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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 秋紀の手によって、克哉のもう一つの人格が呼び起こされてから二日が経過していた。
 その頃には…眼鏡は自分の意識の方が優先して表に出ている事に慣れて、自分の
部屋で二日間を過ごしていた。
  気だるげな様子でベッドから身体を起こし、傍らの透明なテーブルの上に置いといた
携帯で時間を確認していく。
 そろそろ、出勤するのなら…朝の準備を始める時間帯だった。

「…良くこれだけ、掛けられるものだな…」

 二日前からバイブ設定にしておいた携帯電話には、沢山の着信履歴が残されていた。
 その主は全て「御堂孝典」。
 …平凡で弱気な性格をしている自分の恋人である男からだった。
 数十件にも及ぶ履歴は、それだけ…いつもなら週末に来ている克哉が一切の連絡もせずに
顔を出さなかった事による焦燥を表していた。
 それを見て…つい、愉快な気持ちになった。

「…それだけ今のあんたは、もう一人の<オレ>に対して執着しているって事なんだな…」

 ククっと喉の奥で笑いながら、ベッドから身体を起こすと…自分の傍に秋紀がいない事に
やっと気づいていく。
 いつもなら自分が起きるまでべったりと…胸元から離れない状態だったのに…。

「…何か音が聞こえるな。台所の方か…?」

 まだどこか寝ぼけて、頭と気分がすっきりしないまま…キッチンの方へと足を伸ばしていく。
 そこには、自分のシャツを一枚だけ羽織った格好で調理台に立つ秋紀の姿があった。
 ジュージューと香ばしい音と匂いを立てながら、フライ返しを片手に…何かフライパンで
作っているようだった。

「あっ…! 克哉さん、おはようございますっ! 今…朝食を作っているから
少し待ってて下さいっ!」

 秋紀が本当に嬉しそうに、幸福そうに笑いながら…フライパンの上の目玉焼きと必死に
格闘していた。
 さっきまで蓋をして蒸らした目玉焼きは…黄身の部分にうっすらと白い膜が張っていて
丁度食べ頃を迎えていた。
 ここまでは一応…中学の調理実習で教わった通りだ。
 後は先に焼いてあったベーコンを乗せた皿の上に綺麗に盛り付けられるかどうかである。
 ベーコンの方も少し焦げ気味であったが…どうにか食べれるレベルの焼き加減だ。
 その傍らに美味く目玉焼きをスライドさせようとしたが…。

「んんっ…! 張り付いて上手く…いかない。わっ! 破れたっ!」

 慎重に手を動かしたにも関わらず、卵をフライパンに落とすタイミングを少し間違えていた
おかげで…底がべったりと鍋に張り付いてしまっていたらしい。
 調理経験が浅い秋紀は、それを上手く剥がせずに黄身を破いて…ドロリと半熟の部分を
溢れさせてしまった。

「貸せ…もう一個のは俺がやってやる…」

「えっ…? 克哉さん…」

 克哉の為に作った朝食を失敗してしまった事で…秋紀は少し悲しそうな顔を浮かべていた。
 それが見てられない気分になったので、彼を押しのけて…眼鏡は自分がフライ返しと
フライパンを持って、べったりと鍋底に張り付いた目玉焼きを剥がしに掛かる。
 目玉焼きの底の方はパリパリの状態になっていたが…克哉がやると鮮やかに剥離して、
綺麗な形で皿の上に収まっていた。

「ほら…出来たぞ」

「うわっ! 克哉さん凄いっ! 僕なんて全然上手くいかなかったのに…!」

「これくらい、そんな驚く事でもないだろ…。一応…一人暮らしの経験は長いからな…」

 一応、佐伯克哉は大学に入った頃から一人暮らしを続けている。
 だから自分で身の回りの事はある程度は片付けられるし、料理だって簡単なものばかり
だがある程度の物は作れる。
 しかし秋紀にとっては、自分が苦戦していた事をあっさりとやってのける克哉をカッコイイと
感じたのだろう。その目はキラキラと輝いていた。

「ほら…せっかくの目玉焼きが冷めるぞ。早く他の準備をして来い…」

「はい! そうしますっ!」

 そうして…机の上にはうっすらとバターを塗ったトーストと…粉末状のコーンスープを
マグカップに入れてお湯を注いだスープ、それとレタスとトマトだけの簡単なサラダが
並べられていた。
 どれも料理と呼べる代物ではなかったが、普段…自分で調理の類をしない少年に
とってはこれでも頑張った部類に入った。
 レタスとトマトの大きさはマチマチで、形も崩れているし…トーストに至っては
隅の方が真っ黒に焦げている。

(俺が自分でやった方が遥かにマシだな…)

 と、その状態を見て思ったが…さっきの目玉焼きを作っている様子を見てこれでも
秋紀は必死になって作ったのだろう。
 だから敢えて…言わないでおいてやる事にした。
 二人にテーブルを前に向き合う形で椅子に座って、食事を開始していった。

「あれ? 僕の方に…綺麗に出来た方が…?」

「…こっちはお前が頑張ったんだろ。俺が食べてやる…」

 秋紀に綺麗な形の方を譲ってやると…克哉はその上にクレイジーソルトを掛けて
目玉焼きを箸で切り分けて、口に運んでいく。
 端の方の半熟卵が掛かっている部分をトーストの上に乗せていくと…服を汚さない
ように気をつけながら食べ進めていく。

(…もう一人の<オレ>は、服装のセンスは最悪だが…揃えてある調味料の類は
悪くないな…)

 クレイジーソルトは、様々な香辛料が混ぜ込まれている塩系の調味料の一種である。
 外国では、サラダや目玉焼き、ちょっとした料理の味付けに使われる事も多い
調味料の一種である。
 あいつがやっていた通りに試してみたが、これはこれで悪くはない。
 秋紀もそれを真似して、これを目玉焼きの上に掛けて食べていくが…表情を見る限り
彼も気に入ったようだった。

「へえ…僕、目玉焼きって醤油を掛けるのが当たり前だと思っていたけど…こういうのを
掛けるのも有なんですね」

「あぁ…悪くないだろ?」

 眼鏡自身も、これで食べるのは初めてだったが…敢えてその事実は伏せて相槌を
打っていった。
 暫く二人で、食べる方に集中していく。
 しかし…この二日間で、眼鏡の方も…秋紀に少しは情らしきものも湧いてきていたので
この沈黙も悪いものではなかった。

「…ご馳走様。それなりに食べれたぞ…」

「本当ですかっ! 克哉さん…。アチコチ焦げたり、形とか上手く出来ないものばっかり
だったから不安だったけど…そう言って貰えて良かったです…」
 
 秋紀にしてみれば、この出来で克哉に美味しいと言って貰えることは端から諦めていた。
 マズイ、と言われればそれでも傷ついていただろうから…この物言いでも、充分…
少年にとっては嬉しい一言だったのだ。

「…慣れてない内は仕方ないさ。<オレ>だって一人暮らしを始めたばかりの頃は…
正直、食えないレベルの代物を作ってしまった事は沢山あったしな…」

 もう一人の自分の、大学時代の記憶を少し思い出しながら…苦笑に似た笑みを
浮かべていく。
 しかし秋紀は…そんな眼鏡の複雑な心境までは察する事は出来なかったらしい。
 ただその一言で気持ちを浮上させて、ニコニコと微笑んでいた。

「克哉さんにもそんな時代があったんですね。それなら僕も…頑張りますっ!」

 秋紀はどこまでも前向きな態度を、見せていた。

「よし…それじゃあ、俺はそろそろ出勤準備を始める。お前も…学校に行く準備を
するならしておけ…」

「えぇ! 克哉さん…会社に、行ってしまうんですかっ?」

「…当然だ。俺はこう見えて、真面目なサラリーマンだからな。この二日間はたまたま
週末だったからお前とずっと一緒に過ごしていたが…そもそも働かなければ、収入は
どこから得られると思っているんだ…?」

「それは、そう…ですけど…」

 秋紀の方はすでに学校をサボって、克哉と一日を過ごすつもりだったらしい。
 あからさまに落胆した様子を見せていた。
 やっと…九ヶ月も掛けて、この人と再会出来たのだ。
 だから秋紀としては…一分一秒でも長く、この人と一緒にいたかった。
 このどこまでも幸せな夢のような現実は…いつまで続くか、判らなかったから。
 だから…秋紀は、学校という現実に戻る事を拒んでいた。戻りたくなかった。
 離れてしまったら…この儚い幸せは、あっという間に自分の掌をすり抜けて…
また彼のいない現実に戻されてしまう予感がしていたから―

「…心配するな。俺はちゃんとここに帰って来てやる。だから…安心して
ここで俺の帰りを待つなり、学校に行け。…当分は俺も…消えてやる
つもりはないからな…」

「…その言葉、信じて良いんですよね…克哉、さん…」

 秋紀が、縋るような眼差しでこちらを見つめてくる。
 その瞳は…まるで、迷子の子猫のようだ。
 探し続けて…やっと、自分の飼い主の元に辿り着けたのに…また離れてしまうのでは
ないか。そんな不安を隠しきれない…そんな瞳をしていた。

「あぁ…俺を信じろ。お前だけが…『俺』の方を必要としてくれていた。そんなお前を
簡単に置いて…消えたりはしないさ…」

 そうして、少年の細い身体を引き寄せて…深いキスをしていってやる。
 秋紀は…それで少しだけ、不安が解れたらしかった。
 強く強く、大好きな人の身体にしがみ付いて…この現実を確かなものにしようと
していた。

 泣きそうになりながら…秋紀は、眼鏡の温もりに包まれていく。
 いつか覚める夢だと半ば覚悟しながら。
 それでも、どうか一秒でも長くこの人の傍にいさせて下さいと…。
 小さな祈りを胸に秘めて…切ない幸福の中に浸り続けていた―

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始めまして
始めまして、中川と申します。こちらの「始まりの扉」SS、ワクワクしながら読ませてもらっています!私は御克ルートをプレイする時、ノマ克で御堂さんに嬲られながらギリギリまで須原と眼鏡で付き合うというプレイをしていたので何だかその時のことも思い出して不思議にトキメキ(?)ました。何というか、エリートに慰み者にされて苦悩するノーマルの傍ら、眼鏡をかけると華やかな美少年須原を愛でてはべらして憂さ晴らし、というアンバランスさが妙に気に入っていたのかも・・・。さてSSの方も、あれだけベッタリだったのにいきなり週末来なくなった克哉にみどさんが慌ててるのが微笑ましいです(え)でもまぁよく克哉のアパートに探しに来なかったですよね・・・いつも自分の高級マンションに引きずりこんでたから恋人の住所知らなかったとか?週末にMGN人事課に忍び込んで履歴書の住所を調べるとか、本多に聞く訳にもいけないですしね(笑)にしてもこれからどうなるのか非常に楽しみです!普段御堂さんに抱かれ慣れている可愛いノマ克と、美少年須原を抱いて愛しているカッコいい眼鏡克哉の奇妙なWルートに期待していますv
それに私も須原は克哉の筆卸のキャラですので、そんな須原との事をきっちり清算しないのはいくないなぁ・・・と思います。
中川 2008/01/23(Wed)14:15:43 編集
同じですね~
 中川さん初めまして! こんにちは!
 随分と長く熱いコメントの方をありがとうございました(ペコペコ)
 実は私も御堂さん攻略した時に、同じように秋紀を途中まで口説いて…と言う感じでプレイしていたんですよ。
 この話、その体験から発生していたりします。眼鏡で秋紀をまどわしつつ…ノーマルで御堂さんに翻弄されて次第に惹かれていく感じが非常に妄想掻き立てられたと申しますか…(笑)
 いや、ラブラブな恋人からいきなり連絡が途絶えたりドタキャンされたら、誰でもアワアワすると思います。御堂さんもそこら辺は普通の恋する男という事で!(ニッコリ)
 いや、当日にちゃんと真っ先に克哉のアパートに御堂は探しに来ています。(描写していなかっただけで)
 …流れとしては御堂さんの残業が終わってマンションに戻り、克哉がいない。それから真っ先にアパートに立ち寄りますが…その頃には眼鏡が秋紀を抱き終えて、明かりも何もつけないで二人でまどろんでいる。
 で…電気系統は一切使われていなかったから電気メーターも回らず、それ確認した時点で御堂はこの部屋にいないと判断して立ち去っている…という感じです。(この話、時期的には4~5月位を目安に書いているので)
 一応、本多と片桐に探りの電話を入れたり自分のかつての同級生で警察関係に顔が利く相手に極秘で捜索依頼をしていたり…取れる手段を全て講じて、御堂さんは克哉を二日間探しておりました。
 この話は、秋紀との事をN克哉に清算をさせるのを目的として書いております。
 出来れば最後まで付き合ってやって下さりと嬉しいです。ではでは!
香坂 幸緒 2008/01/26(Sat)01:35:03 編集
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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