鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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MGN社を飛び出すと、克哉は真っ直ぐに地下鉄の駅の方へと向かっていった。
目的地は自宅だが、いつもの電車を使うと…後を追ってくる御堂にすぐに目的地を
悟られてしまうからだ。
一応、御堂に送迎される事が多くなったとは言え、普段は電車通勤が克哉の
基本である。
克哉が乗り込んだ地下鉄は、人身事故とか天候の関係でいつも使っている路線が
まともに運行しない時だけ使用している線だった。
これを使えば…これから自分が行こうとしている場所を悟られにくくなるだろう。
克哉は胸ポケットから通勤用のSuicaの入った定期入れを取り出すと…
実にスムーズに改札口を潜り抜けていく。
御堂もその後に続いたが、普段自家用車で動くのが当たり前になっている人間は
電車を使う必要性もない。
だから御堂は定期も、Suicaも持っていなかった。
ついでにGPSを搭載した携帯は持っているが、かなり上限額の高いクレジットカード
を所有していた為に、その機能はついていないのしか持っていなかった。
ここでSuicaを持っていない事が、決定的な時間ロスとなった。
克哉の後を追って改札口を通ろうとして、思いっきり赤いランプが点灯してブザーが
ピコンピコンと鳴り響き、機械に遮断されてしまった。
窓口にいる駅員から渋い顔をされて、注意されていく。
「お客さん、ダメですよ…。ちゃんと券売機で切符を買って中に入って
貰いませんと…」
「くっ…すみません。慌てていたもので…。今、切符を購入して来ます。
お騒がせ、しました…」
駅員に窘められると、御堂は一瞬だけ心底屈辱そうな顔を浮かべていた。
しかしそこら辺は大人だった。
すぐにいつもの営業スマイルを浮かべて、切符売り場の方に全力で走っていく。
それを後ろ目に見送って、克哉は心底…御堂に申し訳ないと思いつつも、丁度…
やってきた電車の車両に飛び乗っていく。
克哉が車両の奥の方に移動していくのと同時に駅のアナウンスが流れて…メロディが
辺りに響き渡っていく。
切符を購入した御堂が全力で階段を降りてくると…目の端に克哉の後姿が入って
その車両に乗り込もうと走り続けたが…タッチの差で扉が閉まり…締め出される形と
なってしまった。
「くっ…!」
運が悪かった。もう少しだけタイミングが早ければ…腕でも何でも挟ませて、扉を
開けさせて…中に入る事が出来たものを!
しかし締め切られてしまえば、どうしようもない。御堂は敢え無く…克哉が乗り込んだ
車両を見送る形となってしまった。
「…克哉。君はどこまで私を…翻弄すれば気が済むんだ…」
心底、愛しい恋人を恨みながら…ボソリ、と呟く様は…普段のエリート然した御堂から
かけ離れた姿であった。
…その後、どうにか体制を整えた御堂は…必死に自分なりに考えて、克哉が一番
向かいそうな場所を、知っている情報を元に…割り出そうと試みていった。
*
駅で上手く御堂を撒く事に成功した克哉は、そのまま目的の駅で下車して…脇目も
振らずに自分のアパートへと向かっていった。
固唾を呑んで、自分の部屋へと続く階段を登っていくと…其処にはやはり秋紀の
姿が待っていた。
この部屋の合鍵は、一つしか作られてない上に…それはアパートの管理人さんが
持っている。
一つしかない鍵を流石にもう一人の自分もこの少年に渡せなかったのだろう。
朝に見た時のまま…赤いパーカーに淡い水色のジーンズという身軽そうな格好を
して秋紀は其処に佇んでいた。
階段を登り切った直後に、向こうもこちらに気づいたらしい。
克哉の姿を見つけると、一瞬だけ…パッと顔を輝かせたが…すぐに落胆の表情を
浮かべていく。
―目の前の克哉は、眼鏡を掛けていなかったからだ。
「克哉、さん…眼鏡は…?」
「…外して来た。御免ね…」
唇を震わせて問いかけてくる秋紀の前に、克哉は心底申し訳なさそうに頭を
下げていった。
恐らく待っている間、秋紀は不安と期待を半々に…眼鏡の方を待ち続けていたの
だろう。ここに帰ってくる『佐伯克哉』が、自分にとって愛しい方か、そうでないか…
彼は待っている間、ずっと落ち着かなかったに違いない。
「…やっぱり、そうなんですね…。僕の大好きなあの人は…どこまでも、幻みたいに
儚い人…だったんですね…」
秋紀は泣きそうな表情を浮かべながら、克哉を見つめて…そう呟いていた。
その瞳には…大きな雫が湛えられている。
克哉は絶対に…彼はどうして! とか…何で貴方の方がいるんだ! とか責められる
覚悟でここに来ていたので…正直、秋紀のこの反応は予想外だった。
「…………」
秋紀はまだまだ、言葉を続けたい様子だったので克哉は沈黙を守っていく。
自分とこの少年はほんの数回、しかもどれもごく僅かな時間しか言葉をやり取り
した事がない。ようするにどんな事を考えて、何を思うのかまったく情報がないのだ。
だから相手の言葉を聞き逃さないように構えて、少しでも…この少年の事を
知ろうと、理解しようと試みていた。
「…何となく、朝に…あの人とキスした時…もう二度と、僕は…大好きな克哉さんの
方に会えないような…そんな予感、していたから…」
秋紀は、どこか諦めているような…達観しているような…切ない表情を浮かべて
いた。それを見て…克哉の胸は、引き絞られるような思いになっていた。
(こんな切ない表情をするぐらい…この子は、あいつの事を…好きだったんだな…)
それを目の当たりにして…克哉は胸が凄く痛んだ。
いっそ目を逸らしてしまいたかった。
しかし…その弱気な気持ちを押さえ込んで…彼の方からこの少年の元へと
足を踏み込んでいく。
瞬く間に間合いを詰めて…ここが、自分が住んでいるアパートの廊下であると
承知の上で…その身体をぎゅっと抱きしめて…告げていった。
「…本当に、御免。けれど…オレにも、譲れない事があるから…!」
相手の肩口に顔を埋めながら、喉から声を搾り出すようにして…告げていく。
「…オレには、とても大事な人がいます。…半年前から付き合っていて…その人の
為ならどんな辛い目に遭っても構わない。それぐらい…大好きで、大切な存在が
すでにいます。…だから、君がもう一人の<俺>の事を本当に好きで、求めて
くれている事は知っている…! だけど、オレには…その為にこの人生を君に
与える訳には…いかないんだ…!」
殆ど、懺悔に近い告白だった。
一昨日と昨日、もう一人の自分は散々この少年を抱いていた。
その上で…こんな残酷な事を、相手に告げているのだ。
非難は元より…覚悟の上で、それでも…相手を抱きしめる腕に一切力を緩ませずに
克哉は伝えていく。
この少年を抱きしめたのは…相手から自分が逃げ出さないようにする為だ。
真正面から、憎しみや恨みの言葉を受け止める覚悟を表していた。
しかし秋紀は…そうしなかった。
逆に…自分の方からも、克哉をぎゅっと抱きしめて…瞳からポロポロと涙を溢れさせ
ながら…溜息を突いていく。
「…やっぱり、そうだったんだ…。貴方にはすでに…僕以外に、大切な
人がいたんですね…。だから僕の処に…あの人は、来なくなってしまった…。
それが…現実、だったんですね…」
少年は…その瞬間、酷く大人びた表情をしていた。
どうして、何故と訴える事もせず…静かに克哉の言葉を聞き入れていく。
あっさりと…自分の言い分を相手が受け入れている事に、逆に…克哉の方が
驚いてしまうくらいだった。
「…どうして…」
逆に克哉の方が、呟いてしまった。
自分はこんなにも残酷な事実を突きつけているのに…どうして、この少年は
こちらを責めもせずにあっさりとその現実を受け入れてくれているのかと。
暫く二人の間に沈黙が落ちていく。
先に破ったのは…秋紀の方だった。
「…あの銀縁眼鏡をくれた、怪しい人に…克哉さんが二重人格で、僕が好きな方の
貴方は…今、閉じ込められてしまっている。だからこの眼鏡を掛けて…どうぞあの人を
解き放って上げて下さい、と…そう言われた時は正直、半信半疑だった…」
「えっ…それって、まさか…」
あの銀縁眼鏡を与えた怪しい人…たったそれだけの情報だが、それに該当する
人物はこの世でたった一人しか存在しない。Mr.Rに間違いなかった。
「…けれど実際に、貴方に眼鏡を掛けたら…本当に別人のようになって…ずっと探して
いたあの人と再会出来ました。だから…その時から、ずっと思っていたんです。
僕は…本当に何て儚い人に恋していたんだろうなって…。探しても、会える筈が
なかったんです。貴方がずっと生きていたのなら…どれだけ夜のオフィス街で
あちらの克哉さんを探したって…存在、していなかったんだから…」
殆どそれは、独白に近い言葉ばかりだった。
秋紀の涙で、克哉のスーツはしとどに濡れていく。
恐らく胸の内にある想いを…全て吐き出させない事には、自分もこの少年も
一歩を踏み出せないから。それを悟っていたから一言も問う言葉すら発せずに
克哉はただ…彼を抱きしめながら、その言葉に耳を傾けた。
「…あの人と一緒にいられた二日間は、本当に幸せで…けど、ずっと僕…こうも
思ったんです。あのまま…一生、眼鏡を掛けた方の克哉さんに会えないままだったら
どうだったのかなって。そう考えたら…たった二日だけでも、あの人の傍にいて…
しっかり抱きしめて貰えただけ…良かったんだな、と。
一度も成就しないまま…会えないままでいるよりも、ずっとそっちの方が幸せ
だな…ふと、そんな事を…考えていたんです…」
秋紀は本当に、眼鏡を掛けた方の克哉を好きだったし慕っていた。
この人の傍にいられるのなら…友達も、家族も学校も今いる環境の全てすら引き換え
にしても構わないと思う程…それは強い、想いだった。
あの人に抱いて貰っている間、秋紀は沢山…『好き』と溢れんばかりの想いを伝えていた。
ぎゅっと強く抱きつき続けて…どれだけ激しい行為でも、焦らされても追い上げられても
拒む事なく受け入れ続けていた。
けれど…だから、同時に判ってしまったのだ。
本当に真摯な思いを抱いてからこそ、判ってしまった真実。
眼鏡は秋紀を貪るように何回も抱いていた。
だが…その激しい行為の裏にある感情を―秋紀は気づいてしまっていた。
その一言が少年の唇から放たれた時、克哉は自分の心臓が刃物で貫かれたかのような
衝撃を覚えざるを得なかった。
―例えあの人が僕の事を愛していなくても―
その一言を言われた瞬間、克哉はハッと息を呑むしかなかった。
対照的に秋紀の表情は穏やかで静かだった。
夕暮れの中、二人は静かに立ち尽くしていく。
呆然とした克哉を…意外な程、優しく秋紀は見つめ返していった―
目的地は自宅だが、いつもの電車を使うと…後を追ってくる御堂にすぐに目的地を
悟られてしまうからだ。
一応、御堂に送迎される事が多くなったとは言え、普段は電車通勤が克哉の
基本である。
克哉が乗り込んだ地下鉄は、人身事故とか天候の関係でいつも使っている路線が
まともに運行しない時だけ使用している線だった。
これを使えば…これから自分が行こうとしている場所を悟られにくくなるだろう。
克哉は胸ポケットから通勤用のSuicaの入った定期入れを取り出すと…
実にスムーズに改札口を潜り抜けていく。
御堂もその後に続いたが、普段自家用車で動くのが当たり前になっている人間は
電車を使う必要性もない。
だから御堂は定期も、Suicaも持っていなかった。
ついでにGPSを搭載した携帯は持っているが、かなり上限額の高いクレジットカード
を所有していた為に、その機能はついていないのしか持っていなかった。
ここでSuicaを持っていない事が、決定的な時間ロスとなった。
克哉の後を追って改札口を通ろうとして、思いっきり赤いランプが点灯してブザーが
ピコンピコンと鳴り響き、機械に遮断されてしまった。
窓口にいる駅員から渋い顔をされて、注意されていく。
「お客さん、ダメですよ…。ちゃんと券売機で切符を買って中に入って
貰いませんと…」
「くっ…すみません。慌てていたもので…。今、切符を購入して来ます。
お騒がせ、しました…」
駅員に窘められると、御堂は一瞬だけ心底屈辱そうな顔を浮かべていた。
しかしそこら辺は大人だった。
すぐにいつもの営業スマイルを浮かべて、切符売り場の方に全力で走っていく。
それを後ろ目に見送って、克哉は心底…御堂に申し訳ないと思いつつも、丁度…
やってきた電車の車両に飛び乗っていく。
克哉が車両の奥の方に移動していくのと同時に駅のアナウンスが流れて…メロディが
辺りに響き渡っていく。
切符を購入した御堂が全力で階段を降りてくると…目の端に克哉の後姿が入って
その車両に乗り込もうと走り続けたが…タッチの差で扉が閉まり…締め出される形と
なってしまった。
「くっ…!」
運が悪かった。もう少しだけタイミングが早ければ…腕でも何でも挟ませて、扉を
開けさせて…中に入る事が出来たものを!
しかし締め切られてしまえば、どうしようもない。御堂は敢え無く…克哉が乗り込んだ
車両を見送る形となってしまった。
「…克哉。君はどこまで私を…翻弄すれば気が済むんだ…」
心底、愛しい恋人を恨みながら…ボソリ、と呟く様は…普段のエリート然した御堂から
かけ離れた姿であった。
…その後、どうにか体制を整えた御堂は…必死に自分なりに考えて、克哉が一番
向かいそうな場所を、知っている情報を元に…割り出そうと試みていった。
*
駅で上手く御堂を撒く事に成功した克哉は、そのまま目的の駅で下車して…脇目も
振らずに自分のアパートへと向かっていった。
固唾を呑んで、自分の部屋へと続く階段を登っていくと…其処にはやはり秋紀の
姿が待っていた。
この部屋の合鍵は、一つしか作られてない上に…それはアパートの管理人さんが
持っている。
一つしかない鍵を流石にもう一人の自分もこの少年に渡せなかったのだろう。
朝に見た時のまま…赤いパーカーに淡い水色のジーンズという身軽そうな格好を
して秋紀は其処に佇んでいた。
階段を登り切った直後に、向こうもこちらに気づいたらしい。
克哉の姿を見つけると、一瞬だけ…パッと顔を輝かせたが…すぐに落胆の表情を
浮かべていく。
―目の前の克哉は、眼鏡を掛けていなかったからだ。
「克哉、さん…眼鏡は…?」
「…外して来た。御免ね…」
唇を震わせて問いかけてくる秋紀の前に、克哉は心底申し訳なさそうに頭を
下げていった。
恐らく待っている間、秋紀は不安と期待を半々に…眼鏡の方を待ち続けていたの
だろう。ここに帰ってくる『佐伯克哉』が、自分にとって愛しい方か、そうでないか…
彼は待っている間、ずっと落ち着かなかったに違いない。
「…やっぱり、そうなんですね…。僕の大好きなあの人は…どこまでも、幻みたいに
儚い人…だったんですね…」
秋紀は泣きそうな表情を浮かべながら、克哉を見つめて…そう呟いていた。
その瞳には…大きな雫が湛えられている。
克哉は絶対に…彼はどうして! とか…何で貴方の方がいるんだ! とか責められる
覚悟でここに来ていたので…正直、秋紀のこの反応は予想外だった。
「…………」
秋紀はまだまだ、言葉を続けたい様子だったので克哉は沈黙を守っていく。
自分とこの少年はほんの数回、しかもどれもごく僅かな時間しか言葉をやり取り
した事がない。ようするにどんな事を考えて、何を思うのかまったく情報がないのだ。
だから相手の言葉を聞き逃さないように構えて、少しでも…この少年の事を
知ろうと、理解しようと試みていた。
「…何となく、朝に…あの人とキスした時…もう二度と、僕は…大好きな克哉さんの
方に会えないような…そんな予感、していたから…」
秋紀は、どこか諦めているような…達観しているような…切ない表情を浮かべて
いた。それを見て…克哉の胸は、引き絞られるような思いになっていた。
(こんな切ない表情をするぐらい…この子は、あいつの事を…好きだったんだな…)
それを目の当たりにして…克哉は胸が凄く痛んだ。
いっそ目を逸らしてしまいたかった。
しかし…その弱気な気持ちを押さえ込んで…彼の方からこの少年の元へと
足を踏み込んでいく。
瞬く間に間合いを詰めて…ここが、自分が住んでいるアパートの廊下であると
承知の上で…その身体をぎゅっと抱きしめて…告げていった。
「…本当に、御免。けれど…オレにも、譲れない事があるから…!」
相手の肩口に顔を埋めながら、喉から声を搾り出すようにして…告げていく。
「…オレには、とても大事な人がいます。…半年前から付き合っていて…その人の
為ならどんな辛い目に遭っても構わない。それぐらい…大好きで、大切な存在が
すでにいます。…だから、君がもう一人の<俺>の事を本当に好きで、求めて
くれている事は知っている…! だけど、オレには…その為にこの人生を君に
与える訳には…いかないんだ…!」
殆ど、懺悔に近い告白だった。
一昨日と昨日、もう一人の自分は散々この少年を抱いていた。
その上で…こんな残酷な事を、相手に告げているのだ。
非難は元より…覚悟の上で、それでも…相手を抱きしめる腕に一切力を緩ませずに
克哉は伝えていく。
この少年を抱きしめたのは…相手から自分が逃げ出さないようにする為だ。
真正面から、憎しみや恨みの言葉を受け止める覚悟を表していた。
しかし秋紀は…そうしなかった。
逆に…自分の方からも、克哉をぎゅっと抱きしめて…瞳からポロポロと涙を溢れさせ
ながら…溜息を突いていく。
「…やっぱり、そうだったんだ…。貴方にはすでに…僕以外に、大切な
人がいたんですね…。だから僕の処に…あの人は、来なくなってしまった…。
それが…現実、だったんですね…」
少年は…その瞬間、酷く大人びた表情をしていた。
どうして、何故と訴える事もせず…静かに克哉の言葉を聞き入れていく。
あっさりと…自分の言い分を相手が受け入れている事に、逆に…克哉の方が
驚いてしまうくらいだった。
「…どうして…」
逆に克哉の方が、呟いてしまった。
自分はこんなにも残酷な事実を突きつけているのに…どうして、この少年は
こちらを責めもせずにあっさりとその現実を受け入れてくれているのかと。
暫く二人の間に沈黙が落ちていく。
先に破ったのは…秋紀の方だった。
「…あの銀縁眼鏡をくれた、怪しい人に…克哉さんが二重人格で、僕が好きな方の
貴方は…今、閉じ込められてしまっている。だからこの眼鏡を掛けて…どうぞあの人を
解き放って上げて下さい、と…そう言われた時は正直、半信半疑だった…」
「えっ…それって、まさか…」
あの銀縁眼鏡を与えた怪しい人…たったそれだけの情報だが、それに該当する
人物はこの世でたった一人しか存在しない。Mr.Rに間違いなかった。
「…けれど実際に、貴方に眼鏡を掛けたら…本当に別人のようになって…ずっと探して
いたあの人と再会出来ました。だから…その時から、ずっと思っていたんです。
僕は…本当に何て儚い人に恋していたんだろうなって…。探しても、会える筈が
なかったんです。貴方がずっと生きていたのなら…どれだけ夜のオフィス街で
あちらの克哉さんを探したって…存在、していなかったんだから…」
殆どそれは、独白に近い言葉ばかりだった。
秋紀の涙で、克哉のスーツはしとどに濡れていく。
恐らく胸の内にある想いを…全て吐き出させない事には、自分もこの少年も
一歩を踏み出せないから。それを悟っていたから一言も問う言葉すら発せずに
克哉はただ…彼を抱きしめながら、その言葉に耳を傾けた。
「…あの人と一緒にいられた二日間は、本当に幸せで…けど、ずっと僕…こうも
思ったんです。あのまま…一生、眼鏡を掛けた方の克哉さんに会えないままだったら
どうだったのかなって。そう考えたら…たった二日だけでも、あの人の傍にいて…
しっかり抱きしめて貰えただけ…良かったんだな、と。
一度も成就しないまま…会えないままでいるよりも、ずっとそっちの方が幸せ
だな…ふと、そんな事を…考えていたんです…」
秋紀は本当に、眼鏡を掛けた方の克哉を好きだったし慕っていた。
この人の傍にいられるのなら…友達も、家族も学校も今いる環境の全てすら引き換え
にしても構わないと思う程…それは強い、想いだった。
あの人に抱いて貰っている間、秋紀は沢山…『好き』と溢れんばかりの想いを伝えていた。
ぎゅっと強く抱きつき続けて…どれだけ激しい行為でも、焦らされても追い上げられても
拒む事なく受け入れ続けていた。
けれど…だから、同時に判ってしまったのだ。
本当に真摯な思いを抱いてからこそ、判ってしまった真実。
眼鏡は秋紀を貪るように何回も抱いていた。
だが…その激しい行為の裏にある感情を―秋紀は気づいてしまっていた。
その一言が少年の唇から放たれた時、克哉は自分の心臓が刃物で貫かれたかのような
衝撃を覚えざるを得なかった。
―例えあの人が僕の事を愛していなくても―
その一言を言われた瞬間、克哉はハッと息を呑むしかなかった。
対照的に秋紀の表情は穏やかで静かだった。
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
鬼畜眼鏡にハマり込みました。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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