
 指を指を絡めるようにして握り合いながら、太一が耳まで真っ赤になるぐらいに
渾身の力を込めて、その身体を引いていく。

「おりゃあ!! いい加減克哉さんを離せ! このエロ植物めー!!」

 かなり個人的な憤りも混ぜていきながら叫んでいくと、ようやく克哉の身体が
植物の魔手から逃れていく。
 先程の克哉が太一を助けた時のように、その身体を抱きかかえて、少し離れた
位置に着地して体制を整えていく。

「克哉さん、大丈夫? 無駄に疲れてない?」

「…ん、うん。とりあえず…大丈夫。君が…助けてくれた、し…」

 笑顔で頷き合うと、つい可愛い笑顔に太一は微笑みたくなる。
 その瞬間…隙が生じて、蔓が鋭い一撃を繰り出そうとしている事に気づくのが
遅れて、反応が遅くなる。

「危ない!」

 それに気づいて、克哉が叫んだが…もう遅い。
 もう駄目だ! と無意識の内に太一の身体に抱きついて…せめて代わりに
敵の一撃を身に受けようとしたその時。
 
 真っ黒いタキシードとマントに身を包んだ謎の人物が、二人を庇ってくれていた。

「…大丈夫か?」

 それは壮年に差し掛かった男の低い声だった。

「は、はい…大丈夫、です…」

「…もしかして、あんた…。いや、まさかな…」

 太一が口元を押さえながら、もごもごさせている内に…克哉は謎の人物と
言葉を交わしていった。

「なら、良い。止めを刺すなら…今だぞ! 二人とも!」

「えっ…?」

 ふと見ると…謎の人物が光り輝くと同時に、敵も同じように発光して…
その動きを止めていた。
 薄闇の中、白く淡い光が…静かに浮かび上がっていく。

「…こちらは攻撃は出来んが、少しの間…動作を抑えるぐらいの真似は
出来る。さあ! 今の内に!」

 タキシードの人物が告げると同時に、セレニティ・眼鏡の声が再び
脳裏に響き渡る。それを憎々しげに太一は聞いていった。

『…確かに絶好の機会だ。…とりあえず、緑の奴。お前に次の技を授けてやろう。
こちらは一撃必殺…という奴だ。あんまり多用すると消耗が激しいから…ちゃんと
考えて使っていけよ。シュープリームサンダー…と叫んでモーションしろ』

「って…あんた、本当に偉そうだな。声しか聞こえないけど、どんな顔しているのか
一度拝んでやりたいぜっ…!」

(…オレと同じ顔しているんだけどな~)

 克哉の方は、先程一瞬だけ…その顔を見ているので非常に複雑だったが
太一にその心境を察する術はない。

(…そういえば、オレ…さっきから一つしか技を授けてもらってないような…?)

 ふと、二つ目の技を伝授してもらっている姿を見てそんな事に思い至ったが…変身して
真っ先に捕まるような奴なので呆れられたのだろうか。
 そう思うとちょっぴり寂しかったが…敢えて顔に出さずに太一の行動を見守っていく。

「いくぜ! シュープリーム…! サンダァァ!!」

 渾身の気合を込めていきながら、太一が頭上に両手を掲げて叫んでいく。
 その瞬間、雷雲が立ち込めて…鋭い雷が大気を走り、敵に向かって振り下ろされていく!
 まさにこれは一撃必殺! と呼ぶに相応しい派手な攻撃だ。
 辺りが真っ白に輝き、そして…敵はようやく…動きを止めていった。

「よっしゃあ!! 完全勝利って奴だね。決めっ!」

 ノリノリの様子で太一がその場で勝利のポーズを決めていった。
 ここら辺のノリの良さは、克哉は少し見習いたい気持ちになった。

(やっぱり若いって凄いなぁ~)

「ばっかもん! 幾ら戦いが終わったからと言って、気を緩めるんじゃない!」

 タキシードの人物は、浮かれている太一に向かって思いっきり拳骨を
一撃食らわしていった。

「あてっ! 何するんだよ! オッサン! 俺の親父みたいな真似しやがって!」

「うるさい! お前の親父さんに代わって…愛の鞭を与えてやっただけだ。…じゃあ
そろそろ俺は行くぞ。くれぐれも…正義の味方としての自覚を失わないようにな…」

「説教くさいオッサンだな~。イイ年して、そんな格好している奴にあれこれ
言われたくないね」

「…君、格好に関しては今のオレたちが…何か言えた義理じゃないと
思うんだけど…」

 トホホ、と肩を落としていきながら…克哉が冷静に呟いていく。
 あまりにも緊張感のカケラもない展開に、常識人の方である克哉は真剣に
頭を抱えたくなった。

「あの…すみません。助けてもらって本当にありがとうございました…。良かったら
貴方の名を伺わせて…頂けますか?」

「…人は私を、タキシードマスターと呼んでいる。まあ…見ての通り、単なる
通りすがりのお節介者だ。では…またな!」

 そうして、黒いマントを翻していきながらどこからか取り出した赤いバラを加えて
謎の人物は跳躍し…闇の中に消えていく。

「…一体何者だよ、あのオッサン。あんな跳躍とか普通にするなんて…ありえない
気がするんだけど…何か妙にウチの親父に似ている気するし…」

「まあまあ…おかげでオレたち、助かったんだしさ…。無事に戦い終わって、
良かったよね」

 そうして、克哉が心から嬉しそうに太一に向かって微笑みかけていく。
 それを見て…つい、顔を赤らめたくなった。

(この人…こんな可愛い顔も出来るんだ…何か、すっげぇ…新鮮…)

 その笑顔を見て、もっと見ていたいな…と感じたら、こちらの方もごく自然に
笑みを浮かべていた。
 胸が小さく、トクントクンと高鳴り始めている。
 もっとこの顔を見続けたい、という暖かい気持ちが…太一の心の奥から
静かに湧き上がっていた。

 そうして…彼らにとっての初めての戦闘は、勝利という形で終結したのであった―
 
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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