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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―お前の為に何かをしたい。それが最初の動機だった。
 けれどその奥に潜んでいる本心からは目を背けていた。
 だが、もう偽れそうにない。
 だからオレは…少しだけ正直にならせてもらうよ。
 オレがこうして身体を持って存在出来る時間はあまり残されていないのだから―

 強く強く、御堂の代わりに抱き締められ続けて…やっとその抱擁が
解けた頃、克哉は全力で看病道具を揃えていった。
 本来ならば、病院に連れていった方が良いのだろうが…自分とまさに同体格の
男を一人で連れて行くのは骨だし…眼鏡の方は車も所有していない。
 それに…意識を失っているからこそ、今の自分は彼の傍にいられるのだ。
 気が咎めたが…少々、眼鏡の財布から看病に必要そうな最低限の物だけを
買い揃えて、準備を進めていく。

(…オレがコイツにしてやれる事なんて、これくらいしかないからな…)

 何の為に現れたのだろうか、迷う部分は多いけれど。
 相手に何かしてやれる事がある方が、気持ち的には楽だった。
 暖かいお湯を洗面器の中に浸していくと、タオルを一枚放り込んでいく。
 それを持ってベッドの方まで運んでいくと…うっすらと汗を浮かべている眼鏡の
顔や首元を拭っていった。

 高熱を出し続けている眼鏡は、絶え間なく呻き続けている。
 どこか切なげな声音で、うわごとのように…「御堂」と呟くのを聞く度に、ツキンと
胸が痛むような想いがした。
 だが、その気持ちを意識の底に沈めていきながら…丁寧に、相手の顔を拭って
いってやる。

(何か結構、整った顔立ちをしているな…)

 自分と同じ顔。けれど…こうして客観的に見ると、整った顔立ちをしているんだなと
正直に感じられた。
 ここまで、自分がナルシストだとは思ってもみなかった。
 頬の稜線を優しく伝い、瞼から鼻筋、そして唇の辺りを拭いていくと…妙に緊張した。
 薄い唇の柔らかい感触を指先でふと、感じてしまうと…さっき熱烈に交わされたキスを
思い出してしまって…カァーと顔が熱くなって、真っ赤になってしまった。

(意識しちゃダメだ…意識、しちゃ…!)

 心の中ではそう思うのに、心臓がバクバクバク…と忙しなくなって大きな音を
立てているのを自覚していく。
 必死に意識を逸らしていきながら…顎のラインから首筋も汗を拭い、Yシャツの
ボタンを外して胸元と、そして…手先までは拭いていった。
 これ以上は相手を起こさないように拭うのは無理だ。
 そう考えて…相手から離れようとした刹那、腕をギュっと掴まれていく。

「っ…!」

 鋭い声が漏れそうになるのを必死に抑え込みながら、強い力で引かれていく。
 腕の肉に相手の指が強く食い込んでいった。
 そして…呟かれる言葉。

―御堂、行くな…! お前を…俺は…失いたく、ない…!

 苦しげに、辛そうな様子で…必死に縋り付いてくる。
 多分…今、彼は悪夢に魘されている。
 大切な人間を失ってしまう、もしくは別れを突きつけられる夢を。
 それに抗おうと、彼は必死に夢の中で抗っているのだろう。
 この腕の強さが…それを物語っていた。

(それだけ…お前は、御堂さんを愛しているんだな…)

 自分もその姿を見て、泣きそうになった。
 けれど…静かに涙を伝らせるだけで、顔をクシャクシャにはしないように心がけて
どうにか微笑んでいく。
 そして眼鏡の耳元に唇を寄せていくと、あやすように告げていった。

「…大丈夫だ、私は…ここに、いるから…」

 出来るだけ、自分が良く知っている御堂の声のトーンや口調に真似て…そう囁いて
いってやると…安堵したのか、ふっと…眼鏡の表情が和らいでいった。
 相手の指先が、虚空に何かを求めるように彷徨っていく。
 その指に…克哉は己の手を絡めて、ギュっと握り返していった。
 それは胸が軋むぐらいに切ない行為であったけれど…それで安堵したのだろう。
 彼は苦悶の表情を、浮かべなくなっていた。
 克哉は…その様子を、穏やかな瞳を讃えながら…見守っていった。

(オレで良ければ、幾らでも代わりになる…。傍にいるから…)

 この時、だけでも。
 高熱が去って、恐らく意識を取り戻してしまったら…自分はもう、こうして傍にいる事は
出来なくなってしまうのならば…せめて、それまででも。
 身代わりになっても良い。
 自分自身を必要とされなくても…何が出来る事があるなら、何でもしてやりたかった。

―私は、ここにいる…

 いつもの自分の一人称ではなく、あの人の口調で…まるで子供を寝かしつける時に
そっと囁く睦言のように、優しい声音で呟き続ける。
 何も求める気はないから、どうか…傍にいさせて欲しい。
 お前の為になる事を、何も出来ないままで…この時間を終えたくないから―
 そして眼鏡の様子が安定するまで、それを続けていくと…ふと、眼鏡の携帯が
大きく鳴り響いていった。

 その着信音には聞き覚えがあった。
 御堂専用に設定してあるものだ。
 それを聞いて…克哉は、ぎょっとなって…慌てて携帯電話の方に駆け寄っていった。
 ディスプレイの表示を見ると、間違いない。
 名前表示に、「御堂孝典」とあった。

(御堂さんからだ…!)

 自分が、この電話を取るかどうか…迷った。
 暫く手の中で振動していく電話を凝視しながら、強く葛藤した。
 今、自分が眼鏡の代わりになって…この電話を取るか、否か。
 彼の方はとても電話を取って会話を出来る状況ではないし…自分が出て、それらしく
演技をした処で疑われるかも知れない。
 そう考えると、どうしても取る事は躊躇われた。

(本来なら…御堂さんに、コイツがこんな状況になっている事を告げるべきだって、
それは判っている。けれど…)

 告げたら、自分はもう傍にいられなくなってしまう。
 そう考えた克哉は…誘惑に、負けてしまった。
 どうせ諦めなければならない想いならば…せめて、この状態になっている時だけでも
傍にいたかった。
 だから、彼は…携帯の電源を落としてしまった。

(御免なさい、御堂さん…。オレには、貴方からの電話を取る勇気はないです…)

 必ず、貴方の元に返すから…アイツの熱が落ち着くまでの間で良いから、傍に
いさせて下さいと…心の中で謝り続けながら、克哉はその場で硬直し続けた。
 それはもしかしたら、ささいな罪であったのかも知れない。
 だが…これが、思いもよらぬ流れを生み出すトリガーになってしまった事を…
克哉はまだ、気づいて…いなかったのだった―

 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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