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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※このSSは2010年度の七夕SSになります。
予想よりも長くなったので3~4話程度に分けます。
克克の禁断症状が出たので突発で書いたような話ですが
それでも良いという方だけお読みくださいませ。

ささやかな願い  前篇 

 

―信じられない、どうしてあいつはあんなに意地が悪いんだよ!
 
 七夕の夜、駅前のロータリーに設置されていた七夕飾りに、「あいつに会いたい」と
願い事を短冊に書いてつるそうとしたのがそもそも間違いだった。
 奇跡的にその願いは即座に叶い、久しぶりにもう一人の自分と会う事が出来た。
 だが相手にあまりにからかうような事を言われたのが原因で克哉は反射的に
その場から駆けて立ち去ってしまったのだった。
 
(何だかんだ言って会えて嬉しかったのに…! 何か意地悪な事ばっかり言うから
ついカっとなっちゃったよな…)
 
 感情的になって勢い余って駆けだしたせいか、自宅とは反対方向に
全力疾走してしまった。
 歩いた事がない、とは言わないが人は例え近所であっても意識しなければ
必要としている経路しか歩かなくなる傾向がある。
 通勤路から外れているせいか、殆どこの辺りは歩いた事がなかった。
 暫く歩いているうちに気づけば克哉は河川敷の方に来てしまった。
 十数年前は汚染されて大量のヘドロが発生して夏場は悪臭を放つように
なっていた川も、近年は本来の生態系を取り戻そうと近隣の住民が努力した
おかげで、川の周りには幾ばくかの自然が戻り、わずかな数だが蛍が
飛び交うようになっていた。
 
「そういえばこの川って…数年前から蛍が少し出るようになったと
聞いた事あるな…。今夜はいないのかな…?」
 
 ふと癒しを求めて、克哉は川べりで蛍の光を探していく。だが暫く周囲に
視線を巡らせてもそれらしきものを発見するには至らなかった。
 
「やっぱり、いないか…。どうせなら見たかったんだけどな…」
 
 そうして克哉は近くにあった大きな岩の上に腰を掛けていった。
 座れば多少はズボンが汚れてしまうが、それでも土の部分に腰を
掛けるよりかはマシだろう。
 そうして川の流れを見てから…空の天の川を眺めていった。
 田舎とかネオンがあまりない場所ならば、夜空に息をのむような
星の川が望める事だろう。
 しかし都内ではそれも難しい。川というには若干乏しい量の星がポツポツと
浮かんで点在するだけだった。
 
「七夕、か…」
 
 今夜は晴れ渡っているから空の上では織姫と彦星は逢瀬をしている頃だろうか。
 そう考えた瞬間、さっき短冊を書いていた時に自分が考えていた事を思い出していく。
 
(何かオレ、ちょっと情緒不安定だよな…。七夕の伝説の二人を羨ましく
思ってしまうなんて…相当に重症だよ)
 
 水の流れは人の心の底にたまったものを静かに浮かび上がらせる力でも
あるのだろうか。
 先程は漠然としていた本心がゆっくりと浮かび上がり、考えを巡らせていった。
 
「はは、バカみたいだな…オレ。せっかく短冊に書いた願い事が叶ったのに、
あいつの前から逃げてしまうなんて…」
 
 普段だったらそれでも彼が自分の前に現れてくれた事を素直に喜んだだろう。
 それはきっと意地悪をされていたとしても変わらない。
 なのに今夜に限ってどうして切ないと思ってしまったのか克哉は一人、
川の流れを見ていきながらその理由を思い当たっていく。
 
「好き、だからか…」
 
 出来るなら認めたくなかった。
 けれど相手を前にしてその言葉や行動に振り回されてしまったり、
嬉しかったり悲しかったり感情の揺れ幅が激しいのは、もう一人の自分に
対して強い想いが存在しているからだ。
 人間、嫌いな人物に対してここまで感情が揺れ動いたりしない。
 会いたいと強く願ったり、意地悪な言葉を聞いてカッとなったり…どうして
もう一人の自分に対して、こんなに冷静でいられないのか。
 其れは言ってみれば至極単純な答えだった。
 
「一年に一度の逢瀬、か…。けどその一度を愛されて次の年まで相手を信じて
待てるなら…凄く幸せだよな。オレなんてあいつとの関係で、そんな幸せを
感じた事なんてないもんな…」
 
 彼が自分の前に現れるようになってから、十ヶ月程度が経過していた。
 去年あの銀縁眼鏡をMr.Rに渡されてから暫くした時に奇妙な夢を見たのが
最初の出会いだった。
 プロトファイバーの営業を手がけたのも、今となっては凄く遠い昔の出来事の
ように感じられる。
 あれから四回、あいつに抱かれた。
 いつだって夢だか現実だかはっきりしない形で。
 いや、大晦日の…自分の誕生日を祝ってくれたあの夜だけあいつはしっかりと
存在しているのを感じられた。
 薄闇に染まった川の水の流れを目で追っていきながら克哉は少しずつ、この
感情を抱くようになったキッカケに気づいていく。
 
(あの夜、からだ…。あいつに対して、すっきりしないモヤモヤした想いを
抱くようになったのは…)
 
 想いの起点となる出来事を思い出した克哉はジワっと目元が潤んで
いくのを感じていった。
 そういえば今年に入って顔を合わせたのはさっきが二回目ではなかったか。
 本当に何ヶ月ぶりかに会えたのに、まさか短冊に書いてすぐにその願いが
叶うなんて予想してもいなかったからこそ、動転して上手く頭が回らなくて…結局、
勢い余って相手の前から逃げ出してしまった。
 
「はは、せっかく会えたのに…もったいない事をしちゃったな。それに織姫と
彦星の事をいえないな。滅多に会えないのはオレ達だって、同じだし…」
 
 そう久しぶりに会えたのだ。
 本当に短い時間だったけれど、すぐに自分が逃げ出してしまったけれど。
 冷静さが戻ってくれば非常に惜しい事をしてしまったと後悔し始めていく。
 
(ううん、けど…やっぱりあんな風に言うのは酷いと思う。幾らなんでも、
公衆の面前であんな風にキスするのは、酷いよ…)
 
 もう一人の自分がそういう性格をしているというのは嫌って程判っているけれど、
もう少しこちらの気持ちというのを考慮してほしかった。
 夢見がちな乙女のように、ムードとか雰囲気とかそういうのを大切にして
欲しいとか要求している訳ではないが…それでも、あの物言いはなかったと思う。
「例えば一言で良い、会いたかったとか久しぶりとか…そんな風に普通に
挨拶してくれたら、オレだって逃げ出さなかったのに…。あ~あ、空では
七夕の二人は逢瀬している最中だっていうのに…オレは一人ぼっちで
過ごす事になるのかな。自宅とは正反対の方に逃げて来ちゃったもんな…」
 
 もしかしたらもう一人の自分が、こっちの事を追いかけて来てくれたかも
しれないけれど…この川は克哉の自宅と正反対の方角に位置している。
 だからもう、今夜中に顔を合わすのは厳しいだろうと思うと…余計に惜しい
気持ちが湧き上がってきた。
 彼は果たして、あの後どうしたのだろう。
 その事が気になって来たので…克哉は一旦、自分の家に帰ろうとその場から
立ち上がっていった。
 家にいなかったらそのままになってしまうのは承知の上だが…もしかしたら
克哉の家の前で待っててくれているかも知れない。
 そう一縷の望みを抱いて、帰路につこうとした瞬間…克哉は周囲にいつの間にか、
何匹かの蛍が舞っていた事に気づいていった。
 
「蛍…? 嘘、本当にこの辺りにいたんだ…。本物をこんな間近で見た事が
ないから、凄く感激するな…」
 
 淡い光を放ちながら、克哉の周りを何匹かの蛍がフワフワと飛んでいた。
 その優しく幻想的な光に目を奪われていくと…次の瞬間、更に信じられない
事が目の前で起こっていった。
 
「何だよ、これ…!」
 
 それはまさに、現実では決してありえない筈の光景だった。
 その様子に目を奪われていきながら…克哉は、目が焼かれそうになるのを
感じていきながら…その向こうにいる人影を、必死に凝視していったのだった―
  
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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