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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 『眼鏡克哉』


  ここ暫く、体調が悪いのを隠して…俺はどうにか普段と変わらないように
仕事をこなし続けていた。
 だが…日増しに、もう一人の自分から流れる感情と記憶の量は増え続けていて。
 俺自身も気づかない内に、その記憶にかなり呑み込まれていってしまっていた。

(何故だ…どうして、お前ごときの感情にこの俺が影響されなければならないんだ…)

 その事実に苛立ちながら、パソコンの前で検索作業を続けて…今、手元に持っている
資料の裏づけを取り続けていく。
 プロトファイバーの売り上げは、期限を越えてからも好調なままで。
 実際は俺達が担当する当初の期間は三ヶ月だったが、MGNの方からの正式な
要望もあり、今も…営業は続けていた。
 すでに国内でこの数字を叩き出した商品は存在しない領域での空前の大ヒット
商品になった事で、営業八課の評価もキクチ社内においては高まっていた。

 最初はあれだけ嫌味な態度を取っていた御堂も…今では俺達に一目を置くように
なったのか、最初の頃のように侮蔑して上から見下ろすような真似はしなくなった。
 そう、仕事は順調だった。それなのに…。

(どうして俺の胸の中から、言いようのない焦燥感が消えないんだ…?)

 パソコンの前で自問自答をしながら、胸の辺りを押さえていく。
 胸の痛みも、日ごとに酷くなっている。
 それでもどうにか…一日、気力を振り絞れば動ける範囲だが…毎晩、部屋に帰って
一人になった時の反動のようなものが増していった。

「…もう、潮時なのかもな…」

 決断を下さなければ、自分も巻き込まれる事ぐらいは承知していた。
 なのに…こんなに迷う事など、俺らしくなかった。
 だが…やらねばならない事を実際に行ったら…恐らくアイツ、は…。

「くっ…」

 想像しただけで、胸が引き連れる想いがした。
 …くそ、どうして…俺がこんな情に引きずられなければならないんだ。
 らしく無さ過ぎて、歯痒ささえ覚えていた最中…本多から能天気な口調で声を掛けられた。

「よお! 克哉…! 今晩時間取れるか?」

「…あぁ、一応…多少は取れるが。一体なんだ…? 飲みへの誘いか…? 悪いが…
今は身体を少しでも休ませたいから、あまり遅くまでは付き合えないがな…」

「そんなの判っているって! …今のお前、本気で忙しそうだもんな。だから…夜通しで
付き合えとかそんな無茶な要求は最初からするつもりはねえよ。…夕飯ぐらい、一緒に
食おうって誘いたかっただけだって」

「…あぁ、良いぞ。夕飯ぐらいなら俺も付き合える。それで…どこに食べに行く予定だ」

「ん~それは、その時の気分で決めても良いと思う。という訳で…夕方までには何を
食べたいか考えておいてくれなっ! それじゃ…俺は一旦、資料室の方で…色んな
データーの裏づけになりそうなファイルとか探して来る。じゃあ…夕方なっ!」

 言うだけ言って、本多はそのまま…全力で資料室の方へと向かっていった。
 こちらは溜息を突きながら、その様子を暫く眺めて…こちらも作業を再開していく。
 …アイツも最近は、デスクワークをやる機会が格段に増えたせいで…打ち込み速度が
それなりに早くなって使えるようになっていた。

 それ以前までのアイツは、正直…あまりに打ち込みスピードが遅すぎて効率が悪すぎた
ので<オレ>が黙って代わりにやっていたみたいだが…正直、俺はそんなに暇じゃない。
 人の分の仕事をやって、自分がやらなければならない事が出来なくなるのは馬鹿らしい
からな。
 だから俺は復帰してからもアイツの分の打ち込みをやるような真似はしなかった。
 そうしたら…ようやく、自分でやらなければ! という意識が芽生えたらしい。
 どうにかここ最近の本多は、デスクワークでも使えるようになって進歩していた。

「さて…今夜はどの店に行くかな…」

 そう考えながら、俺は夕方まで仕事に打ち込んでいく。
 美味い物のことを考えている間は…胸の痛みもさほど覚える事もなく。
 本日は非常に安定した状態で…就業時間を迎えていた。
 
 それから…アフターファイブの時間帯になると、週末という事もあって残業を
せずに本多と二人でタイムカードを押して退社していく。
 キクチ社内を出てから数分後、俺は…予想もしていなかった人物に遭遇していった。

「本多さ~ん、克哉さ~ん! こっちこっち!」

 ―こちらに駆け寄ってくる人影は、紛れも無く太一、だった。
 久しぶりに見るアイツの顔に…俺は驚愕に見開かれていく。
 先程の本多の誘いの中には、一言もアイツが来るなんて単語が含まれていなかったから
予想外のことでガラにもなく…動揺していく。

(ちっ…どうして、一言…太一が来ると言わなかったんだ…。知っていれば最初から
断ったのに…)

 正直、頻繁にもう一人の自分が見る夢の記憶が流れてくるようになってからは…
俺は太一の顔を見たくない気持ちでいっぱいになっていた。
 …アイツに関する夢を見る度に胸がざわめき、モヤモヤした気持ちでいっぱいになって
苛立つからだ。

「よおっ! 太一…どうにか迷わずに来れたみたいだな。んじゃ…三人でどの店に
食べに行くか早速決めようぜ!」

「そんなの決まっているじゃないですか! まずはラーメン! 何かこの辺りで最近
オープンしたばかりの新しいラーメン屋さんがあるらしいんで…俺、絶対に一回は
其処に行きたいって思っているんだよね~! という訳で…其処、良いっすか?」

「おう! 俺は構わないぜ。ラーメンは俺も好きだし…太一がこの間作ってくれた
奴もマジで美味かったしな。お前がそういう研究や新規開拓に余念がないっていうのは
もう知っているから…付き合うぜ!」

「やった! んじゃ克哉さんも…って、どうした…ん、すか…?」

 上機嫌で暫く本多とやり取りを続けた後、ふと…冷めた目をしながらこちらに
視線を向けて問いかけてくる。
 その一瞬の表情の変化に、何故か…胸がズキリ、と痛んでいく。

(また…胸の痛み、が…)

 それは、目覚めてからすでに馴染みになっている…アイツの領域が毒となって
侵食していく感覚だった。

「何でもない…俺に、構うな…」

 胸を押さえながら、どうにか普通の態度を保とうとしたが…駄目だった。
 太一の顔を久しぶりに見た途端に、通常よりも強い発作のような襲ってくる。
 そのせいで…気力を振り絞っても、取り繕うことすら出来ずに…俺は無様にも
その場に膝をついていった…。

「克哉! どうした…大丈夫か!」

「克哉さんっ…?」

 二人が慌てて駆け寄ってくるが…俺にはそう声掛けられる事も今は癪、だった。
 特に太一が俺の傍に寄って来た事に腹が無性に立った。
 だから恫喝して…寄せ付けないように試みていく。

「うるさい! 暫くすれば収まる…! だから俺に、構うな…!」

 我ながら、脂汗を流しながらそんな事を言っても説得力が何も無い事は判っていたがな。
 だが、今は太一の顔を見たくない気持ちで一杯だった。
 
「克哉、さん…」

 泣きそうな顔を、太一が浮かべていく。
 その瞬間に…胸の痛みは、最骨頂を向かえていく。

「ぐっ…うぁぁぁ!!」

 その瞬間。
 自分の身体が其処から裂けてしまうんじゃないかって思うぐらいの強烈な激痛が
胸から走り抜けていった。
 耐え切れずに俺の喉から声が零れ、その場に手をも突いて身体を支える事しか
出来なくなった。
 もう、我慢など出来ない。一刻も早く離れなければ、と思った。

 コノママ…ソバニイタラ、オレノココロハキットコワレル―

 その、支離滅裂な心の声に従って、気づいたら俺は駆け出していた。
 無意識の内に、全力の力を振り絞って。
 まさか…突然、俺がこんな行動を取るとは…二人も予想していなかったのだろう。
 奴らが呆けている間に俺は距離をどんどん稼いで。
 そのまま、夕暮れの街を全力で駆け抜けていく。

 少しでも太一から今は離れて…この胸の痛みを鎮める為に。
 命懸けで俺は、足を動かし続けていた―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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